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東京地方裁判所 昭和43年(借チ)1082号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔決定理由〕本件の資料によれば、本件土地は準工業地域第二種容積地区の指定を受けているので、本件改築は、建築基準法上適法であるばかりでなく、周辺との関係からして、土地の通常の利用上相当であると認められる。相手方は、本件建物は既に朽廃し、本件借地権は消滅していると主張するが、本件の資料によれば、本件建物のうち少くとも別紙目録記載の建物は、老朽化しているとはいえ、いまだ朽廃の域に達していないことが認められるので、右主張は理由がない。従つて、本件申立は、これを許可すべきである。

二 次に、附随の処分について考える。

借地法第八条ノ二第三項は、増改築許可の裁判を為す場合において当事者間の利益の衡平を図る為必要あるときは、財産上の給付その他の附随処分を為すことができる旨規定している。ここにいう当事者間の利益の衡平を図るとはいかなる意味であろうか。増改築により建物の耐用年数が延長され、その建物が借地上の主要な建物であり、かつ、建物の朽廃が借地権の消滅事由である場合には、借地人は、増改築により、建物の朽廃による借地権の消滅を免れる反面、賃貸人は、借地権の存在により土地所有権が制約を受ける期間の伸長を余儀なくされ、これに伴い、建物の朽廃による借地権の消滅により得べかりし利益を喪う等の不利益を招き、当事者の利害が対立するばかりでなく、借地人としては、増改築の結果、住の快適性、建物利用による収益の面その他において従前以上の利益を亨受しうることも可能となるが、当事者間の利益の衡平を図るとは、増改築が当事者に及ぼす右の如き利益、不利益を調整することであろうか。

借地法第八条ノ二、第九条ノ二が新設され、しかも、借地権の消滅について定めた防火地域内借地権処理法第三条に代わる規定が設けられなかつたことは、独立の財産権としての借地権の保護を強化したばかりでなく、更新拒絶により借地権が消滅する場合を除き、借地人の意思に反する借地権消滅の途を閉したものということができる。附随の処分が増改築に伴う賃貸人の不利益を補償する趣旨のものであるとすれば、(一)補償能力のない借地人は、適法な増改築を断念せざるをえないこととなり、法が借地人の増改築を保障したのに拘らず、右保障が借地人の補償能力の有無によつて左右されることは衡平を欠くのみならず、防火地域内借地権処理法第三条の如め規定が設けられていない現行法の下では、補償能力のない借地人は、借地権を他に譲渡するか、建物の朽廃を待つて無償で借地権を喪うかいずれかの途を選ばざるを得ず、前者の場合は、借地権の継続を意図する法の趣旨に反し、後者の場合は、借地権を独立の財産権として保護せんとする法の趣旨に反することになるばかりでなく、(二)借地人が補償能力を有しているとしても、賃貸人の不利益を補償することは、場合によつては、借地の所有権を取得するに要する費用以上の出捐をしなければならないという不合理な結果を招くことにもなる。例えば、一〇〇万円の土地があり、借地権価格七〇万円、底地価格三〇万円とする。借地権が消滅すれば、賃貸人は、この土地を第三者に賃貸し、借地権設定の対価として七〇万円を入手することができる。しかるに、増改築の結果借地権消滅時期が三〇年延びるとすれば、賃貸人は、入手すべかりし七〇万円に対する三〇年間の利息を喪うこととなる。利息の利率を年五分としても三〇年間の利息は、複利計算でなくとも一〇五万円(これを一時に支払う場合にはホフマン法により中間利息を控除し六三万円余)となる。借地人が借地の所有権を売買により取得する場合、代金は底地価格相当であるとされているので、借地人が賃貸人の喪失利益を補償すべきものとすれば、借地人としては、底地価格以上の出捐をしても借地の所有権を取得することができず、借地権を確保するに止るという不合理な結果になる。(右の例で借地上建物の朽廃時期が迫つているとしても、借地権価格及び底地価格は変らない。法定更新の規定があるため借地期間の進行に拘らず借地権割合は下降カーブをとらないと不動産鑑定の専門家は言うが、それと同じく、借地法第八条ノ二の新設により、建物の老朽化の進行に拘らず借地権割合は下降カーブをとらないものというべきである。)

