東京地方裁判所 昭和43年(ワ)8051号 判決
原告
大井和男
被告
代々木自動車株式会社
ほか一名
第一主文
一、被告らは、各自、原告に対し金六万四、一八三円およびこれに対する昭和四三年七月二四日以降、右完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。
二、原告その余の請求を棄却する。
三、訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告のその余を被告らの負担とする。
四、この判決一項は仮に執行することができる。
第二本訴請求の趣旨
「被告らは、各自、原告に対し金五〇〇万円およびこれに対する昭和四三年七月二四日から右完済まで年五分の割合による金員の支払いをせよ。」との判決および仮執行の宣言。
第三争いない事実
一、傷害自動車事故の発生
とき 昭和四一年一〇月一七日午後六時三〇分ころ
ところ 東京都千代田区麹町三―七先交差点
第一事故車 小型自動車(品川五う六九三九)
右運転者 被告石井一郎 昭和一六年二月一三日生
第二事故車 原告所有の小型乗用車(足立五な二一一)
右運転者 原告 昭和五年四月三〇日生
受傷者 原告
態様 直進車同志の出合頭の衝突
二、責任原因について
被告代々木自動車株式会社(以下、被告会社という)は、タクシー業を営み、第一事故車を所有して運行の用に供するものであり、また本件事故はその被用者被告石井が被告会社の業務執行中に生じたものである。
三、損害の填補
原告は、本件事故による損害につき、強制保険金五〇万円の給付を受けた。
第四争点
一、原告の主張
(一) 傷害の内容および物損
原告は、頭部打撲、右側胸部打撲、両下肢不全麻痺等いわゆる鞭打症、歯牙破損および骨膜炎の傷害を負つたほか、その所有の第二事故車を破損された。
(二) 責任原因
本件事故は左記のとおり被告石井の過失により発生したものであるから、同被告は民法七〇九条により、被告会社は自賠法三条、民法七一五条一項(物損につき)により、原告に生じた損害を賠償する責任がある。
すなわち、原告は第二事故車を運転して本件交差点にさしかかり、一時停止のうえ左右の安全を確認した際、右方に第一事故車を発見したが、その距離からみて、第一事故車の到達前に交差点を通過するに十分であつたから、第二事故車を発進させたところ、第一事故車の運転者被告石井の前方不注視、高速運転の過失により、本件事故が発生したものである。
(三) 損害の数額
1 医療関係費
入通院治療費等 五〇万九、七五八円
(内訳)
入通院治療費 四八万七、三〇八円
医薬品購入費 一万〇、四〇〇円
コルセット購入費 一万〇、八五〇円
診断書明細書料 一、二〇〇円
2 車両修理費 三万五、〇〇〇円
3 休業損害 四三六万八、〇〇〇円
原告は、ジョン・ビー・リース・アンド・アソシェイト社(ホテル予約業)の本社副社長兼東京支社長として月収一〇万八、〇〇〇円および大韓観光公社東京支社長として月収一〇万円の各所得があつたところ、本件事故により昭和四一年一一月から同四三年七月までの間に総計右金額の収入を失つた。
4 慰藉料 二〇〇万円
原告は、前記傷害により、延べ日数にして、入院四六日、往診一六日、通院四五日の治療を要したが、なお頭痛、目まい、背骨の障害、歩行困難、排尿障害、言語障害等の後遺症を残し、これ以上の回復は困難とされ、仕事もできず、小学校に通う子供三人をかかえて生活は母の援助に頼つており、それにもかかわらず、被告らは原告の損害の賠償に誠意を示さないなどの事情を考慮すると、その慰藉料は右金額が相当である。
(四) 結び
よつて、原告は、右損害額合計六九一万二、七五八円から強制保険金五〇万円を控除した六四一万二、七五八円のうち金五〇〇万円および本訴状送達の翌日である昭和四三年七月二四日から右完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二、被告らの主張
(一) 免責
本件事故現場は、第一事故車の進行した幅約一一米の道路と第二事故車の進行した幅員約八米の道路が直交する交差点であり、しかも第二事故車側入口には一時停止の標識が設置されていたにもかかわらず、原告が一時停止義務を怠り、漫然、交差点に進入した一方的過失により衝突事故が発生したものである。第一事故車は時速四〇粁で進行していたもので、被告石井には運転上の過失はなく、その車両に構造上の欠陥、機能の障害はなかつた。
(二) 過失相殺
仮に被告石井に過失があつたとしても、原告には前記の過失があるから、損害額算定にあたり、斟酌すべきである。
第五争点に対する判断
