東京地方裁判所 昭和43年(ワ)63号 判決 1968年8月19日
原告 高杉道子
右訴訟代理人弁護士 市来政徳
被告 成馬達三こと 宋相煥
主文
被告は原告に対し別紙目録記載の建物のうち東側別紙図面に斜線をもって表示した部分一四坪を明渡し、かつ金二〇三、六三四円と内金一九四、六三四円に対する昭和四三年五月一一日以降右完済まで年五分の割合による金員並びに昭和四三年二月一日以降右明渡済に至るまで一ヶ月金三五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は被告の負担とする。
本判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
原告は「被告は原告に対し別紙目録記載の建物のうち、東側別紙図面に斜線をもって表示した部分一四坪(以下本件建物部分という。)を明渡し、かつ、金一九八、五〇七円とこれに対する昭和四三年五月一一日以降右完済まで年五分の割合による金員並びに昭和四三年一月一日から同年三月三一日までの間一ヶ月金三九、八〇〇円同年四月一日以降前記明渡済に至るまで同金三六、八〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。
(一) 原告は昭和四〇年一一月一三日被告に対し原告所有の本件建物部分を賃料月額金三五、〇〇〇円毎月末日翌月分前払の約にて賃貸し、これに附随する契約として被告に専用電話(四〇二局三六七二番)を使用させ、被告は電話料金、電気料金、ガス料金は直接関係公社会社に支払い、水道料金は原告に支払うことを約した。
(二) ところが、被告は昭和四二年九月分以降の賃料、昭和四二年八月分以降の水道料金、昭和四二年九月分以降の電話料金(電話帳広告料を含む)の支払をしないので、原告は昭和四二年一一月二四日付内容証明郵便をもって被告に対し同年一一月分までの賃料等合計金一二三、二〇七円を同月三〇日までに支払わないときは契約を解除する旨の停止条件附契約解除の意思表示をしたのであるが、右郵便は留守で配達できないため配達局渋谷郵便局は郵便物を一〇日間保留するから受領のため出頭するよう通知した。よって被告は右期間内に郵便物を受領していないが、渋谷郵便局が被告に通知した昭和四二年一二月一三日に到達したものというべきであるところ、被告は右催告にかかる賃料の支払をしないから右賃貸借契約はその頃解除せられた。
仮に右の解除の主張は理由ないとするも、本件賃貸借においては、原告の承諾なくして建物又は造作の模様替は禁ぜられていたところ、被告は昭和四一年三月頃来勝手に造作の模様替をするなど背信行為が屡々であり、賃料の支払の懈怠は何回となく繰返されており、本件賃貸借の継続を著しく困難ならしめておるから本訴提起をもって本件賃貸借契約を解除する。
(三) よって、原告は被告に対し、本件建物の明渡しと、昭和四二年九月分以降昭和四三年一月分までの延滞賃料と昭和四二年八月分以降同年一二月分までの水道料金、昭和四二年九月分から昭和四二年一二月分までの電話料金(電話帳広告代を含む)の合計金一九八、五〇七円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日たる昭和四三年五月一一日以降右支払済までの法定遅延損害金並びに昭和四三年一月一日から同年三月三一日までの間一ヶ月金三九、八〇〇円(水道料金五〇〇円、電話料金広告料四、三〇〇円を含む)、同年四月一日以降右明渡済に至るまで一ヶ月金三六、八〇〇円(水道料金五〇〇円、電話料金一、三〇〇円を含む)の支払を求める。
被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり陳述した。
(一) 請求原因(一)の事実中賃料の額および支払時期の点を除き原告主張事実を認める。賃料は月額金二五、〇〇〇円毎月末日当月分支払の約束である。
(二) 同(二)の事実中賃料支払の遅滞あることのみを認めるもその余の事実はすべて争う。
(三) 被告は原告主張の電話を取外されて使用していないから電話料金支払の義務はない。
原告は被告の主張に対し次のとおり反論した。
原告は昭和四二年一二月七日本件電話を青山電話局に局預けとしたが、それは、被告は昭和四二年九月以降電話料の支払をしないためであって、電話料金の支払われる保障さえつけば何時でも右局預けは解くことができその間原告は右基本料金の立替払をしており、利用できないのは被告自身の債務不履行に基くものである。
立証≪省略≫
理由
一、原告が原告所有の本件建物部分を賃料額、その支払時期の点を除いて原告主張の約定で昭和四〇年一一月一三日被告に賃貸したことは当事者間に争いがない。しかして、≪証拠省略≫によれば賃料の月額金三五、〇〇〇円であることが賃貸借契約書に記載せられていること明らかであり、また、≪証拠省略≫によれば原告が被告に対し延滞賃料を月額金三五、〇〇〇円として請求していること、≪証拠省略≫によれば被告は原告に対し昭和四一年五月三日小切手をもって金三五、〇〇〇円の支払をなしていること、≪証拠省略≫によれば右同日被告は原告に対し家賃の支払をなしたことがそれぞれ認められ、以上の各事実と前記争いない賃貸借の事実を綜合すれば、右賃貸借契約における約定賃料は月額金三五、〇〇〇円と認めるのが相当である。尤も≪証拠省略≫によれば被告に交付せられた本件賃貸借の契約書には月額金二五、〇〇〇円との約定記載があることも明らかであり、≪証拠省略≫によれば、被告に交付せられた家賃の領収証は月額金二五、〇〇〇円と記載されていることも明らかであるけれども、前認定の賃料支払の事実に徴しかつ被告において特段の主張立証をしない弁論の全旨によれば≪証拠省略≫は対外関係を考慮して作成せられ賃料額を偽り記載した内容虚偽の文書であるとの原告主張事実を肯認することができ、前記判断を左右しない。しかして≪証拠省略≫によれば賃料は毎月末日翌月分前払の約であったこと明らかである。
