東京地方裁判所 昭和43年(特わ)373号 判決 1972年8月02日
被告人
1. 本店所在地 東京都台東区西浅草二丁目一番四号
株式会社 こけし本店
(右代表者代表取締役 富田栄造)
2. 本籍 東京都文京区湯島二丁目一九番地
住居
東京都江戸川区東小岩四丁目一四番一五号
職業
会社員
富田まつえ
大正五年四月一〇日生
被告事件
法人税法違反
出席検察官
佐藤道夫
主文
1. 被告人株式会社こけし本店を罰金一、三〇〇万円に、被告人富田まつえを懲役八月にそれぞれ処する。
2. 被告人富田に対し、この裁判確定の日から二年間右刑の執行を猶予する。
3. 訴訟費用中証人斉藤光英、同喜田国男に支給した分は被告人両名の負担とする。
(罪となる事実)
被告人株式会社こけし本店は、東京都台東区西浅草二丁目一番四号に本店をおき、トルコ風呂業、料理飲食業等を営業目的とする資本金八〇〇万円の株式会社であり、被告人富田まつえは、被告人会社の監査役であつたかたわら、代表取締役であつた富田富次郎を補佐して同会社の業務全般を掌理していたものであるが、被告人富田は同会社の業務に関し、法人税を免れる目的をもつて売上の一部を除外して簿外預金を設定する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ、
第一、昭和三九年三月一日より昭和四〇月二月二八日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一七、八一〇、五七五円あり、これに対する法人税額六、六一七、九九〇円を申告納付すべき義務があつたのにもかかわらず、右法人税の申告期限である昭和四〇年四月三〇日までに、東京都台東区蔵前二丁目八番一二号所在の所轄浅草税務署長に対し、法人税の確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もつて同会社の右事業年度分の法人税額六、六一七、九九〇円を免れ
第二、昭和四〇年三月一日より昭和四一年二月二八日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が三五、一一六、一三八円あり、これに対する法人税額一二、八一二、九五〇円を申告納付すべき義務があつたのにもかかわらず、右法人税の申告期限である昭和四一年四月三〇日までに、前記税務署長に対し、法人税の確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もつて同会社の右事業年度分の法人税額一二、八一二、九五〇円を免れ
第三、昭和四一年三月一日より昭和四二年二月二八日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が六六、二二九、三七六円あり、これに対する法人税額二二、九七〇、二五〇円を申告納付すべき義務があつたのにもかかわらず、右法人税の申告期限である昭和四二年四月三〇日までに、前記税務署長に対し、法人税の確定申告書を提出しないで右期限を徒過し、もつて同会社の右事業年度分の法人税額二二、九七〇、二五〇円を免れ
たものである。(なお、右各ほ脱所得の計算は別紙一、各ほ脱税額の計算は別紙二、各ほ脱所得の内容は別紙三ないし五のとおりである。)
(証拠の標目)(甲、乙は検察官証拠請求番号を示し、押収物についてのかつこ内の数字は昭和四四年押六九七号のうちの符号を示す。)
全事実について
一、被告人の当公判廷における供述および検察官に対する各供述調書
一、証人斉藤光英、同喜田国男、同富田俊作、同富田富次郎の当該判廷における各供述
一、第四、五、六回各公判調書中証人小林孝子の、第五回公判調書中証人鵜沢富士子の、第六回公判調書中証人木越クニ子の各供述部分
一、小林孝子、鵜沢富士子、清水せき、富田富次郎の検察官に対する各供述調書
一、清水せき、四釜礼子に対する大蔵事務官の各質問てん末書
一、登記官作成の登記簿謄本
一、押収してある手帳五冊(5の1ないし5の5)、金銭出納帳一一冊(4の1ないし4の5、24、25の1、30の2、30の1ないし30の3)
売上高について
一、被告人の当公判廷における供述および検察官に対する各供述書
一、被告人に対する大蔵事務官の各質問てん末書
一、第四、五、六回各公判調書中証人小林孝子の、第五回公判調書中証人鵜沢富士子の、第六回公判調書中証人木越クニ子の各供述部分
一、証人斉藤光英、同富田俊作、同大金正男、同尾崎竜雄、同重高義夫、同堀井美興、同渡辺秀男の当公半廷における各供述
一、小林孝子、鵜沢富士子、清水せきの検察官に対する各供述書
一、清水せき、四釜礼子に対する大蔵事務官の各質問てん末書
一、堀井美興、重高義夫、遠藤登志、佐藤一郎作成の各上申書
一、検察事務官小岩清作成の報告書
一、押収してある手帳五冊(5の1ないし5の5)、金銭出納帳一三冊(4の1ないし4の5、20の1、20の2、24、25の1、25の2、30の1ないし30の3)、支払経費請求書領収書一〇袋(19の1ないし19の10)、請求複写簿三冊(32の1、32の2、40)
期首商品、期末商品について
一、被告人に対する大蔵事務官の質問てん末書(乙6)
一、押収してある決算書類等綴一綴(31)
仕入高経費について
一、被告人に対する大蔵事務官の質問てん末書(乙3 4)
一、証人渡辺秀男の当公判廷における供述
一、四釜礼子に対する大蔵事務官の質問てん末書
一、伊藤重一、富田富次郎、遠藤登志、弓削清五郎、西谷芳盛、北村武雄、佐藤一郎、三田隆男作成の各上申書
一、大谷米太郎作成の証明書
一、大蔵事務官作成の調査書(甲(一)36)
一、押収してある領収書一八冊および一袋(1の1ないし1の18、14)、領収証等一七袋(2の1ないし2の3、11、15の1ないし15の8、17、21、22の1ないし22の3)、金銭出納帳一三冊(4の1ないし4の5、20の1、20の2、24、25の1、25の2、30の1ないし30の3)、手帳五冊(5の1ないし5の5)、税金領収証等一袋(7)、総勘定元帳二綴(9、29)、領収証請求書等三袋(10の1ないし10の3)、工事金精算依頼書等一袋(12)、請求書等一袋(13)、支払経費請求書領収書一〇袋(19の1ないし19の10)、工事請負契約書等一袋(23)、決算書類等綴一綴(31)、所得税申告書三綴(34の1ないし34の3)、調査伝票三綴(37ないし39)
預金利息について
一、金融機関作成の各証明書(甲(一)40ないし60)
損金計上法人税、同地方税、同延滞税について
一、押収してある税金領収証等一袋(7)、諸税支払領収証一袋(18)
車輛売却損について
一、三田隆男作成の上申書
一、大蔵事務官作成の調査書(甲(一)37)
一、押収してある自動車注文申込書一枚(3)、自動車領収証等一袋(8)、決算書類等綴一綴(31)
雑益金について
一、ウイリアム・T・クロール作成の証明書
一、弁野俊夫、鈴木栄二作成の各上申書
(当事者の主張(争点)に対する判断)
第一、被告人会社の営業の範囲について
一、検察官の主張
被告人会社名義(公衆浴場法または風俗営業等取締法上の許可名義。以下、同じ。)の小岩トルコセンター、東京トルコセンター、トルコジヤスミンのトルコ風呂三店舗ばかりでなく、鵜沢富士子名義の晴美トルコセンター、小林孝子名義の金城トルコセンター、被告人富田(以下、単に被告人という。)名義のトルコナポリのトルコ風呂三店舗および四釜礼子名義のバーゆめじならびに喫茶クジヤクのバー、喫茶各一店舗(合計八店舗)もすべて被告人会社の営業であり、したがつて、右各店舗から生ずる所得(収益および損費、資産および負債。以下、同じ。)はすべて被告人会社に帰属する。
