大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(借チ)1065号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔決定理由〕一、本件申立の要旨は、

「1 申立人は昭和三六年八月一日、相手方から別紙(一)記載の土地を堅固な建物の所有を目的とし、地上建物の全面的改築については相手方の承諾を要する旨の特約付で賃借し、右地上に別紙(三)記載の建物を所有している。

2 右建物は渋谷公共職業安定所の庁舎として使用されているが、同所における求職者は年毎に増加し、増築のやむなきに至つた。

3 ところで、右増築は、前記特約によつて制限されている全面的改築にあたらないのに、相手方はこれに該当するとして異議を述べるので、その承諾に代わる許可を求める。」というのである。

二、これに対する相手方の主張の要旨は、

「1 申立人主張の借地契約の成立したことは認めるが、申立人主張の特約は当然本件におけるような増築をも制限する趣旨である。

2 本件土地を含む五〇〇坪(後に土地区画整理によつて四一七坪に減少)の土地は、昭和二三年頃申立人の求めにより、木造簡易建物の所有を目的として暫定的に賃貸したものである。相手方は昭和二八年頃から返地を求めていたが、申立人は総合庁舎が建築されるまで暫く使用させて貰いたいというのでやむなく短期を限つて継続使用を認めて来た。

3 ところが、申立人は昭和三六年に相手方に無断で堅固な建物を建てることを企て、土台を構築したので、相手方はこれに対して抗議し、折衝の結果、貸地のうち一一二坪の返地を受け、別紙(一)の土地について申立人主張の堅固建物の所有を目的とする賃貸借契約が成立したのであるが、その際相手方はなんらの金銭の支払も受けなかつた。その時申立人は増改築制限の約定の明文化を要求したところ、相手方は「全面的改築」という文案を固執し、結局契約書にはそのような表現がとられたが、真実は、本件のような増築も制限される約定であつた。このような経過からすると、本件増築が許可されるとすれば、当然財産上の給付を命ずべきものである。」というのである。

三、よつて検討するに、本件の資料によれば、申立人と相手方との間には、別紙(二)記載のとおりの借地契約の存することが認められる。

ところで、右契約に付された増改築制限の約定の趣旨について当事者間に争いがあるけれども、<証拠>を総合すると、その趣旨は、右各書証にも表現されているように、地上建物を全面的に改築する場合について制限したものと解される。そして、本件の増築は現存建物が建築されてさほどの期間を経過していない時期に、旧建物とほぼ同様の構造のものを増築するものであつて、増築部分が既存部分に比し格段に大きいというような特段の事情も認められないので、右の制限に該当すると考えることはできない。

しかし、前述のように、この点については当事者間に争いがあり、もし申立人がそのまま増築を施行した場合には、契約違反として紛争を惹起することが予測されるから、本件申立の利益はこれを肯定するのが相当である。

四、次に、本件増築は、その規模、構造からして、借地の通常の利用上相当であり、その他これを不当とすべき事情も認められないので、本件申立はこれを認容すべきである。

五、次に附随の処分について検討する。

本件借地の期間はなお五〇年以上を残すものであり、右の増築は前述のような規模であつて、既存建物との関係をも考慮すると、これによつて借地契約終了の時期に影響を及ぼすことはほとんどないと考えられ、この点で財産上の給付による利害の調整を必要とすることは考え難い。また相手方は建物買取請求権を行使された場合の買取価格の増大および増築による申立人の利益の増加を指摘するけれども、さきに判断したように、本件の増築は本来相手方の承諾がなくてもこれをなし得る範囲に属することを考慮すると、この点を理由に財産上の給付を命ずるのは妥当でないと考えられる。なお、賃料の増額についても、本件においては借地法一二条による調整に委ねるのが相当と考えられる。(安岡満彦)

目録

(一) 土地

東京都渋谷区北谷町三〇番

宅地2,305.27平方米のうち

1,008.26平方米(305坪)

(二) 借地契約

右土地を目的とし、賃貸人を相手方、賃借人を申立人とする昭和三六年八月一日成立の賃貸借契約(堅固建物所有を目的とし、期間は六〇年)。

(三) 現存建物

鉄筋コンクリー卜造三階建庁舎

建築面積  279.23平方米

延面積  850.63平方米

(四) 増築の内容

既存建物と同質の鉄筋コンクリート造二階建

床面積 一、二階とも各184.80平方米

を建築する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!