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東京地方裁判所 昭和44年(レ)199号 判決 1970年1月21日

控訴人 小沢敏彦

被控訴人 青山一郎 外一名

主文

原判決を取消す。

本件訴をいずれも却下する。

控訴人の当審におけるあらたな訴を却下する。

訴訟費用は一、二審を通じて控訴人の負担とする。

事実

一、控訴人は次のとおりの判決を求めた。

1、原判決を取消す。

2、被控訴人小林ミツは、申立人共立殖産株式会社相手方小林ミツ間の東京簡易裁判所昭和三八年(ノ)第一二〇号貸金請求調停事件において、昭和三八年七月一五日申立人共立殖産株式会社との間に和解が成立したこと並びに右当事者間において貸金の債権が存在しないことを確認せよ。

3、被控訴人小林ミツは、被控訴人青山一郎との間に東京法務局芝出張所昭和三一年三月二六日受付第三二二五号をもつて根抵当権設定登記を、また東京法務局芝出張所昭和三一年三月二六日受付第三二二六号をもつて所有権移転請求権保全仮登記をそれぞれ抹消せよ。

4、被控訴人青山一郎は、東京簡易裁判所昭和三八年(ノ)第一二〇号貸金調停事件において、訴外共立殖産株式会社と被控訴人小林ミツ、訴外原野和雄、訴外荒磯美矢子等間に示談が成立した、即ち被控訴人小林ミツについては昭和三八年七月一五日債務を履行することによつて、また訴外原野和雄、訴外荒磯美矢子については昭和三八年六月二六日債務を履行したことを承諾せよ。

5、被控訴人青山一郎は昭和四〇年五月一八日東京法務局芝出張所受付第七二四〇号をもつてなした二番仮登記の停止条件付所有権移転請求権保全仮登記ならびに昭和四〇年五月一八日受付第七二四一号一番根抵当権移転付記登記ならびに昭和四〇年五月一八日受付第七二四二号をもつてなした二番賃借権設定請求権保全付記仮登記をそれぞれ抹消せよ。

6、控訴費用は被控訴人らの負担とする。

二、控訴人は請求の原因として、次に付加する他、原判決に添付された別紙のうち請求の理由記載のとおり述べたので、ここにこれを引用する。

1、控訴人と被控訴人青山一郎、同小林ミツとの間には、原判決に別紙として添付された物件目録記載の建物(以下本件建物という)の権利関係について争いがある。すなわち、被控訴人青山一郎は、被控訴人小林ミツ、訴外原野和雄、同荒磯美矢子らが貸金を完済しなかつたから本件建物についての停止条件付代物弁済の条件が成就したと主張して訴を提起し、右訴訟は現在東京高等裁判所民事第九部に係属中である。従つて控訴の趣旨各項記載の事項の確認を求める利益がある。

2、被控訴人小林ミツ、訴外原野和雄、同荒磯美矢子らは、既に述べたとおり、訴外共立殖産株式会社に対する債務を弁済したのであるから、その際当然本件建物についてなした仮登記を抹消すべきであるにもかかわらず、被控訴人小林ミツの代理人斉藤富雄は訴外共立殖産株式会社の代理人樋渡源蔵から附記の仮登記をするに必要な白紙委任状その他印鑑証明などの書類をだましとり、昭和四〇年五月一八日被控訴人青山一郎名義で勝手に付記登記をなした。

理由

一、職権をもつて調査するに、本件訴訟記録によれば、第一審裁判所は昭和四四年五月三〇日本件訴訟を受付け、同年七月一六日第一回口頭弁論期日に原判決を言渡したことが認められる。しかしながら本件全訴訟記録によつても本件訴状(および原判決)が被控訴人に対して送達されたことは認められない。

従つて、第一審裁判所は本件訴状を被控訴人(原審被告)に送達することなく原判決を言渡したものと認める外はない。ところで、被告に対する訴状の送達を命じた民事訴訟法二二九条の規定は、同法二〇二条によつて訴却下の判決をなす場合であつても適用があるものと解すべきであるから、右に認定したとおり被控訴人(原審被告)に対して訴状を送達することなく原判決を言渡した原審の訴訟手続には法令違反があり、かつこの違反は重大なものと言わなければならない。そして右法令違反について被控訴人らが責問権を放棄したことも認められないから、民事訴訟法三八六条によつて原判決は取消されるべきものである。

二、ところで、民事訴訟法三八八条の趣旨は、第一審裁判所が訴を不適法として却下した場合には、一審においては請求の当否については審理されていないのが通常であるから、原判決の判断を誤りとして取消した当該控訴審において請求の当否についての審理を行なうとすると、当事者の審級の利益を奪うことになるので、そのような不都合を生じないように第一審裁判所へ差戻すことを義務づけたものと解される。従つて訴を不適法として却下した第一審判決の訴訟手続に法令違反があつてこれを控訴審において取消した場合、更に調査の結果、原判決の理由としたところは正当であり、訴は依然として不適法であるとの結論に達したときは、請求の当否についての判断をなすため、さらに弁論をなさしめる必要はないから、必ずしも事件を第一審裁判所へ差戻さなければならないものではなく、控訴裁判所はみずから訴却下の判決をすることができるものと解するのが相当である。

