東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)98号 判決 1974年7月29日
原告 久保俊治
被告 国 外一名
訴訟代理人 増山宏 外二名
主文
原告の請求はいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 <省略>
理由
一 懲戒の成立
原告は、昭和二〇年一一月に都城郵便局事務員に採用され、昭和二六年八月に郵政事務官に任用されたものであるが、右採用時以来同郵便局郵便課内務職に勤務して、被告国の経営する郵政事業の職員として従事していたところ、被告九州郵政局長(昭和四七年七月一日政令二六一号による名称改正前の熊本郵政局長)は、管内普通郵便局所属の主事以下の職員(非常勤勤務職員を除く。)の免職及び停職の処分につき委任にもとづく懲戒権を有する者として、昭和四三年一月一三日に原告に対し「懲戒処分として免職する。」旨の同日付辞令を交付した。
右は当事者間に争いがない。
二 懲戒の事由
1 滞留郵袋の処理作業の妨害等
(一) 非違事実
<証拠省略>をあわせると、次のとおり認めることができる。
全逓都北支部が昭和三四年一一月頃都城郵便局において年末闘争を開始して超過勤務の協定拒否の戦術を実施した(このことは当事者間に争いがない。)ことなどにより同年一二月五日には約三五〇郵袋もの小包郵便物が滞留するにいたつた。同日は日曜日であつたが、同郵便局長有馬隆、郵便課長永岡茂治及び同課長代理久保重雄は午前七時半頃に出勤して、同局中庭の臨時仮設局舎(バラツク造り平家建一八坪)内において井上信夫、佐野永太郎ら六名の非常勤職員を指揮し、右滞留郵袋約三五〇を郵便課事務室から搬入してその開袋作業に従事していた。全逓都北支部は同日支部長である原告のほか、永野一満、豊丸貞光ら約六名の執行委員が同局舎二階の組合事務所に集まつてその闘争戦術を練つていたのであるが、午前九時半頃有馬局長及び久保田課長代理のほか非常勤職員全員が開袋作業の途中休息をとるのをみて、原告は右永野ら約六名の者とともに仮設局舎内につかつか入つてきて、右開袋中の滞留郵便物は排送にいたるまで別途で非常勤職員に処理させ、常勤職員は右処理に一切あたらせないものとする組合要求について有馬局長と押問答をかさねたが、同局長の言質が得られないことに業を煮やし、ついに右井上ら非常勤職員六名の者を仮設局舎から退去させることにより有馬局長以下がもくろんだ同日の開袋作業を停廃させようと企て、右永野とともに交交「仮設局舎から出ろ。」と右井上ら非常勤職員に命じた。そこで有馬局長及び久保田課長代理はそれぞれ「出ないでよろしい。」といつて右井上ら六名の非常勤職員の出て行きかけそうなのを制止した。原告は右制止にあつていよいよ憤激し、久保田課長代理に対して「局長がいうのはわかるが、お前は管理者でもないくせに、そういうのはけしからん。貴様のぼせあがるな。」などと険しい剣幕で詰め寄り、同課長代理もついに「暴力はいけませんよ。」と語気鋭くいつて、原告の激昂ぶりを先制的に窘める一幕もあつたが、さらに一転して、原告は有馬局長に対し「久保田課長代理を仮設局舎の中にいれて仕事をさせるならば、ピケを張つてでも非常勤職員の就労を阻止する。」旨を申し向けて凄んだ。しかし、当時の都城局郵便課における滞留郵便物の整理状況のもとでは、仮設局舎内において久保田課長代理を立ち入りさせないで滞留郵便物の開袋等の整理作業をする場合の不便及び能率低下は同作業に従事すべき非常勤職員六名全員の就労が原告ら組合員のピケによつて阻止される場合の損失には到底かえられない窮況にあることから、同局長は涙を呑んで原告の右脅迫に屈し、同課長代理を仮設局舎内に立ち入りさせないで右整理作業を続行することとした。かように認められ、<証拠省略>の結果中右認定に反する部分はたやすく措信しがたく、ほかに反対の証拠もない。
