東京地方裁判所 昭和44年(ワ)14360号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕<証拠によると>次のような事実を認めることができる。
本件事故発生地は、王子方面より赤羽方面を結ぶ通称東十条バス通りであり、歩車道の区別があり、車道幅員は約九メートルその両側に幅員1.5メートルの歩道が設置され歩道と車道との間に高さ約六三センチメートルのガードレールがある。右道路は、アスファルト舗装、直線平担で乾燥していた。付近は、両側歩道上には約三〇メトル間隔で四百ワットの水銀灯が設置され、事故発生時には、この水銀灯が点灯され見通しは良好であつた。なおこの道路の両側とも東京都公安委員会より終日駐車禁止および最高時速四〇キロメートルの速度制限の規制がなされており、片側一車線で事故発生時の交通量は一分間に三台程度のものであつた。
被告石田は加害車を運転して王子方面より環七方面に向つて時速四〇〜四五キロメートル位でセンターライン寄りを直進していたが、本件事故発生地より手前約二九メートルあたりでバックミラーに光が映つたことにより、被害車が左側に後続していることが判つたけれども、別に気にもとめずにそのまま直進走行した。被害車は加害車の左側を進行し、加害車を途中で追いぬいたのであるが、前方道路左端のガードレールにそつてリヤカーがとめてあり、それを避けようと右ヘハンドルをきつたにもかかわらず、かなりの高速であるため、避けきれずに被害車の前部をリヤカーの右側後部に接触し、安定を失つて右斜め前方(すなわち道路中心)へ滑走したのである。被告石田は、被害車が加害車を追い越したのを認識できなかつたのであるが、被害車がリヤカーに接触したのを、斜め前方直前に発見し、急いでハンドルを右にきつて走り抜けようとしたが、被害車がステップを路上に擦過しながら斜め右へ滑走したため、亡利義は路上に放りだされ、加害車輪によつて轢死したものである。この経過の概要は別紙見取図のとおりである。
右認定事実によれば、本件事故につき、被告石田に民法七〇九条の「故意又ハ過失」があつたものとはいい難く、その他これを認めるに足りる証拠はない。従つて被告石田に過失があることを前提とする民法七〇九条による被告石田に対する本訴請求、民法七一五条による被告会社と被告田口に対する本訴請求は、その余の判断を加えるまでもなく失当というべきである。
しかしながら右認定事実のもとにおいては、いまだ加害車側に自賠法三条但書の免責が立証されたとも認め難い。即ち、加害車の左側後方より被害車が走行して来たのを認める一方で、左前方にリヤカーが駐車していたことも認識し得たと思われる加害車の運転手被告石田としては、或は併進した場合に、被害車がリヤカーと接触しかねないとまで敢て配慮し、対向車も来なかつた情況から被害車が左後続して来たライトを認めた段階で、被害車進路に空間をつくるべく加害車を右斜め前方に進めて、被害車の前進を容易にすることにより、被害車がリヤカーを避け切れて、亡利義も転倒しなかつたかもしれないと推測できないわけではない。更に証人鈴木靖男、岸貞夫の各証言によれば、被害車と加害車との接触痕がないこと、加害車は片側一本タイヤであるにもかかわらず轢れた亡利義の着衣に二条のタイヤ痕がついていたし、被害車がリヤカーに接触したことにより、リヤカーが前進その他の変動も認め難かつた等の事情から、事故後の実況見分の際から、不思議な事故として取扱われたことが認められる。これらの事情からみて自賠法三条但書の免責事由が立証されないものというべきであるから、被告会社は運行供用者として賠償する責任がある。
他方亡利義も、前認定のとおり、早朝で車のとおりが少ないとはいえ高速で被害車を走行せしめ、リヤカーを前方左側にみとめても避け切れず、接触し斜め前方に滑走せしめて本件事故発生に寄与している。
従つて被告会社の賠償すべき損害額の算出にあたり、被害車側の事情を斟酌して、総損害の五割を過失相殺すべきものと解するのを相当とする。
(龍前三郎)