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東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)137号 判決 1970年2月23日

原告 高芝利徳

被告 大蔵大臣

主文

被告が原告に対し昭和四三年七月一七日付でした公認会計士名簿の登録抹消処分を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、次のように述べた。すなわち、

一  原告は、昭和二六年一〇月二五日公認会計士名簿に登録され、爾来更新の登録を受け、公認会計士としてその業務を行なつてきたものであるが、被告は、栗田工業株式会社が証券取引法一一八条の規定により被告に提出した同社の昭和三八年三月期(第一五事業年度)から昭和四二年三月期(第二三事業年度)まで前後九期にわたる上場有価証券報告書の財務書類に粉飾経理の事実があり、原告がその事実を知悉しながら右書類に適正証明をしたことを理由として公認会計士法三〇条一項の規定に基づき、原告に対し、昭和四三年七月一七日付で公認会計士名簿の登録抹消の懲戒処分を行ない、翌一八日その旨を通知してきた。

二  しかし、右懲戒処分は、以下述べる理由によつて違法である。

(一)  原告は、栗田工業の粉飾決算についてその責任を痛感するとともに、公認会計士の業務が自分の性格にあわないものと考え、昭和四二年一二月二一日ころから再三にわたり主務官庁に対して廃業の意向を表明し、昭和四三年二月一日以来事実上業務を廃止し、同年七月一三日、日本公認会計士協会に廃業の届出をなし、同届は、即日受理された。

したがつて、原告は、遅くとも右廃業届の受理された昭和四三年七月一三日をもつて公認会計士たる身分を喪失していたのであるから、その後になされた右懲戒処分はその対象を欠き、効力を生ずるに由ないものというべきである。

もつとも、(1)日本公認会計士協会は、原告の廃業届を受理した後、被告より原告を登録抹消の懲戒処分に付した旨の通知を受けたところから、同月二二日、右懲戒処分を理由として同月一七日付で原告の登録を抹消するとともに、懲戒処分による登録の抹消がなされたので、廃業による登録の抹消はできない旨の同協会登録審査会の審査決定がなされたという理由で、右廃業届の書類を原告に返戻してきた事実はある。しかし、登録の抹消は、身分喪失のための要件ではなくして単なる身分喪失の事実を公証する行為にすぎず、また、日本公認会計士協会に公認会計士の廃業届について形式的審査権が与えられているにとどまり、実質的審査をしたり政策的考慮によつてこれを返戻するがごとき権限は認められていないのであるから、原告の廃業届が前叙のごとくその形式において欠けるところはないものとして受理された以上、それによつて登録の抹消がなされたと否とにかかわらず、身分喪失の効果が生じ、また、一旦発生した右の効果は、事後に該届が返戻されたことによつて何らの消長をもきたすものではないというべきである。

被告は、弁護士法六三条の規定を論拠として、前記廃業届が出された当時すでに原告は懲戒の手続に付されていたのであるから、右届はその効力を生ずるに余地のないものであると主張する。そして原告が昭和四三年六月四日被告から懲戒手続としての諮問を受けたことは、認める。しかし、弁護士法六三条の規定は、弁護士の使命および義務の特殊性にかんがみ、また、弁護士会が弁護士の品位の保持と事務の改善進歩を図ることを目的とする弁護士の自主的団体であるところより、弁護士会がその自律権に基づき所属弁護士に対して行なう懲戒処分を実効あらしめ、延いては弁護士の倫理を高揚せしめんとする配慮から、特に設けられたものであるので、この規定を弁護士とはその使命、職務を異にする公認会計士に対して、しかも主務大臣がその監督権限に基づいて行なう懲戒処分についてまで類推適用することは、到底、許されないものといわなければならない。

(二)  原告は、栗田工業が昭和三六年その株式を売買取引のために上場してから引き続き、公認会計士村中俊一とともに、概してその副として、同社の財務書類の監査、証明をなし、昭和三八年九月期以降の決算諸表に一部粉飾経理の事実があることを知るようになつたが、栗田工業がもともと綜合水処理の機械を製造する時代の脚光を浴びた成長産業であり、会社幹部において倒産を防止するために献身的な努力をしており、また、その最大の取引先でかつ大株主でもある伊藤忠商事株式会社が全責任をもつて栗田工業の建直しに当ると言明していたので、原告としても、しばらく事態の推移を静観しているのが、かえつて、会社の再建を容易にし、約一〇〇億円にも及ぶ会社債権者や二、〇〇〇余名にのぼる従業員を救う途であると考え会社に対して粉飾経理の是正方を強く勧告するにとどめ、不適正意見の表明は差し控えてきたのであり、昭和四二年一二月三〇日伊藤忠が現実に再建に乗り出し、銀行債務のほとんどすべてを保証した事実を確認したうえで、同社の意見も徴して、不適正意見の表明に踏み切つたが、栗田工業は、整理、更生の手続によることなく、また、株式の取引停止や上場廃止を受けることもなく、昭和四三年二月には七億八、五〇〇万円の増資をし、再建の一途をたどつて今日に及んでいる。

