大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和43年(特わ)172号 判決 1970年5月01日

本籍

東京都品川区大井二丁目四一二三番地

住居

東京都品川区大井二丁目二七番一六号

トルコ浴場業

川田和生

大正八年一〇月一二日生

右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は検察官中野泰・弁護人竹原精太郎・同新井旦幸出席の上審理して次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役六月及び罰金一四〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、土地、建物の賃貸による不動産所得、配当所得、譲渡所得及び雑所得を有していた外

(1)  肩書住居地に事務所を設けて行つていた貸金業

(2)  次の三店舗によるトルコ風呂営業

イ  五反田トルコ会館(昭和三〇年ころより同四〇年一一月まで、品川区五反田一丁目二七八番地所在。以下五反田トルコという。)

ロ  トルコ大井千一夜(昭和三七年一一月より同四〇年一一月まで、品川区大井鎧町三六〇三番地所在。以下トルコ千一夜という。)

ハ  蒲田駅前トルコ(昭和四〇年五月より同年一一月まで、大田区女塚蒲田駅前所在。以下蒲田駅前トルコという。)

(3)  トルコバー、喫茶店営業

右五反田トルコ会館及びトルコ大井千一夜内にトルコバーを併設した外喫茶店エルサルバドル(昭和三九年三月まで)による事業所得を有していたのに、所得税を免れるため、売上、賃料収入等を除外し、これを簿外の預金として設定する等の方法で所得を秘匿し、

第一、昭和三九年分の実際総所得金額は、五〇、七三三、八九一円でこれに対する所得税額が二八、八八一、四七〇円であつたのにかかわらず、昭和四〇年三月一五日東京都品川区南品川四丁目二番三二号所在の所轄品川税務署において、同税務署長に対し、総所得金額は四二三万五四〇〇円で、これに対する所得税額は六五万七四九〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて右年分の正規の税額と申告税額との差額二八、二二三、九八〇円を免れ

第二、昭和四〇年分の実際総得金額は四七、三一五、〇六八円でこれに対する所得税額が二六、四九三、三二〇円であつたのにかかわらず、昭和四一年三月一五日前記品川税務署においてで同税務署長に対し、総所得金額が五〇二万八三二四円でこれに対する所得税額が一〇三万八六二〇円である旨の虚偽の確定申告書を提出し、もつて右年分の正規の税額と申告税額との差額二五、四五四、七〇〇円を免れ

たものである。(所得金額の確定内容は、別紙一、二の各修正損益計算書の、税額の計算内容は、別紙五の税額計算書のとおりである。)

(証拠の標目)

一、被告人の当公判廷における供述、検察官に対する供述調書、検察官に対する供述調書、謄本二通、上申書八通

一、証人関口重雄の証言(全般)

一、証人大沼三郎の証言(同右)

一、証人葛西そめの証言(別紙二38)

一、証人森谷美智子こと赤坂妙子の証言(別紙一35、38、)

一、証人高橋ヨシ子の証言(別紙一35、42、二35、42)

一、証人河合ふさ子、早出千枝子、田畑宣子、工藤フサヱ、谷口浩の各証言(二宮寮関係)

一、昭和四二年一一月二八日付登記簿謄本二通(同右)

一、菊地豊治、小林良子、大田威の各証言(別紙一42、二42)

一、関口重雄の大蔵事務官に対する質問てん末書二通

一、売上関係調査書(大蔵事務官作成のもの。以下各調査書につき同様)

一、不動産所得調査書

一、仕入関係調査書

一、水道光熱費調査書

一、燃料費調査書

一、エルサルバドル経費調査書

一、給料調査書

一、厚生費調査書

一、修繕費調査書

一、退職金調査書

一、広告宣伝費調査書

一、旅費交通費調査書

一、通信費調査書

一、消耗品費調査書

一、消耗備品費調査書

一、雑費調査書

一、事務用品費調査書

一、交際費調査書

一、公租公課調査書

一、負担金調査書

一、車輛費調査書

一、火災保険料調査書

一、賃借料計算書

一、減価償却調査書

一、銀行預金調査書(その一)

一、銀行預金調査書(その二)

一、銀行預金調査書(その三)

一、たな卸商品計算書

一、日賦貸付調査書

一、一般貸付調査書(その一)

一、一般貸付調査書(その二)

一、有価証券調査書

一、固定資産調査書

一、店主勘定調査書

一、借入金調査書

一、平和相互銀行五反田支店長の預金元帳写

一、住友銀行五反田支店長の預金元帳写

一、山種証券蒲田支店長の元帳写

一、押収してある以下の証拠物(いずれも当庁昭和四三年押一、〇三五号、頭の番号はその符号番号及び枝番)