一、原告の傷害の内容および物損
頭部、側胸部挫傷、鞭打症、歯牙破損および骨膜炎の傷害を受け別表のとおり入・通院治療を受けたほか、所有車が破損された。〔証拠略〕
二、責任原因
本件事故発生については、後記のように原告の過失が与つて大きいところであるが、被告石井においても、信号のない見通しの悪い交差点に進入する際、徐行義務を怠り、左方道路から進入する車はないものと軽信して漫然、時速約三〇粁で進行した過失がある。従つて、被告石井は民法七〇九条の責任を負うことはもとより、被告会社も自賠法三条但書の免責は認められず、同条本文、民法七一五条一項により、原告に生じた損害を賠償する責任を免れない。〔証拠略〕
三、損害の数額
(一) 医療関係費 五〇万九、七五八円
(内訳)
入通院治療費 四八万七、三〇八円
医薬品購入費 一万〇、四〇〇円
コルセット購入費 一万〇、八五〇円
診断書明細書料 一、二〇〇円
〔証拠略〕
(二) 休業損害 七〇万〇、七〇〇円
原告はジョン・ビー・リース・アンド・アソシェイト社に勤務し、週給七〇ドルの所得を得、また大韓観光公社の取締役として、少くとも月額九万二、二〇〇円の報酬を得ていたことが、一応、認められる。
ところで、本件事故による原告の診療状態は別表のとおりであり、事故後、原告が休業損害を求める昭和四三年七月までの約二〇か月半の間に、原告が入院治療を受けたと認められるのは、事故直後の一四日間および同四三年一月一七日から三月七日までの間の三二日間の合計四六日であり、その余の約一九か月間における通院治療実日数はたかだか一月半に過ぎず、一方、一度も診療を受けなかつた月が一一か月に及んでいることが認められ、しかも、背髄液検査、脳波検査、X線検査のいずれについても異常が認められないというのである。
さらに、原告は大韓観光公社において、事故後の昭和四一年一二月二四日には取締役に重任され、さらに同四三年三月二八日には金漢容に代つて代表取締役に就任していることが認められ、これに、原告の右両社における業務内容が、両社の重職を兼務できる程度のものであることなどの事情を考慮すると、原告の本件事故による休業損害として相当性を認め得るのは、事故時から同年一一月末日までの約一月半および昭和四三年一月以降の入院期間の前後にわたる約二月の合計三月半分に限られてよい。
従つて、ジョン・ビー・リース・アンド・アソシェイト社分、週給七〇ドルの一五週間分一、〇五〇ドル(一ドル三六〇円で換算して三七万八、〇〇〇円)および大韓観光公社月額九万二、二〇〇円の三月半分三二万二、七〇〇円の合計額たる表記金額に限つて相当といえる。〔証拠略〕
(三) 慰藉料 二〇万円
前記認定の傷害の部位、程度、入通院状況その他諸種の事情を考慮した。〔証拠略〕
(四) 車両修理費について
なお、原告は、車両修理費として既に保険により支払を受けた六万二、二八五円の残額三万五、〇〇〇円の損害を主張するが、これにそう甲一八号証、原告本人尋問の結果によると、右三万五、〇〇〇円の領収書の作成年月日が昭和四三年二月二八日であり、事故後一年有余を経過しているし、これを既に第二事故車について同四一年一〇月二七日に修理費の支払があつたことを証明する甲一九号証、証人広瀬正吉、同山名昭徳の証言を併せ考えると、右三万五、〇〇〇円の修理費が本件事故による損害とは到底認められない。
四、過失相殺
本件事故現場は、東西に通じる幅員一〇・七米の道路と南北に通じる幅員八米のそれぞれ歩道の区別ない道路が直交し西北角は道路まぎわに高さ約二米の塀があつて左右の見通しの悪い交差点であり、南北の道路は北から南への一方通行、交差点手前での一時停止の交通規制が行われていた。そして原告は、南北に通じる道路を南下し、本件交差点にさしかかる際、一時停止し、東西道路右方に進行して来る車を認めたが、かなり近ずいているのに距離の目測を誤り、自分の方が先に交差点を通過できるものと軽信して時速約一五粁で発進した過失が認められるから、原告の右過失と徐行義務を怠つた被告石井の前記二、の過失、事故の態様、原告の被害程度等を考慮すると、原告の損害額につき、その六割の過失相殺を適用するのが相当である。〔証拠略〕
そうすると、被告らが負担すべき額は、前記認定損害額金一四一万〇、四五八円の四割金五六万四、一八三円となる。そして、これから争いのない損害填補額五〇万円を差引くと、原告がなお請求できる未済額は金六万四、一八三円である。
五、結論
以上の次第で、原告の本訴請求は主文の限度で認容すべくその余は棄却するほかない。
訴訟費用につき、民訴法九二条、仮執行宣言につき、同法一九六条を適用した。
(裁判官 舟本信光 福永政彦 鷺岡康雄)
別表
<省略>