東京地方裁判所 昭和44年(ワ)10310号 判決
原告 村井五陸
右訴訟代理人弁護士 畑良武
右同 浅岡省吾
被告 東武鉄道株式会社
右代表者代表取締役 根津嘉一郎
右訴訟代理人弁護士 加藤真
主文
一 原告の請求はいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、別紙権利目録記載の権利を移転しその旨柏市に通知せよ。
2 被告は原告に対し金一、〇五〇万円を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 2につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告は被告に対し、昭和三四年四月一日、原告所有の別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)を賃貸期間一〇年の約定で賃貸し、右賃貸借期間は昭和四四年四月一日満了した。
(二) 訴外柏市は、昭和四七年三月四日、柏駅東口地区市街地再開発事業に伴い同市のなした権利変換処分によって、原告にかわり本件土地の所有者となった。
(三) 被告は柏市より、右同日、当時原、被告間で被告の本件土地賃借権の存否につき本訴が係属中であったため都市再開発法七三条四項に基づき被告が本件土地について借地権を有するものとして請求の趣旨1記載の権利(以下本件権利という)を与えられた。
(四) 然し、前記のとおり被告は本件土地について当時借地権を有していなかったから、本件権利は本来原告が受くべきであり、被告は右権利を原告の損失において不当に利得したというべきである。
2(一) 被告は、昭和四四年四月二日から昭和四七年三月四日まで何らの権原なしに、本件土地を占有使用した。
(二) 本件土地の賃料相当の損害金は一ヶ月金三〇万円である。
3 よって原告は被告に対し、不当利得返還請求権に基づき本件権利の移転および柏市に対するその旨の通知を求めるとともに、昭和四四年四月二日から昭和四七年三月一日までの間被告が本件土地を不法に占有したことによって原告の被った一ヶ月金三〇万円の割合による損害金合計金一、〇五〇万円の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の(一)(二)(三)の事実はすべて認めるが、同(四)の事実は否認する。
2 請求原因2の事実のうち、(一)は本件土地の占有使用の点のみを認め、(二)は否認する。
三 抗弁
請求原因1の(一)記載の本件土地賃貸借契約(以下本件借地契約という)は、被告の自動車営業のための事務所・乗客待合所兼車庫用建物の所有を目的とするものであるから本件借地契約上の賃貸期間一〇年の定は借地法一一条によって無効であり、その存続期間は同法二条一項の定めるところにより昭和三四年四月一日から同六四年三月三一日までである。
なお本件土地はもと訴外成島甚三郎の所有に属し、昭和九年四月ころ同人から訴外栄自動車株式会社が建物所有を主たる目的として賃借し、爾来本件土地賃借人の地位は昭和一〇年訴外総武自動車株式会社に、同一一年訴外総武鉄道株式会社に、次いで同一九年三月被告にと順次承継され、一方昭和二八年四月四日原告が本件土地を右成島から買い受けたことによって賃貸人の地位を承継し、その後原告から地代増額要求を受けた機会に従前の契約関係を明確にする趣旨で本件借地契約が締結されたものであって、右契約締結当時既に被告は本件土地上に建坪約二四坪の自動車営業用の事務所・乗客待合所兼車庫用建物を所有していた。
四 抗弁に対する認否
本件借地契約締結に至る経緯および被告が本件土地上に建坪約二〇坪の工作物を所有することは認めるが、その余は否認する。右工作物は、前面の全部と側面の一部が全く開放され、北側一角を簡単に囲い切符売場に使用しているトタン覆いの簡易な木造工作物で、待合客が風雨を避けるための簡易天蓋にすぎず、倒底借地法一条所定の建物に当らない。仮に右工作物が同条所定の建物に当るとしても、約八〇坪の本件土地の奥地に属する約二〇坪部分上に存するにすぎないから、右工作物の所有は付帯的目的にとどまり、主たる目的とはいえない。
第三証拠≪省略≫
理由
請求原因1の(一)の事実については当事者間に争いがないので被告の抗弁について判断する。