原告は、仮設局舎内における滞留郵便物の開袋等の処理については、同年一二月四日に同局永岡郵便課長と都北支部松永執行委員間において非常勤職員のみで開袋等の処理作業一切をおこない常勤職員たる組合員にはやらないこととする取り決めがあつたにもかかわらず、約束違反の事態が発生したので、原告ら数名の組合執行委員が有馬局長に対し右取り決めの再確認を求めたまでのことであると主張し、<証拠省略>及び原告の本人尋問の結果中には右主張にそう供述部分があるけれども、<証拠省略>にてらして右供述部分は信用することができないし、ほかに原告の右主張事実を認めるだけの証拠はみあたらない。かえつて<証拠省略>及び弁論の全趣旨をあわせると、年末繁忙季とはいつてもまだ早い一二月五日現在で、しかも郵便課職員六〇名(内務職及び外務職それぞれ約三〇名)程度の都城局で小包郵便物の滞留でも約三五〇郵袋にのぼるという事態がきわめて異常であつたが、この異常事態の原因として、全逓の超勤協定拒否闘争もさることながら、全逓のいわゆる郵便物の棚上げ、非常勤職員の業務指導拒否、管理者吊し上げ等の闘争戦術の駆使によつて、服務表及び勤務指定表どおりの勤務すら正常に運営されないことが大いに預かつていたので、永岡郵便課長は同年一二月四日にたまたま都北支部松永執行委員と会つた際同人に対し「郵便課事務室にこれだけ、郵袋が溜つているから、本務者だけでやるのは無理である。非常勤者を大いに出すから、これを指導して滞留物の処理にあつてほしい。」旨を告げて組合の出方をうかがつたところ、やはり非常勤職員の業務指導はいつさい拒否するという組合の戦術にのつとつて、同人が「指導はしない。」というので、「それでは小包郵便物の滞留郵袋を仮設局舎に移して、管理者側で非常勤職員を指揮してやる。」旨を伝え、これに対し同人が「それは官の勝手である。」と応えて、両者間の話合いはそれだけにとどまり、仮設局舎内における滞留郵袋の処理についてなんらかの取り決めないし約束が交わされるにいたらなかつたことが認められる。そして、原告の主張するように、仮に永岡郵便課長と松永執行委員間においてそのような取り決めがあつたとしても、同郵便課において分掌する職務の執行は右のような取り決めによつて規制されるべきものではないから、はたして右取り決めに従つた職務執行がおこなわれているかどうかについて、組合がこれを点検し、再確認を求めるが如き挙に出る余地もまたありえない。原告の右主張自体理由のないものであり、したがつて、仮設局舎内に立ち入つてした原告及び永野ら組合役員の前記行為は組合の正当な行為たりえないものというべきである。
(二) 懲戒事由該当性
(1) 有馬局長らに対する執務妨害
有馬局長以下九名の職員がバラツク造り平家建一八坪の面積しかない仮設局舎内において約三五〇にのぼる滞留郵袋を搬入してその開袋作業を進めているところへ原告及び永野らの組合役員約八名がつかつかはいつてきたこと自体有馬局長以下九名の右執務を妨害するものというべきであり、さらに、有馬局長に対して組合要求をもちだして押問答をかさねたこと、井上ら六名の非常勤職員に対してその職場である仮設局舎からの退去を要求したこと、久保田課長代理に対して罵詈を浴びせたこと、有馬局長に対して同課長代理の排除(仮設局舎から)を強要しこれを実現させたこと、その一として執務妨害ならざるものはないというべきである。
(2) 久保田課長代理に対する侮辱
原告及び永野の退去要求に腰を浮かした井上ら六名の非常勤職員をその場で久保田課長代理が制止して落ち着かせた措置は、右退去要求が組合の正当な行為でありえない以上、管理者ならずとも職員の当然の職責に属するというべきである。そして<証拠省略>によれば、久保田課長代理は本来同局郵便課計画主事の職にあるところ、昭和三三年六月一日に課長代理を命ぜられ、昭和三四年四月一五日付をもつて公共企業体等労働関係法(以下「公労法」という。)四条二項の規定にもとづく告示により労働組合法二条一号に規定する使用者の利益者たる課長代理に指定されたことが認められるから、久保田課長代理は同郵便課内務職にある原告にとつては直属の上司にほかならない。
