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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)12516号 判決 1970年10月14日

原告 大野一男

右訴訟代理人弁護士 露木章也

被告 富士工業株式会社

右代表者代表取締役 井上義人

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 利穂要次

主文

被告富士工業株式会社は原告に対し別紙物件目録(一)記載の建物を収去して同目録(二)記載の土地を明渡し、且つ昭和四三年九月一日から右土地明渡しずみに至るまで一ヵ月金五万一九〇〇円の割合による金員を支払え。

被告島田竜一は原告に対し別紙物件目録(一)記載の建物から退去して同目録(二)記載の土地を明渡せ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決の第一項中の金員の支払を命じた部分は仮りに執行することができる。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判。

一、原告。

1、主文第一項乃至第三項同旨。

2、仮執行の宣言。

二、被告ら。

1、原告の請求はいずれもこれを棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者双方の主張。

一、原告主張の請求原因。

(一)、別紙物件目録(二)記載の土地(以下本件土地と称する)は原告の所有に属する。

(二)、被告富士工業株式会社(以下被告会社と称する)は本件土地上に別紙物件目録(一)記載の建物(以下本件建物と称する)を所有し、昭和四三年九月一日以降なんらの権原なく本件土地を占有している。

(三)、被告島田竜一(以下被告島田と称する)は本件建物を占有し、なんらの権原なく本件土地を占有している。

(四)、よって、被告会社に対し本件建物を収去して本件土地を明渡し、且つ昭和四三年九月一日から本件土地の明渡しずみに至るまで一ヵ月金五万一九〇〇円の割合による賃料相当の損害金を支払うことを求め、被告島田に対し本件建物から退去し本件土地を明渡すことを求める。

二、請求原因に対する被告らの答弁。

(一)、請求原因(一)の事実は認める。

(二)、同(二)及び(三)の事実は被告らに本件土地を占有する権原がないとの点を除き認める。

(三)、同(三)の事実は争う。

三、被告らの抗弁。

(一)、被告会社は昭和四一年一二月一日原告から本件土地を堅固な建物所有の目的で期間昭和四三年八月三一日まで、賃料一ヵ月金五一九〇円、権利金分納額昭和四三年八月三一日まで一ヵ月金四万六七一〇円の約で賃借りした。そして、右期間の定めは借地法第一一条の規定により無効であって、賃貸借の期間は同法第二条の規定により少くとも三〇年である。

(二)、被告島田は被告会社から本件建物を賃借した陳在植から本件建物の管理を依頼されてこれに居住している。

(三)、よって、被告らは被告会社の本件土地の賃借権に基きこれを占有しているものである。

四、抗弁に対する原告の認否。

(一)、抗弁(一)の事実中、原告が昭和四一年一二月一日被告会社に対し本件土地を建物の所有の目的で期間を昭和四三年八月三一日までと定めて賃貸したことは認めるが、その余の事実は否認する。原告は本件土地を堅固な建物の所有を目的として被告会社に賃貸したものではなく、また賃料は一ヵ月金五万一九〇〇円の約であり、被告ら主張のような権利金支払の約定はない。

(二)、同二の事実中被告島田が本件建物に居住している事実は認めるがその余の事実は不知。

五、原告の再抗弁。

本件賃貸借契約は被告会社が作業場として鉄骨組立の仮設建物を所有するため一時使用を目的として締結されたものである。したがって期間の満了により賃貸借契約は終了した。

六、再抗弁に対する被告らの認否。

再抗弁事実は否認する。

第三、証拠≪省略≫

理由

一、本件土地が原告の所有に属すること、被告会社が本件土地上に本件建物を所有し昭和四三年九月一日以降本件土地を占有していること及び被告島田が本件建物を使用し本件土地を占有していることはいずれも当事者間に争がない。

