東京地方裁判所 昭和43年(ワ)15198号 判決
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〔主文〕1 被告は、別紙目録記載の電気かみそり器を製造し、販売してはならない。
2 被告は、その占有する前項掲記の物件を廃棄せよ。
3 被告は、原告に対し、金九九九万三、三四二円およびこれに対する昭和四六年四月一七日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は、仮りに執行することができる。
〔事実〕一 原告の特許権
発明の名称 乾式ひげそり器
出願 昭和三八年七月二四日(特許出願昭和三八年第三七、三四四号)
公告 昭和四〇年七月七日(特許出願公告昭和四〇年第一四、一八四号)
登録 昭和四一年一月六日
登録番号 第四六二、五二六号
願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載
「かみそり頭部わく内の数個所でアーチ形にとめたくし形かみそり刃と、この刃に対してばね状に押付けた往復に作動する下刃とを有する乾式ひげそり器において、くし形かみそり刃を、その取付個所にて軽度の摩擦作用のもとに該取付面内で移動できるように支持させることを特徴とする乾式ひげそり器」<後略>
〔判決理由〕本件特許発明は、その構成要件を次のとおり分解することができる。
1 かみそり頭部わく内の数個所でアーチ形にとめたくし形かみそり刃とこの刃に対してばね状に押し付けた往復に作動する下刃とを有する乾式ひげそり器であること
2 そのくし形かみそり刃をその取付個所にて軽度の摩擦作用のもとに該取付面内で移動できるように支持させること
そして、この1の構成要件については当事者間に争いがなく、構成要件2の解釈につき原・被告間に争いがある。
本件特許公報と本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、本件特許発明は、かみそり頭部わく内にアーチ形に張つたくし形かみそり刃とこのかみそり刃に対してばね状に押し付けられた往復に作動する下刃とを有する乾式ひげそり器に関するものであること、従来周知の乾式ひげそり器は、くし形かみそり刃が鋲止めされているかみそり頭部わくを有しているか、または交換性に重点が置かれている場合は、たとえば四点でねじボルトとナットで固定されているものおよび交換を容易にするためにクランプ接合またはかみそり頭部わくに簡単にとめる方式のものであつたこと、ところがこの固定式の場合には、たとえばかみそり頭部わく内においてある固定点の位置において、仕上寸法差が小さい場合でも、くし形かみそり刃の傾き、からまりまたは不均一な反りが生ずることがあり、ばね状に押し付けられた下刃も作動面のあらゆる点においてそれに応じ切れないために、下刃がかみそり刃に対して不均一に強く押しつけられる場合にも(これは特に作動径路の復帰点であらわれる)、下刃がかみそり刃からすつかり離れた場合にも、ひげそり作用がひどくそこなわれ、ひげがくし形かみそり刃と下刃との間に挾まれて不快な皮膚の刺戟を生ずるという欠点があつた。本件特許発明は、これらの欠点を除去することをその解決すべき課題とし、ばね状に押しつけられた下刃が比較的粗い仕上げ寸法差の場合でも申し分なくかみそり刃の形を整え、またかみそり刃が傾いている場合でも、常にひげそりの向きに合わせ適切なひげそり効果の得られる乾式ひげそり器を得ることを目的として、これを前記特許請求の範囲記載の構成によつて果したものであることが認められる。
そして、本件特許公報の「発明の詳細な説明」には、前記構成要件2に対応する説明として、「本発明によれば、これらの欠点はくし形かみそり刃を、そのそれぞれの固定場所にて、軽度の摩擦作用のもとにその固定内面で移動できるように保持させることによつてさけられる。」と記載され、またこの移動可能性を前提として、ある程度揺動するかけ方によつてばね状に押し付けられた下刃が、比較的粗い仕上げ寸法差の場合でも十分にかみそり刃の形を整え、またかみそり刃が傾いている場合でも常にひげそりの向きに合わせうる理由として、「何となれば、このかみそり刃は、それぞれ個々の固定場所では、前記の固定面内における他の固定場所には左右されずに、ゆるませることができるからであつて、この場合移動できるように支持されたかみそり刃の揺動は下刃の動きによつてひき起されるが、この揺動は支持部における軽度の摩擦によつて妨げられる。それによつて、くし形かみそり刃と下刃との間の固定面の最適条件が常に得られるのである。」と記載されている。これらの記載からすると、前記特許請求の範囲の記載文言中「取付個所」というのは「固定場所」および「支持部」と、「取付面」というのは「固定面」と、「支持」というのは「保持」とそれぞれ同義と解するのが相当である。そして前記「くし形かみそり刃と下刃との間の固定面の最適条件が常に得られるのである。」との記載および本件特許公報の「発明の詳細な説明」欄の「……刃がその刃の孔によつて決定された作動面全体にわたつて充分ぴつたりと合つている場合にのみ完ぺきなひげそり効果が得られる。」との記載を総合すれば、本件でいうくし形かみそり刃の「取付面」は、本件特許発明の前記目的に適合したくし形かみそり刃と下刃との相互関係から成るくし形かみそり刃のアーチ形の面、ことにその取付個所に対応する部位の面をいうものと解される。このように見てくると、前記2の構成要件の軽度の摩擦作用を生ずるところは、「取付個所」と解せざるをえなくなる。このことは、前記公報の記載中「……この揺動は支持部における軽度の摩擦によつて妨げられる。」との記載(一頁右欄二三〜二四行)および、特許請求の範囲の前記構成要件2の相当部分を前記「取付面」の意義を前提に読めばおのずから明らかである。