ところで、被告は、原告が栗田工業の昭和三八年三月期から昭和四二年三月期にいたるまで前後九期の長きにわたり、しかも、その財務書類に売掛金、仕掛品等の資産の過大計上、買掛金、前受金等の負債勘定における過少計上、各勘定科目間の相殺又は両建表示の虚偽記載等資本金の三倍に近い粉飾経理の事実があることを認識しながら敢えて適正証明をしたものと認定して、本件懲戒処分を行なうにいたつたのであるが、右期間における会社のいわゆる粉飾額は、別紙第一表記載のとおりであり、そのうち、原告が純粋な意味において粉飾経理といいうる経理の記載内容の虚偽であることを認識していたのは、同第二表記載の項目についてであつて、その金額も正味資本金の三割弱にすぎず、同第三表記載の項目は、粉飾経理とは関係がなく経理の実体は存在しているが、その処理の方法につき会計学上疑問があつて再検討を要するいわゆる疑問額に係るものであつて、この種の項目については、主務官庁の担当係官においても監査意見を記載すべきではないとの見解を有しており、現に、原告は、その指導の下に昭和四二年九月期の最終監査報告書を作成した次第である。

それ故、本件懲戒処分は、右のごとく原告の認識額について重大な事実誤認の違法をおかしたものであつて、この点においてすでに取消しを免かれないばかりでなく、原告の認識額を基礎としてこれをみた場合においても、前叙のごとく、原告がその財務書類に虚偽の証明をせざるをえなかつた特殊事情やそれによつて公益並びに一般投資家に対して与えた実害の程度を考慮し、また過去の懲戒事例と比較し、原告が弁護士を兼業し、しかもそれを主たる業務としていたのに、本件懲戒処分を受けたことによつて法律上当然に弁護士の登録も取り消されて(弁護士法一七条一号、六条三号参照)生業のすべてが奪われる結果となることに思いをいたせば、本件懲戒処分は、被告に与えられた裁量権の範囲を逸脱し、権利の濫用にわたるものというべきである。

以上いずれの点においても、本件懲戒処分は、違法であるのでその取消しを求める。

と述べた。

被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中、本件懲戒処分が行なわれた当時原告がすでに公認会計士の身分を喪失していたこと、栗田工業の財務書類の監査、証明につき原告が単に副次的な役割を果したにすぎないこと、被告が本件懲戒処分を行なうにあたり原告の粉飾経理認識額の点について重大な事実誤認の違法をおかしたことは、いずれも否認、同社が昭和四三年以降再建の一途をたどつていることは、不知、その余の主張事実は、すべて認める、なお、原告の法律上の主張は、争う、と述べ、

(一)  およそ、公認会計士は、たとえその業務を廃止したとしても、登録の抹消がなされない限り、その身分を保有しているものというべきである。けだし、(イ)公認会計士法が公認会計士の身分の取得を登録にかからしめていることに対比すれば、その身分の喪失もまた、登録の抹消を法定条件としているものと解するのが自然である。もとより、登録の抹消は、単なる公証行為にすぎず、身分そのものを失わしめる行為ではないが、そのことと登録の抹消を身分喪失の法定条件と解することとは、何ら矛盾するものではない。また、最高裁判所昭和四二年九月二七日大法廷判決(民集二一巻七号一九五五頁)が、公認会計士名簿の登録の抹消と同様の性質を有する弁護士名簿の登録の取消しについて、弁護士が登録の取消しをまつまでもなく当該事由の発生によつて当然身分喪失の効果が生ずる場合として、弁護士法一七条一号および三号の事由を挙げるにとどまり、同条二号の「弁護士が登録の取消しを請求したとき」なる事由を特に除外しているのは、弁護士が登録の取消しを請求したときは、登録の取消しによつてはじめてその身分を失なうという趣旨に出たものと解すべきである。(ロ)若し原告主張のように、公認会計士がその業務を廃止さえすれば、これによつて当然身分喪失の効果が生ずるものとすれば、法四条五号が登録抹消の懲戒処分を受けた公認会計士はその処分の日から三年間公認会計士となることができないと規定しているにもかかわらず、懲戒処分を受けることの必至な公認会計士は、自発的に業務を廃止することによつて容易に右の規定を潜脱することができるという不都合な結果を招来することとなる。したがつて、仮りに公認会計士の身分喪失が登録の抹消を法定条件とするとの右の見解が採りえないとしても、少なくとも、弁護士法六三条の規定の類推解釈によつて、公認会計士についても、懲戒の手続に付された者はその手続が終了するにいたるまで廃業の届出をなしえないものと解するのが相当であり、原告は同年六月四日懲戒手続として聴問を受け、廃業届出当時、まだその手続が終了していなかつたのであるから、当該廃業届によつてその身分を喪失していなかつたというべきである。