1の1~3 銀行当座勘定帳三綴(別紙一24)

2の1、2 売上帳二綴(別紙一24、二24)

3 元帳(エルサルバドル分)一綴(別紙一24、30、32)

4 権利更新控一冊(別紙二13、14)

5 蒲田トルコ売上日報(40、5、14~40、12、5)一綴(別紙二24)

6 プレイボーイ日計表一綴(別紙二13)

7 領収証書一袋(別紙二13)

8 トルコバー売上日計表(39、12、3~39、12、31)一綴(別紙二24)

9 トルコバー売上日計表(39、1、3~39、12、30)一綴(別紙一24)

10 領収証(佐仲殿)一冊(別紙一13)

11 業務日誌一綴(別紙二39)

12 元帳(蒲田駅前トルコ)一綴(別紙二33、34、39、40、43、48)

13 元帳(トルコ千一夜)一綴(別紙二33、34、40、52)

14 電気・ガス・水道料表示ノート一綴(別紙一25)

15 電話料金収支明細一綴(別紙一43)

16 請求複写簿一冊(別紙一25)

17 売上日報(トルコ千一夜)一綴(別紙二24)

18の1、2 売上日報(蒲田トルコ)二綴(別紙二24)

19 売上日報(トルコ千一夜)一綴(別紙二24)

20 バー日報(39、10~39、12)一袋(別紙一24、30)

21 総勘定元帳兼補助簿一綴(別紙一27、二27)

22 銀行勘定帳一冊(別紙一26、二26)

23 寮費布団代帳一冊(別紙一13)

24 月賦銀行入金帳一冊(別紙一27、二27)

25 貸付金補助簿一綴(別紙一27、二27)

26 日賦入金記録表一綴(別紙一27、二27)

27 日賦決済内訳表一綴(別紙一27、二27)

28 賃貸借契約書等一綴(別紙一13)

29 貸地貸家台帳等一綴(別紙一73)

30 約手不渡分綴一綴(別紙一26、二26)

31 日賦貸付金入金票等一綴(別紙一27、二27)

32 日賦貸付金入金票等一綴(別紙一27、二27)

33 売上日報綴一綴(別紙一24、29、30、31、二29)

34 売上日報一綴(別紙一24)

35 日計表一綴(別紙一24)

36の1~3 貸付金及び利息計算書三綴(別紙一26、二26)

37 当座勘定入金帳一綴(別紙一26、二26)

38 当座勘定入金帳一綴(別紙一26、二26)

39 小切手控綴(七冊綴)一綴(別紙一23、二23)

40の1~12 振替伝票(昭38年分)一二綴(別紙一26、二26)

141の1~11 同右(昭和39年分)一一綴(別紙一27、26、二27、26、76)

42 同右(昭和40年11月6日分)一綴(別紙二26)

43の1~4 日賦入金表記録綴四綴(別紙一27、二27)

44 銀行勘定帳一冊(別紙一24、二24)

45 銀行勘定帳一冊(別紙一26、二26)

46 日賦貸付台帳一冊(別紙一27、二27)

47 整理勘定帳一綴(別紙一13、28、42、46、55、二17、28、42、53、55、81)

48 地代家賃記入帳一冊(別紙一13、25、二13、14)

49 記録台帳一冊(別紙二13、14、17、25、59、60、65、67、69、77)

50 記録台帳一冊(別紙二13)

51の1、2 貸付台帳二綴(別紙二26)

52 家賃カード一袋(別紙一13、二13、14)

53の1~12 伝票(昭和四十年分)一二綴(別紙一26、二26)

54 同右(昭和三十九年分)一綴(別紙一26、二26)

55の1、2 トルコ日報綴(五反田)二綴(別紙一24)

56 トルコ日報綴(大井町)一綴(別紙一24)

57 トルコ日報綴( 〃 )一綴(別紙二24)

58 売上日報綴一綴(別紙一24、30)

59 売上日報綴一綴(別紙二24、30)

60 税務簿一冊(別紙一15、51、75)

61 貸金台帳一綴(別紙一35)

62 家貸地代取立明細表一枚(別紙一13)

63 契約書等(ポンテイアツク)一袋(別紙一65)

64 六二年シボレー関係書類一袋(別紙一66)

65の1、2 債権取立に関する書かん等二袋(別紙一26、27、二26、27)

