東京地方裁判所 昭和43年(ワ)12793号 判決 1969年12月10日
原告 谷口貞雄こと 小林勝明
被告 田中松次
主文
被告は原告に対し、金一三万二、〇〇〇円、およびこれに対する昭和四三年一一月二一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は、被告の負担とする。
この判決は、原告において金四万円の担保を供するときは、仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
主文第一・二項と同旨と仮執行宣言。
二、被告
1、原告の請求を棄却する。
2、訴訟費用は、原告の負担とする。
第二、当事者の主張
(請求原因)
一、1、訴外有限会社雄鶏舎は、昭和三七年八月八日訴外三栄工業株式会社にあて次の約束手形一通を振出した。
金額 金一五万円
満期 昭和三七年一〇月七日
振出地および支払地 東京都新宿区
支払場所 株式会社三菱銀行高田馬場支店
2、原告は、訴外三栄工業株式会社から右約束手形を金一三万二、〇〇〇円で割引きその裏書譲渡をうけ、これをその支払期日に支払場所で支払いのため呈示した。
3、さらに、原告は、前記振出人訴外有限会社雄鶏舎に対し、右約束手形金請求の訴を提起し、昭和三八年二月二六日原告勝訴の仮執行宣言付判決を得た。しかし、右有限会社には執行することのできる何らの財産がなかったため、強制執行は不可能であった。
二、1、被告は訴外有限会社雄鶏舎の代表取締役として、前記約束手形を振出した。
2、右有限会社は、登記簿上は存在するがその住所にはもとより、どこにも営業所をもたない有名無実の存在にすぎず、また、その解散清算手続をした事実もない。しかも、右有限会社は、時計貴金属類の販売を目的とする会社であり、訴外三栄工業株式会社は水道工事を目的とする会社で、両会社間には営業上の取引関係があったものとは到底考えられない。それにも拘わらず、被告が、右訴外有限会社を振出人とし右三栄工業を受取人、裏書人とする右約束手形を原告に裏書譲渡したことは、被告が訴外三栄工業株式会社と共謀し支払見込のない手形を振出して原告を害さんとしたものというべく、被告は本件手形の他にも前記訴外有限会社の約束手形を多数乱発して巨額の金員を入手している。そうすると、被告の前記手形振出行為は有限会社法第三〇条の三にいう前記訴外有限会社の代表取締役として悪意又は重大な過失があった場合に該当するから被告は、原告のうけた損害を賠償する責任をまぬがれず、また、被告の前記手形振出行為は、原告に対する不法行為にも該当するから右同様責任を免れない。
三、よって原告は被告に対し、前記手形の割引金と同額の一三万二、〇〇〇円を原告のうけた損害として、同金員とこれに対する訴状送達の翌日である昭和四三年一一月二一日から支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
(請求原因に対する認否)
一、請求原因一の事実のうち、
1の事実は否認する。
23の事実は不知。
二、請求原因二の事実のうち、
1の事実のうち、被告が、当時訴外有限会社雄鶏舎の代表取締役であった事実は認めるが、その余の事実は否認する。
2の事実のうち、右訴外有限会社と訴外三栄工業株式会社の営業目的、ならびに右訴外有限会社が解散清算の手続をしていないことは認めるが、その余の事実は否認する。
第三証拠≪省略≫
理由
一、請求原因一の主張について判断する。
1、被告が訴外有限会社雄鶏舎の代表取締役であったことが当事者間に争いがないことと、≪証拠省略≫によれば、請求原因一の1の事実が推認できる。
2、また、≪証拠省略≫によれば、同2の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
3、さらに、≪証拠省略≫によれば、同3の事実を認めることができ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。
二、請求原因二の主張について、
被告が訴外有限会社の代表取締役であったことは当事者間に争いがなく、また訴外有限会社雄鶏舎と訴外三栄工業株式会社の各営業目的や右訴外有限会社について解散、清算手続のなされていないことについても当事者間に争いがない。そして、≪証拠省略≫によれば、前記有限会社の経理担当の清水某が訴外三栄工業株式会社の山田利三と同道して昭和三七年八月頃原告を訪い、原告に対し前記手形の割引を求めたこと、清水某は、前記株式会社に対しそれによって資金上の援助を与えんとしたものであり、原告は同株式会社のため右手形を一二万二〇〇〇円で割引いたこと、被告は、前記有限会社の代表取締役として清水某に右手形やその他の手形の振出を委ね、清水某は当時前記有限会社振出の手形を乱発していたこと、前記手形は原告により適式に支払のため呈示されたが、その支払のなかったことが認められる。そうすると、特別の事情のない限り、被告は、前記有限会社が右振出手形の支払をできなくなることを故意または重大な過失によって知らないで右手形の振出をあえてしたものと推認することができるので、同有限会社がそれによって原告に対し与えた損害を賠償する責任をまぬがれない。
三、よって、原告が前記手形割引金として支払った右一三万二〇〇〇円とこれに対する本件訴状が被告に対し送達された日の翌日であることが記録上明かな昭和四二年一一月二一日からその完済あるまでの民法所定の年五分の率によるその遅延損害金の支払を求める本件請求は、その余の点について判断するまでもなくこれを正当として認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 西岡悌次)