(二)  栗田工業は、大阪に本店を東京に支店をおく、資本金一〇億二、〇〇〇万円(昭和四二年九月期末現在)の会社であるが、別紙第四表記載のごとく、昭和三五年六月期から昭和四二年九月期まで前後一四期にわたり、主として、(イ)架空の売上げを計上し、売掛金を過大に計上したり、値引契約のある売上げの一部について値引の処理を行なわず、その未計上分を売掛金勘定で過大に記載すること、(ロ)赤字の工事につき工事完成後も売上高の計上を繰り延べ、当該工事に係る損失を計上せず、その結果、売掛金勘定を過少に、仕掛品勘定を過大に記載すること、(ハ)売上原価の一部を計上せず、その未計上分を製品および仕掛品勘定で過大に記載すること、(二)粉飾経理が発見されるのを恐れて、過大に計上された売掛金、製品、仕掛品等の勘定を実在の支払手形、前受金の勘定等で相殺する方法によつて、粉飾経理を行ない、その金額は、資本金の三倍にも達した。そして、右の事実が昭和四二年一二月一九日栗田工業および伊藤忠によつて大蔵省に報告されるとともに東京、大阪の証券取引所にも連絡され、また、新聞紙上に掲載されるにいたつたので、日本公認会計士協会の懲戒委員会は、この事実を正式にとりあげ、昭和四三年二月二九日被告に懲戒処分の請求をしてきた。そこで、被告は、本人を聴問し、職員をして関係書類を調査させる等の方法によつて審理を遂げ、公認会計士審査会の意見を聞いたうえで、同年七月一七日をもつて原告を懲戒処分に付したのであるが、その理由の要旨は、左のとおりであつて、原告主張のごとき違法はない。すなわち、

(1)  原告は、最初栗田工業の東京支店の財務書類を監査するにとどまつていたが、昭和三八年三月期の監査意見決定の際、大阪本店の監査を担当していた公認会計士村中俊一より粉飾経由の事実を知らされてからは、大阪本店についても村中と共同して監査を実施し、虚偽の証明をしてきたものである。

(2)  原告は、会社の再建を図り、利害関係人を救うために不適正意見の表明を差し控えざるをえなかつたように主張するが、およそ、公認会計士たるものは、会社の経理を批判し、その意見を公表することによつて会社債権者および投資家ひいては社会一般の利益を擁護する職責を有するものであるから、単に被監査会社の都合や将来の経営見透し等を考慮して事実に反する意見の表明をなすがごときことは、許されないところである。殊に、山陽特殊鋼等の著名企業が相次いで倒産してからは、被告において粉飾決算の一掃に乗り出し、昭和四一年五月一九日証券局長名をもつて、同年三月期以降は虚偽証明を行なわないよう、また、同年九月期までに会社をして粉飾経理を是正させるよう厳重注意するとともに、監査意見の決定にあたり会社との見解の不一致等判断を困難ならしめる事態が生じた場合には、日本公認会計士協会および大蔵省証券局において必要な援助と対策を講ずる用意がある旨を念達していたにもかかわらず、原告は、前記村中とともに、会社の懇請に負けて徒らに粉飾経理の事実に目をつむりり、虚偽の証明を行なうことを改めなかつたのである。