二、弁護人の主張
右八店舗は、すべて被告人の夫である富田富次郎(以下、単に富次郎という。)個人の営業であり、したがつて、そこから生ずる所得はすべて富次郎個人に帰属する。かりにそうでないとしても、被告人会社の営業しているのはその名義のトルコ風呂三店舗のみであつて、その他の店舗は富次郎個人または各名義人の営業であり、したがつて、そこから生ずる所得は富次郎個人または各名義人に帰属する。
三、当裁判所の判断
(一) 証人富次郎の当公判廷における供述、同人の検察官に対する供述調書、第四、五、六回各公判調書中証人小林孝子の各供述部分、同人の検察官に対する供述調書、第五回公判調書中証人鵜沢富士子の供述部分、同人の検察官に対する供述調書、第六回公判調書中証人木越クニ子の供述部分、清水せきの検察官に対する供述調書、証人富田俊作、同喜田国男の当公判廷における供述、被告人の当公判廷における供述および検察官に対する各供述調書によると、次の事実が認められる。
1. 富次郎は、昭和二三年ごろから漁具類卸業、割烹料理店等を経営し、さらに昭和二五年ころからは寿司屋に転業し多数の店舗をもつて多額の利益をあげていたが、経営をまかせていた女性が逃げたりしたため次第に右寿司店を整理売却し、民謡酒場の経営に切りかえていつたこと、そして税理士から事業を会社組織にして経営した方が税金関係等で面倒がないと聞かされ、昭和三三年三月四日資本金四〇〇万円で被告人会社を設立したうえ自ら代表取締役となり、当初は「こけし本店」の名称で民謡酒場を経営していたが、芸人を集めることが困難であつたことなどもあつて三年程でこれをやめ、トルコ風呂経営に転業することとして、まず昭和三七年一二月小岩トルコセンターを開店し、続いて昭和三八年二月ころ東京トルコセンター、同年八月ころ晴美トルコセンター、昭和三九年七月ころトルコジヤスミン、昭和四〇年三月ころ金城トルコセンター、同年一二月ころトルコナポリをそれぞれ開店したほか、昭和三七年三月ころバーゆめじ、昭和四一年九月ころ喫茶クジヤクをそれぞれ開店したこと、右八店舗のうち、小岩トルコセンター、東京トルコセンター、トルコジヤスミンの三店舗については被告人会社の名義で公衆浴場法上の許可を受けたが、晴美トルコセンターについては鵜沢富士子の名義で、金城トルコセンターについては小林孝子の名義で、トルコナポリについては被告人の名義で、バーゆめじについては四釜礼子の名義でそれぞれ同法ないし風俗営業等取締法上の許可を受けたこと、右各個人の名義人は、被告人が富次郎の妻であるほか、いずれも富次郎のいわゆる二号にあたる女性で、いずれもその名義の店舗を自ら経営しているものではなく、富次郎に命じられてその店舗の会計事務等を担当していた単なる責任者にすぎなかつたこと、右トルコ風呂およびバー、喫茶の各店舗の建設資金は、被告人会社名義、個人名義を問わずすべて富次郎が出資し、その売上金も各店舗を通じてすべて富次郎が被告人に回収、管理させるなど右各店舗の運営はもつぱら富次郎の意思で行われていたこと
2. ところで、被告人会社は、前記のとおり昭和三三年三月四日富次郎が代表取締役となり資本金四〇〇万円で設立された株式会社であるが、その出資金はその後の増資分も含めてすべて富次郎が出資しているいわゆる一人会社であつて、富次郎以外の株主あるいは取締役等はいずれも単に名義だけのものにすぎなかつたこと
3. 富次郎は、被告人会社の昭和三九年二月期までは、当時開店していた小岩トルコセンター、東京トルコセンターの所得について、被告人に命じて被告人会社名義の法人税確定申告をさせていたこと
(二) 右認定の事実によると、本件各店舗は、すべて富次郎が建設し、もつぱら富次郎の意思で運営され、売上金もすべて富次郎が回収していたのであるから、各店舗は、実質的にはすべて富次郎個人の営業であり、したがつてそこから生ずる収益も実質的には富次郎個人が享受していたものと、一応いうことができる。しかしながら、一方、右認定のとおり、富次郎は、個人で行つていた事業を会社組織に変更して行おうとして被告人会社を設立し、本件各トルコ風呂等を開店していつたもので、しかも当初はトルコ風呂について被告人会社の名義で許可を受け、被告人会社名義の法人税確定申告をしていたのであるから、本件各店舗は被告人会社の営業でもあり、したがつてそこから生ずる収益も被告人会社が享受しているものともいうことができる。そうすると、本件各店舗は、富次郎個人の営業であると同時に被告人会社の営業でもあり、したがつてそこから生ずる収益も富次郎個人が享受していると同時に被告人会社としても享受しているもの、すなわち個人所得即法人所得とみるのが相当である。そして、このように個人所得即法人所得とみられる場合に、課税主体である国が所得の帰属者を法人と認め、その所得についてその法人に課税することは何ら実質課税の原則に反するものではないから、本件において、国が本件各店舗の営業から生じた所得をすべて被告人会社の所得と認め、被告人会社に課税することも違法ではないというべきである。
ちなみに、いわゆる法人格否認の法理は相手方の利益保護のために認められたものであるから、会社という法的形態を利用した者が、相手方の損失においてこれを自己の利益に援用することは信義則上許されないものというべきである。したがつて、会社という法的形態を利用した者は、たとえこの形態をある経済目的達成のための手段としたにすぎないとしても、この形態の背後に存する経済的実体を強調して、会社という法的形態に基づいて生ずる法律上の責任を免れることは許されないものというべきであり、この理は徴税の場合においても妥当するものというべきである。
(三) よつて本件各店舗の営業から生じたすべての所得について被告人会社に課税すべきであるとする検察官の主張は正当であり、これに反する弁護人の主張は結局理由がないことに帰する。
第二、被告人の犯意および不正行為について
一、検察官の主張
(一) 仮名預金口座の設定
被告人は、被告人会社設立(昭和三三年三月四日)以来本件各事業年度当時にいたるまで、脱税の犯意をもつて、その手段として、多くの仮名預金口座を設定し、これに本件各店舗の売上金を預金していた。
(二) 売上除外
被告人は、脱税の犯意をもつて、その手段として、昭和四〇年二月期については売上の一部を除外した金銭出納帳を自ら作成し、昭和四一年二月期および昭和四二年二月期については各店舗の責任者に指示して売上の一部を除外した入浴受付表および金銭出納帳を作成させ、また自ら売上の一部を除外した金銭出納帳を作成していた。
二、弁護人の主張
(一) 被告人は、本件各事業年度とも法人税の確定申告をする意思を有していたが、経理・税務についての知識の不足、極端な多忙その他夫富次郎および担当税理士の無理解、非協力等のため、不可抗力によつてその申告ができなかつたものであるから、被告人には、本件各事業年度とも法人税ほ脱の犯意はなかつた。
(二) 被告人が被告人会社名義以外の名義の預金口座を設定したのは、脱税の意思でしたのでも、脱税の手段としてしたのでもなかつた。すなわち、被告人が設定した預金口座はその大半が夫富次郎の名義であり、そのほかもほとんど被告人を含む家族の者の名義であつたが、被告人にとつて、富次郎の名義は仮名ではなく実名義そのものであり(前記八店舗はすべて富次郎個人の営業であると考えていたから。)、また家族の者の名義を使用することも富次郎名義を使用することと同じことであつた。
