東京地方裁判所 昭和43年(ワ)12666号 判決
原告
今木孝子
外四名
代理人
秋山昭一
被告
葭原新
有限会社芳原建材
代理人
鈴木保
第一 主文
一、被告らは連帯して、
(一) 原告孝子に対し金七二六、〇〇〇円
(二) その余の原告らに対し各金三九三、九九九円あて
およびこれらに対する昭和四三年一一月八日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、原告らその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用は五分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。
四、この判決一項はかりに執行することができる。
第二 本訴請求の趣旨
「被告らは連帯して
原告今木孝子に対し金四、八五九、五〇〇円、
原告りえ子、孝史、聡史に対し各金二、四三五、〇〇〇円
あて、およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和四三年一一月八日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。」との判決ならびに仮執行宣言。
第三、争いない事実
一、死亡自動車事故発生
とき、昭和四一年一二月二四日午前〇時三〇分頃、晴天
ところ、東京都杉並区下高井戸四―九四三先交差点(アスファルト舗装)
事故車、多一せ三八七六号
右運転者、訴外星野秋夫昭和一七年一〇月一八日生
受傷死亡者、亡今木保彦(練五ね二五五九号運転中)大正一〇年四月九日の態様、西進の事故車と南進の亡保生彦事故車と出会がしらの衝突をし、ために亡保彦は肺損傷により翌二五日午後一〇時二五分頃死亡した。
二、損害の填補
原告らは強制保険金一、五〇〇、〇〇〇円の給付を受け各損害に填補した。
第四 争点
一、原告らの主張
(一) 責任原因
被告葭原は本件事故車を所有し、また被告会社は本件事故車を同人から借受け、雇用していた星野秋夫に被告会社の事業のため運転させていたものであるが本件事故は星野が徐行・一時停止を怠り、先入の亡保彦運転車の左側に事故車を衝突させたもので、従つて被告らはいずれも自賠法三条により本件事故車をその運行の用に供していたものとして、亡保彦の死亡により生じた原告らの損害を賠償する責に任じなければならない。
(二) 損害
1逸失利益 金一〇、二〇七、五〇〇円
亡保彦は死亡当時税理士で、中野区大和町一―三―二所在伊藤第一ビル六階に今木税務会計事務所を経営していたが、死亡によつて失つた得べかりし利益は次のとおり現価金一〇、二〇七、五〇〇円となり、原告らは法定相続分により原告孝子三分の一、その余の原告ら各九分の二あて右請求権を相続したものである。
(死亡時)四五才 健康体
(推定余命)二七年(昭和四〇年簡易生命表)
(稼働可能年数)六五才まで
(収益)年所得一、〇〇〇、〇〇〇円
(控除すべき生活費)年二五〇、〇〇〇円
五人家族であつたから一年間右年所得の五分の一が生活費に当る。
(毎年の純利益)七五〇、〇〇〇円
(年五分の中間利息控除)ホフマン複式年別計算による。
2葬儀費用 金四五七、〇〇〇円
原告保子が出捐した。
3慰藉料 合計三、〇〇〇、〇〇〇円
原告孝子は妻として一五〇万円、その余の原告らは各金五〇万円あてが相当である。
二、被告らの主張
(一) 無責
本件事故車は訴外東京いすゞ株式会社の所有に属し、運転していた星野がこれを月賦で買受け、月賦完済まで使用貸借ということで使用していたものである。そして星野はもと被告会社に雇用されていたが、昭和三八年一二月から独立して個人で建材業をはじめ、事故当時は被告会社の下請運送をやつていたにすぎず、原告らは何ら、運行供用者の地位を負うべくもなく、本件事故と無関係である。
また本件事故は星野が本件交差点に先入してほぼ中央にきたとき、亡保彦車が一時停止を怠り、事故車の右側に激突したもので、まさに亡保彦の自損行為であり、事故車に帰すべき何らの事故要因はない。
(二) 過失相殺
かりに被告らに何らかの責任があるとしても、前記のとおり亡保彦の過失は重大であり、遺族である原告らの請求につき、過失相殺の斟酌により、賠償額が軽減されねばならない事案である。
第五 争点に対する判断
一責任原因
(一) 被告らの運行供用者としての地位
少なくとも次の事実がある。
