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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)1322号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕

一、(事故の発生)

証拠によれば、本件事故当時乙車の所有者は原告石井であつたことが認められ<証拠>によれば、原告塚原は本件事故により頸椎捻挫の傷害を受けたことが認められ、請求原因第一項のその余の事実は(五)の態様の詳細な点を除き、当事者間に争いがない。

二、(責任原因と過失割合)

(一) 被告が甲車を自己のために運行の用に供していたものであることは当事者間に争いがない。

(二) 訴外前田の過失を基礎づける事実については争いがあるが、同人に過失のあつたこと、同人は被告に雇われ、本件事故当時被告の業務を執行中であつたことは当事者間に争いがない。

(三) そこで、事故の態様および原告塚原と訴外前田の過失について判断する。

先ず、本件交差点に信号機の設置されていなかつたことは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、本件交差点は、甲車の進行していた幅員5.3米の道路と乙車の進行していた幅員5.4米の道路とが直角に交つており、両道路とも歩道と車道の区別のないアスフアルト舗装であること、乙車からみて甲車は左方から右方に進行していたこと、交差点に入る前の甲車と乙車とは見透しはできないこと、甲車には左前輪2.0米、左後輪2.4米、右前輪2.2米のスリップ痕があり、前輪のスリップ痕は交差点に進入してからのものであること、乙車には横ずれによる左後輪2.3米、右後輪4.6米のタイヤ痕があること、甲車には前部バンパーに凹損があり乙車には左横ドア附近と右後部フエンダーにそれぞれ凹損があることが認められ、右事実に<証拠>を総合すれば、原告塚原は時速約二〇粁の速度で本件交差点にさしかかる直前に甲車を左前方に発見したが、甲車が一時停止してくれるものと軽信してそのままの速度で交差点に進入したものであり、訴外前田は時速約三〇粁の速度で右交差点にさしかかる直前に乙車を発見し、急拠プレーキをかけたが間に合わず、乙車の左側面に甲車の前部を衝突させ、乙車は衝撃を受けて後部を右に振つて乙車の右前方の訴外白鳥の経営する八百屋の店舗に突入したこと、したがつて、交差点に進入したのは乙車の方が若干早かつたものと認められ、同時に進入した旨の証人前田堅蔵の証言は右認定事実に対比して措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。尚、<証拠>によれば、同原告は本件事故前夜飲酒したことが認められるが、本件全証拠によつても事故当時同原告が酔つていたことは認められない。

以上の諸事実を考慮すると、原告塚原と訴外前田の過失の割合は、三対七と認められる。

三、(原告塚原の損害)

(一) 治療費

<証拠>によれば、原告塚原は本件事故による頸椎捻挫の治療のため、昭和四二年二月八日から同年三月二二日までの四三日間片山病院に入院し、その入院治療費として、七万九、一六〇円を同病院に支払つたことが認められる。

(二) 休業損害

<証拠>によれば、原告塚原は、事故のあつた昭和四二年二月八日から同年三月二二日まで入院し、その後もしばらく休養し、同年五月初旬頃から勤務することとなつたことが認められるが、事故当時の月収が四万七、〇〇〇円である旨の供述は、成立に争いのない乙第四号証に照らして措信できず、右乙第四号証により同原告の月収は三万五、〇〇〇円と認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。したがつて、同原告の休業三ケ月間の得べかりし給料は、一〇万五、〇〇〇円と認めるのが相当である。

(三) 過失相殺

右(一)(二)の合計は、一八万四、一六〇円となるが、前記過失割合を考慮すると、被告の原告塚原に対する財産上の損害額は一三万円を以て相当とする。

(四) 慰藉料

原告塚原は、前記の如く、本件事故により頸椎捻挫の傷害を受け、四三日間入院し、約三ケ月間の休業を余儀なくされたのであるが、更に、<証拠>によれば、昭和四三年九月現在、なおも寒くなると右側の肩から肘にかけてしびれるような感じを受けることが認められる。以上の如き諸事情および本件事故の態様殊に過失割合を考慮すると、同原告の精神的損害を慰藉すべき額は、金一五万円が相当である。