そこでさらに調査するに、

1、控訴人が当審において求める裁判のうち、第2項および第4項が適法なものであるかどうかについての当裁判所の判断は、次に付加、訂正、削除する他は原判決の理由中一、二の判断と同一であるから、ここにこれを引用する。

(一)、原判決第二丁表三行目、「必要不可決」とあるのを「必要不可欠」と訂正する。

(二)、原判決第三丁表一行目ないし四行目の( )内の文章を( )とともに削除する。

(三)、原判決第四丁表二行目の「本来であれば」から同七行目の「明らかである。」までを削除し、その箇所に「請求原因第七項の記載に照らせば、たとえこのことを裁判所が確認したとしても、それは原告と被告青山との間の別紙目録記載の建物に関する権利関係の解決には何ら資するところなく、他に右確認を求めることが原告の法的地位の不安や危険を解消するのに有効適切な手段であるとする事情は認められない。」と付加する。

2、次に控訴人が控訴状をもつて追加した訴のうち、被控訴人小林ミツに対する登記抹消請求の訴の適否について判断する。

右訴の請求の趣旨は必ずしも明確ではないが、被控訴人小林ミツは控訴人に対して、本件建物について東京法務局芝出張所昭和三一年三月二六日受付第三、二二五号根抵当権設定登記、同出張所右同日受付第三、二二六号所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をなせとの趣旨であるものと解することができる。

そこで控訴人の右訴について見るに、控訴の趣旨、請求原因一、および当審で付加された主張二、によれば、右訴は控訴人が本件建物の所有権に基いて、被控訴人小林に対し抹消登記手続を求めるものであるところ、その登記はそれぞれ被控訴人小林が登記義務者であつたものでいずれも訴外共立殖産株式会社が権利者として表示されている根抵当権設定登記および所有権移転請求権保全の仮登記であり、更に右各登記について被控訴人青山一郎に権利移転の付記登記がなされているというのである。

そして、根抵当権設定登記、あるいは所有権移転請求権保全の仮登記の抹消登記手続を求める場合当該登記について権利移転の付記登記がなされているときの登記義務者は、当該登記の設定登記時の名義人もしくはその付記登記の名義人であり(その双方が登記義務者たり得るか後者のみが登記義務者であるかについては説のわかれるところであるが)、いずれにせよ、それ以外の者は所有権に基づく抹消登記請求にあつては登記義務者となり得ないのである。すなわち、控訴人の右主張のような法律関係(請求原因)からは被控訴人小林が右各登記の抹消登記手続の給付義務者たり得ないことは明らかであり、同人には控訴人の右請求について、被告適格がないものと言わなければならない。従つて控訴人の右訴は、被告適格のない者を被告とした不適法なものである。

3、次に控訴人が控訴状をもつて追加した訴のうち、被控訴人青山一郎に対する登記抹消請求の訴の適否について判断する。

右訴の請求の趣旨は必ずしも明確ではないが控訴人の主張を総合すれば被控訴人青山一郎は控訴人に対して本件建物について東京法務局芝出張所昭和四〇年五月一八日受付第七二四〇号、二番所有権移転請求権保全仮登記の移転付記登記、同出張所同日受付第七二四一号、一番根抵当権設定登記の移転付記登記、同出張所同日受付第七二四二号、二番賃借権設定請求権保全仮登記の移転付記登記について、それぞれ抹消登記手続をなせとの趣旨であるものと解することができる。

職権をもつて調査するに、控訴人は原告訴外小沢恒彦、被告青山一郎間の当庁昭和四〇年(ワ)第一〇、三一二号建物収去土地明渡請求事件に当庁昭和四二年(ワ)第四、二二九号事件によつて権利承継による訴訟参加をなし、右事件被告青山一郎に対して、本件において青山に対して抹消を求めている登記と同一の登記の抹消登記手続を請求し、右事件は現在当庁民事第一二部に係属中であることが認められる。従つて控訴人の本件訴は民事訴訟法二三一条に抵触する不適法なものである。

三、よつて一、に判断したところにより原判決を取消し、更に二の1において判断したとおり、控訴人の従前からの請求は不適法であり、また控訴人の本件追加的訴の変更も、これを許すことによつて被控訴人の審級の利益を奪うものでもないので、二2および3のとおりの理由で各訴をすべて不適法なものとして、いずれも却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺忠之 山本和敏 西田美昭)

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