東京地方裁判所 昭和43年(借チ)1037号・昭43年(借チ)2073号 決定
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〔決定理由〕一、本件申立の趣旨および理由の要旨は、
「Ⅰ 申立外鈴木直吉は、昭和一七年一〇月一日相手方から別紙(一)の土地を含む約三八〇平方米を、期間は昭和三七年一〇月一日までの定めで普通建物所有の目的で賃借した。申立人は昭和二九年頃、鈴木から右土地のうち別紙(一)の部分の賃借権を譲受け、昭和二九年三月一〇日相手方の承諾を得た。その後右賃貸借は昭和三七年一〇月二日期間の満了により更新され、残存期間は昭和五七年一〇月一日までである。
2 ところで、現在申立人は右地上に別紙(二)の建物を所有しているが、手狭まとなつたので、別紙(三)のとおり二階を増築しこれに伴い階下部分にも若干の改修を加えたいと考えているが、相手方は本件賃貸借契約に増改築制限の特約があると主張し、これを承諾しない。
3 次に、申立人の所有する別紙(二)の建物は現在登記簿上は申立人の長男稲見泰祐の所有名義となつているが、それは申立人が昭和三〇年頃債権者から差押をされるおそれを生じたため、贈与名義で所有権移転登記をしたもので、真実所有権の移転があつたものではない。相手方は右の登記のあることを理由に無断転貸があるとして土地明渡の訴訟を提起したが、申立人の主張が認められ申立人勝訴の判決が確定した。
ところで、申立人は、長男泰祐と本件建物で同居しているが現在では国鉄を退職して恩給生活に入り、家計の実権は泰祐に移り同人から扶養を受ける関係にある。そこで、この際右建物の所有権を敷地の賃借権とともに同人に移転し、同人の借地人としての地位を明確にし、相手方との間に円満な賃貸借関係を継続させたいと望んでいる。
なお、右泰祐は市川市立第五中学校に教頭として勤務し、右賃借権の譲渡により、相手方に不利となるおそれはない。
4 以上の理由により本件増改築および借地権の譲渡につき相手方の承諾に代わる許可を求める。」というのである。
二1 よつて調べるに、資料によれば、申立理由1のとおりの事実が認められ、申立人は本件土地につきその主張のとおりの賃借権を有するものと認められる。
2 しかして、申立人主張の増改築はその規模からしても、本件借地の通常の利用上相当であり、隣地に対する影響からも特に不当とすべき点もないので、これを許可すべきものと認める。
3 次に、借地権譲渡の点であるが、資料によれば、譲受人泰祐は申立人の長男であつて、申立人と世帯を同じくし、申立人は勤先を退職して同人の世話になつていることが認められる。
本件ではこのような関係にある泰祐へ建物を贈与しようというのであつて、特段の事情の認められない限り、賃貸人に対する背信行為とはいえず、民法六一二条による解除原因にならないものと認められる。それ故、本来借地法第九条の二による許可を要しないものともいえるのであるが、資料によると、相手方は、申立人主張の登記簿上の所有名義の移転をとらえ敷地の賃借権の譲渡もしくは転貸があつたとして訴訟を提起したことが認められる。右訴訟は申立人が勝訴し、その判決は確定していると認められるのであるが、この度申立人が泰祐に対し右建物を贈与することになれば、再びこれをめぐつて紛争の起こることは十分に考えられることであり、これを避けるために許可の申立をする実際上の必要があるといえる。それ故本件申立はその利益があるといわねばならない。そして、右の関係からすると、右譲渡によつて賃貸人に不利となるおそれがあるとも認められないから、この申立も認容すべきである。
三、そこで附随処分について検討する。本件資料により認められる事実およびこれに基づく当裁判所の見解は以下のとおりである。
1 増改築許可の関係
本件増改築は別紙(三)のとおりで、従前の平家建居宅に二階二室を増築し、これに伴い階下部分に若干改修のを加えるもので、その規模は大きくないが、建物の耐用年数に影響を与えることは否定できないので、残存期間は比較的長いことを考慮しても、なお相手方に不利益を与えるものといえる。したがつて財産上の給付をさせる理由はあるといえるが、前述の規模からいつてそれ程高額とすべきではないと考えられる。ただ本件賃貸借に関しては、昭和二九年中賃借権の譲渡承諾にあたり申立人から三万円が支払われているが、そのほかには更新料等の支払はなく従前の賃料は極めて低額で現在でも一カ月五〇〇円であり、この点は相手方のために参酌すべきであろう。
当裁判所は以上の事実に合わせ、鑑定委員会の意見をも酌んで、増改築の許可に伴う財産上の給付として、本件借地の更地価格(右委員会の意見にしたがい約五〇〇万円と評価する。)の三%にあたる一五万円の支払を命ずることとする。
次に賃料については、従来極めて低額であつたので、鑑定委員会の意見のとおりこの際附近の平均的な額を考慮して一カ月一、三二〇円に増額するを相当と認める。
2 賃借権譲渡許可の関係
本件借地権の譲渡は、二の3に判示したような特殊な関係における贈与によるものであつて、民法六一二条違反の責を問われることのないものと認められるので、財産上の給付を要しないものと考えられる。けだし、そうでないと申立人は譲渡許可の制度施行前よりも不利益な立場となり、このことは改正法の所期しないところと考えられるからである。(安岡満彦)
(別紙)
(一) 土地
東京都江戸川区東小岩五丁目二、七二一番一
宅地490.08平方米のうち
109.09平方米(33坪)
(二) 現存建物
右地上に存する
木造瓦葺平家建居宅一棟
床面積49.58平方米(15坪)
(三) 増改築の内容
(1) 現存建物に木造二階31.40平方米(9.5坪)を増築する。
なお、これに伴い所要の通し柱を設ける
(2) 階下六畳間一室を洋間に改造する。
(3) 台所部分の改修。
(四) 前記(一)の土地を目的とし、賃借人を申立人とし、賃貸人を相手方とする普通建物所有目的の賃借権(残存期間昭和五七年一〇月一日まで)。