二、そして、被告会社が昭和四一年一二月一日原告から本件土地を建物所有の目的で期間を昭和四三年八月三一日までとして賃借したことも当事者間に争がないところ、原告は本件土地の賃貸借は鉄骨組立の仮設建物所有のための一時使用の目的による賃貸借であると主張するのでこの点について考えるに、≪証拠省略≫によると、(一)、本件土地はもと農地であったが、昭和三八年八月頃訴外斉藤三太が不動産業者である小宮宗四郎を通じ原告に対し本件土地を二年間製罐業をするための作業場として使用する目的で賃借することを申込み、同人は当初はいわゆるバラック建の作業場を建設する予定であったが、電力会社から動力線を引くためにはバラック建であってはいけないといわれたため、鉄骨造りボルト締めの解体して他に移転することのできる建物を建てることについて原告の承諾を求めた結果、原告もこれを承諾し、同年八月二七日原告と右斉藤三太との間に、斉藤において本件土地を、農地法第五条による知事の転用許可のあることを停止条件とし、期間を右許可の日から二年間とし、賃料を一ヶ月一坪当たり三〇〇円合計五万一九〇〇円と定め、鉄骨組立の仮作業場として使用するための一時使用の目的で賃借する契約を結び、その旨の公正証書を作成し(ただし税金対策上右公正証書の上では賃料を一ヶ月一坪あたり二〇〇円とした)、斉藤は自己を代表者とする太化工業株式会社名義で本件土地に、概ねボルト締めの鉄骨造りで解体して他に移転することの可能な本件建物を建築したのであるが、右賃貸借は右のとおり一時使用を目的としたものであるから、賃料を通常の建物所有のための賃貸借の場合よりはかなり高額としたかわり、権利金等の授受は一切なされなかったこと、(二)、その後斉藤三太は経営不振のため本件建物を渡辺鋼喜を代表者とする江戸一工業株式会社に譲渡し、自分も右会社の役員となったが、同会社も間もなく経営不振となり、その代表者は同会社の債権者であった被告会社の代表者井上義人が兼ねることとなり、かつ前記賃貸借契約の期限が到来したため、昭和四〇年八月二七日原告と右井上義人を代表者とする江戸一工業株式会社との間に、期間を契約の日から二年とし前同様の賃貸借契約を締結し、同月三〇日付公正証書を作成した(ただし、右公正証書には斉藤三太との間の公正証書とは異り一時使用の目的なる文言は記載されなかったけれども、江戸一工業株式会社は、別に同月三一日付で、同月三〇日付土地一時使用賃貸借契約公正証書のとおり契約を締結したが、念のため左記条項を添加すると前書きした上、本件土地上の建築物一切は公正証書記載のとおり臨時の一時的施設であり、盗難防止のための見張人以外の居住には絶対に使用しない等の旨を記載した念書を原告に差入れた)こと、(三)、更にその後右江戸一工業株式会社も倒産し、被告会社が江戸一工業株式会社より債権の代物弁済として本件建物の譲渡を受け、被告会社において本件建物で製罐業を経営することとなったため、前記(二)の契約の期間満了前である昭和四一年一二月一日、原告と被告会社とは本件賃貸借契約を結ぶに至ったのであるが、その契約書である甲第五号証及び乙第一二号証にも、特約条項として「本件賃貸借契約は鉄骨組立の仮作業場として一時使用の目的で設定したものである」と明記したことを認めることができる。なお右乙第一二号証の契約書の第二条には、「賃料は三・三平方メートルにつき一ヶ月」の次に「地代三十円期限内権利金毎月二百七十円」と挿入し、「の割にて合計金五万一千九百円とし」云々と続けてあり、甲第二号証にも同一箇所に挿入部分があってこれが抹消されており、また前記乙第四号証の一、≪中略≫第一一号証の領収証には「地代及権利金分納分」等の記載がなされているけれども、≪証拠省略≫によれば、右はいずれも、賃料の一部を権利金名義としたほうが納税上有利であったため、書類上そのようにしたまでであり、その後右のような納税上有利な取扱が廃止されたため、原告は契約書上も賃料を一ヶ月五万一九〇〇円とするため、被告会社代表者井上義人の承諾の下に前記甲第二号証の挿入部分を抹消したことが認められるので、前記乙第一二号証以下の書証はなんら前記の認定を左右するに足りない。

してみると、本件建物は鉄骨造りの建物であり、原告は斉藤三太、江戸一工業株式会社、被告会社に対し、前後を通じ五年間本件土地の使用を認めてきたのであり、また原告において特に短期間内に本件土地の返還を受けなければならない事情は見当らないけれども、本件建物はいつでも解体して他に移転することのできる建物であり、賃貸借契約に際しては権利金等の授受もなされず、賃貸借の契約書等にはつねに一時使用のための賃貸借である趣旨が明確になされてきたのであり、原告と被告会社との間の本件賃貸借の契約書である前記甲第五号証及び乙第一二号証についてもその点にかわりはなかったのであるから、本件賃貸借契約は一時使用の目的で締結されたことが明らかであるということができ、≪証拠省略≫中右認定に反する部分はたやすく信用し難く、またその後本件賃貸借契約を一時使用のためのものではない通常の賃貸借に変更する明示又は黙示の合意がなされたことを認めるに足りる証拠もない。

したがって、本件賃貸借は昭和四三年八月三一日までの期間の満了により終了したものといわなければならない。

三、よって、被告会社に対し本件建物を収去して本件土地を明渡しかつ昭和四三年九月一日から明渡ずみに至るまで一ヶ月五万一九〇〇円の割合による賃料相当の損害金を支払うことを求め、被告島田に対し本件建物から退去して本件土地を明渡すことを求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用は民事訴訟法第八九条第九三条により被告らの負担とするが、仮執行の宣言については、金員の支払を命ずる部分に限り同法第一九六条によりその宣言をし、他の部分についてはこの宣言をすることは相当でないと認めてその申立を却下することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 今村三郎)

<以下省略>

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