そうすると、原告が久保田課長代理の右措置に立腹すること自体すでに筋違いであるし、しかもそのような立腹に激発されて直属上司の同課長代理に対し「お前はけしからん。」「貴様のぼせあがるな。」などと罵詈を浴びせたことは同課長代理に対する侮辱としてその非違性軽からずといわなければならない。
(3) 有馬局長に対する強要
有馬局長は都城局の所属局長として永岡郵政課長及び久保田課長代理に対し特に週休日勤務を命じて前記滞留郵便物の開袋作業の職務を執行させていたのであるから、右職務執行につき久保田課長代理をその指揮下においていたのであり、また、同課長代理は公労法四条二項の規定にもとづく告示により労働組合法二条一号に規定する使用者の利益代表者に指定された非組合員であるから、全逓都北支部外においてこれに対応する当局側の管理監督の地位にある者の範囲に属するのである。したがつて同課長代理の右職務執行については、都北支部ないし原告及び永野ら組合員がこれに容喙する余地はもとよりないし、勿論その執務の停廃をもたらす措置を要求するが如きはいかなる意味においても組合の正当な行為としては解されないものというべきである。ところが、原告は、同課長代理が右職務執行として仮設局舎内において滞留郵袋の整理作業を指導していた際、同人を同所から排除する措置をとるべきことを有馬局長に要求し、しかもその要求実現のために脅迫を加えたのである。原告の同局長に対する右職務強要の非違性は顕著であるといわなければならない。
右(一)の非違行為については、以上述べたとおりであり、原告は、当日が日曜日で勤務に服していなかつたのであるが、しかし職場である仮設局舎において有馬局長らの職員に対し執務を妨害し、侮辱を加え、強要を冒したことにより、公務員関係における秩序を著しく紊したというべきであるから、右は国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合(国公法八二条三号に規定する懲戒事由)に該当するというべきである。
2 久保田課長代理に対する暴行
(一) 非違事実
前記1(一)の冒頭に掲げる証拠資料によれば、原告は前同日(昭和三四年一二月六日)の午前一一時半頃、都北支部執行委員豊丸貞光から久保田課長代理が有馬局長及び原告間の取り決めに反してまたも仮設局舎内に入つて非常勤職員の執務を指導していたという報らせを聞いて、ただちに永野一満、安楽長信ら同執行委員約七名の者とともに郵便課事務室に赴き、折柄執務中の久保田課長代理を取り囲んで、仮設局舎内に同課長代理を入れさせないこととした取り決めに違反して同人が同所に立ち入つたことについて詰問し、かつ誹議したあげく、右執行委員らに向つて「職場から出そう。」と呼び掛けるなり、原告及び永野が同課長代理の両脇からそれぞれ腕を掴まえ、他の組合役員らが同課長代理の脚部を捉えるなどして、同人を仰向けに抱え上げ、そのまま一団となつて同事務室から逓送発着室を経て局舎外中庭まで約二四メートルの間を運び出し、その場に同人を仰向けのまま置いて立ち去つたことが認められ、<証拠省略>中右認定に反する部分は採用しがたく、ほかに反対の証拠はない。
(二) 懲戒事由該当性