66 自動車関係書類一綴(別紙一65)

67 記録台帳一冊(別紙一15、51、59、75、二15、51、75)

68 不要保険証券綴一綴(別紙一54、二54)

69の1~3 給与台帳(川田商会)三冊(別紙一35、二35)

70の1、2 給与台帳(五反田トルコ)二冊(別紙一35、二35)

71の1、2 給与台帳(東京ヘルスセンター)二冊(別紙二35)

72 売上経費帳一綴(別紙二40、44)

73 株式元帳一綴(別紙一9、二9)

74 総勘定元帳一綴(別紙一14、57、二15、25、37、40、42、50、51、52、53、55、57、75)

75の1~3 銀行勘定帳三冊(別紙一26、二26)

76 火災保険元帳一冊(別紙一54、二54)

77 総勘定元帳一冊(別紙二34、39、43、56)

78 税務関係記録簿一冊(別紙二15、51、75)

79 振替伝票一綴(別紙二76)

80の1~4 当座勘定入金帳控四綴(別紙一26、二26)

81の1~4 小切手帳控四綴(別紙一26、二26)

82 建物取壊証明書一袋(別紙二20)

83 日賦銀行入金帳一冊(別紙一27、二27)

84 地代家賃台帳一綴(別紙一13、二13、14)

85 日賦貸金票等一綴(別紙一27、二27)

86 地代家賃台帳一綴(別紙一13、二13)

87 貸付金元帳一綴(別紙一26、二26)

88の1、2 家賃地代台帳二綴(別紙一13、二13)

89 賃貸借契約書等一袋(別紙二13)

90 家賃地代取立明細表一綴(別紙一13、73、74)

91 元帳(大井町)一綴(別紙一39、40、43、二15、24、30、33、34、37、40、42、43、44、45、47、48、50、51、75)

92 元帳(昭和三十九年分)一綴(別紙一15、25、30、34、35、37、39、40、42、43、44、46、47、48、50~56、75、二47)

93 元帳(昭和四十年分)一綴(別紙一40、二15、33、34、36~56、66、67、68、75)

94 売上帳(昭和三十九年分)一綴(別紙一24)

95 売上帳(昭和四十年分)一綴(別紙二15、30、34、35、39、42、44~47、50、51、52、57、75)

96 経費明細帳(昭和四十年)一綴(別紙二24、33、34、37、39、40、42、43、44、45、47、48、52)

97 貸付金元帳一綴(別紙一26、二26)

99 現金日報一綴(別紙一24)

100 売上日報(39年)(エルサルバドル)一綴(別紙一24、29、30、31、二29)

101 売上日報(39年)(トルコバー)一綴(別紙一24、29、30、31、二29)

102 メモ類一袋(別紙一13、73)

103 貸付金元帳37・3・31現在一綴(別紙一26、二26)

104 代金取立手形預り帳(住友/五反田)一冊(別紙一26、二25、26)

105の1~6 105の11~13 普通預金通帳九冊(別紙一25、26、二25、26)

105の7~10 当座勘定入金帳四冊(別紙一25、26、二25、26)

106 当座勘定入金帳一冊(別紙一26、二26)

107 小切手帳控一綴(別紙一26、二26)

108 売上早見表一袋(別紙一24、二24)

109 約束手形、小切手、念書、領収書等一袋(別紙一26、二26)

111 家賃地代集金原簿一冊(別紙一13、73、74、二13、14、73、74)

111 三十九年分所得税確定申告書(川田和生)一枚(別紙一9、21、61)

112 四十年分 同 右 一枚(別紙二9、61)

113 売上伝票等(39、1、16~39、9、17)一綴(別紙一30)

114 同右(五反田トルコ)(39、9~40、8)一綴(別紙一30、二30)

115 同右(同 右)(40、4~41、8)一綴(別紙二30)

116 同右(トルコ千一夜)(39、9~40、8)一綴(別紙一30、二30)

117 同右(トルコ千一夜)(40、9~41、8)一綴(別紙二30)

118 領収証等九枚(別紙一38)

122 手紙二枚(別紙一35、二35)

123 手紙四枚(別紙一35、二35)

124の1、2 封書二通(別紙一35、二35)

131 手紙原稿一通(別紙一35、二35)

119 写真集一冊(二宮寮関係)

125 アルバム三冊(同 右)

126 封書一通(同 右)

127 封書一通(同 右)

128 手帳一冊(同 右)

(争点について)