(三) かりに、被告人に法人税ほ脱の犯意および不正行為があつたとすれば、被告人について法人税ほ脱犯の成立する範囲は、被告人が売上の三分の一位を除外した金銭出納帳を作成させ、あるいは自ら作成するようになつた昭和四一年六月以降の、しかも売上の三分の一に相当する部分に限られるべきである。なぜなら、ほ脱犯は、不正行為によつて秘匿され、かつその認識を有する所得の限度においてのみ成立するものと解すべきだからである。
三、当裁判所の判断
(一) 金融機関作成の証明書(検察官証拠請求番号甲(一)40ないし60)、検察事務官小岩清作成の報告書、第四、五、六回各公判調書中証人小林孝子の各供述部分、同人の検察官に対する供述調書、第五回公判調書中証人鵜沢富士子の供述部分、同人の検察官に対する供述調書、第六回公判調書中証人木越クニ子の供述部分、清水せきの検察官に対する供述調書、証人斉藤光英の当公判廷における供述、押収してある手帳二冊(昭和四四年押六九七号の5の2、5の3)、同金銭出納帳一一冊(同号の4の1ないし4の5、24、25の1、25の2、30の1ないし30の3)、被告人の当公判廷における供述および検察官に対する各供述調書によると、次の事実を認めることができる。
1. 被告人は、被告人会社設立(昭和三三年三月四日)当時から本件各事業年度当時にいたるまで、多数の金融機関に、被告人会社名義以外のいわゆる仮名預金口座を多数設定し、これに本件各店舗から集金した売上金を預金していたこと
2. 被告人は、
(イ) 昭和三九年三月ころから約半年間、当時開店していた小岩トルコセンター、東京トルコセンターについて売上の一部を除外した金銭出納帳を自ら作成していたこと(昭和四〇年二月期)
(ロ) 昭和四〇年夏ころ、トルコジヤスミンの責任者であつた清水せきに対し、売上の一部を除外した入浴受付表の作成を指示し、同店についてそのころから売上の一部を除外した入浴受付表を作成させていたこと(昭和四一年二月期および昭和四二年二月期)
(ハ) 昭和四〇年暮ころ、金城トルコセンターの責任者であつた小林孝子に対し、売上の一部を除外した金銭出納帳の作成を指示し、同店について昭和四一年一月ころから売上の一部を除外した金銭出納帳(前同押号の30の1ないし30の3)を作成させていたこと(昭和四一年二月期および昭和四二年二月期)
(ニ) 昭和四一年一月ころ、当時東京トルコセンターの責任者であつてその後晴美トルコセンターの責任者となつた鵜沢富士子に対し、売上の一部を除外した入浴受付表および金銭出納帳の作成を指示し、右各店についてそのころから売上の一部を除外した入浴受付表を作成させていたこと(昭和四一年二月期および昭和四一年二月期)
(ホ) 昭和四一年三月ころから小岩トルコセンター、東京トルコセンター、トルコジヤスミンおよびトルコナポリの四店舗について売上の一部を除外した金銭出納帳(前同押号の4の1ないし4の5、24、25の1、25の2)を自ら作成していたこと(昭和四二年二月期)
(二) なお、右(ロ)ないし(ホ)の売上除外の始期につき、被告人および証人小林孝子、同鵜沢富士子は、いずれも公判廷において右認定と異る供述をしている(被告人は(ロ)ないし(ホ)について昭和四一年五月末ころと、証人小林は(ハ)について同年三月ころと、証人鵜沢は(ニ)について同年五、六月ころと各供述)。しかしながら、まず右小林に対する指示についてみると、同人は検察官に対し、昭和四〇年暮ころ被告人から売上の一部を除外した金銭出納帳の作成を指示され、昭和四一年一月から売上の一部を除外した金銭出納帳の記帳を始めた旨供述しているところ、被告人も検察官に対し、同旨の供述をしたうえ、さらに小林が右の時期から記帳を始めた理由を説明していることおよび小林が記帳していた金銭出納帳(前同押号の30の1ないし30の3)の記帳の始期、形式等を総合すると、前記認定((ハ))のとおり、被告人が小林に対し売上の一部を除外した金銭出納帳の作成を指示したのは昭和四〇年暮ころであり、小林が右金銭出納帳の記帳を始めたのは昭和四一年一月であつたと認めるのが相当である。次に、右鵜沢に対する指示についてみると、同人は検察官に対し、被告人から売上の一部を除外した入浴受付表および金銭出納帳の作成を指示されたのは昭和四一年になつてからだつたと思うと述べ、さらにその後昭和四〇年ころ云われたような気もするがはつきりしない旨述べているところ、前記認定のとおり右鵜沢は小林と同様トルコ風呂店舗の名義人でかつ責任者であつたのであり、しかも小林の場合と同様被告人から売上を除外した金銭出納帳の作成を指示されていたのであるから、前記認定((ニ))のとおり、被告人の鵜沢に対する売上除外の指示も、小林に対する指示と同じころなされたものと認めるのが相当である。また右清水に対する指示の時期については、同人の検察官に対する供述((ロ)と同旨)を採用するのが相当であり、したがつてこれに反する被告人の前記供述は採用できない。さらに、被告人が自ら売上の除外を始めた時期についてみると、被告人が昭和四一年三月から金銭出納帳(前同押号の4の1ないし4の5、24、25の1、25の2)の記帳を始めたことは証拠上明らかであるところ、前記認定((イ)ないし(ニ))のとおり、被告人は右金銭出納帳の記帳を始める以前にすでに自ら売上の除外をし、あるいはこれを指示していたのであるから、前記認定((ホ))のとおり、被告人が記帳していた右金銭出納帳についても、その記帳の当初(昭和四一年三月)から売上の一部を除外していたものと認めるのが相当である。
(三) 右(一)2で認定した売上除外の事実が法人税ほ脱の意思で、その手段として行われた不正の行為に当ることは明らかである。そして右(一)1で認定した仮名預金設定の事実も、これを右売上除外の事実と合せ考えると法人税ほ脱の意思で、その手段として行われたものと認めるのが相当である。よつて、被告人には、本件各事業年度とも、法人税ほ脱の犯意およびその手段としての不正行為があつたものというべきである。
(四) なお、弁護人は、本件法人税の無申告は被告人の極端な多忙等のため不可抗力であつたと主張するが、第四、五、六回各公判調書中証人小林孝子の各供述部分、同人の検察官に対する供述調書、第五回公判調書中証人鵜沢富士子の供述部分、同人の検察官に対する供述調書、第六回公判調書中証人木越クニ子の供述部分、清水せきの検察官に対する供述調書、証人斉藤光英、同富田俊作の当公判廷における各供述、被告人の当公判廷における供述および検察官に対する各供述調書によると、被告人は、本件各事業年度とも、毎日、トルコ風呂各店舗から、その日の売上金とともに売上金額の記載のある入浴受付表その他その日の収支を記載したメモ等を回収していたのであるから、これらの資料を保存しておきさえすれば容易に各店舗の収支が判明し、法人税の申告ができたはずであるのに、これらを破棄してしまつたことが認められるので、本件法人税の無申告が不可抗力であつたとは到底認めることができない。
また、弁護人は、被告人にとつて、富次郎およびその家族の者の名義の預金は仮名預金ではないと主張するけれども、前記第一の三(一)(営業の範囲について)において認定した事実、右第二の三(一)(犯意および不正行為について)において認定した事実および被告人の検察官に対する各供述調書を総合すると、被告人は、本件各店舗の営業が被告人会社の営業であり、したがつてその売上金の預金は被告人会社の預金であることを認識していたものと認められるから、被告人は、弁護人主張の名義の預金であつても被告人会社にとつては仮名預金に当ることの認識を有していたものと認めるのが相当である。