本件土地がもと訴外成島甚三郎の所有であり、昭和九年四月ころ、同人から訴外栄自動車株式会社が賃借し、その後、本件土地賃借人の地位は昭和一〇年訴外総武自動車株式会社に、同一一年訴外総武鉄道株式会社に、そして昭和一九年三月被告にと順次承継され、一方昭和二八年四月四日原告が本件土地を右成島から買い受けたことによって賃貸人の地位を承継したものであることは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫によれば、昭和三〇年頃から原、被告間で本件土地の賃料値上げ交渉が続き昭和三四年四月一日その妥結に伴い本件借地契約が締結されるに至ったものであることが認められる。
本件借地契約成立に至る右の経過に鑑みれば本件借地契約は賃料額改訂の点を除いてそれまで継続してきた原、被告間の本件土地賃貸借関係を確認したにすぎないものと認められ、従って本件借地契約の締結は昭和三四年四月一日当時(以下本件契約時という。)における被告の本件土地の利用状態を前提にし、その維持確認を図る趣旨に出たものと認めるのが相当である。そして、≪証拠省略≫によれば本件契約時において被告は本件土地約八〇坪のうち奥側約二〇坪上に木造トタン葺平屋建の建築物(以下本件待合所という)を所有してバス乗客の待合所兼切符売場とし、残り約六〇坪をバス発着場兼乗客の乗降場とし、全体として本件土地を被告のバス運行営業用地として利用していたことが認められる。
そこで本件借地契約についての借地法の適用の有無を判断するに、借地法一条の「建物」とは工作物より狭い観念であって、住居のほか営業、物の貯蔵等の目的に使用される永続性と独立性のある建物を広く含むものの、結局は一般通念とその中で営まれる人の生活、営業の保護を目的とする借地法の趣旨から決するほかはない。
これを本件待合所についてみるに、≪証拠省略≫によれば、本件待合所は昭和九年に訴外栄自動車が訴外成島甚三郎から本件土地を賃借した時に建てられたものであり、その後本件契約時までその大きさ、位置を変えずに本件土地上に存続してきたもので、当初は前面を除く三方の外壁としてトタン板が張られ四寸角位の柱を四隅に配置した木造トタン葺建物であったが、昭和三二年頃被告はさらに内部を改造し、本件待合所の約四分の一を占める部分に切符売場兼乗務員詰め所を設置し、本件契約時には乗客の待合所、切符売場として利用されていたことが認められ右認定に反する証拠はない。以上の認定事実によれば、本件待合所は、契約時においては優に借地法一条にいう「建物」に該当するものであったということができる。
次に借地法一条の建物の「所有ヲ目的トスル」とは、借地人の借地使用の主たる目的がその地上に建物を所有することにある場合を指し、借地人がその地上に建物を所有する場合であってもそれが借地使用の従たる目的にすぎないときは右に該当しないと解されるが、前記各証拠によれば、本件待合所は、本件土地の約四分の一を占めており、昭和九年以来契約時まで二五年の長きにわたって、乗客の待合所および切符売場として利用され被告のバス運行営業上不可欠な重要性を有し、本件契約時において、本件待合所はこれに続く約六〇坪のバス発着場兼乗客の乗降場と一体不可分の関係にあって全体として被告のバス運行営業に即した本件土地の利用を全うせしめていたものであると認められる。
右認定事実に徴すれば本件借地契約は本件土地全部につき、借地法所定の建物に該当する本件待合所の所有を主たる目的として成立したものと認めるのが相当であり、結局本件借地契約には借地法の適用があるというべきである。
してみれば本件借地契約上の賃貸期間一〇年の定は同法一一条によって無効というほかなく、従って本件借地契約の存続期間は、同法二条一項の定めるところにより昭和三四年四月一日から同六四年三月三一日までの三〇年間ということになり、被告が柏市より本件権利を与えられた昭和四七年三月四日の時点に至るまでなお原、被告間の本件借地契約は有効に存続していたものというべきである。
そうすると原告の本訴請求はその余の判断を俟つまでもなく理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 鈴木潔 裁判官 荒川昂 佐藤武彦)
<以下省略>