大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(むのイ)831号 決定 1969年5月19日

被告人 長谷川耕二

決  定

(住居、被告人氏名略)

右の者に対する建物侵入、兇器準備集合、公務執行妨害被告(被疑)事件について、昭和四四年一月二二日東京地方裁判所裁判官がした勾留の裁判に対し、被告人から準抗告の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一、本件準抗告の申立の趣旨および理由は、被告人作成の昭和四四年五月八日付「準抗告の申立」と題する書面記載のとおりであるから、これを引用する。

二、当裁判所の判断

(一)  本件申立の理由の骨子は、東京地方裁判所裁判官が昭和四四年一月二二日にした勾留の裁判は、被告人(被疑者)に刑訴法六〇条一項一号、二号、三号に定める理由がないのにも拘わらず、右各号にあたるとしてなされたものであるから違法であるというのである。

一件記録によれば、被告人の勾留については次のような経過が認められる。すなわち、被告人(被疑者)に対しては、検察官の請求に基き、同日、建造物侵入、兇器準備集合、公務執行妨害、傷害および放火の被疑罪名の下に刑訴法六〇条一項一号、二号、三号の理由があるとして勾留状が発付され、その後一〇日間の勾留期間延長の裁判を経て、同年二月一〇日右被疑罪名のうち傷害および放火を除くその余の罪名の事実につき、身柄拘束のまま起訴され、次いで、同年四月一日付の同法六〇条一項二号(同法八九条四号)、三号を理由とする勾留期間更新決定に基き、同月一〇日より、更に同年同月三〇日付の同法六〇条一項二号(前同)を理由とする勾留期間更新決定に基き、同年五月一〇日より、それぞれ勾留期間が更新され、現在に至るまで勾留が継続している。

(二) そこで、以上の経過に鑑み、先づ本件当初の勾留状発付に対し、現在において準抗告の申立が許されるかどうかを検討する。

いうまでもなく、被告人の現時点における勾留は、もとより右一月二二日に有効適式に発付された勾留状に基いて継続しているのであるから、この有効要件に影響を及ぼすような瑕疵があるときは、その勾留を継続することは許されないことはいうまでもない(本件申立においては、このような瑕疵があることの主張はなく、また、一件記録に照らしても、このような瑕疵は見当らない。)。

ところで、本件申立において問題とする勾留の理由やいわゆる必要性などの実質的要件の有無の判断は、その性質上当然に、当該判断時点における諸事情を資料にしてなされる予測判断であり、しかも、捜査から公判へと訴訟手続の推移にしたがい異つた観点の下になされるのである。本件不服の対象たる勾留の裁判においては、その展望として被告人が起訴されたのちのことを考慮にいれながらも、当面は、勾留の期間も延長を含めて最大限二〇日間という前提で、捜査中における逃亡の防止、罪証隠滅の防止という観点を中心とし、勾留および必要性の有無を判断しているのに反し、起訴後の勾留となつている本件勾留を維持すべき実質的要件があるかどうかは、専ら裁判所の審判の必要という観点から判断さるべきものである(昭和四二年八月三一日最高裁判所第一小法廷決定、刑集二一巻七号八九〇頁参照)。してみると、起訴前の勾留の実質的な理由の有無は、起訴後の勾留の効力に直ちに影響を及ぼすものではなく、本件のように、捜査時に検察官の請求に基きなされた勾留の裁判について、その実質的要件を欠くとの理由で準抗告の申立をなすことは、すでに起訴後の勾留となり、再度勾留期間更新された今日ではもはやその利益がないというべきである(なお、現在における勾留の継続が理由のないものであることを主張するために、法は勾留取消請求の途を被告人と弁護人に対してのみならず被告人の一定範囲の親族等に対しても与えているのである)。

三、以上の次第で、本件申立は、いわゆる上訴の利益を欠く不適法なものといわなければならないから、その実体的な主張につき判断するまでもなく到底棄却を免れず、刑訴法四三二条、四二六条一項に従い主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例