さらに、弁護人は、法人税ほ脱犯は不正行為によつて秘匿されかつその認識を有する所得の限度においてのみ成立すると主張するけれども、租税ほ脱犯にいわゆる不正行為は、それが事前の所得秘匿工作である場合には、その工作が税務職員による事後の正当所得額の把握(調査)を全体として困難ならしめるものと認められる限り、その工作は客観的なほ脱所得の全額について不正行為となるのであつて、右工作と客観的なほ脱所得額との間に計数的一致を必要とするものではないと解すべきであり、また犯意については、その所得が特定の事業活動から生じたものであるとの概括的な認識を有する限り客観的なほ脱所得の全額に対して犯意がおよぶのであつて、個々の取引あるいは勘定科目等についての具体的な認識を必要とするものではないと解すべきである。これを本件についてみると、前記認定の第二の三(一)の事実によると、被告人の所得秘匿行為(仮名預金口座の設定および売上除外)は税務職員による事後の正当所得額の把握(調査)を全体として困難ならしめる行為と認められ、また被告人が本件の所得が本件各店舗の営業から生じたものであることの認識を有していたことも明らかであるから、結局被告人の不正行為および犯意は客観的なほ脱所得の全額(本件においては正当な全所得額)におよぶものというべきである。
第三、トルコ風呂六店舗の売上高について
一、検察官の主張
(一) 昭和四二年二月期の売上高(六店舗分)
1. 昭和四一年六月一日から昭和四二年二月二八日までの売上高
この期間中の売上高は記録によつて直接計算することができる。すなわち、右期間中に、(イ)各店舗から被告人の自宅(以下、単に自宅という。)に集金された金額(各店舗の売上高から各店舗払経費を差引いた金額)、(ロ)各店舗払経費および自宅払経費の合計額、(ハ)右(ロ)のうち自宅払経費がそれぞれ記録((イ)(ハ)については手帳二冊前同押号の5の2、5の3、(ロ)については金銭出納帳一一冊同押号の4の1ないし4の5、24、25の1、25の2、30の1ないし30の3)によつて確定できるので、右期間中の売上高は、(イ)+(ロ)-(ハ)の算式によつて算出することができる。
2. 昭和四一年三月一日から昭和四二年二月二八日までの売上高
昭和四一年三月一日から同年五月三一日までの売上高については記録したものがないので、同年三月一日から昭和四二年二月二八日までの売上高は、売上高と対応した関係にある使用バスタオルの数量と右1で算出した昭和四一年六月一日から昭和四二年二月二八日までの売上高との比例計算によつて算出すべきである。
(二) 昭和四一年二月期(六店舗分)および昭和四〇年二月期(四店舗分)の売上高
右各期の売上高については記録したものがないので、各売上高は、売上高と対応した関係にある使用バスタオルの数量と右(一)で確定した昭和四二年二月期の売上高との比例計算によつて算出すべきである。
二、弁護人の主張
(一) 検察官主張の使用バスタオルの数量による売上高の推計は、その方法自体、次に述べるように多くの矛盾と欠陥があつて合理的なものとはいえない。
1. 検察官は売上高の推計に当り、各店舗の具体的な営業状況、たとえば、金城トルコセンターは昭和四〇年三月から同年一二月まで建築足場がとれない状態にあつて客の入りが極端に悪く、また浴漕の漏水等が激しく、これをふきとるために多量のタオルを使用したこと、東京トルコセンターは当初から客の入りが悪かつたこと、晴美トルコセンターは昭和四一年二月に売春防止法違反の疑いで警察の手入れを受け、そのため、トルコ嬢がいなくなつたりしたこと等の事情を考慮していない。
2. タオルの使用数量は売上高と対応した関係にない。すなわち、タオルの使用数量と売上高の関係は、入浴客一人当りにつき何本のタオルを使用したのか、また一日の入浴客を何人のトルコ嬢が担当したのかによつて異つてくる(タオルの使用数量は、一定数の入浴客を多数のトルコ嬢が担当すれば多くなり、少数のトルコ嬢で担当すれば少くなる。)のに、検察官は売上高の推計に当りタオルの具体的使用方法を何ら考慮していない。
3. 検察官は昭和四一年六月一日から昭和四二年二月二八日までの売上高を基礎として、それ以前の売上高を推計しているが、右の期間は各店舗の売上高が開店以来最も多かつた時期であるから、この期間の売上高を基礎としてそれ以前の売上高を推計するのは誤りである。
4. トルコ風呂営業においては、通常タオルのロスが少くとも二割はあるのに、検察官はその推計に当り右タオルの通常ロスを考慮していない。
(二) 検察官は、昭和四一年六月一日から昭和四二年二月二八日までの売上高および自宅払経費を被告人が記帳していた前記手帳(前同押号の5の2、5の3)の記載によつて確定しているが、次に述べるとおり、右手帳の記載には信頼性、正確性がないので、これによつて右期間の売上高および自宅払経費を確定することはできない。
1. 右手帳には売上が重複して記載されていたり、記帳日以後の売上(将来の売上)が記載されているばかりか、各店舗の規模から考えて信じられない程多額の売上金額が記載されている。
2. 検察官は右手帳には被告人の手元における金銭出納のすべてが記帳されていると主張するが、自宅払経費であることが明らかな重油代、クリーニング代、雇人給与等の一部が記載されておらず、またその期間中に銀行等の金融機関から払戻を受けたことの明らかな二千万円余りの入金も記載されていない。
(三) 正確な売上高を算出するためには、次のような推計方法を用いるべきである(合理的な推計方法)。
1. 売上高を入浴料売上高と飲料水売上高とに区分し、入浴料売上高については関係者の証言等によつて入浴客数を確定し、これに入浴料金を乗じて算出すべきであり、飲料水売上高については仕入先の上申書等の資料によつて仕入数量を確定し、これに販売単価を乗じて算出すべきである。
2. かりに右1.の入浴料売上高の算出方法に合理性がないとすれば、使用バスタオルの数量から入浴客数を算出し、これに入浴料金を乗じて入浴料売上高を算出すべきである。すなわち、本件トルコ風呂各店舗においては、少くとも各室または各トルコ嬢につき、最初の客に対しては二本のタオルを、二人目以後の客に対しては一本のタオルをそれぞれ使用していたのであるから、各店舗の一日分の使用バスタオルの数量から各店舗の室数を差引けば各店舗の一日の入浴客数が算出され、したがつて各期のトルコ風呂入浴料売上高は、入浴料金×客数{タオル使用総数-(室数×稼働日数)}の算式によつて算出すべきである。
三、当裁判所の判断
(一) 弁護人主張の売上高の推計方法について
1. 証言等から入浴客数を算出して売上高を確定する方法について
第四、五、六回各公判調書中証人小林孝子の各供述部分、同人の検察官に対する供述調書、第五回公判調書中証人鵜沢富士子の供述部分、同人の検察官に対する供述調書、第六回公判調書中証人木越クニ子の供述部分、清水せきの検察官に対する供述調書、証人斉藤光英の当公判廷における供述、被告人の当公判廷における供述および検察官に対する各供述調書によると、右の者らは、いずれも検察官に対し、あるいは公判廷において、本件各事業年度中における本件トルコ風呂各店舗の入浴客数を供述しているが、右各供述はいずれも資料に基いたものではなく単に記憶に基いたもので、その述べるところも昭和何年ころは何人位であつたという程度のものにすぎず、しかも同一の店舗の同一の時期における入浴客数について同一人の供述が検察官に対する場合と公判廷における場合とがくい違い、また供述人が異るごとに入浴客数が異るなどしているのであつて、右各供述からは、到底真実に近い入浴客数を算出することは不可能である。よつて、弁護人の主張する推計方法は合理的な推計方法ということができない。
2. 使用バスタオルの数量から入浴客数を算出して売上高を確定する方法について
