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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)14727号・昭43年(ワ)12206号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕第一 本訴請求について

一(事故の発生)

昭和四三年三月四日午前六時五〇分頃、東京都江戸川区中央一丁目二番一五号先交差点において、訴外中村弘の運転する普通乗用自動車(足立五は九六二七号)と訴外高橋昇の運転する大型貨物自動車(足立一は三八七七号)が出合頭に衝突したことは当事者間に争いがない。<中略>

二(責任の帰属)

被告が加害車の所有者であること、訴外高橋昇が元被告の従業員であり、被告の社長と姻族関係(妻の従兄弟)にあることは当事者間に争いがなく、<証拠>によれば、被告はビルの冷暖房機具の運搬、解体、据付を業とする会社であり、訴外高橋を昭和三三年頃から現場監督兼運転手として使用していたが、同人は昭和四〇年頃から独立して樋関係の仕事をするようになつていたこと、しかしその後もたびたび被告会社に出入し、またしばしば被告に頼まれて日給で、被告の運転業務に従事したりしていたこと、また同人は自分の仕事である樋の材料を、時々、被告の倉庫に置いてもらつていたので、被告倉庫に自由に出入りしていたこと、倉庫の鍵は特別の人でないとわからない倉庫の裏の便所のところに置いてあつたが、訴外高橋は事故当日選挙の立看板を運ぶため、かねてから知つていた倉庫の鍵をとり、倉庫を開けて、中に鍵をつけたまま保管されていた加害車を持ち出し、運転を開始してから一、二分後同倉庫から約一〇〇米走行した本件交差点で本件事故を惹起したものであること、右高橋は、理由を云えば、被告の社長も快く本件加害車を貸してくれると思つていたが、朝早いことおよび約一時間で加害車を返還できる予定であつたところから、本件加害車運転に際しては、被告社長はおろか、倉庫の二階に居住していた従業員の了解も得ていなかつたことが認められ右認定に反する被告会社代表者の、右高橋を退職後仕事に使用したことのない旨の供述部分は措信できず、このほか右認定を覆えすに足りる証拠はない。

以上認定したところによれば、訴外高橋は無断で本件加害車を運転したものであるが、右高橋と被告会社とは、社長の姻族関係にあたる元従業員で、当時もたびたび雇われて被告車の運転に従事したりするように関係にあつたこと、本件加害車は被告の倉庫内にエンジンキーを差し込んだまま保管されており、その倉庫の鍵は従業員等特別の関係にある者ならば自由にとれる場所に保管されていたこと、右高橋は約一時間以内に本件加害車を返還する予定だつたのであり、本件事故も持ち出して一、二分後、距離にして一〇〇米程度の地点で事故を起したことに鑑みると、本件事故当時、従業員でない訴外高橋が無断運転中であつたというだけでは、被告が本件加害車に対する運行支配を喪失していたと認めることはできない。してみると、被告は、本件事故につき自賠法三条所定の自己のために自動車を運行の用に供する者としての責任を免れることはできない。

また、前記のとおり、訴外高橋の本件加害車運行は被告会社の適正な業務執行と見ることはできないが、民法七一五条にいう「事業の執行」とは、必ずしも、被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけに限られず、被用者の行為が外形的、客観的に、被用者の職務行為の範囲内に属するものと認められる場合も含まれるから(最判昭三九・二・四、一八・二・二五二)、前記したような事情、特に訴外高橋が事故当時、たびたび被告会社の運転業務に従事していたことに鑑みると、訴外高橋の本件加害車運転行為により惹起された本件事故による損害は被告の事業の執行について生じたものと解するのが相当で、被告は本件事故につき使用者としての責任を免れることもできない。

三(損害)

(一)(原告小林三治)

(二)(原告小林邦春)<中略>

(三)(原告株式会社丸三小林組)