一、検察官主張の所得金額中減算した部分(弁護人及び被告人の主張の中認容分)は別紙三、四に記載し説明したとおりである。

二、二宮寮関係諸経費について

弁護人は、「二宮寮は、川田個人の別荘ではなく、川田商会の厚生施設であるから、この施設のため支出した従業員(寮)の給料、厚生費、広告宣伝費、旅費交通費、公租公課、保険料の各費用は必要経費に算入せよ。」と主張する。

前掲の関係証拠によつて検討するに、この“二宮寮”は神奈川県中郡二宮町二宮字向原に所在し、昭和三二年ころ株式会社川田商会名義をもつて取得された公簿上五六坪の土地及びその地上の家屋三一坪一合四勺の、宿泊、飲食の設備、庭園、プール、小さなゴルフ練習場を含む施設である。この施設が、被告人個人の別荘であるか川田商会の従業員のための福利厚生施設とみるかの税法上問題点は次にある。従業員のための保養施設は、それ自体直接事業に関連するものではないが、その施設を実際に従業員に利用させ、私生活上の娯楽と休養を与えることが、従業員の平素の仕事の能率を向上させることに寄与することになるという考え方によつて、その施設の維持管理等に要する一切の費用を事業上の必要経費と認めることになるのである。従つて、その施設が、右の目的に従い運営されるという実体が備わつて、税法上にいう福利厚生施設ということができるのであり、たとえ名目が“寮”であれ“クラブ”であろうとも、特定の経営者個人ないし限られた少数の人達に利用されるにすぎない場合には、そこにいう福利厚生施設ではなく、施設に関連する費用は、これを事業上の必要経費とみなすことはできないのである。

本件において、関係証人及び被告人は公判廷で「この“二宮寮”は、個人経営の川田商会の保養、福利施設であつて、春、夏、秋ごとにトルコ各店舗の従業員が合同で出むき一泊保養する。又従業員は個人として家族づれなどで年一ないし数回利用しており、施設の利用は一切無料で川田商会が負担してくれる。一旨述べている。そこでさらに右施設が税法上にいう福利厚生施設の実体を備えたものかどうかを検討する。

(イ)  まず施設の客観的な管理、運営状況を検討するに、被告人はこの施設を「従業員のために提供したのだ。自分個人の別荘ではない。」というが、被告人自らも又経理担当者らもこの施設を「別荘」と称していたことは関係資料によつて顕著な事実であるし、少くともこれが従業員の寮の実質をもつとするならば、従業員の趣好、具体的な利用状況が何らかの形で把握されて然るべきはずであるのに、その痕跡はない。むしろ被告人の事業に対する絶大な支配力を考えるならば、その管理・運営について同人の趣好、意向が強く働いていたことがうかがわれる。

(ロ)  利用状況をみるに、被告人は毎月二ないし三回にわたりこの施設を利用し、庭園の手入れ、友人等らを招いていたことは明らかであるが、関係各証人のいうように、全従業員が年三回の行事としてこれを利用した事実があつたとみることは、甚だ疑わしいのである。“二宮寮”の家計費は、六〇円のり玉代から少額の惣菜代まできちんと計上され、その平均支出額も、庭石、工事代等の大口出費分を別とすれば、月四万円ないし六万円位で平均している(店主勘定調査書符92号、93号の元帳)のに、大勢の人が来て飲食出費した形跡は記帳上見当らないし、後述するような全従業員のための慰安が別途に行われた形跡がある。

(ハ)  川田商会の決算手続は、表、裏を含め、総体的には優良なものとは評し得ないが、伝票、帳簿類はよく保存され、収支の記帳も詳細である。かような経理の下において“二宮寮”は被告人個人の別荘として記帳されており、福利厚生施設として取り扱われてはいない。経理面からは右施設は明らかに川田個人の“別荘”である。

(ニ)  元帳(符92号)の厚生費勘定には全従業員の慰安のための、熱海温泉の宿泊旅行、夏の海水浴行にともなう諸費用が計上されているが、川田商会の従業員の数、営業規模等からみれば、全従業員の宿泊、慰安は一応この程度でも目的を達し得るのではないかと考えられる。

以上の諸点並びに諸般の状況をあわせ考えると、この施設は、従業員の福利厚生施設の実体を備えたものとはとうてい認め難く、被告人がこれを寮と考えようとも、客観的には別荘とみるのを相当とするから、これにともなう弁護人主張の一切の経費は、家事関連費に属するものというべきである。よつて弁護人の主張は採用しない。