仮設局舎内において久保田課長代理を入れさせないで開袋作業を進めることとした有馬局長及び原告(都北支部長)間の取り決めはもとより取り決め当事者を拘束する効力をもちえないものであるし、右取り決めに違背して、同課長代理が仮設局舎内に入つて非常勤職員の執務を指導したからといつて、原告が都北支部長として同課長代理を問責しうる地位にあるとはいえないから、原告の同課長代理に対する前記詰問自体組合の正当な行為たりえないものというべきである。そのうえ、原告ら組合役員大勢で同課長代理をその執務中の職場において取り囲み、仰向けに抱え上げて局舎外中庭に放り出したのであるが、これは支部長たる原告以下組合役員が暴力団まがいの集団暴行を地で行つたものであり、しかも同課長代理が原告の直属の上司なのであるから、職場の秩序を紊すも甚しいものというべきである。なお原告による右集団暴行に遭つて同課長代理が受けた屈辱感の程は推測に難くない。したがつて、原告の右非違行為は国公法八二条三号の懲戒事由に該当するものと解すべきである。
3 福留局長代理に対する暴行傷害
(一) 非違事実
<証拠省略>をあわせると、福留秀秋はいわゆる特定局である山田郵便局(改称前の谷頭郵便局)において局長東丸円吉が胸部疾患により昭和三四年五月頃から長期療養をするようになつていらいその局長代理職の遂行上対組合関係の苦労が多く、同年一二月二日頃全逓都北支部谷頭局分会長溝下から「局長代理としての資格がないから潔く辞任せよ。」との同分会決議文を手交されていたところ、原告は、同年一二月八日午後五時頃同郵便局において、同分会員たる同局職員溝下、田中、福重ら約十数名の者とともに福留局長代理が事務机に向つているところを取り囲み、同人1に対して「服務表、勤務指定表の作成をとりあげてみても、あなたは局長代理の資格がない。ひとつ事務員になりなさがつてもらおう。」という趣旨の要求をもつて同人の局長代理職の辞任を求めて、その目前に用紙と筆具を差し出し、右辞任について「確認書を書いてもらおう。」といつて、しきりに一札認めるように仕向けたが、同人に対する組合の支部長の右要求は筋違いであることからこれに応ずべきでないとして、同人がひたすら黙して語らざる態度を持しながらもついにひと言「郵便事業のためにどこまでもやるつもりである。」というや、同人に対して「皆に聞えるようにもう一度大声で言つてみろ。」といつていきりたち、「お前のような者は追放させてやる。」などと怒鳴りながら、二、三回足で床を烈しく踏み鳴らして同人に追つたが、同人が終始俯向いて沈黙する態度を変えようとしないので、ついに業を煮やして同人の下頭をひき起すなりその口角辺を右手で突き、その胸倉を左手で掴むなどして、同人に対して加療一週間を要する擦過打撲傷をその上下口唇及び歯齦部に与えたことが認められる。原告の本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信しがたく、反対の証拠はさらにない。
(二) 懲戒事由該当性
原告の谷頭郵便局ゆきの動機は、福留局長代理が諸諸の協約及び規定に疎く、その局長代理としての職務を十分に果しえなかつたことから、谷頭分会員の労働条件が悪化して不満が募つていたので、同局長代理の反省を求めるにあつたと原告は主張するけれども、いうところの反省を求めるための具体的行為は明らかにされていない。仮に福留局長代理がその職務を十分に遂行し得ないために局長代理職はその任に非ずとして辞任する場合においても、それは同局長代理の本人の意思に由るか、又は上局の人事行政上の措置に俟つべきものであつて、組合が同局長代理に対してその辞任意思の表明を組合に対してなすべきことを要求することは到底組合の正当な行為たりえないというべきである。まして右要求に際し暴行に及んで傷害を与えたのであるから、組合活動に名を藉りた原告の跳上りもここにいたつては言語道断というほかはない。原告の右非違行為は国公法八二条三号に該当する。
4 昭和四〇年春闘の日南郵便局における実施
(一) 非違事実
<証拠省略>並びに弁論の全趣旨を総合する、次のとおり認めることができる。