1 被害車の損害

<証拠>によれば、原告小林組は本件被害車の修理のため金七万六五五〇円の支出を余儀なくされたことが認められ、これに反する証拠はない。

2 企業損

原告小林組は、代表者である原告三治の受傷のため原告小林組の受註していた工事の納期が遅れたため、金一〇〇万円の損害を蒙つた旨主張している。そして証人杉原忠直の証言およびそれにより真正に成立したと認める甲第六号証、第七号証の一、二、原告小林三治本人尋問の結果によれば、原告小林組は昭和四三年一月一七日、訴外千代田重機工事株式会社から同社の車庫および宿舎建設工事を、納期同年四月一五日、請負代金七一二万三一七三円、納期が遅れた時は一日金五万円の割合による損害金を支払う旨の特約付で請負つたこと、原告小林組の代表取締役社長であつた原告三治が本件事故により受傷したため、右訴外会社に依頼し、納期を同年四月三〇日に延してもらつたこと、それでも、右工事は右納期までには完成できず、同年五月二五日頃に至つてようやく完成したこと、納期が遅れたため、原告小林組は右訴外会社から金一〇〇万円の損害金の請求を受け、請負代金と相殺されてしまつたことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。ところで、いわゆる個人会社のような、代表取締役に代替性がなく、かつ代表者と会社とが経済的にも一体をなしている場合には、その法人は実質的には代表者と同じく直接の被害者として、蒙つた損害を加害者に請求し得るが、そのような関係がない場合には、加害車に故意があつたような特別の事情があるときを除いては、蒙つた損害の賠償を求めることはできないと解すべきところ、証人杉原忠直の証言および原告小林三治本人尋問の結果によれば、原告小林組においては、鉄骨建築の職人の手配、工事手順の手配等ができるのは原告三治だけであつたため、原告三治の入院中は原告小林組の従業員杉原忠直が原告三治の指示により諸手配にあたつていたが、事故当時の五ケ所の下請作業にはさ程の影響はなかつたものの、元請の鉄骨建築の千代田重機工事の作業は遅れてしまつたこと(しかし、前記したような原告三治の病状および右のような作業の経緯からすると、右千代田重機工事の作業が遅れたのは、原告三治の受傷に一因があることは容易に察しることができるが、他にも原因があつたことが窺われる。)、原告三治は昭和二四年頃から土建業を営んでいたが、社会的信用を得べく、昭和三九年四月頃、妻の実家等から資金援助を得、同人らをも株主とする原告小林組を設立し、以後原告三治が代表取締役の地位にあつたことが認められる。しかし、右事実によると、原告小林組は、鉄骨建築の作業手順、職人手配に経験のある者を得ていれば、本件のような損害を蒙らなかつた蓋然性が高いことに鑑みれば、同原告が本件事故により蒙つた損害のうち、相当因果関係にあるのは、右のような経験者を雇用するに要した費用の範囲に限られると解すべきであるところ、後記するように原告三治の休業損害を認める本件にあつては右損害はそれにより填補されるから損害があつたとはいえず(即ち、原告小林組が、原告三治に休業中の給与を支払つていなければ、右給与分をもつて原告三治に相当する経験者を雇入れ、本件の如き損害を発生しないですんでいる可能性も考られ、その場合には原告三治の損害を認めれば十分であり、本件の如き、事務管理の構成によるもこの理は同じだからである。)、また、原告小林組には原告三治以外にも実質的な株主が存在するというのであるから、原告小林組と原告三治が経済的に一体の関係にあると見ることもできないから、結局、他に特別の事情の認められない本件では、原告小林組の本件の如き損害は、被告に請求し得ないといわねばならない。

3 原告三治の給料立替金

<証拠>によれば、原告三治は、本件事故当時、従業員約一五名の原告小林組の社長として、毎月、所得税社会保険料を控除した残の手取りとして金八万八五〇〇円を受給していたが、本件受傷により入通院して休業した期間中も原告小林組から給与の支払を受けていたことが認められ、これを左右するに足りる証拠はない。原告三治は、本件受傷により三ケ月休業を余儀なくされたと主張し、杉原の供述中にもこれに沿う部分があるけれども、前記認定の原告三治の病状、治療経過に照すと、右供述は信用し難く、その休業期間は二ケ月程度と推認される(仮りに、原告三治が本件受傷のため、三ケ月間休業していたとしても、二ケ月を超える部分は本件事故と相当因果関係がない。)。右事実によると、原告三治は本件受傷により、金一七万七〇〇〇円の休業損害を蒙つたことになるが、右金員のうち、本人の労働能力の喪失とは関係のない金銭資本物的資本投下の対価的ものがあるとすればこれは控除されねばならないが、前記認定の原告小林組の業種および企業規模に鑑みると、原告三治の前記給与は同種の立場に比較してさ程高いものとも認められないから、特段の反証のない本件では、前記金員は本件事故と相当因果関係のある損害として、原告三治が被告に求め得る性質のものであり、右のように、被告は原告三治に対し金一七万七〇〇〇円の損害賠償債務を負担するにいたつたところ、原告小林組は被告のために原告三治に対し同人の休業中の右損害賠償を立替えて支払い被告に対する右賠償債権を取得していることが認められる。してみると、原告小林組は被告に対し金一七万七〇〇〇円の支払いを求め得ることとなる。

四(過失相殺および損害の填補)

そうすると、本件事故と相当因果関係にある原告小林三治の損害は五〇万九二四九円、原告小林邦春のそれは金六一万二一二〇円、原告株式会社丸三小林組のそれは金二五万三五五〇円となるところ、前記認定のとおり、被害車の運転者訴外中村弘にも過失があつたから、いわゆる被害者側に含まれる者については過失相殺をしなければならない。

そこで、まず被害者側の範囲について判断するに、原告三治、同邦春の各本人尋問の結果によれば、訴外中村弘は原告小林組の従業員であり、本件事故当時も、原告三治およびび同人の妹婿である原告邦春を同乗させて、原告小林組の仕事現場へ赴く途中であつたことが認められ、右認定に反する証拠はないところ、右認定事実および前記したような原告小林組の規模、原告三治の原告小林組における立場等からすると、原告小林組は右中村の使用者であり、原告三治も原告小林組の代表取締役社長として、右中村を直接監督する立場にあつたものであるから、いずれも被害者側の範囲内にある者として、蒙つた損害について過失相殺を免れることはできないといわねばならない。しかし、原告邦春は、社長の妹婿であるとはいえ、単なる従業員であり特別の役職の地位にあつたとも認められないから、過失相殺を受ける被害者側の範囲内に含まれるべき理由がない。してみると、前記するような訴外中村の過失を斟酌すると、被告は原告三治および同小林組に対し前示相当の損害額の七〇%を(なお、原告三治について既払の治療関係費は過失相殺しない。)賠償すべきこととなり、原告邦春に対してはその一〇〇%を賠償すべきこととなる。

(田中康久)

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