東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)50号 判決 1971年6月29日
東京都練馬区北町一丁目二四番一六号
原告
内田良吉
右訴訟代理人弁護士
高澤正治
薮下紀一
東京都練馬区栄町二三番地
被告
練馬税務署長 井上緑郎
右指定代理人
野崎慎宏
石塚重夫
片山雅準
大塚守男
川合弘
右当事者間の所得税更正処分取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の申立て
(原告)
「被告が原告に対し昭和四〇年一月二一日付でした原告の昭和三七年分所得税更正処分のうち確定申告額を超える部分及び過少申申告加算税の賦課決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
(被告)
主文と同旨の判決
第二、原告の請求原因
原告は、昭和三七年分所得税について不動産所得金額八万四、〇〇〇円、給与所得金額七二万円、課税標準八〇万四、〇〇〇円、税額六万一、九六〇円と確定申告したところ、被告は、原告が昭和三七年一二月七日別紙目録記載(一)及び(二)の土地を代金九〇〇万円で古沢留作に、同年一二月二〇日同目録記載(三)の土地を喜多哲郎にそれぞれ売り渡したとして、昭和四〇年一月二一日付で課税標準を三六九万六、〇〇〇円、税額を一〇二万五、五六〇円と更正し、あわせて、過少申告加算税四万八、一五〇円の賦課決定をした。
しかし、前記(三)の土地につき昭和三七年一二月二〇日売買を原因として原告から喜多哲郎に対する所有権移転登記がなされているのは、原告と吉野吉次郎との間に、昭和三七年一一月二六日、原告が吉野の主張する原告に対する債権九四〇万円の成否が確定するまで、右債権を保全するため、該土地の所有名義を原告の代理人たる喜多に移したうえで、これに四四〇万円の限度で上木正勝を抵当権者とする抵当権を設定する旨の合意が成立したので、同合意に基づき原告が上木に関係書類を渡したところ、上木は、無断で、原告所有名義のまま古沢に抵当権設定登記をして同人より金を借り受けた後、前叙のごとく、喜多に対して売買を原因とする所有権移転登記をしたのである。したがつて、原告が真実喜多に対して右土地を売却したことのないのはもとより、これによつて何等の対価も受けていないことは明らかであるから、前記課税処分は、違法として取り消すべきである。
なお、原告が前叙のごとく(一)及び(二)の土地を譲渡したこと、また、その譲渡所得の課税標準が被告主張のとおりであることは認める。
第三、被告の答弁
原告主張の請求原因事実のうち、原告が別紙目録記載(三)の土地を他に売却したことがない点は否認するが、その余の主張事実は認める。
仮りに、右土地についての売買が認められないとしても、原告は、同土地を昭和二〇年二月二四日家督相続によつて取得したのであるから、所得税法(昭和四〇年法律第三三号による改正前のもの)五条の二の規定により、その相続の時においてその時の価額で譲渡があつたものとして課税を免がれない。そればかりでなく、別紙目録記載(一)及び(二)の土地の譲渡所得の課税標準は、四一四万九、八四〇円であるので、総譲渡所得の課税標準を右の範囲内たる二八九万二、〇〇〇円と認定してなされた本件更正処分は、その適法性を失わない。
第四、証拠関係
(原告)
甲第一号証の一ないし三、第二ないし第四号証を提出し、証人喜多哲郎の証言及び原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立は認める。
(被告)
乙第一ないし、第三号証、第四号証の一ないし三、第五、第六号証の各一、二を提出し、甲号各証の成立は認める。
理由
本件更正処分のなされるに至つた経緯、なかんずく、原告が昭和三七年中に別紙目録記載(一)及び(二)の土地を代金九〇〇万円で他に譲渡したこと、そして、右の課税標準が四一四万九、八四〇円であることは、当事者間に争いがなく、また、本件更正処分における総譲渡所得の課税標準が二八九万二、〇〇〇円であることは、計数上明らかである。されば、原告がその主張のごとく真実同目録記載(三)の土地を他に譲渡した事実がないとしても、本件更正処分は、その適法性を失わないこととなるので、原告の本訴請求は、それ自体理由がないものとして棄却を免がれないものというべきである。
よつて、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 渡辺吉隆 裁判官 渡辺昭 裁判官 竹田穣)
(別紙)
目録
(一) 東京都練馬区北町一丁目三九六番ノ一
一、宅地 五〇坪(一六五・二八平方メートル)
(二) 同所同番ノ二
一、宅地 一〇二坪(三三七・一九平方メートル)
(三) 同所同番ノ三
一、宅地 一〇〇坪(三三〇・五七平方メートル)