三、支払利息について

弁護人は「被告人は山井すみ子から昭和三六年ころ、九〇〇万円を利率月二分の約定で借受け金員の交付を受けたから同女に対する支払利息として本件各年分につきそれぞれ二、一六〇、〇〇〇円(9,000,000×0.02×12=2,160,000)を必要経費に計上せよ。」と主張する。

証人山井すみ子(本名洪順保)の証言及び被告人の公判供述によれば、被告人は姪の山井すみ子と右主張の金銭消費貸借を結び、元金を被告人において運用した利益から、約定の利息を支払つていたというのであるが、同時にその貸借は、無担保、無証書、期限の定もないというのである。さらに、右各供述によつても、そのいうところの貸付金の入金、元本の運用、受取つたとする利息の使用状況等に関する供述は甚だあいまいで右各供述内容自体、にわかに信用し難いのみならず、手紙原稿二枚(符120号の1)、封書二通(符120号の2、121号)によれば、山井すみ子の当時の生計は決して豊かではなくその子息山井忠光も苦学し、貧困を訴えていたことがうかがわれるのであつて、山井すみ子が被告人に九〇〇万円もの高額資金を貸付け、高利を受け取る生活環境にあつたとはとうてい認められない。弁護人の右主張は採用しない。

四、旅費交通費(第一42、第二42)について

弁護人は、「従業員に支払つた簿外の深夜タクシー代一〇八万円(トルコ千一夜、五反田トルコについては開業期間各一日一五〇〇円、蒲田駅前トルコについては開業期間一日八〇〇円の割合計算)を必要経費として認容せよ。」と主張する。

前掲の各証人は、従業員に支払つたとする深夜タクシー代がおよそ、弁護人主張の額であると証言するが、その証言内容自体、帰宅従業員の人数、距離等を具体的に述べておらず、とうてい右主張事実の認定資料とすることはできない。少くとも計上ずみの一般交通費、定期代には各店舗において顕著な差があり(例えば昭和三九年分五反田トルコ一四万八三三五円、トルコ千一夜九万三八六三円、昭和四〇年分五反田トルコ六万五八三〇円、トルコ千一夜三万三一〇四円、蒲田駅前トルコ四五〇〇円)、仮りに若干の記帳もれタクシー代があつたとしても、弁護人主張のように多額であつたと推計することの手がかりはない。なお証人小林良子、同菊地豊治の証言によれば、同人らが深夜タクシー代として一日当り一六〇円ないし二五〇円受取つた事実があると述べているが、この証言に見合う部分は記帳されており(符92、95号の証拠物)、深夜タクシー代はこの限りにおいて計上ずみである。弁護人の主張は採用しない。

五、雑費(第一46、第二46)交際費(第一50、第二50)について

弁護人は「雑費として<1>トルコ風呂の客を案内して来たタクシー運転手に対する祝儀(開業期間トルコ三店舗分月額各三万円)、<2>韓国人納税組合品川支部長洪性満に対する退職時の餞別六〇万円(昭和三九年分)及び交際費として地廻りのグレン隊に支払つた祝儀(開業期間トルコ千一夜に関し月額二万円、五反田トルコ一万円、蒲田駅前トルコに関し各月額一万円)を必要経費として認容せよ。」と主張する。

まず右雑費<1>及び交際費について検討するに、これらに関する経費の記帳はない。又関係証人の証言内容も、タクシーで来た客数、店舗別の回数、グレン隊費の支出先、回数、金額について具体的な供述はなく、かかる証言をもつて弁護人主張の経費の認定の根拠とすることはできないし、これらを推計すべき手がかりもない。よつて弁護人の右主張は採用しない。

なお洪性満に対する餞別は、個人の餞別とみるべく、事実上の必要経費とは認められない。

(法令の適用)

第一の事実につき昭和四〇年法律第三三号所得税法附則三五条、同法による改正前の所得税法六九条

第二の事実につき所得税法二三八条

以上につき懲役と罰金を併科

併合罪加重につき刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四八条二項

換刑処分につき刑法一八条

懲役刑の執行猶予につき刑法二五条一項

訴訟費用の負担につき刑事訴訟法一八一条一項本文

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 小島建彦)

別紙一 修正損益計算書

川田和生

自 昭和39年1月1日

至 昭和39年12月31日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙二 修正損益計算書

川田和生

自 昭和40年1月1日

至 昭和40年12月31日

<省略>

<省略>

<省略>

別紙三 昭和39年分 所得金額の修正

<省略>

<省略>

別紙四 昭和40年分 所得金額の修正分

<省略>

<省略>

別紙五 税額計算書

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例