以上の見地から、当事者間の利益の衡平を図るとは、増改築に伴う当事者の利益、不利益を調整する趣旨ではなく、かかる当事者の利益、不利益を伴う増改築を為しうる権利そのものの価値を経済的に如何に評価すべきであるか(財産上の給付の問題)、右権利が付与された後の借地契約における借地条件を変更するのを相当とするかどうか、その他相当の処分をすべきか否かを考慮することでなければならない。

本件改築を為しうる権利の価値を経済的にどう評価するかということは、右権利を付与されたことにより本件借地権価格が如何に変化したかを把握することである。不動産の鑑定において借地権価格を評価する場合、借地権割合を求めるのが通例のようであり、また、借地非訟事件を扱つていると、堅固建物所有目的の場合の借地権割合と非堅固建物所有目的の場合の借地権割合とでは、前者が大で、その差は約一〇%というのが鑑定委員会の意見の大勢である。この場合、非堅固建物所有目的の借地権については、増改築禁止の特約の有無についての区別を意識していないようであるが、右特約のない非堅固建物所有目的の借地権は、土地所有権を制約する期間の点においては、堅固建物所有目的の借地権と異らないので、右借地権割合の差は、厳密にいえば、堅固建物所有目的の借地権と増改築禁止特約付の非堅固建物所有目的の借地権との比較についていわれるべきであり、従つて、増改築禁止の特約のない非堅固建物所有目的の借地権と右特約のある非堅固建物所有目的の借地権との借地権割合の差も約一〇%と見るのが相当であり、増改築許可の裁判は、申立にかかる増改築についてのみ増改築禁止の特約を一時的に排除するものにして、右特約の全面的排除ではないので、増改築許可の裁判により形成される借地権の価格は、右特約のない価格と右特約のある価格との中間に位置づけられることになる。もつとも、増改築許可の裁判により借地権価格は上昇し、借地権割合も上昇するが、増改築を実施した後は再び増改築禁止の特約により規制されるため、借地権割合は旧に復することとなる。

本件改築は、既存建物の朽廃時期が迫つている時点において為される点においていまだ堅牢の時期に為される改築に比し、借地権の存続期間が大であり、また、既存建物を取り毀し、新たに建築するものである点において、既存建物に施す増改築に比し、建物の耐用年数も大というべく、本件改築許可の裁判による本件借地権の借地権割合の上昇率を五%と見るのが相当である。鑑定委員会の意見及び当事者双方の陳述によれば、本件土地の価格は3.3平方米当り一〇万円と認められるので、借地人である申立人に対し、土地価格七〇〇万円の五%にあたる三五万円の財産上の給付を命じ、なお、鑑定委員会の意見によると、本件土地の賃料は3.3平方米当り一カ月金四〇円を相当とするとのことであり、賃料か昭和三九年五月一日3.3平方米当り一カ月二八円に改訂されたまま現在まで据置かれているので、本件改築の許可をするにあたり、賃料を改訂するのを相当と考え、鑑定委員会の意見に従い、本裁判確定の月の翌月から賃料を一カ月二八〇〇円に改める。 (小山俊彦)

目録

(一) 東京都足立区本木町一丁目二四四番 宅地1493.88平方米(451坪9合)のうち231.40平方米(70坪)

(二) 右(一)の土地上にある

家屋番号二四四番八

木造瓦葺平家建居宅 一棟

床面積 72.72平方米(22坪)

(三) 右(一)の土地上にある

家屋番号二四四番九

木造瓦葺平家建居宅 一棟

床面積 52.89平方米(16坪)

(四) 木造瓦葺二階建共同住宅

床面積 一階 128.92平方米(39坪)

二階  99.17平方米(30坪)

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