東京地方裁判所 昭和43年(ワ)14079号 判決
原告
阿部正雄
外一名
代理人
脇山弘
同
脇山淑子
被告
石川清一
代理人
竹谷勇四郎
金井正人
第一、主文
一、被告は
原告阿部正雄に対し金七六二、〇〇〇円
原告阿部あやをに対し金七六二、〇〇〇円および右各内金六八二、〇〇〇円に対する昭和四三年一二月一四日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、原告らのその余の請求を棄却する。
三、訴訟費用は四分し、その一を被告の負担とし、その三を原告らの負担とする。
― この判決一項は仮に執行することができる。
第二、本訴請求の趣旨
「被告は各原告に対し各金三、五〇〇、〇〇〇円あておよびこれに対する訴状送達の翌日である昭和四三年一二月一五日から完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。」
との判決ならびに仮執行宣言。
第三、争いない事実
一、死亡自動車事故発生
とき 昭和四三年一月二六日午後一一時頃
ところ 神奈川県三浦市三崎町城ケ島一五四
事故車 被告所有の普通乗用車、足立五れ二二七三号
右運転者 被告
受傷死亡者 亡阿部由紀子(右自動車同乗中)
態様 事故車は道路左側に乗上げ横転し、ために亡由紀子は脳内出血、頭部挫創の傷害を受け、翌二七日死亡した。
二、責任原因について
本件事故について被告は運行供用者として自賠法第三条の賠償責任を有する。
三、損害の填補
原告正雄は被告から金五〇〇、〇〇〇円の支払を受け、強制保険一、二六七、六四八円(うち一七、六四八円は亡由紀子の入院治療費に充当)の給付を受け、原告あやをは強制保険金一、二五〇、〇〇〇円の給付を受けた。
第四 争点
一、原告らの主張(損害)
1 亡由紀子の入院治療費(原告正雄)一七、六四八円
2 葬祭費( 同 )七二六、二一九円
東京での密葬、郷里鶴岡での本葬、法要に右金員を要した。
3 事故処理のための旅費宿泊費(原告両名)各金一二、六二〇円
上京旅費七、六二〇円、宿泊費五、〇〇〇円あて
4 逸失利益(原告両名相続)各金四、八八七、五四四円
亡由紀子は、本件事故当時、株式会社プリンスホテルにキヤツシヤーとして勤務し、給料月額二一、〇〇〇円を得ていた。そして右ホテルは毎年一回従業員の昇給を行う規定になつており、その額は従来慣例として基本給月額の一一%から一五%の範囲であつた。また従来一年間に基本給月額の2.5ケ月ないし3ケ月分に相当する賞与を支給する慣行があり、また従業員の食費一日三食分一五〇円、制服貸与、寮費六〇〇円という特典があつた。
そして亡由紀子は年間収入総額の三分の一を生活費にあてていた。
ところで亡由紀子は事故当時満二一歳の健康な女子であつたが、プリンスホテルの就業規則によれば女子の従業員の停年は五〇歳であるから、本件事故がなければ停年まで就労し、この間別表「逸失利益計算表」記載のとおりの収益を期待できた筈でありその現価をホフマン式計算により算出すると金九、七七五、〇八八円となる。
原告両名は右逸失利益の損害賠償請求権の各二分の一すなわち金四、八八七、五四四円あてを法定相続分に従い、相続により取得した。
5 慰藉料(原告両名)各金一、〇〇〇、〇〇〇円
亡由紀子をいつくしんでいた父母として原告らの精神的打撃を慰藉すべく、右金員が相当である。
6 弁護士費用(原告両名)各金二〇〇、〇〇〇円
原告両名は被告に対し示談を申入れたが、妥結にいたらず本件提訴訴訟委任をやむなくされ着手金として各金一〇万円あてを支払い、勝訴の際に成功報酬として各金一〇万円あて支払わねばならない債務を負担した。
7 原告らの本訴請求額
原告両名の右損害合計から被告支払、強制保険金による填補分を差引くと、原告正雄につき金五、〇七六、三八三円、原告あやをにつき金四、八五〇、一六四円の損害賠償請求権をなお有するが、各内金三五〇万円あておよび遅延損害金の支払を求めるものである。
二、被告の主張
「過失相殺」
本件事故のように被害者である亡由紀子が運転免許をもち被告よりも年長であつてこれを指導・助言し得る立場にあり、しかも事故発生前約一週間ばかり前に友人から紹介されて知合つたばかりの仲であるのに、危険な深夜の長距離ドライブのスピードとスリルを楽しむために同乗したような場合には、亡由紀子の損害を全額加害者である被告に負担させることは公平の原則に反し、許されず、過失相殺されねばならない事案である。
第五、争点に対する判断
一、原告らの損害
1 入院治療費 原告主張のとおり認められる。
2 葬祭費(原告主張の事故処理の旅費宿泊費をふくめる。)