イ、星野秋夫は事故直後の警察官の取調に対し、「仕事は被告ら方に車を持ちこみで、その土建業の下請をやつており、自宅は川越在であるが、被告ら方を住居地とし、本件現場は毎日のように通り馴れている」旨、のべている。
ロ、被告葭原は事故数日後の警察の調査に対し、「本件事故当日星野は、被告らが請負つていた昭島市の夜間道路工事を手伝つて貰うために他の被告ら方のダンプ二台とともに現場に赴くところであつた。」旨のべている。
ハ、星野は昭和三六年から約二年間位、砂利・砂の運搬・土建を営む被告ら方にやとわれていたが、昭和三九年四月頃独立して仕事をしようとした際、月賦で本件事故車を購入するのに、資金がないため、被告葭原に乞うて買主名義となつて手形を提出して貰い、被告葭原の銀行口座で月賦の決済をすませて貰つていた。そして被告葭原に対する精算は、直接星野が現金を持参することもあつたが、相当部分は星野が被告ら方の下請仕事をした時のあがりから相殺勘定をして貰つていた。またガソリン代、修理代も被告葭原の勘定としてつけがまわり、月末の差引勘定の中に入つていた。
ニ、事故時事故車の名義、保険契約者は被告葭原のものであつた。
ホ、被告会社は代表取締役である被告葭原が主宰し、ダンプカー四台、運転手四人住込の規模のもので、実質的に被告葭原の個人企業であつた。
右各事実を綜合すると被告らと星野との内部関係は別としても、被告らは元請として星野とともに本件事故車につき運行の利益を得また支配の実を有し、競合して運行供用者の地位にあつたものというべきである。
<証拠・略>
(二) 免責不成立
本件事故については後記のように亡保彦の重大な過失が認められるにしても、星野にも進行方向の信号が黄の点滅であつたのに、夜半交差する車両もないものと気を許し、時速約四〇キロのまま徐行することなく交差点に進入しようとした過失が認められるので、被告らはもとより運行供用者として自賠法三条により賠償責任を負わねばならない。
<証拠・略>
二損害
(一) 逸失利益 計金八、一六〇、〇〇〇円
亡保彦は昭和三六年一月資格を取得して、死亡当時税理士で、事務員約五名の稼働する今木税務会計事務所を経営し、健康であつたが、その死亡によつて失つた得べかりし利益は次のとおり、現価金八、一六〇、〇〇〇円となり、原告らは法定相続分により、原告孝子三分の一、その余の原告ら各九分の二あて右請求権を相続したものである。
(死亡時)四五才
(稼働可能年数)二〇年間(平均余命の範囲内で六五才まで)
(収益)年所得一、〇〇〇、〇〇〇円
(控除すべき生活費)四〇〇、〇〇〇円
(毎年の純利益)六〇〇、〇〇〇円
(年五分の中間利得控除)ホフマン複式年別計算による
600,000×13.6=8,160,000
(二) 葬祭費 金二〇〇、〇〇〇円
現実に出捐した範囲内で右額を損害額とするのが相当である。
(三) 慰藉料 計金三、〇〇〇、〇〇〇円
原告孝子は妻として金一五〇万円、その余の原告らは各金五〇万円あてが相当である。
(四)原告らの各損害額
そうすると原告らの各損害額は左のとおりとなる。
原告孝子((一)、(二)、(三))
四、四二〇、〇〇〇円
その余の原告ら((一)、(三))
各二、三一三、三三三円
<証拠・略>
三過失相殺
本件事故については、亡保彦がその進行方向の信号が黄の点滅であるのに一時停止をして左右の確認を全うすることなく、かなりの速度で本件交差点に進入した過失が認められるが、車種の対比、別紙図面のような現場の状況(星野は①で(ア)の亡保彦車発見、②(イ)で接触、③(ウ)で停止、死亡事故であることなどを考慮して、遺族である原告らの各損害につき七〇%の過失相殺を適用する。
《証拠・略》
そうすると原告らが元来請求できる債権は右認定額の各三〇%で、つぎのとおりとなる。
原告孝子 一、三二六、〇〇〇円
その余の原告ら各六 九三、九九九円また右金額から、強制保険金による填補額を原告孝子六〇万円、その余の原告ら各三〇万円あてとして、差引くと被告ら、星野が不直正連帯の関係で負担すべき未済額は左のとおりとなる。
原告孝子 金七二六、〇〇〇円
その余の原告ら 三九三、九九九円
四結論
そうすると原告らの本訴請求は主文の限度で認容すべきである。(なお原告らと星野との間では昭和四四年七月一八日当裁判所で債務額一五〇万円三〇回払の和解が成立している。)
訴訟費用につき民訴法九二条、九三条、仮執行宣言につき同一九六条を適用した。(舟本信光)