二、よって、原告の賃料不払による契約解除の主張について判断する。
原告が昭和四二年九月分以降の賃料不払の主張を被告は明らかに争わないから右事実は被告において自白したものとみなすべきところ、原告が原告主張のとおり被告に対し延滞賃料の支払を催告し、かつ昭和四二年一一月三〇日までに支払をしないときは契約を解除する旨の同年一一月二四日付書留内容証明郵便をもって通知したことは≪証拠省略≫により明らかである。しかしながら、右郵便が返戻せられたことも原告の自認するところであるから、右通知が被告に到達したものというべきか否かについてはなお検討する要がある。ところで書留内容証明郵便が名宛人不在により受領せられないときは配達局において一〇日間保留し名宛人に対し右期間内に出局受領するよう通知する取扱がなされていることは当裁判所に明らかな事実であるから遅くとも原告の主張する昭和四二年一二月一三日までには被告に右通知がなされその後一〇日間は右内容証明郵便の配達局に保留せられていたものと認めるのが相当であり、しかる以上は被告において右郵便物受領のため当該配達局に出頭したと否とに拘らず、右郵便は右期間の満了をもって被告に到達したものと解するのが相当である。ところで右満了時には右催告に係る延滞賃料支払期限は既に経過しているのであるが、右到達時より相当の期間内に賃料の支払をしないときは、賃貸借契約解除の効果発生するものと解すべきであるところ、その後被告において支払をなしたことの主張立証はないから昭和四二年一二月末日をもって賃貸借契約解除せられたものと解する。
しからば被告は原告に対し本件建物部分を明渡しかつ昭和四二年九月分以降右建物明渡済に至るまで賃料並びに賃料相当の損害金を支払うべき義務あるものというべきである。
三、次に電話料の請求について判断する。
被告が本件賃貸借契約に附随する契約として原告から四〇二局三六七二番の電話を借り受け、これが使用料(基本料金を含め)を直接電電公社に支払うべきことを約したことは当事者間に争いなく、被告が昭和四二年九月分以降の電話料金(番号簿広告料を含める。)の支払をしないので原告が契約加入者として支払をなし今日に及んでいることは被告の明らかに争わないところである。ところで、原告の右の支払は立替払であるというけれども、番号簿広告料が被告の支払義務に属するものというべきであるがその余の電電公社に対する電話料金支払義務は加入契約者たる原告の負担すべきものであるから電電公社に対する関係においては原告は自己の義務を履行したにほかならず、広告料を除いたものはこれを立替えたとする被告の主張は採用しがたい。しかしながら、原告と被告間においては、右電話料金を被告において支払義務を引受けたことは、電話使用の対価支払の方法を定めたものと解することができ、右の方法を尽さず原告において義務を履行したときは、右履行分を電話の使用料として原告は被告に請求できるものと解するのが相当であり原告の主張は右の主張を含むものと解すべきである。ところで原告は右賃貸電話を昭和四二年一二月七日局預けとしたことを自認しておるから、同日以降は被告において電話料金の支払義務はないものと解する。原告は右局預けは、被告の電話料金の滞納によるというけれども電話料金の滞納があるからといって原告が電話を利用せしむべき義務は電話使用の契約を解除するか、基本契約たる賃貸借契約が終了するか等の事由のない限り消滅しないものというべきであるから、義務の消滅しない以上原告において局預けした場合、被告が右電話料金を支払うべき義務はない。ところで電話基本料金(付加使用料を含める)番号簿広告料は各月一一日から翌月一〇日までの分を当月分として支払請求がなされる(≪証拠省略≫により明らかである。)ところ、≪証拠省略≫によれば原告は昭和四二年九月分として金四六五〇円、一〇月分として金四六八五円、一一月分として金七三七二円(以上いずれも基本料金一一〇〇円付加使用料金二〇〇円広告料金三〇〇〇円を含む)、同年一二月分ないし三月までの分の広告料各金三、〇〇〇円の支払をしたことが認められるから広告料金は立替金返還としてその余は約定電話使用料として(但し、一一月分中一二月七日以降の基本料金付加使用料は日割計算して金一七三円が差引かれる)以上合計金二八、六三四円を被告は原告に対し支払うべき義務がある。その余の電話料金は被告において支払義務なきこと前記説明のとおりである。
四、水道料金の請求について
被告が水道料金の支払義務あること前記争いのないところであり、被告が昭和四二年八月分以降の支払をしたことの主張立証をしないのであるが、水道料金が金五〇〇円であることの主張を裏付ける何らの資料がないのでこの点の請求は理由がない。
五、よって、原告が本件建物部分の明渡と、前記電話料金(広告料を含む金二八、六三四円、昭和四二年九月以降右明渡済に至るまで月金三五、〇〇〇円の割合による賃料並びに賃料相当の損害金、および右各金員のうち原告の請求の範囲内で昭和四三年一月三一日までの賃料並びに損害金一七五、〇〇〇円、昭和四二年一二月までの前記電話料金広告料金一九、六三四円に対する昭和四三年五月一一日以降年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において本訴請求は理由あるをもって正当として認容すべきもその余は失当として棄却し訴訟費用につき民事訴訟法第九二条但書、第一九六条により主文のとおり判決する。
(裁判官 綿引末男)