本件においては、各店舗の使用バスタオルの数量、入浴料金、室数、タオルの使用方法が証拠上ほぼ正確に確定できるので、弁護人主張の推計方法も入浴料売上高(延長料を除く。)のみに関しては、一応合理的な方法であると認められる。しかしながら、右1において掲げた証拠および被告人に対する大蔵事務官の質問てん末書(昭和四二年一二月二二日付)によると、本件トルコ風呂各店舗においては、入浴料売上高(延長料を除く。)および飲料水売上高のほか、入浴延長料(一時間を経過した場合三〇分ごとに半額)、タオル保証代(トルコ嬢一人につき一日一〇〇円)、タオル洗濯代(客一人につき二〇円ないし五〇円)、ポマード、クリーム等男性用化粧品代(金城トルコセンターおよびトルコナポリについては店から支給し、トルコ嬢から一日一〇〇円を徴し、他の店についてはトルコ嬢負担)、電話料、ジユークボツクス(昭和四一年一一月ころから各店に設置し、トルコ嬢一人につき一日二〇〇円を徴していた。トルコ嬢の制服代金の実費、トルコ嬢の慰安旅行費用の半額、トルコ嬢控室の会費(トルコ嬢一人につき月五〇〇円)等の収入があることが認められるところ、弁護人主張の推計方法では右認定の延長料等の諸雑収入が除外されてしまうので、弁護人主張の推計方法は結局各店舗のすべての収入を捕捉する方法としては合理性に欠けるものといわざるをえない。
(二) 検察官主張の売上高の推計方法について
1. 推計方法自体の合理性について
本件においては、前記のとおり、各店舗の使用バスタオルの数量が、証拠によつてほぼ正確に確定できるので、検察官主張のバスタオルの数量による売上高(本来の売上高、飲料水売上高のほか前記延長料等の諸雑収入を含めた総売上高)の推計は、次の条件を充たせば合理的な方法ということができる。
(イ) 検察官が推計の基礎とした昭和四一年六月一日から昭和四二年二月二八日までの間の売上高(自宅に集金された金額+店舗払経費と自宅払経費の合計額-自宅払経費)が正確であること
(ロ) 売上高を推計する期間である昭和三九年三月一日から昭和四一年五月三一日までの期間におけるバスタオルの使用方法が、右(イ)の期間におけるバスタオルの使用方法と同一であること(これが異る場合には、バスタオルの本数を補正して推計することが必要である。)
(ハ) バスタオルの異常ロスがないこと(これがある場合には、バスタオルの本数を補正して推計することが必要である。)
したがつて、右(イ)の期間における売上高を証拠によつて確定し、さらにバスタオルの使用方法、異常ロス等を考慮して検察官主張の方法によつて推計すれば、ほぼ実額に近い売上高を算出することができるものというべきである。
なお、弁護人は、検察官主張の推計方法が合理的なものといいうるためには、右(イ)(ロ)(ハ)のほかに、(a)特定の店舗あるいは特定の時期における営業成績の良否、(b)担当トルコ嬢と使用バスタオル数との関係、(c)バスタオルの通常ロス等を考慮する必要があると主張する。しかしながら、右(a)については、営業成績の良否は直接使用バスタオル数に反映するものであるから、使用バスタオル数との比例計算によつて売上高を推計する本件においてはこれを考慮することは必要でなく、右(b)については、弁護人主張のとおり、同じ客数であつても担当トルコ嬢の数によつて使用バスタオル数が異つてくるが、証拠上各店舗とも本件全期間を通じて室数が一定であつたと認められること、推計の基礎となつた期間が短期間ではなく昭和四一年六月一日から昭和四二年二月二八日までの九ケ月間であること等を考慮すると、推計の基礎となつた右期間における入浴客数と担当トルコ嬢との比率は他の期間におけるそれとおおむね一致しているものと見るのが相当であるから、本件の推計に当つてはこれも考慮する必要がなく、また右(c)については、バスタオルの通常ロスは全期間を通じて平均的に生じるものと見られるから、これも推計に当つて考慮する必要がなく(バスタオルの異常ロスを考慮すべきことは前記のとおりである。)、結局弁護人主張の右(a)(b)(c)は検察官主張の方法によつて売上高を推計する場合にはいずれも考慮する必要がないものというべきである。
そこで、前記(イ)(ロ)(ハ)の条件を順次検討することとする。
2. 昭和四一年六月一日から昭和四二年二月二八日までの間の売上高(前記(イ))について
右売上高を算出するための要素である(a)自宅に集金された金額、(b)店舗払経費と自宅払経費の合計額、(c)自宅払経費のうち、(b)の店舗払経費と自宅払経費の合計額が検察官主張のとおり(前記金銭出納帳記載の経費額)であることは、被告人、弁護人とも認めて争わないので、(a)の自宅に集金された金額および(c)の自宅経費を検討することとする。
まず自宅に集金された金額を検討する。
前記手帳二冊(前同押号の5の2、5の3)によると、右手帳には各店舗ごとに毎日の売上高の記載がなされているところ、被告人に対する大蔵事務官の質問てん末書(昭和四二年五月一九日)、被告人の検察官に対する供述調書(昭和四三年四月一九日付)によると、被告人は、検察官および検察官に対し、右手帳記載の売上高は、各店舗の売上高(本来の売上高のほか延長料、飲料水売上高等の前記諸雑収入を含む。以下、同じ。)から各店舗払経費を差引いた後の自宅に集金された金額で、いずれも正しい金額である旨供述している。
ところで、弁護人は、右手帳には重複売上あるいは将来の売上が記帳されたりしているので、右手帳の売上金の記載は信用できないと主張する。そこで右手帳を検討すると、なるほど弁護人主張のとおり、各店舗の売上金が重複して記載されていたり、記帳日以後の日の売上金(将来の売上金)が記帳されたりしていることが一応認められる。しかしながら、まず重複記帳の点についてみると、昭和四一年六月三日に金城トルコセンターの同年五月三一日から六月二日までの売上金が二七六、〇一〇円記帳されている一方、さらに六月二日に同店の六月一日から四日までの売上金が一八八、七八〇円記帳され、六月一日、二日の売上金が重複して記帳されたようになつているが、後者の六月一日から四日までの売上金の記載は六月三日、四日の売上金の記載の誤りとみるのが妥当である。なぜなら、五月三一日から六月二日までの三日間の売上金二七六、〇一〇円を平均すると一日約九二、〇〇〇円となり、六月一日から四日までの売上金として記帳されている一八八、七八〇円を一日から四日までの四日間の売上金として計算すると一日平均約四七、〇〇〇円となるが、これを三日、四日の二日間の売上金として計算すると一日平均約九四、〇〇〇円となり、右五月三一日から六月二日までの一日平均の売上金約九二、〇〇〇円とほぼ同額となるからである。同一の店舗で接近した日の一日平均売上高が著しく異るとは考えられないから右一八八、七八〇円は六月一日から四日までの四日間の売上金ではなく、六月三日、四日の二日間の売上金の誤記とみるのが妥当であつて、このことは、右手帳にこのような重複売上の記帳が他にないことからも窺える。次に、将来の売上金の記帳の点についてみると、右手帳には随所にそのような記帳が認められるが、これは被告人が記帳日を記入しないまま売上金の記帳をしたため、その売上金があたかもそれ以前の記帳日に記帳されたかのような形となつてしまつたものにすぎないものと認めるのが相当である。例えば、昭和四一年六月一五日に金城トルコセンターの六月一三日から一五日までの売上金を記帳し、次いで一六日以降にトルコナポリ、トルコジヤスミンの一六日の売上金を記帳しているのにその記帳日を記入しなかつたため、一見、六月一五日に一六日の売上金を記帳したような形となつてしまつたのである。
よつて、手帳の重複記帳、将来の売上金記帳は、単なる誤記ないし記入もれにすぎないものであるから、これをもつて手帳の売上金の記載が信用できないものということはできない。
