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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)2406号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一、原告ら主張の死亡交通事故が発生したこと、該事故を惹起した被告車につき、被告がいわゆる運行供用者にあたることは、当事者間に争がない。この事実によれば、被告は本件事故により生じた損害の賠償責任を負担する筋合である。そこで被告の免責の主張について検討するのに、<証拠>を総合すると、本件事故発生現場の状況、事故発生の態様(被告車の走行状況、被害者の行動)、事故主因と被告車の構造・機能との関連は概ね次のとおり認められる。

(イ) 現場は、西方板橋方面から東方白山上方面を経て都心部に通じる国道一七号線道路(通称中仙道)上の信号機の設けられていない横断歩道(長さ二〇数米、幅四米)で、国電巣鴨駅南口から東南方約四〇米の地点であること、該道路の北側は、幅六米の歩道をへだてて駅南口前広場を形成し、南側は、同幅の歩道に接して商店舗住宅が櫛比するものの、幅員六米程度の小路数条が南方に分岐するため、これら店舗等は宛然島状をなしていること、車道は幅約二七米余で、中央に都電軌道敷部分があるが、アスファルト舗装の乾燥した平坦な直線路で見とおしはよく、歩道には多数の水銀灯が設けられているため、近傍商店舗が閉店した夜間でも、前方約一〇〇米の障害物の有無を容易に識別できること、夜間の交通量も多く、制限最高時速四〇粁、終日駐車および追越禁止の各規制がされていること、なお本件横断歩道の東西方とも数一〇米の地点に信号機のある横断歩道が設けられていること、

(ロ) 訴外田中は、時速約三七、八粁で被告車を運転し、板橋方面から白山上方面にむけ道路左側部分をほぼ軌道敷に沿つて東進中、本件横断歩道の手前二〇余米の地点にさしかかつた際、該横断歩道を左から右に横断歩行中の昭江、小沼正子、山口洋一を発見したので、数米進んで制動措置に及んだところ、ガタンというような音がし、同時にブレーキがきかなくなり、そのままほぼ直線的に進行を続け、横断歩道の直前で僅かに右にハンドルを切つたが、結局軌道敷内で前記三名に衝突し、いずれも周囲にはねとばしたうえ、なお数一〇米東進し、途中左方に転把したので、東方の信号機のある横断歩道の手前の車道左側端に自然停車したものであること、この間田中は警音器を吹鳴しなかつたこと、当時本件横断歩道の北西隅附近には、一台のタクシーが停車しており、訴外田中が昭江らを発見後、急に左方に転把すれば、タクシーに追突するおそれがあつたこと、被告車を直進させるとき、その車体左側とタクシー車体右側との余地は、数米にすぎなかつたこと、

(ハ) 被告車は、三菱ふそう五三年型大型貨物自動車(ダンプカー、定員三名、車長7.61米、車幅2.46米、車高2.6米、右ハンドル)で、当時高さ二五糎のさし枠のうえにさらに一〇糎位盛り上げて砂を満載し、これをシートで覆つていたものであるが、その積載量は、法定の積載重量の約二倍にあたる約一四トンであつたこと、本件事故直後の捜査官の実見によれば、被告車の右フロントのドラムが破損し、ブレーキはきかない状態であり、前部左側下に取り付けられてあつたブレーキパイプにも新鮮な接触痕があり、パイプも、曲つていたが、他方車両自体かなり古く、各所に修理した跡が見うけられ、塵も附着し、全体として手入れした様子はほとんど見うけられず、前記ブレーキドラムの損傷は超過積載による苛酷な使用のくり返しによるものと推定されたこと、被告は、昭和三五年一〇月頃から、父次作と共に農業のかたわら、大型ダンプカー六台位を保有して砂利販売・運搬等の建材業を営み、かつて被告車を自ら運転していたものの、近年病弱になつたため、その運転を被用運転手にまかせるにいたつたが、その保有車両の積載量制限違反を重ねており、本件過積載も田中にすすめたものであることおよび保有車両の整備・被用運転手に対する交通安全上の監督等につき殆んど配意していなかつたこと。

すなわち本件事故の主因は、本件事故発生の時刻・現場にきわめて近接する時点・場所における、被告車のブレーキドラムの損傷による制動力喪失という突発的機能障害にあるものと認められ、この認定を左右するにたりる証拠はない。(なお被告は、当時昭江が漫然横断歩行していた旨附陳するが、この事実を認めるにたりる証拠はない)被告は、右事故主因の存在を直ちにいわゆる不可抗力とし、その賠償責任を免れ得るものと主張するが、前示のとおり被告の負担すべき責任が、自賠法三条所定の運行供用者責任である本件では、同条但書所定の諸要件につき主張・立証の責任を負うべく、免責を主張する被告において、機能上の障害が突発したことのみならず、該障害の発生につき被告の側にその責に帰すべき事由が存在しなかつた点についても、いわゆる証明責任を負担するものと解するのが相当である。蓋し機能上の障害は時に諸機器の不用意な操作によつて人為的に発生するばかりか、従来も持続的に存したそれが、ある時ある場合に何人にも覚知しうる状態、すなわち潜在的障害が顕現化することも稀ではなく、これらの場合人為的に発生しまたは顕現化した時点もしくは障害の事象に拘泥し、障害の原由を不問に付することは、該時点に至るまでの機能の障害の不存在を推定するに等しく、明らかに同条但書の法意に反するものといわなければならない。ところが当裁判所は本件制動能力喪失につき被告に帰責事由がないことの心証を形成することができず、却つて前記のとおり、ブレーキドラムの破損による制動能力の喪失は、保有者たる被告が、多年にわたつて重量超過積載をくり返し、かつ殆んど整備上の配意をしないで使用し続けたことに起因すること、ブレーキドラムはその有形的破損前、すでにその効用の一部を低減させていたもので、被告車は、少くともその制動機能において潜在的障害を帯有していたものではなかろうかとの疑問を払拭できない。よつてこの点において既に被告の免責の主張は採用できない。 (薦田茂正)

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