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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)12342号 判決 1970年7月15日

原告 江州建設株式会社

右代表者代表取締役 磯村清

右訴訟代理人弁護士 伊志嶺善三

被告 土地ビルディング株式会社

右代表者代表取締役 野原吉之助

右訴訟代理人弁護士 多田武

主文

①  原告の訴を却下する。

②  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は

①  被告は原告に対し、金五九一万七五八〇円および内金五六〇万七八五〇円に対する昭和四四年八月一日から、内金三一万円に対する同年九月一五日から各支払ずみまで年三割六分の割合による金員を支払え。

②  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに右①項に対する仮執行の宣言を求め、請求の原因として別紙(一)のとおり述べた。

被告は別紙(二)の内容を有する答弁書ならびに第一回口頭弁論期日変更申請書を提出したのみで、昭和四四年一二月一一日午前一〇時の第一回口頭弁論期日に出頭しなかったので、同期日において、右変更申請書は却下せられ右答弁書を陳述したものと看做されたが、同四五年二月一八日午前一〇時の第二回口頭弁論期日において本件請負契約の第一九条に、「本件契約に関し、甲(注文者である被告)と乙(請負人である原告)との間に紛争を生じたときは、当事者は建設業法による建設工事紛争審査会のあっせん又は調停によって、その紛争を解決する。前項の審査会があっせんもしくは調停をしないものとし又はあっせん若しくは調停を打切った場合においてその旨の通知を当事者が受けたときは、その粉争を建設業法による建設工事紛争審査会の仲裁に附し、その仲裁判断に服する。」との仲裁契約が存するから、本訴は不適法である。と述べた。

原告は本件契約の第一九条は当事者が紛争を建設工事紛争審査会の仲裁に附しうることを認めた任意的、選択的な定めであって、本件訴を不適法ならしめる仲裁契約ではない。と述べた。

原告は甲第一号証を提出し、被告はこれを真正に成立したものと認めた。

理由

「まず本件について仲裁契約があったかどうかを検討してみるのに、≪証拠省略≫によれば、本件契約書第一九条に被告主張のとおりの文言の存することが認められる。原告は、右は任意的選択的な定めであって仲裁契約ではないと主張するが、右文言がそれ自体として有する意味からはそのように解することはできないし、他にそのように解すべき特段の事情につき、なんらの主張も立証もない。なお建設業法第二五条によれば、建設工事紛争審査会は法律上本件紛争につきあっせん、調停及び仲裁を行う権限を有することが明らかであり、その他右第一九条をもって仲裁契約と解するに支障となる事実は認められないから、本件紛争については原被告間に仲裁契約が存在するといわねばならない。

そこでつぎに被告が本案に関する答弁としての内容を有する答弁書を陳述したものと看做されたのちに、なお仲裁契約存在の抗弁を提出しうるかどうかについて判断する。そもそも訴訟の当事者が本案について弁論をなしたのちには仲裁契約存在の抗弁を提出し得ないことは、異論のないところであるが、その理由は、一方において仲裁契約は当該紛争に関する当事者の訴権を失わしめるものではあるが、仲裁契約の存否は裁判所が職権をもって調査すべき事項ではなく、当事者の主張をまってのみ斟酌されるべき事項であり、したがって当事者はその主張をする権利を放棄することもでき、当事者が仲裁契約の存することを知りながら、一旦本案について弁論をなしたときは右放棄がなされたものと解せられるからである。ところで本件においては被告は答弁書を裁判所に提出すると同時に第一回口頭弁論期日変更申請を提出したが、裁判所は期日において右変更申請を却下したうえ、被告が答弁書を陳述したものと看做したものであるところ、右事実よりすると被告が仲裁契約の存在することを知りながらこれを抗弁として主張する権利を放棄する意思を有しかつこれを表明したことは到底解することができないから、本件において如上の経緯にもかかわらず被告はなお仲裁契約の存在を抗弁として主張し得るとすべきである。

そうすると原告の本件の訴は訴権を欠くものであって不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川義夫)

<以下省略>

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