三 次に、被告製品を示すものであることについて当事者間に争いのない別紙目録記載の図面と説明書によれば、被告製品の構造は、
1 かみそり頭部わく内の数個所でアーチ形にとめた上刃(3)とこの刃に対してばね状に押しつけた往復に作動する下刃5とを有する乾式ひげそり器であること
2 上刃(3)は、頭部わく(2)の長手方向の両側部に設けられた孔(6)の外側から挿入されたボルト(7)と頭部わく(2)の内側から前記孔(6)の内周縁に設けられた凹部(12)に挿入された、上下二段の段付きつば部(9)、(10)とそれに続くくびれ部(11)、同錐台状立ち上り部(22)を有する管状ナット(8)により、長手方向に延びたスリット(17)、突出部(18)、(19)、(20)、(21)を有する押え板(15)が管状ナット(8)のくびれ部(11)にスリット(17)を介して嵌合し、管状ナット(8)の上の段つきつば部(9)の上面に上刃(3)から離れて位置し、突出部(18)、(19)、(20)、(21)以外の部分では、上刃(3)との間に空隙があるように管状ナット(8)のくびれ部(11)および円錐台状立ち上り部(22)で支えられ、押え板(15)の弾性作用のもとにその突出部(18)、(19)、(20)、(21)が上刃(3)を頭部わく内側壁面(16)に押しつけており、その押しつけの程度は、上刃(3)がかみそり頭部わく(2)の内側壁面(16)との間に軽く接触しながら移動できるように選ばれて取りつけられていること
からなる乾式かみそり器であるということができる。
そして、被告製品が、本件特許発明の前記1の構成要件を具備することは、本件口頭弁論の全趣旨によつて明らかであり、前記被告製品の構造2によれば、被告製品の上刃(3)は、ボルトとナットおよび押え板によつて頭部わくに取りつけられているものであつて、押え板(15)の突出部(18)、(19)、(20)、(21)によつて上刃が押圧されている個所が取付個所に含まれること、この取付個所で上刃とかみそり頭部わくが軽い摩擦作用のもとに上刃(3)が移動できるものであることは自明であるから、被告製品は、本件特許発明の2の構成要件を具備するものといわなければならない。
被告は、この点につき被告製品では本件特許発明とは異なり、取付部材の製造誤差により押圧力のばらつきが生ずることなく、均一に上刃を頭部わくに押圧する特段の作用効果がある旨主張するけれども、これは、本件特許発明の取付個所に関する解釈認定を別異にすることを前提にするものであつて、本件特許発明の権利範囲が、その明細書記載の実施例のみに限定して解すべき理由のない本件では、被告の右主張は採用の限りでない。結局、被告製品は、本件特許発明の構成要件をすべて充足するものとして、その技術的範囲に属するものと断ずるほかはない。
四 被告は、昭和四三年四月ころから被告製品の製造、販売をし、昭和四六年一月からはこれを中止していることは当事者間に争いがないところ、被告は現に被告製品が、本件特許発明の技術的範囲に属しないと争つているばかりでなく、被告製品の在庫が皆無になり将来ともその製造、販売をする意図がない等、特段の事情を認めるべき資料のない本件では、被告は、将来再び、被告製品の製造、販売を行なうおそれがあるものといわなければならない。
したがつて、原告の被告に対する別紙目録記載の乾式ひげそり器の製造、販売の差止とその廃棄を求める請求は理由がある。
五 次に、被告が昭和四三年四月一日から昭和四五年一二月三一日までの間に、被告製品を総額金三億五、八一八万四、三一九円売り上げたこと、このうち梱包料等の経費七%を控除すると金三億三、三一一万一、四一七円となることは当事者間に争いがなく、この販売につき被告に過失があつたことは推定されるところであるから、被告はこれによつて原告の被つた損害を賠償すべき責任がある。ところで、本件特許権につき実施権を設定するとすれば、その実施料率は売上高の三パーセントが相当であることは被告の認めるところであるから、原告の被つた損害の額としてその賠償を請求しうる実施料相当額は、前記金三億三、三一一万一、四一七円の三パーセントにあたる金九九九万三、三四二円五〇銭となることは計算上明らかである。
したがつて、原告の被告に対する金九九九万三、三四二円およびこれに対する不法行為の後である昭和四六年四月一七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求は理由がある。
六 よつて、原告の本訴各請求は、いずれも理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。
(荒木秀一 高林克巳 野澤明)