東京地方裁判所 昭和44年(モ)1553号 判決
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〔判決理由〕前認定のように、本件仮処分申請は、口頭弁論により審理され、債権者たる被申立人は、被保全権利として専ら占有権のみを主張し(賃貸借契約の成立、存続は占有の本権に関するもので、被保全権利そのものではない)、裁判所もまた占有権の存否および占有侵奪の有無について審理のうえ、本件仮処分判決をなしたものであるところ、右仮処分の本案たる占有回収等の訴は擬制取下となつた結果、出訴期間の経過により被申立人は本件土地についてもはや占有訴権を行使しえなくなつたわけであるから(仮処分の本質上、本件仮処分執行の存否は右結論を左右しない)、かかる場合には、民事訴訟法七四七条にいう「事情変更」に当ると解すべきである。
被申立人は、前記賃借権確認等の訴は、本件仮処分における被保全権利たる占有権と、請求の基礎において同一であるから、本件仮処分の本案訴訟たりうるもので、右訴が係属中である以上、被保全権利は終局的に否定されたものとはいえず、事情変更に当らない旨主張する。
しかし、右賃借権確認等の訴が本件仮処分の本案訴訟たりうることを肯定するとしても、そのことから直ちに、本件の場合、事情変更に当らないとはいえない。けだし、本件のように、仮処分の被保全権利に関する本来の本案訴訟を維持もせず、取下げとみなされた上、もはや右訴を提起しえない事態に至つても(本案の終局判決後の取下げと同視しうる)、なおそれと請求の基礎を同一にする別訴が係属中であるとの一事により、仮処分の存続を認めることは、仮処分の浮動的状態の除去をはかり、債務者の劣位を補わんとする民事訴訟法七四七条の趣旨に沿わないと考えられるからである。この結論は、本件の場合、仮処分債権者たる被申立人としては、あらためてその主張する賃借権に基づき、仮処分に及べば足り、それに伴う不利益と、他方本件仮処分訴訟においては、審理判断を経なかつた、被申立人主張の賃貸借契約解除の無効を理由とする賃借権の存在を被保全権利とする新たな仮処分、ないしその執行への流用を承認させられる仮処分債務者たる申立人の不利益を比較衡量することによつても是認されよう。(かかる場合には、事情変更による取消申立の審理において、新たな被保全権利の存否について審理、判断すべしとの考え方もありえようが、右民事訴訟法七四七条の趣旨に照し疑問であるばかりでなく、本件の場合、被申立人主張の賃貸借契約解除の無効については何らの疎明もない。)
保全処分申請において一個の被保全権利のみを主張し、それについて仮処分がなされた場合にも請求の基礎を同一にする他の請求権も右仮処分によつて保全されるとする見解も存するが、右見解は、口頭弁論を経ない保全処分についてはともかく、本件のように、口頭弁論を経てなされた仮処分判決の場合、債権者において何等主張されておらず、裁判所の審理判断の対象とならなかつた他の請求権について、保全処分の流用を認めることの理論的難点を一層露呈するものとして(仮処分の緊急性のみでは説明し難い)、にわかに賛成できない。(吉川正昭)