東京地方裁判所 昭和43年(ワ)13074号・昭43年(ワ)14694号 判決
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〔判決理由〕……被告が昭和四三年一二月一九日到達の本訴答弁等により原告に対してなした売買予約完結の意思表示は、有効にその効果を発生し、したがつて、本件土地建物に関し、売主を原告、買主を被告とし、原被告間における相当な時価を代金額とする売買契約が成立したものといわなければならない。
そこで、進んで右代金額すなわち右予約完結の意思表示がなされた結果被告が本件土地建物の対価として原告に対して支払うべきこととなつた「相当額」について検討する。
鑑定人横須賀博の鑑定結果によれば、右意思表示のなされた昭和四三年一二月一九日当時における本件土地の更地としての正常価格は二三九万円であり、同じく本件建物のそれは一九万六、〇〇〇円である。ところで被告は、前示のとおり、本件建物につき、同人が死亡するまでの間の使用借権を有するものであり、その期間は少なくとも二〇年はある(被告が当時五四才余であることは、前掲乙第一三号証の一、二によつて明らかであり、厚生省第一二四生命表によれば、満五四才の女子の平均余命年数は23.39年である)というべきであるから、前記の「相当額」としては、この使用利益を前記正常価格から控除して得られた金額をもつてこれにあたるものとみなければならない。そこで、右のような建物使用借権者である被告が、本件土地建物につき有する使用利益について考えると、ここで参考考となるのは、後に説明するようないわゆる借地権価格や借家権価格の考え方であるが、被告は借地権者でないのはもちろん、地上建物の賃借権者でもなく、原告の好意もしくは恩恵のもとに生じたものと考えられる建物使用借権者にすぎないから、本件土地につき本来的な意味での使用収益権を有する者でない。しかし、そうであるからといつて、被告が本件建物を二〇年間使用するのに付随してその敷地である本件土地をもその間事実上使用する結果になること、逆にいえば、この期間中は原告が本件土地建物を直接利用したり、更地又は空家として処分できないことも無視し得ないところであるから、結局前記のような考え方を修正した形で導入して解決するのが適切であると考えられる。そこで、借地権価格と借家権価格について考えてみると、一定地域の一定用途の借地、借家には、ほぼ一定の借地権、借家権割合なるものが存し、本件のように都区内の一般住宅地(本件土地が商業地域であることを窺わせる証拠はない)における借地権価格(すなわち、正常な更地価格から当該底地の収益価格を控除した額で、当該の場合借地人に保有されるべき価値)が更地価格のほぼ七割であることは公知の事実であるといつて妨げない。また、借家権価格(すなわち、借家権の付着している建物について当該借家人に帰属している価値)については、一概に断じ難いのであるが、前掲鑑定が本件のような地域における借家権割合すなわち借家権の土地建物の正常価格に対する割合を四割とみていることが、一つの資料となる。そして、以上のような要因と、前認定のような本件使用借権発生の経緯、その内容、効力ならびに前示予約完結権が対抗力を具備していないことなどを彼此総合すれば、本件において被告が有する前記の使用利益は、本件土地につきその正当価格の四割、本件建物につきその二割を認めるのが相当である。したがつて、前記の「相当額」は次の算式、すなわち
により、金一五九万八〇〇円と定めるのが相当である。
(伊東秀郎 小林啓二 篠原勝美)