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東京地方裁判所 昭和44年(ワ)5583号 判決 1970年5月25日

原告

御手洗一視

ほか一名

被告

豊和自動車株式会社

主文

一、原告らの請求をいずれも棄却する。

二、訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実及び理由

第一、当事者双方の申立

(請求の趣旨)

一、被告は原告御手洗一視に対し金七〇万円、原告小川務に対し金三〇万円、およびこれに対する昭和四四年六月一五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並に仮執行の宣言を求める。

(請求の趣旨に対する答弁)

一、原告らの請求を棄却する。

二、訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決を求める。

第二、当事者間に争いのない事実

一、被告豊和自動車株式会社は、肩書地においてタクシー業を営み六七年式トヨペツト品川五え一一-四六(以下甲車両という)の保有者であり、訴外森島泰夫は、右会社に雇用されている運転者である。

原告御手洗一視は、大分県佐伯市の助役であり、原告小川務は、同市水道課工務係長である。

二、昭和四四年二月二〇日午前九時四〇分頃、前記訴外森島泰夫の運転する甲車両に原告ら二人が坐乗し、飯田橋方向から水道橋方向に向い道路のセンターライン寄りを進行中、文京区後楽一丁目一番一号先路上において、反対方向から進行してきた、訴外手島敬志の運転するトヨエース六八年足立四や九三五〇(乙車両)がその前部を甲車両の前部に激突させた。

三、本件事故の結果、原告両名は受傷し、直ちに救急車で病院に運ばれ、原告御手洗は同年三月三日まで、原告小川は同月一日まで各入院加療した。

第三、争点

(原告ら主張)

一、本件事故の結果、原告御手洗一視は、頭部打撲、顔面挫傷、頸椎捻挫、口腔内挫創、歯牙折損、下顎骨一部折損(脱臼および歯牙周囲支持組織損傷並に義歯破折)、両下肢打撲擦過傷等、また原告小川務は、頭部打撲、頸椎捻挫、全身打撲傷等の傷害を受けて失神し、原告両名とも前記各入院加療ののち、出張中のこととてやつと汽車に乗れるような状態になつたので肩書地に帰り治療を続けている。

四、右原告らの各傷害は、前記訴外森島の過失により発生したもので、公務出張上京中、不慮の事故に会つた原告らの精神的苦痛は金銭に見積り難いものがあるが、被告は、前記の如く甲車両の保有者であり、前記訴外人運転者の雇主であるから、自動車損害賠償保証法第三条に基き、慰藉料として原告御手洗一視に対し金七〇万円、原告小川務に対し金三〇万円を支払う義務がある。

五、以上の次第で、原告らは被告に対し各自請求の趣旨記載の金員および本訴状送達の日の翌日から支払済に至るまで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため、本訴訟に及んだ次第である。

(被告の主張)

自賠法三条但書所定の免責主張

一、本件事故は訴外手島敬志の一方的過失に基づくものである。即ち、甲車両を運転していた訴外森島泰夫が本件事故現場において赤信号に従つて一時停止した後、青信号に従つて発進し、三米ないし五米直進した途端、対向車線上にいた乙車両が時速五〇キロないし六〇キロのスピードで突然中央線を越えて進行して来たため訴外森島がこれを避ける暇もなく、正面衝突したものである。

二、右の通り、本件事故は全く訴外手島敬志の対向車線進入の過失に基づくものであつて被告及び訴外森島泰夫が甲車両の運行に関し注意を怠らなかつたことは勿論、甲車両に構造上欠陥又は機能の障害もなかつたものであるから被告に責任はない。

第四、証拠関係〔略〕

第五、争点に対する判断

〔証拠略〕を総合すれば、被告主張一、の事実は「時速五〇キロないし六〇キロのスピードで」とあるを削除するほか全部そのとおりと認められ、かつ、訴外手島敬志は時速約三五キロメートルの速度で乙車両を進行させ、甲車両の進路前方約一〇メートルの地点において右折を開始したのであるが、本件事故現場のほぼ中央部に敷設され、かつ、雨で濡れていた都電軌道に同車の車輪がのつたため、右両輪がスリツプし訴外手島は同車のハンドル操作の自由を奪われ、そのまま進行して、前記のとおり発進直後の甲車両が避譲するいとまもないうちにこれと接触するにいたつたこと、および甲車両には構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことが認められる。右事実によれば、濡れた軌道上において乙車両のごとき速度をもつて右折すれば、その車輪がスリツプして本件のような事故にいたることは極めて当然のことであるから、訴外手島としては右折に際してとくに減速徐行すべき注意義務があつたものというべく、本件事故はもつぱら同人の右注意義務違反の過失によつて発生せしめられたものであつて、訴外森島および被告は無過失であつたとするほかない。よつて、被告の主張は理由がある。

右のとおりであつて、自賠法三条の規定に基づく原告らの本訴請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条の規定を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 原島克己)

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