金五〇〇、〇〇〇円
亡由紀子が両親の住む郷里鶴岡から遠く離れて東京に勤務していたこと、勤務先の事情などから東京での密葬と郷里鶴岡での本葬をやむなくされたことが認められる。そして東京での密葬に金三一九、三八九円、原告両名の上京旅費宿泊費料金二〇、〇〇〇円、鶴岡での本葬に少くとも金一六四、三六〇円を下らない出捐の範囲内で右事情を考慮して金五〇万円を本件事故による相当性ある(葬祭費としての)として認めるものである。
3 逸失利益
亡由紀子は事故当時株式会社プリンスホテルにキヤツシヤーとして勤務し、昭和四〇年三月就職当時の初任給月一五、五〇〇円で死亡当時には年収三三一、六二二円を得ていた。そして右会社の女子停年は五〇歳でありその就業規則として年一回の昇給を行うむねの規定があり特に給与表はないが、ここ四、五年の間大体従業員全体に対し基本給を基準として年間一一%から一五%の昇給が行われてき、また年間を通じ三ケ月を下らない賞与の支給があつたことが認められる。
また従業員の食費一日三食分一五〇円で支給制服貸与に居住して寮費六〇〇円という特典があつたので年間の生活費は約三分の一強であつたと認められる。従つて事故時二一歳であつた亡由紀子が生存していたならば定年までの向後二九年間、少くとも右認定の年収を下らない給与を受け、三分の一強の生活費を差引いて年間金二〇〇、〇〇〇円あての総収益をあげたものと認められるから、その間の逸失利益の現価の総計を年五分の中間利息控除によるホフマン式計算によつて算出すると金三、五二〇、〇〇〇円となる。
200,000×17.6=3,520,000
そして原告両名は父母として法定相続分に従い、右逸失利益の請求権を各二分の一すなわち金一、七六〇、〇〇〇円あて相続により取得した。なお、原告ら主張の将来にわたる昇給率については給与表も存在しないのでにわかに採用できない。
4 慰藉料 各金一、〇〇〇、〇〇〇円
原告主張のとおり認められる。
(資料、略)
二過失相殺
ところで本件無償同乗事故については亡由紀子に危険の素因ならびに論理的素因として、事故発生の危険性につながる生活行動なしい等をみずから選んだ点に社会一般の若い女性として羞恥心と節度の標準を逸脱した左のような事情が認められ損害発生の潜在的要因を問われてよく、また全額請求が公平を失するといつてよいから、被害者の過失に準ずるものとして過失相殺すべき事案である。
すなわち亡由紀子が本件事故の運転者被告と知合つたのは事故前一週間のことで、同女の学校時代の友人奥山クニ子から喫茶店で紹介されたのが機縁であり、しかもその夜ただちに被告の車に同乗して東京から岐阜まで夜どおしのドライブを試みており、事故当夜も、前もつて落合うことを約束して、他の同年輩の男女、加藤、山岸の二名とともに事故車に同乗して深夜茅ケ崎から城ケ島へのドライブに出掛けたものであつて、これらの交友、行動について両親、在京の親族もしくは勤務先の寮などに何ら連絡もしていなかつた。
そしてまた当夜のドライブの際にも、被告が時速約八〇キロ近い速度を出しながらも、運転免許をもつている亡由紀子もこれをあえてとめようとしなかつた。
右事情を考慮し、危険の素因として二〇%、倫理的素因として一〇%、亡由紀子の遺族である被告らの賠償請求権につき賠額するのが相当である。
そこで前記認定の原告らの損害のうち亡由紀子の入院治療費金一七、六四八円、葬祭費金五〇〇、〇〇〇円については、強制保険の給付ならびに被告支払の趣旨から全額填補されたものとし残余の原告らの損害、逸失利益ならびに慰藉料合計の原告ら各金二、七六〇、〇〇〇円あてにつき、右過失相殺を適用すると、なお被告に請求できる金額はその七〇%各金一、九三二、〇〇〇円あてとなる。(資料略)
三損害の填補と弁護士費用
ところで原告らに対する強制保険金の給付による一、二五〇、〇〇〇円あての損害額を右未済損害額から差引くと各金六八二、〇〇〇円が被告に請求できる金額となる。
また被告が右損害額を任意に支払わないため原告らは本件提訴による訴訟委任をやむなくされたところ、事案の性質訴訟経過から第一審判決言渡日に支払債務を負担した報酬契約の範囲内で、右認定未済額の一二%弱各金八〇、〇〇〇円あてを被告に負担させてよいものと考える。そうすると被告が支払わねばならない金額は各原告につき金七六二、〇〇〇円あてとなる。
(資料略)
四結論
そうすると原告らの請求は主文の限度での事故損害金と遅延損害金につき認容すべく、その余は棄却すべきである。
訴訟費用につき民訴法第九二条、第九三条、仮執行宣言に関し同法第一九六条を適用した。(舟本信光)
別表第一 逸失利益計算表<省略>