総評は昭和四〇年の春期闘争においては大幅賃上げ、ILO条約批准、スト権奪還を中心に据えて強力なストライキ体制をもつて臨むことを決定して同年三月一七日を統一ストライキ日と設定した。これをうけて公労協拡大闘争委員会は権利を中心とする春闘第一波実力行使として最低一時間の時限ストライキを実施することを決定し、全逓中央執行委員会は公労協の右決定を確認して積極的に右時限ストライキを実施する方針をたて、これにもとづいて全国の闘争拠点局所において当日午前八時三〇分から同九時三〇分までの一時間ストライキをおこなう旨の三月八日付指令第二〇号(準備指令)を出し、宮崎県においては日南郵便局が右ストライキの拠点として指定された。そこで被告九州郵政局長は同年三月一日に全逓九州地方本部に対し、同年三月一二日に同宮崎地区本部に対しそれぞれ全逓が準備した三月一七日の一時間ストライキ計画を中止するよう強く申し入れ、かさねて三月一六日に右地方本部及び地区本部に対しそれぞれ右ストライキ計画の中止を強く申し入れるとともに、もし右ストライキを強行した場合においてはその責任者、指導者及び参加者に対し公労法一七条の規定にもとづいて厳正な処分をもつて臨む旨を警告し、また日南郵便局長山口秋季は三月一六日に全逓宮崎県南支部長宮下泉及び同支部日南局分会長舛元宏康に対して同旨の申入れ及び警告を発した。しかし、全逓は三月一五日付指令第二一号(突入指令)を発してその計画に係る三月一七日の一時間ストライキへの突入を指示し、宮崎県下の拠点たる日南局においても当局の再三に及び右申入れ及び警告を無視して計画の時限ストライキを実施した。原告は、右ストライキ実施に際し、全逓宮崎地区本部執行委員として宇賀村精介(副委員長)ともに日南局に派遣され、同人並びに同拠点に全逓九州地方本部執行委員として派遣された樗木武雄及び大石泰雄と共媒のうえ、三月一六日午後五時半頃同局分会員たる職員を近辺の貯木場に集合させ、右樗木が一席ぶつなどしてストライキ決行を次の日に控えた同分会員の士気昂揚に努め、三月一七日午前七時半頃から同九時半頃にかけて日南市岩崎通所在日南子旅館をストライキ参加者の集合場にして同局職員河野正ほか三三名を集合させ、右集合によつて同職員らに同日午前八時三〇分から同九時二六分までの五六分間(ただし、一名につき四一分間)の職場離脱による欠務をさせたのであるが、右欠務により同局の業務の正常な運営が阻害された。かように認められ、反対の証拠はさらにない。したがつて、原告は同局職員のストライキによる右欠務を共媒し、そそのかし、もしくはあおつたものとして、公労法一七条一項後段の禁止規定に違反するにいたつたといわなければならない。
(二) 懲戒事由該当性
右(一)の認定事実によれば、反対の事情のないかぎり、原告は全逓宮崎地区本部執行委員として被告九州郵政局長の同地区本部に対する三月一一日付及び三月一六日付の各申入書及び警告書による職務上の命令を諒知していたとみるべきであるから、右(一)の非違行為により、同被告の右職務上の命令に従わなかつたものというべきである。すなわち右非違事実は国公法八二条一号に規定する懲戒事由に該当する。
そうすると、本件懲戒免職処分については、右1から4までにみたとおり、各懲戒事由が存するといわなければならない。
三 懲戒の効力
1 原告は懲戒権の濫用を主張する。
原告が前記非違事実(二、2及び3)につき公訴を提起され、暴行及び傷害の罪につき罰金一万円の刑が確定したこと(昭和四二年一一月二五日上告棄却)、これに伴い、原告が昭和三五年一月二八日に起訴休職処分に付され、昭和四二年一二月一日に復職したことは当事者間に争いがないところ、本件免職処分は、右の刑事罰並びに約八年間に及ぶ休職処分に追討ちをかける過酷な制裁であると原告は主張するけれども、右の刑事罰にかかる犯罪事実並びに休職処分にかかる公訴事実は、本件懲戒事由たる非違事実(前記二、1から4まで)の一部(同2及び3)と相蔽う関係にあるにとどまるし、また、その相重なる関係の事実についても、刑事罰及び休職処分が科せられたことから当然に懲戒処分が控制されもしくは酌量軽減されるべき筋合のものではないから、右刑事罰及び休職処分に続いて本件懲戒免職処分がおこなわれたことをもつてただちに過酷な仕打ちというのはあたらない。