東京地方裁判所 昭和44年(ワ)1972号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕次に、被告等に右事故発生について責任があつたかどうかを検討してみるのに、前記のとおり、本件自動車の積荷は相当の重量があり、かつ高熱の危険なものであるのみならず、荷おろしの仕掛も片側をおろすと同時に反対側も落下するようなものであつたのであるから、このような場合積荷をおろす作業に従事する者は、自動車の前後に通行人のないことを確認し、作業中通行人が車輛の両側に近付かないよう標識や器具などによつて通行が危険である旨を表示したり、又は助手を使つて一時通行止め等の措置をとり、事故の発生を未然に防止すべき義務があるものというべきである。しかるに、被告西野は、後記のとおり訴外黒須助手をして車輛の前方(北方)に配置し、前方から通行人を看視させたのにとどまり、車輛後方(南方)については右のような措置をとらないで荷おろしの作業をはじめたため、原告が後方から車輛に接近したのに全く気がつかず、反対側に積荷を落下させ原告に傷害を与えたものであり、それは被告西野が右の注意義務を怠つたことによるものといわなければならない。被告等は、事故発生前に後方から他の自動車が進入して来たのでこれを停止させたが、その運転手が原告に通行をやめるよう注意したと主張するが、甲第一八号証の記載はたやすく措信できないし、被告西野が右運転手にそのようなことを頼んだ事実はもちろん、その運転手が原告に注意をしたことを認めるに足る証拠はない。又前記<証拠>によると、被告西野は、本件自動車の後方から前の方が見えない状況にあつたので、訴外黒須助手をして右自動車の前方に立たせ、前の方から通行人が車輛に近寄らないように注意させ、かつ、南入口の方(荷おろし作業の方)をも見張らせていたが、訴外黒須は本件自動車の前方に二、三人の人がいたのでそれに気をとられ、原告が右自動車に近寄りその後から通り抜けようとしたのは全く気がつかず、自動車の東側に原告を認めたときには既に注意をする間もなく本件事故が発生したことが認められるが、被告西野が訴外黒須助手を見張りに立たせたからといつて、右認定の状況の下では被告西野の本件過失を否定することはできない。
なお、原告が鋼材のおろし作業中の自動車に近寄り、しかも空間の狭い右側近くを通過したことについては、もし原告がそこを通りさえしなければ本件事故が起らなかつたのではないかということ、従つてまた本件事故の発生は原告の側にも過失があるのではないかとの見解がありえないわけではない。しかし、前記認定のとおり、本件事故は貨物自動車の片側に荷おろしをする作業過程における作業上の不注意によるものではなく、積荷が両側に同時に落下する仕掛けがあるなどということは通常一般人として容易に知りうべきものではなく、原告とてもその例外ではなく、左側の荷おろし作業の開始によつては通常右側には積荷が落下しないものと予想したこと(このことは原告本人尋間の結果認められる)をもつて原告を責めることはできないと考えられるから、原告にも過失があつたものということはできない。 (緒方節郎)