東京地方裁判所 昭和43年(ワ)12567号 判決
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〔判決理由〕二(損害)<中略>
(三) うべかりし利益 金一二八万五、七〇三円
<証拠>に弁論の全趣旨をあわせると、次のような事実を認めることができる。
原告は、本件事故当時訴外精密パイプ工業株式会社(以下訴外会社という)に勤務し、鋼管販売の業務を担当して賃金を給付される立場にあつた。しかし右訴外会社は、実質的には、原告の個人の営業とみることができ、単に経理上・税理上法人としての形態を整えたにすぎず、代表者も、以前原告が代表者として営業した法人が経営不振で倒産状態となつたことがあつた関係上、原告自らがなつてはいなかつたものの、原告の妻の名義であり、その余の取締役等の機関も、親族あるいは昵懇の同業者で、これらの者はいずれも訴外会社の株式を保有することなく、また訴外会社に金銭・労務のいずれをも提供・出資することなく、単に会社が法的形態を備えるため名義を貸与したにすぎない者であり、従つて、訴外会社の利益配当に与ろうとの意図などなく、結局訴外会社の挙げる荒利益より、原告以外の従業員の人件費・その他の必要経費を控除した残利益全てを原告が賃金として受領し、会社としての収益は常に零となる実態となつていた。そして、その残利益額は、右会社の業務内容である鋼管の販売が、人件費・運送関係費・交渉費等の必要経費がかなりの高比率で必要となるうえ、業態にいわゆる当り外れがあるほか、いわゆる焦げ付きの不良債権をだすことも極めて多く、月商高はかなり高額であるものの、終局的には一カ月当り金一〇万円に達する程度にとどまつていたのである。
右のような事実が認められ、<証拠判断略>、他に右認定を覆えすに足りる証拠はないところ、いわゆる個人会社とはいえ、別個独立の法人格形態をとつていることが認められる以上、その責任の面以外の点までも、一律に法人格は否認さるべきでなく、個人会社なる故に、その個人は会社の権利取得と同時に、直ちに同一権利を取得したものとみるべきではもとよりないが、右のとおり、賃金として取得することは、たとえ賃金額が確定的でなくとも、労働契約を無効ならしめることなく、また法定の利益準備金の積立等がなされていなくとも、個人会社の個人が責任を負う故に、損害額等の算定に当り、一部の金額を保護に値しないものとなすことなく、そして<証拠>によると、原告において原告名義で右認定額に添うような所得の申告がなされていることが認められる本件では、原告は事故当時その労働により、一カ月当り金一〇万円の収益を得ていたものと判断することが許されることになる。
右収益より原告本人尋問の結果認められる原告の配偶者・子の稼働事実を算酌して所得税等を算出し、これを控除後の一カ月当り金九万〇、〇一七円が、事故当時の原告の賠償請求基礎収益額である。そうすると、前掲回復状況等認定事実をあわせ考えてみると、原告は昭和四二年九月二五日より昭和四三年七月九日迄は、金九万〇、〇一七円の九〇%相当分を、同月一〇日より同年九月七日迄は金九万〇、〇一七円相当を、同月八日より同年一一月一一日迄は右金員の五〇%相当分を、同月一二日より二年間は右金員の一四%相当分を、それぞれ一カ月当り、本件事故のため、うべくして逸失したことになる。原告は、本件事故のため、訴外会社は倒産に至つた旨主張し、逸失利益は右額をさらに上廻る旨述べるが、前掲の原告事故後の就労状況と、原告のこれ迄の業績、そして業界の実態よりすると、本件事故と右認定額をこえる損害の相当因果関係を肯認することはできないので、逸失利益額は右認定の限度で相当である。そして、この事故当時の現在価額を、法定の遅延損害金の計算方法と、右期間はすべて既往のものとなつていることに鑑みホフマン式により算出することとすると、それぞれ金七五万三、二二三円、金一六万八、七三三円、金九万〇、四二二円、金二七万三、三二五円となり、この合計金一二八万五、七〇三円が、逸失利益額である。
なお、右算出に当り、労働能力喪失期間について原告の主張するところをこえた期間に亘り、逸失利益を算定しているけれども、右事実は、事故時の収入、受傷状態などとは異り、間接事実にすぎないものと解されるので、右認定は弁論主義に反するものではない。(谷川克)