さらに、原告は、本件非違事実(前記二4)においてストライキを指導した理由によりその最高責任者である全逓九州地方本部執行員樗木武雄が停職一月の懲戒処分を受けたのに比較して、右ストライキ実施の補助行為と僅か罰金一万円に処せられた程度の暴行傷害との非違事実により原告が懲戒免職処分に付せられることは、著しく均衡を失し、かつ、必要な限度を超えたものとして違法たるを免れないと主張する。しかしながら、原告の本件非違行為の原因、動機、態様、状況、結果等はまえに認定したとおりである。既往の懲戒処分歴として(このことは当事者間に争いがない。)宮崎県高崎郵便局において勤務時間内職場大会の開催を指導したかどにより昭和三四年四月六日に戒告処分を受けてその将来を戒められており、さらに<証拠省略>によれば、前記二、3の非違行為の翌日(一二月九日)においても、原告は勤務時間中であるにもかかわらずほしいままにその持場を離れて会議室に赴き、折柄同室において永岡郵便課長が十数名の非常勤職員を指揮して滞留小包郵便の配達のための道順組立作業に従事させていたところ、非常勤職員の右作業を力ずくで阻止し、同課長から非常勤者の排送作業を妨害してはならない旨をいわれるや、原告直属の課長である同人に対して「官が非常勤者によつて排送するのは闘争の切崩しだ。これに対しては力をもつて阻止する。」と昂然と抗らい、さらに同課長が「暴力的行為はよしなさい。」と命ずるや、「何が暴力か」といいながら同人の肩先を数回小突いて約六メートル廊下を押しやり、ついに右のような緊迫した状況のもとで非常勤職員の排送作業を殆んど一日に及んで妨害したことが認められ、右に述べたような諸事情に、本件懲戒事由にもとづき選択する処分が他の職員及び社会に与える影響等諸般の事情を総合して考えると、懲戒免職処分の選択にあたつては特別に慎重な配慮を要することを考量しても、なお被告九州郵政局長が原告に対して本件所為につき免職処分を相当とした判断が合理性を欠くものと断ずるわけにはいかないというのほかはなく、本件懲戒免職処分は裁量の範囲を超えた違法なものとすることはできない。原告の右主張は理由がない。
2 原告は不当労働行為を主張する。
原告が全逓都北支部において書記長、執行委員を経て昭和三二年六月から支部長の地位にあり、その後全逓宮崎地区本部執行委員をも兼ねていたことは当事者間に争いがないところ、本件免職処分は、長年に亘つて全逓の組合役員として活発に職場闘争を続けてきた原告に対し、その八年間にも及ぶ休職からようやく復職した矢先、原告の職場復帰を阻止するためにおこなわれた不利益取扱いであると、原告は主張する。しかしながら、本件免職処分の原因たる懲戒事由該当の非違行為の存在並びに免職処分の相当性についてはすでに述べたとおりであるから、本件免職処分についていわゆる不当労働行為の成立する余地は存しないというべきである。原告の右主張も採用しがたい。
以上によれば、本件懲戒免職処分は、その効力を是認すべきであるから、原告は昭和四三年一月一三日をもつて郵政事業職員たる地位を喪失したといわなければならない。
四 結び
すでに説示したところによれば、原告の被告国及び九州郵政局長に対するそれぞれ本件免職処分の無効及び違法を前提とする本訴請求はいずれも理由のないことが明らかであるから、これを失当として棄却すべきである。よつて、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 中川幹郎 仙田富士夫 大喜多啓光)