東京地方裁判所 昭和43年(ワ)4061号 判決 1970年7月14日
理由
一 原告主張の請求原因(一)、(二)項の事実は、原告主張の如き債権差押及び転付命令が発せられたこと、並びに同正本が訴外会社に送達されたことを除き当事者間に争いがなく、右争いのある事実は弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。
二 又《証拠》によると、本件転付命令に先立つ昭和四二年一二月差押債権の表示「訴外会社が原告に対して昭和四二年一〇月二八日頃訴外会社所有の茨城県筑波郡所在の土地を代金約三億五千万円で売渡した売渡代金のうちの金一、七五〇万円に充つる金員」として別紙一、(二)記載の如き債権仮差押決定がなされ、その主張のとおり被告に送達されたことを認めることができる。右認定に反する証拠はない。
三 次に、右原告の差押転付にかかる債権と、金井威憲仮差押にかかる債権が同一性を有するかどうかについて検討する。
(一) 前記認定の事実によると、原告の差押・転付にかかる債権は昭和四二年一〇月八日付裁定書に基く補償金債権であり、金井威憲仮差押の債権は昭和四二年一〇月二八日頃の土地代金債権であつて、文面上から見れば確かに差異のあることは否定しえない。
(二) しかしながら、《証拠》を綜合すれば、本件で問題となつている債権は被告が、研究・学園都市建設用地として訴外会社所有の茨城県筑波郡所在のゴルフ用地を買取することになつたが、茨城県知事等が斡旋し、原告主張の如き裁定書が作成され、別紙二(一)記載の各種契約書が作成され売買代金などとして支払われることになつたものであるが、被告と訴外会社との間においてはその内容についてはさほど明確にせず、補償金とも土地代金とも称されてきたものであること、及び、右の被告と訴外会社との取引について三億を越す取引は反復してなされるべき性質のものではなく、第三者からみても昭和四二年一一月一〇日付でなされた前記契約による債権を昭和四二年一〇月二八日頃と特定しても同一のものと解されること、並びに土地の代金約三億五千万円と表示されても前記認定の買収の経過並びに代金総額からみて単純に土地代金のみを指すものではなく、用地買収に関する代金及び補償金を含むものと解するのが相当であることが認められる。右認定を左右しうる証拠はない。
(三) 以上の事実によると、原告の差押、転付にかかる債権と金井威憲仮差押の債権は、厳密な検討による異同は別として第三債務者である被告から見れば、同一債権であると解するについて相当の事情があるものと解される。
なお、民事訴訟法第六二一条における第三債務者の供託権は、二重差押又は配当要求のある場合、第三債務者において債権者の優先権や債権額に応じて支払う責任を負わせるのは不適当であるとして、その債務者の地位を救済するために与えられた権利であるから、これが供託をするためには、厳密に差押の有効無効などを判断する必要はなく、一般の注意義務を払つて判断すれば足りるものと解する。
(四) なお、原告は金井威憲の仮差押が無効である旨主張するが被告が右金員を供託したと主張する昭和四五年一月三日までにこれが無効であることを証明したことを認めるに足る証拠はない。
四 そして、《証拠》を綜合すれば右補償金については更に別紙一、(四)及び(五)記載の差押がなされ被告は民事訴訟法第六二一条に従い、その主張の日時供託し執行裁判所に事情届を提出したことが認められる。右認定に反する証拠はない。
五 以上の事実を綜合すれば、被告の訴外会社に対する支払債務は供託により消滅したものと言うべく、これを前提とする原告の請求は理由がない。
六 なお付言すれば、被告において供託された金員は以後執行裁判所において正当な債権者に公平に配当されるべきものであると解する。
よつて、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却