東京地方裁判所 昭和44年(ワ)9445号 判決
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〔判決理由〕せきの受傷と死亡
(一) せきが事故により受傷したこと、原告ら主張の日に死亡したことは当事者間に争がない。
<証拠>によれば、次の事実が認められる。
せきは、事故当時四六才であるが、概ね健康で通常人並みの生活をしてきた。ただ、同年春頃肩がこる、背が熱い、指がしびれる等の感じを訴えて受診し、その結果背筋肉痛末梢神経炎あるいは子宮筋腫の疑い等の診断を受けたが、血圧も正常で、その他の著変がみられなかつた。
せきは、本件事故により後頭部に強い衝撃を受け、頭蓋骨亀裂骨折、脳挫傷等の傷害を負い、直ちに意識障害(恢復まで五日位要した)のまま中村外科病院に入院し、昭和四三年一月二五日原告ら家族の希望で退院したが、右半身まひを遺し、右上肢の顕著な機能障害(ものを握ることができない。各関節の運動が不能あるいは極めて制限されている。)、右下肢の機能障害(歩行困難等)の症状が持続した。昭和四二年一二月一二日から昭和四三年三月九日まで四回都立墨東病院脳神経外科外来において検査を受け、同院医師から、前記まひのほか、筋強剛、振戟等に基き外傷性パーキンソン氏病と診断され、その後原告ら主張の期間鹿教湯温泉療養所、東京労災病院にそれぞれ入院したが、前記症状はいくぶんとも改善されたものの持続し、その後は自宅においてほとんど寝たきりの生活を続けた。その間症状は漸次悪化の傾向をたどり、昭和四五年二月一七日以降医師檜垣豪に受診し、心筋障害等の診断を受け、死亡前日頃から特に苦痛を訴え、死亡当日救急車で小松川病院に入院し、そのまま死亡するに至つた。
同院医師は、以前にせきを診たことがなく、死因を心筋梗塞と推断した。
(二) 右事実からすると、せきの死亡は、本件事故により受けた後頭部への衝撃による脳の病変が原因となり、パーキンソン氏病を惹起し、それが心筋に発現したことによるものとみるべきである。たとえ、直接死因の診断に疑問をさしはさむ余地があるにしても、事故前においては、生命にいくばくとも影響を与えるような疾患を有しないでせきが事故にあつた後療養に専念し、特段別個の原因によらないで死亡するに至つたということができるので、せきの死亡は事故による受傷と相当因果関係があるというべきであつて、被告らはせきの死亡につき損害賠償責任を負わなくてはならない。
(高山晨)