次に、弁護人および被告人は、手帳記載の売上金の中には富次郎の手持現金(被告人会社設立当時約三億円あつた。)および同人がその後どこからか持つてきた金(年間二、〇〇〇万円ないし二、五〇〇万円)が混入しており、被告人はこれらの金を営業売上金のように見せかけて銀行等に預金していたと主張する。しかしながら、富次郎の手持現金については、被告人が捜査当時供述しているとおり、昭和四一年三月ころにはすでになくなつていたものと認めるのが相当である(富次郎も、検察官に対する供述調書および当公判廷において昭和四一年ころには手持現金がなくなつていた旨供述している。)ので、右手持現金が手帳記載の昭和四一年六月以降の売上金に混入していることはありえないものというべきである。また、富次郎が持つてきたという金については、昭和四一年六月以降昭和四二年二月二八日までの間に同人がいくら持つてきて、そのうちいくらを手帳に記帳したのか証拠上明確でない。むしろ、右手帳には昭和四一年六月一日から昭和四二年二月二八日までの九ケ月間に、売上金および預金の払戻金以外で約一、一〇〇万円の入金が記帳されているのであるから、富次郎が持つてきたという金が真実の売上金に加算されて売上金として右手帳に記帳されているとは到底考えられない。
さらに、弁護人は、右手帳には自宅払経費であることが明らかな重油代、クリーニング代、雇人給与等の一部が記帳されておらず、また銀行等から払戻を受けた二、〇〇〇万円余りの入金も記帳されていないから、右手帳の記載は信用できないと主張する。なるほど、後述のとおり、右手帳には自宅払経費の一部および銀行等から払戻を受けた入金の一部の記載が抜けていることが認められるが、右事実によつて直ちに売上金についての記載までその信用性を失うものとみるのは相当でない。
以上弁護人の主張に対して説示したところに、手帳記載の売上金が真実である旨の前記被告人の査察官および検察官に対する供述および右手帳の記載の形式(売上金が各店舗ごとに、しかも他の収入と区別されていること等)、記帳を始めるにいたつた動機(富次郎から収支を明らかにするよう命じられて記帳を始めた。)、手帳の性質(税務署等外部に呈示するためのものではなく、作成者の備忘録である。)等を総合して考えると、右手帳には、少くとも売上金については真実の金額が記載されているものと認めるのが相当である。
よつて、昭和四一年六月一日から昭和四二年二月二八日までの間に自宅に集金された金額(売上高から店舗払経費を差引いた金額)は、検察官主張のとおり、右手帳に売上金として記載された金額と認めるのが相当である。
そこで次に、自宅払経費を検討する。
検察官は、自宅払経費は右手帳記載の経費のみであると主張する。しかしながら、第四、五、六回各公判調書中証人小林孝子の各供述部分、同人の検察官に対する供述調書、第五回公判調書中証人鵜沢富士子の供述部分、同人の検察官に対する供述調書、第六回公判調書中証人木越クニ子の供述部分、証人尾崎竜雄、同重高義夫、同堀井美興、同渡辺秀男の当公判廷における各供述、佐藤一郎作成の上申書、各店の金銭出納帳(前同押号の4の1ないし4の4、24、25の1、30の1ないし30の3)、前記手帳および被告人の当公判廷における供述によると、右金銭出納帳記載の経費(店舗払経費と自宅払経費の合計額)のうち、従業員給料、クリーニング代、燃料費はすべて自宅払経費であること、しかるに右手帳には右各経費の一部が記帳されていないことが認められる。よつて、右手帳記載の経費が自宅払経費のすべてであるとする検察官の右主張は失当である。
そこで、右各証拠によつて右金銭出納帳記載の経費を自宅払経費と店舗払経費とに区分すると次のとおりである。
(a) 自宅払経費と認められるもの 各店舗の燃料費、従業員給料、クリーニング代、工事代、修理代、接待飲食代、トルコナポリの電話料、家賃、電気代、ガス代、水道料、支払利息、公租公課
(b) 店舗払経費と認められるもの 各店舗の日常の少額支出金、東京トルコセンターの電話代、金城トルコセンターの電気料、電話料、ガス代、水道料、小林孝子に対する給料(家計費)
右(a)(b)の基準にしたがい、右金銭出納帳記載の経費のうち各店舗の自宅払経費を算出すると、別紙五の番号1のとおりである。
以上自宅に集金された金額および自宅払経費を検討した結果に基づいて昭和四一年六月一日から昭和四二年二月二八日までの間のトルコ風呂六店舗の売上高を算出すると、別紙五の番号1のとおりである。
3. バスタオルの使用方法(前記(ロ))について
第四、五、六回各公判調書中証人小林孝子の各供述部分、同人の検察官に対する供述調書、第五回公判調書中証人鵜沢富士子の供述部分、同人の検察官に対する供述調書、第六回公判調書中証人木越クニ子の供述部分、清水せきの検察官に対する供述調書、証人斉藤光英、同大金正男、同富田俊作の当公判廷における各供述、被告人の当公判廷における供述および検察官に対する各供述調書によると、本件各事業年度中における各店舗のバスタオルの使用方法は別紙六のとおりであつたことが認められる。右別紙六によると、トルコジヤスミン、金城トルコセンター、トルコナポリは本件各事業年度を通じて一定したタオルの使用方法をとつていたことが認められるから、右三店舗については検察官主張の推計方法をそのまま採用しても不合理はない。しかし、小岩トルコセンター、東京トルコセンター、晴美トルコセンターについては本件各事業年度の途中においてタオルの使用方法を変更しているから、右三店舗について検察官主張の推計方法をそのまま採用することは不合理である。そこで、右三店舗については別紙七の算式によつて使用バスタオル数を補正することとする。
なお、別紙六のうち二人目以後の入浴客に対する使用バスタオル数が二枚ないし三枚となつているものについては、新たに二枚ないし三枚を追加したのか、あるいは一人目の入浴客に使用したバスタオルをそのまま二人目以後の入浴客にも利用して二枚ないし三枚となつたのか(新たに追加したのは一枚ないし二枚であるのか)、証拠上必ずしも明らかでないので、被告人に有利に解し、新たに二枚ないし三枚を追加したものとしてバスタオル数を補正した。
4. バスタオルの異常ロス(前記(ハ))について
第四、五、六回各公判調書中証人小林孝子の各供述部分、同人の検察官に対する供述調書、証人大金正男および被告人の当公判廷における各供述によると、金城トルコセンターにおいては昭和四〇年三月の開店以来、雨もりあるいは浴漕等からの水もれが激しく、これをふきとるために多量のバスタオルを使用したものと認められるので、同店については右バスタオルの異常ロス分を推計にあたつて考慮する必要がある。しかし、異常にロスしたバスタオルの枚数、期間が証拠上明確でないので、被告人に有利に解し、開店以来昭和四一年五月末日まで、使用バスタオル数の二〇パーセントを異常ロス分として認めることとする。
(三) トルコ風呂六店舗の売上高について(結論)
以上説示した昭和四一年六月一日から昭和四二年二月二八日までの間の売上高を基礎とし、バスタオルの使用方法および異常ロスを考慮して、本件トルコ風呂六店舗の本件各事業年度における売上高を計算すると、別紙三、四、五の各番号1のとおりである。
第四、仕入高経費について
一、弁護人の主張
(一) 昭和四一年二月期
1. トルコナポリの仕入通常経費について
トルコナポリの仕入通常経費は、昭和四〇年一二月から昭和四一年二月までの分は検察官主張のとおりであるが昭和四〇年一一月の開店準備費二九三、五〇三円が次のとおり計上もれになつているので、これを認めるべきである。