(3)  財務書類は、被監査会社が作成するものであるから、いかに専門家であるとはいえ、公認会計士において発見しえない不正や誤認のあることはいなめないところであつて、法もかような点についての保証まで公認会計士に求めているわけではなく、法が要求しているのは、財務書類が当該会社の財政状態と経営成績を表明するものであるかどうかについての公認会計士の適正な判断そのものである。したがつて、公認会計士が監査の証明をなすにあたり現に認識した粉飾経理の額の多寡のごときは、問題でなく、また、ここにいう粉飾経理とは、財務書類における虚偽記載のすべてを指すものであつて、企業会計の原則に違反する処理のごときもこれに含まれるものと解すべきであるから、原告は、その認識額の如何にかかわらず、栗田工業の財務書類に資本金の三倍にも近い多額の粉飾経理のあることについて疑問をいだきながら敢えて、適正意見を表明してきた点において、その責任を免かれないものといわなければならない。

(4)  前叙のごとく、山陽特殊鋼等の著名企業の倒産を契機として公認会計士の監査の仕方やその責任等がにわかに世間の批判を受けるようになつたので、被告は、昭和四〇年九月三〇日および昭和四一年五月一九日の二回にわたり、日本公認会計士協会長に対して虚偽証明絶滅方の行政指導を行ない、爾今違反者に対しては厳正な態度をもつて臨む旨を周知徹底させていたのであり、本件懲戒処分は、原告が昭和四一年三月期から昭和四二年三月期まで引続き二六億円にも達する粉飾決算に虚偽の証明をしたことを重視して行なつたのである。したがつて、原告が本件懲戒処分を過去の懲戒処分例と比較すること自体、当をえないものといわざるをえない。

(5)  また、原告は、本件懲戒処分が重きに失する理由の一つとして、原告が本件懲戒処分を受けたことによつて弁護士の登録も取り消されるにいたることを挙示しているが、本件懲戒処分が原告をしてその弁護士資格を喪失せしめることを目的として行なわれたものでないことは明らかであり、また、公認会計士として登録抹消に値する懲戒事由があるのに、たまたまその者が弁護士資格も有している故をもつて、その処分を軽減しなければならない合理的理由も存在しないのであるから、原告の右の主張もまた、失当たるを免かれない

と述べた。

(証拠省略)

理由

原告は、昭和二六年一〇月二五日公認会計士名簿に登録され、爾来更新の登録を受け、公認会計士としてその業務を行なつてきたものであるが、栗田工業の被告に提出した昭和三八年三月期から昭和四二年三月期まで前後九期にわたる上場有価証券報告書の財務書類に、原告が虚偽の証明をしたところから、昭和四三年六月四日被告の聴問を受けるようになつたので、同年七月一三日、日本公認会計士協会に廃業の届出をなし、該届は、即日受理されたこと、しかるに、被告は、同月一七日付で原告に対して公認会計士名簿の登録抹消の懲戒処分を行ない、日本公認会計士協会も、同月二二日右懲戒処分を理由として原告の登録を抹消するとともに、懲戒処分による登録の抹消がなされたので廃業による登録の抹消はできない旨の同協会登録審査会の審査決定がなされたとの理由によつて、右廃業届の書類を原告に返戻したこと、いずれも、当事者間に争いがない。

そこで、原告が右廃業届によつて公認会計士たる身分を喪失したかどうかについて判断することとする。

およそ、公認会計士は、自己の自由意思に基づき独立してその業務を営むものであるから、法律に別段の規定がない限り、自らその業務を廃止することにより、かつ、そのときから、公認会計士の身分を失うものと解すべきである。