(五) 損害の填補

原告塚原の(三)(四)の損害の合計は、二八万円となるが、強制保険金から一五万一、四五〇円の支給を受けていることは当事者間に争いがないのでこれを控除した一二万八、五五〇円が被告が同原告に対して支払うべき金額となる。

四、(原告石井の損害)

(一) 乙車の破損による損害

<証拠>および弁論の全趣旨によれば、乙車の修理費は、二六万二、五五〇円であることが認められる。<証拠判断略>他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

ところで、車の破損による積極的損害は、修理不能の場合には事故直前の価額から破損後の価額(例えばスクラップとしての価額)を控除した額である、とするのが相当であるが、修理可能の場合には、修理費相当額を以て破損による積極的損害と認めるのが相当である。

したがつて、乙車の破損による原告石井の積極的損害は二六万二、五五〇円であるが、原告塚原の前記過失を斟酌して過失相殺すると、被告の賠償すべき金額は、一八万四、〇〇〇円が相当である。

(二) 訴外白鳥に支払つた損害の求償

本件事故により、訴外白鳥の店舗を破損し、その家屋修理費が四五万円でその半額を被告が支払つたこと、営業補償費は八万円であることは当事者間に争いがない。<証拠>によれば、家屋修繕費の他の半額および営業補償費の半額を原告石井が、営業補償費の他の半額は被告が、それぞれ訴外白鳥に支払つたことが認められる。

ところで、被告は、右支払によつて、対白鳥関係においてのみならず、原告石井・被告間の関係も全て解決済みであると主張するが、<証拠>によれば、前記甲第五号証、乙第三号証記載の示談は、訴外白鳥との関係において取り敢えず被告と原告石井とで半額ずつを負担することとしたものであることが窺われ、又、前記の如き訴外前田と原告塚原の過失割合に鑑みれば、本件全証拠によるも、被告と原告石井との間においても求償権を相互に行使しない旨の積極的な合意がなされたものとは認められない。したがつて、被告主張の如く解決済みであるとすることはできない。

そして、訴外白鳥に対する関係では原告石井と被告とは共同不法行為者であり、共同不法行為者相互間の負担部分は過失割合によつて定めるのが相当であるから、原告石井と被告は右五三万円を三対七の割合で負担するのが相当である。しかるに、原告石井は半額の二六万五、〇〇〇円を支払つているので、五三万円の三割(一五万九、〇〇〇円)との差額一〇万六、〇〇〇円を求償することができる。

五、相殺の抗弁

被告が本件事故によつて蒙つた損害は次のとおりである。

(一) <証拠>によれば、甲車の修理代金八万〇、三一〇円を出損したことが認められる。そして、訴外前田の前記過失を考慮すると、原告が被告に賠償すべき金額は、金二万四、〇〇〇円が相当である。

(二) <証拠>によれば、甲車の一日の平均水揚高は一万一、六四三円であること、水揚高の一〇パーセントは燃料費、三六パーセントは運転手の給料であることが認められる。したがつて自動車の償却費その他の諸経費を度外視しても、甲車の一日の純利益は、六二八七円を上廻ることはない。又、<証拠>および弁論の全趣旨によれば、甲車の修理期間は一一日であつたことが認められる。そして、訴外前田の前記過失を考慮すると、原告が被告に賠償すべき金額は、金二万円が相当である。

(三) <証拠>によれば、本件事故当時、原告塚原は同石井に雇われ、同原告の業務の執行に従事していたことが認められる。したがつて、原告石井は、被告の右損害を賠償する責任がある。

ところで、本件のような同一事故による相互の不法行為責任については、民法第五〇九条の適用はないと解すべきであるから、相殺は許される。

そこで、右(一)の損害については原告石井の請求と、(二)の損害については原告塚原の請求とそれぞれ相殺を認めると、被告が原告石井に対して賠償すべき最終的金額は、金二六万六、〇〇〇円、原告塚原に対して賠償すべき最終的金額は、金一〇万八、五五〇円となる。(篠田省二)

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