(イ) 消耗品費 四三、六二〇円
(ロ) 交通費 二、〇〇〇円
(ハ) 広告宣伝費 三〇、〇〇〇円
(ニ) 交際接待費 三三、九〇三円
(ホ) 家賃 一七〇、〇〇〇円
(ヘ) 消耗器具 八、二五〇円
(ト) 雑費 二、八七〇円
(チ) 通信費 二、八六〇円
計 二九三、五〇三円
2. トルコナポリの減価償却費について
トルコナポリの減価償却費が次のとおり計上もれになつているから、これを認めるべきである。
(イ) 設備 五二、八九五円
(ロ) 什器備品 一二五、四三九円
計 一七八、三三四円
(二) 昭和四二年二月期
1. トルコナポリの減価償却費について
トルコナポリの減価償却費が次のとおり計上もれになつているから、これを認めるべきである。
(イ) 設備 二〇四、〇六八円
(ロ) 什器備品 三九九、四三四円
計 六〇三、五〇二円
2. 被告人会社名義三店舗分の記帳分仕入経費について
被告人会社名義三店舗分の記帳分仕入経費は、検察官主張の一九、三〇八、八八七円ではなく、次のとおり計算違いおよび計上もれがあるから二〇、五二四、八四三円が正当である。
(イ) 計算違い 三一七、七六〇円
(ロ) 未払金 クラウンコーラ 五三、七四〇円
(ハ) 計上もれ 北村商店 八九、一六六円
(ニ) 計上もれ 東海油業 七〇六、一七〇円
(ホ) 〃 岩間伸寿商店 四九、一二〇円
計 一、二一五、九五六円
3. 被告人会社名義三店舗分の減価償却費について
被告人会社名義三店舗分の減価償却費が次のとおり計上もれになつているから、これを認めるべきである。
(イ) 造作 一、五七五円
(ロ) 車輛 九一八、七七二円
(ハ) 設備 一二七、五六三円
(ニ) 什器備品 二〇二、五八〇円
計 一、二五〇、四九〇円
4. 金城トルコの記帳分仕入経費について
金城トルコの記帳分仕入経費は検察官主張の七、四三〇、五七六円ではなく、六、八八五、一〇六円である。
5. 金城トルコの簿外分仕入経費について
小林孝子に対して支給した家計費六〇〇、〇〇〇円が計上もれになつているから、これを金城トルコの簿外分仕入経費として認めるべきである。
6. トルコナポリの記帳分仕入経費について
トルコナポリの記帳分仕入経費は検察官主張の五、二五六、五六六円ではなく、五、三八〇、八二五円である。
7. トルコナポリの簿外分仕入経費について
トルコナポリの次の経費が計上もれになつているから、これを簿外分仕入経費として認めるべきである。
(イ) 大成社 クリーニング代 二七、二九九円
(ロ) 東海油業 重油代 一五八、八〇〇円
計 一八六、〇九九円
8. 喫茶クジヤクの記帳分仕入経費について
喫茶クジヤクの記帳分仕入経費は検察官主張の九九九、二五七円ではなく八一二、〇八七円である。
9. 喫茶クジヤクの簿外分仕入経費について
喫茶クジヤクの次の経費が計上もれになつているから、これを簿外分仕入経費として認めるべきである。
(イ) 家賃 二四〇、〇〇〇円
(ロ) 電気料金 四五、〇〇〇円
計 二八五、〇〇〇円
二、当裁判所の判断
(一) 昭和四一年二月期
1. トルコナポリの仕入通常経費について
(イ)ないし(ト)の消耗品費等は、トルコナポリの金銭出納帳(前同押号の4の2)に、その支出が記載されているから弁護人の主張を認める。しかし(チ)の通信費(一一月分電話料)二、八六〇円は、調査伝票(前同押号の38)によると、検察官も一二月分の電話料二、二〇〇円と合わせてこれを一二月分の通信費として計上しているから、弁護人の主張は認められない。
2. トルコナポリの減価償却費について
トルコナポリの金銭出納帳(前同押号の4の2)、総勘定元帳(同押号の9)によると、弁護人主張の償却資産が、それぞれの主張価額で取得されて事業の用に供されていたことが認められるから、これを認容する。なお、法人税法三一条一項には、預金経理をしていない減価償却費は当該事業年度の損金と認めない旨規定されているが、本件においては、検察官が損金経理をしていない減価償却費を損金と認めているので、これと同性質の弁護人主張の減価償却費も損金として認容すべきである。
(二) 昭和四二年二月期
1. トルコナポリの減価償却費について
右(一)2と同じ理由で、弁護人の主張を全部認める。
2. 被告人会社名義三店舗の記帳分仕入経費について
まず、弁護人が計算違いと主張する三一七、七六〇円についてみると、大蔵事務官作成の調査書(甲(一)36)、金銭出納帳(前同押号の4の3、4の5、24、25の1、25の2)によれば、弁護人は右記帳分仕入経費を算定するに当り、右各金銭出納帳に記帳されている支出経費(現金主義によつて計上)を集計して算出しているところ、検察官はこれを発生主義に修正して算出している。したがつて、検察官は、右各金銭出納帳に記帳されている支出経費のうち前期分経費を除外している。もとより、費用収益対応の原則からすれば検察官主張の方法によつて経費を算定するのが正当であるから弁護人の主張は認められない。
次に、クラウンコーラに対する未払金についてみると、西谷芳盛作成の上申書、大蔵事務官作成の調査書(甲(一)36)、金銭出納帳(前同押号の4の3、24、25の1、25の2)によれば、クラウンコーラに対する未払金は一〇六、五三〇円であつて、この金額については検察官も被告人会社名義三店舗の記帳分仕入経費として認容しているから、弁護人の主張は採用できない。
さらに、弁護人が計上もれであると主張するもの(燃料費)についてみると、佐藤一郎、北村武雄、岩間トシノ作成の各上申書、大蔵事務官作成の調査書(甲(一)36)、金銭出納帳(前同押号の4の3、24、25の1、25の2)によれば、検察官は右燃料費を発生主義に基づいて計上していることが認められるから、弁護人の主張は認められない。
3. 被告人会社名義三店舗分の減価償却費について
金銭出納帳(前同押号の4の3、25の1、25の2)、手帳(同押号の5の2、5の3)、領収証等(同押号の15の1、15の2)によると、弁護人主張の償却資産が、それぞれその主張価額で取得され事業の用に供されていないことが認められるから、これを損金として認容する。
4. 金城トルコの記帳分仕入経費について
金城トルコの記帳分仕入経費について、検察官は七、四三〇、五七六円と主張するのに対し、弁護人は六、八八五、一〇六円と主張するので、その相違額を大蔵事務官作成の調査書(甲(一)36)、総勘定元帳(前同押号の29)、金銭出納帳(同押号の30の1ないし30の3)によつて検討する。
まず、小林孝子に対する家計費六〇〇、〇〇〇円について、検察官はこれを記帳分仕入経費の給料手当として計上しているところ、弁護人はこれを簿外分仕入経費に計上しているので、その額が相違額となつている。しかし、右六〇〇、〇〇〇円は金銭出納帳に記帳されているので、検察官主張のとおり、記帳分仕入経費の給料手当と認めるのが相当である。
次に、弁護人は、昭和四一年五月分の仕入経費について検察官の主張額より六、一六〇円多く主張しているが、これは、同月一一日に支払つた固定資産税第一期分であることが認められる。しかし、税金領収証等(前同押号の7)によると、右固定資産税は、土地所有者である富次郎が負担すべきものであるから弁護人の主張は認められない。
また、弁護人は、昭和四二年一月分につき一、八八〇円、同年二月分につき一、〇六〇円それぞれ多く仕入経費を主張しているが、金銭出納帳を集計検討すると、検察官主張の額が正当であるから弁護人の主張は認められない。
その余の弁護人が検察官主張の額より多く主張している四五、四三〇円は、検察官が燃料費、雑費(クリーニング代)について現金主義を発生主義に修正した結果による相違額と認められるから、この額についても弁護人の主張は認められない。