ところで、公認会計士法一七条は、公認会計士となる資格を有するものであつても、公認会計士名簿の登録を受けなければ、公認会計士となることができないと規定しているが、同条は、公認会計士の職務の重要性と主務官庁の監督上の必要から、特にその身分の取得につき登録を法定条件としたものであるので、この規定を根拠として、かかる必要の認められない廃業についてまで同様の結論を導き出すことは、許されないものというべきである。また、同法二一条には、公認会計士がその業務を廃止したときは、死亡したとき、又は登録抹消の懲戒処分を受ける等法四条所定の欠格事由の生じたときと同様に、日本公認会計士協会は、公認会計士名簿登録の抹消をしなければならない旨規定している。しかし、もともと、名簿登録の抹消は、名簿の登録によつて取得した身分を失わしめる行為そのものではなく、他の事由によつて身分の喪失があつた場合において、その者の職務の重要性にかんがみ、身分喪失の事実を公に証明して一般に紛議の余地なからしめんとするものである(最高裁判所昭和四二年九月二七日大法廷判決、民集二一巻七号一九五五頁参照)から、同条は、公認会計士名簿の登録に関する日本公認会計士協会の事後処理について登録を抹消すべき場合を明示するとともに、その抹消は、公証行為としての性質上、身分喪失の事由が確定した後になすべき旨を規定したにすぎないものと解すべきであつて、この規定から、公認会計士の身分の喪失が登録の抹消によつて生ずるとか、登録の抹消されるまでは身分喪失の効力が生じないとなすことは許されないものというべきである。この点について、被告は、前記大法廷判決が、公認会計士の名簿登録の抹消と類似の性質を有する弁護士名簿の登録の取消しについて、「法(弁護士法)一七条一号、三号等の場合における弁護士名簿の登録の取消」が公証行為である旨を判示しているのをとらえて、同判決は弁護士法七条二号の弁護士が登録取消しの請求をした場合を特に除外したものであると理解し、そのことを前提として、公認会計士が業務を廃止した場合には、名簿登録の抹消が行なわれるのでなければ身分喪失の効力が発生しないと主張するのであるが、右判決は、弁護士に対する懲戒処分の効力発生時期についての判断を示したものであつて、もとより弁護士の登録取消しの効力発生の要件又はその時期について判示したものではなく、しかも、判文にも明らかに「等」と記載されていることからみて、被告のごとく特に二号の場合を除外する趣旨に出たものとは解されないので、被告の右主張は、右の前提そのものにおいてすでに失当たるを免かれないといわなければならない。

被告は、さらに、若し公認会計士がその業務を廃止することのみによつて身分喪失の効果が生ずるものとすれば、懲戒処分を受けることの必至な公認会計士は、自発的に廃業することによつて、登録抹消の懲戒処分を受けた公認会計士は当該処分の日から三年間公認会計士となることができないこととした法四条五号の規定を容易に潜脱することができるという不都合な結果を招来するにいたるので、仮りに公認会計士の身分喪失が名簿登録の抹消を法定条件とするものではないとしても、少なくとも、弁護士法六三条の規定を類推解釈することによつて、公認会計士についても、懲戒の手続に付せられた者はその手続が終了するまで廃業の届出をなしえないものと解するのが相当であり、原告の前記廃業届は、その効力を生ずるに由ないものであると主張する。しかし、憲法二二条の保障する職業選択の自由には廃業の自由が含まれるものと解すべきであるから、廃業の自由は、公共の福祉のために設けられた法律の規定をもつてするのでなければ、これを制限することが許されないというべきところ、公認会計士法には、弁護士法三六条のごとき明文の規定がなく、また、弁護士法三六条は、原告主張のごとく、弁護士の使命および職務の特殊性にかんがみ、また、弁護士会が弁護士の品位の保持と事務の改善進歩を図ることを目的とする弁護士の自主的団体であるところより、弁護士会がその自律権に基づき所属弁護士に対して行なう懲戒処分を実効あらしめ、延いては弁護士の倫理を高揚せしめんとする配慮から、特に設けられた規定であるので、この規定を、弁護士とはその使命、職務を異にする公認会計士に対して、しかも、主務大臣がその監督権限に基づいて行なう懲戒処分についてまで類推適用することは、到底、許されないものといわなければならない。もとより、かように解すれば、被告主張のごとき不都合な結果が生ずるとしても、所詮、それは、法の不備によるものであつて、かかる法の不備をおぎなうために、単なる政策的な配慮のみに基づき基本的人権を制限することは、法解釈の域を逸脱するものであること疑いを容れないところである。

なお、公認会計士の廃業届は、それが形式の点において欠けるところがないものとして日本公認会計士協会によつて受理されると、届としての効力を生じ、別段の規定のない公認会計士法の下においては、その後にいたり廃業届の書類が返戻されても、そのことによつて一旦発生した右の効力に消長をきたすものではない。

されば、原告は、遅くとも、前記廃業届が日本公認会計士協会によつて受理された昭和四三年七月一三日公認会計士たる身分を喪失したものであるから、その後に行なわれたこと冒頭掲記の当事者間に争いのない事実に照らして明らかな本件懲戒処分は、その効力を生ずるに由ないものであり、本件懲戒処分の取消しを求める原告の請求は、その余の争点についての判断をまつまでもなく、理由があるものというべきである。

よつて、原告の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡部吉隆 渡辺昭 斎藤清実)

(別紙)<省略>

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