5. 金城トルコの簿外分仕入経費について
小林孝子に支給した家計費六〇〇、〇〇〇円は、右4で述べたとおり、記帳分仕入経費の給料手当として認容ずみであるから、弁護人の主張は認められない。
6. トルコナポリの記帳分仕入経費について
検察官および弁護人各主張の相違額を大蔵事務官作成の調査書(甲(一)36)、総勘定元帳(前同押号の9)、金銭出納帳(同押号の4の1、4の2)によつて検討する。
まず、弁護人は、賄費を検察官より八〇、〇〇〇円多く主張しているが、これは弁護人が賄費支出金のみを計上し、従業員から徴収した賄費入金八〇、〇〇〇円を計上していないためであると認められる。賄費は、検察官主張のとおり賄費支出金から賄費入金を差引いた額を計上するのが正当であるから、この点に関する弁護人の主張は認められない。
次に、弁護人は、東京相互銀行に支払つた利息一二〇、二八〇円を経費であると主張しているが、被告人に対する大蔵事務官の質問てん末書(乙2)によると、右利息は富次郎個人が負担すべきものであつてトルコナポリの経費とは認められないから、この点についても弁護人の主張は認められない。
なお、このほかの経費について、弁護人は検察官より七六、〇二一円少く主張しているが、このうち七五、四五一円は検察官が仕入、給料、燃料費、雑費(クリーニング代)について現金主義を発生主義に修正したことによるものであり、五七〇円については弁護人の集計違いによるものと認められるので、この点に関する弁護人の主張も認められない。
7. トルコナポリの簿外分仕入経費について
大蔵事務官作成の調査書(甲(一)36)、佐藤一郎作成の上申書、金銭出納帳(前同押号の4の1)、総勘定元帳(同押号の9)によると、検察官は、弁護人主張のクリーニング代および重油代をいずれもトルコナポリの記帳分仕入経費として認容していることが認められるので、弁護人の主張は採用できない。
8. 喫茶クジヤクの記帳分仕入経費について
検察官および弁護人主張の相違額を大蔵事務官作成の調査書(甲(一)36)、金銭出納帳(前同押号の20の1)によつて検討する。
まず、家賃について、検察官は金銭出納帳に支払記帳がなされている昭和四一年一〇月、一一月分の一二〇、〇〇〇円のほかに、未払の同年九月、一二月、昭和四二年一月、二月分の二四〇、〇〇〇円をも合せて計上しているのに対し、弁護人は支払記帳されている一二〇、〇〇〇円のみを計上し、未払金二四〇、〇〇〇円は簿外分仕入経費に計上しているので、その額が相違額となつているが、右未払家賃二四〇、〇〇〇円は弁護人主張のとおり、簿外分仕入経費に計上するのが相当である。
次に、給料について、検察官は金銭出納帳に記帳されている二一五、三四〇円のみを計上しているのに対し、弁護人はそのほかに給料時に差引いた前貸四九、四六〇円をも計上しているので、その額が相違額となつている。そこで金銭出納帳を検討すると、弁護人主張のとおり従業員に前貸した分が給料支払時に差引かれているかどうか判然としないが、毎月の支給給料額等をみると、一応前貸分を給料から差引いているものと認められるので、弁護人のこの点に関する主張を認める。
その他の費目額について弁護人は検察官より三、三七〇円多く主張しているが、金銭出納帳を集計すると、検察官主張の額が正当であるから、弁護人の主張は認められない。
9. 喫茶クジヤクの簿外分仕入経費について
まず、家賃については、右8で述べたとおり、昭和四一年九月、一二月、昭和四二年一月、二月分の未払家賃二四〇、〇〇〇円を、弁護人主張のとおり、簿外分仕入経費として認容する。
次に電気料は、毎月、家賃とともに家主である関東工事株式会社に支払われていたことが金銭出納帳(前同押号の20の1)によつて認められる。しかし、昭和四一年一二月分、昭和四二年一月、二月分は右金銭出納帳に記帳されていないため、検察官はこの分の電気料を計上していないが、この間も喫茶営業をしていたのであるから、当然電気料の支出があつたものと認めるのが相当である。よつて、弁護人主張の月額一五、〇〇〇円を喫茶クジヤクの簿外電気料として認容する。
第五、預金利息および受取配当金について
一、弁護人の主張
検察官主張の預金および出資金の中には、富次郎個人の手持現金(被告人会社設立当時、約三億円あつた。)からの預金ないし出資金が混入している。しかるに、右預金ないし出資金(したがつて、その利息ないし配当金)のうち、どの範囲が被告人会社に帰属し、どの範囲が富次郎個人に帰属するかについて、検察官は何らの立証もしていないから、結局右預金および出資金(利息および配当金)を被告人会社に帰属するものと認めるべきではない。
二、当裁判所の判断
(一) 預金利息について
証人富次郎の当公判廷における供述および同人の検察官に対する供述調書によると、富次郎は、被告人会社設立(昭和三三年三月四日)当時、寿司店を処分して得た現金約三億円を所持していたところ、右三億円はすべて本件各店舗の取得、建設資金(約一億五、〇〇〇万円)および株式や商品取引(約一億五、〇〇〇万円の損失)に使用されたものと認められるので、右約三億円の現金が預金化されたとする弁護人の主張は認められない。
(二) 受取配当金について
信用金庫法によると、信用金庫から借入れをするには、まず借入れをしようとする信用金庫に出資して会員資格を取得しなければならないことになつている(同法一一条、五三条)。ところで、被告人および証人富次郎の当公判廷における各供述によると、富次郎は本件トルコ風呂を開店するに際し、その資金を浅草信用金庫から借入れていたこと、したがつて、検察官主張の受取配当金は、富次郎個人がトルコ風呂用の土地・建物を取得するため浅草信用金庫から借入れをするに際し会員資格を取得するために出資したものに対する配当金と認められるから、右受取配当金は富次郎個人に帰属するものと認めるべきである。
ちなみに、検察官は、富次郎がトルコ風呂用の土地・建物を取得するため浅草信用金庫から借入れた金に対する支払利息を富次郎個人が負担すべきものとして被告人会社の損金と認めていない。
(法令の適用)
第一の事実につき法人税法(昭和四〇年法律第三四号)附則一九条、同法による改正前の法人税法四八条、五一条一項、第二、第三の事実につき各法人税法一五九条、一六四条一項(被告人富田につきいずれも懲役刑を選択)。刑法四五条前段、四七条本文、一〇条、四八条二項(被告人富田につき第三の罪の刑に加重)。同法二五条一項(主文2)。刑訴法一八一条一項本文(主文3)。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 松本昭徳)
別紙一 修正損益計算書
自 昭和41年3月1日
至 昭和42年2月28日
<省略>
別紙二 税額計算書
株式会社こけし本店
<省略>
別紙三 修正逋脱所得の内容
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<省略>
別紙四 修正逋脱所得の内容
昭和41年2月期
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<省略>
別紙五 修正逋脱所得の内容
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別紙六 タオルの使用方法
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別紙七 使用タオル数の補正算式
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