東京地方裁判所 昭和44年(借チ)1007号 決定
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〔決定理由〕(申立の要旨) 1 申立人は、伊東銕五郎から、昭和二五年一二月二七日大田区仲六郷四丁目一二番四宅地675.51平方米のうち114.76平方米(以下本件土地という。)を非堅固建物所有の目的、期間二〇年の約で賃借し、同地上に別紙目録(一)記載の建物(以下本件建物という。)を所有している。
2 賃貸人伊東銕五郎は、昭和四一年四月二一日死亡し、相手方において共同相続して賃貸人の地位を承継し、賃料は昭和四四年一月一日以降一ケ月金一、五六三円に改定され、現在にいたつている。
3 申立人は、本件建物に別紙図面のとおりの増改築を施したいと考え、賃貸人にその承諾を求めたが拒絶されたので、賃貸人の承諾に代わる許可の裁判を求める。
〔決定理由〕 本件においては、増改築制限の特約の存否について当事者間に争があり、本件の資料によれば、申立の要旨1、2の事実のほか、本件増改築は、既に大田区役所建築主事の確認を得ているのみならず、土地の通常の利用上相当であると認められ、本件借地権の存続期間は昭和四五年一二月二六日までであり、近く期間が満了するが、本件賃貸借契約は、期間満了後更新されるものと考えられるので、本件申立は、これを許可すべきである。
次に、附随の裁判について考える。
本件増改築許可の裁判は、申立人に対し、本件増改築をなしうる権利を新たに付与する反面、賃貸人に新たな制約を加えることになる。この権利、制約の経済的価値を如何に評価すべきであるか。これが財産上の給付の問題である、右の権利は、具体的には、本件建物の耐用年数の延長、本件建物の価格の増加及び本件土地利用効率の増加となつて現れる。これら具体的変化が賃貸人に如何なる制約を加えるか。制約を加える場合、当事者の利益の衡平を図る必要があるか。以下、右の具体的変化の個々について検討する。
(一) 建物の耐用年数の延長
本件増改築は、通し柱四本を新たに用いて二階を増築するものであるから、本件建物の耐用年数が延長されることは明らかである。本件借地権の期間が昭和四五年一二月二六日満了し、その際更新されるものと認められることは前記のとおりであるが、本件のように、増改築をめぐつて当事者間に紛争がある場合、右更新は、当事者の合意によるものとは考え難く、法定更新されるものと思われる。従つて、本件増改築により本件建物の耐用年数が延長される結果建物の朽廃による借地権消滅時期が延びることゝなる。このことは、賃貸人に対する制約の増大をもたらすこととなるので、当事者の利益を調整する必要がある。
(二) 建物の価格の増加
本件増改築により本件建物の価格が増加することは明らかであり、この価格の増加は、将来賃貸人が更新を拒絶し、借地人から建物買取請求権を行使された場合に賃貸人の利害に影響を及ぼすことゝなるが、建物の価格が増加しても、買い取る建物はその価格相応のものであるので、価格の変化それ自体は、賃貸人の不利益になるものではない。問題は、買取価格が増加し、賃貸人において買い取る資力がない場合、更新拒絶を断念せざるを得なくなることがありうることである。これは、借地権が消滅せざるを得なくなることがありうることである。これは、借地権が消滅すべきであるのにかゝわらず、これを消滅させないことであり、賃貸人としては大きな制約を受けることゝなる。しかし、本件賃貸借契約が昭和四五年一二月二六日期間が満了しても法定更新される可能性が強いことは前記のとおりであるから、買取請求権が行使されるのは少くとも昭和六五年一二月二七日以降のことであり、果してその時に更新拒絶の意思表示がなされるかどうか、また、更新拒絶の意思表示がなされたとしても、それが正当事由に基づくものであるかどうかを現時点で予測することは不可能であるばかりでなく、本件建物がその当時存在するものかどうかすら判りえないのであるから、建物の価格の増加により賃貸人が蒙ることあるべき不利益は、考慮の外におくほかはない。
(三) 借地の利用効率の増加
本件増改築により、本件建物の床面積が拡大され、それだけ借地人としては本件土地を従前より効率よく利用しうることができ、この意味での借地の利用効率の増加ということは考えうる。しかし、右利用効率の増加が賃貸人に不利益を及ぼすものとも考えられず、また右利用効率の増加は、借地人の資本投下によるものにして、これによる借地人の利益を賃貸人に配分せしむべきいわれもないので、右利用効率増加の点は、財産上の給付について考慮する要はない。
以上の検討からして、財産上の給付につき考慮すべき点は、本件増改築により本件建物の耐用年数が延長されるということに尽きる。本件建物の耐用年数が延長されることに伴う借地人の利益及び賃貸人の不利益をどう評価するかは、本件増改築をなしうる権利の価値を経済的にどう評価するかということであり、それは、本件増改築をなしうる権利を付与されたことによる本件借地権価格の変動を把握することである。不動産の鑑定において借地権価格を評価する場合、借地権割合を求めるのが通例のようであるが、右の割合は、借地契約の具体的内容の差異に留意することなく、借地権一般としてその割合を求めるのが実情である。しかし、同じく借地権といつても、借地人にとり有利なものもあれば不利なものもあり、その価格に自ら差異があり、借地権割合も異るべきは、当然のことに思われる。借地非訟事件を扱つていると、堅固建物所有目的の借地権の割合と非堅固建物所有目的の借地権の割合との差が約一〇%であるというのが鑑定委員会の意見の大勢である。この場合、非堅固建物所有目的の借地権については、増改築禁止の特約のない借地権は、堅固建物所有目的の借地権とその実質的価値において異らないものというべきであるので、右借地権割合の差は、厳密にいえば、堅固建物所有目的の借地権の割合との差というべきである。従つて、増改築禁止の特約のない借地権の割合と右特約のある借地権の割合との差も約一〇%とみることができ、増改築許可の裁判を得た後の借地権価格はその間に位置づけられることになる。本件の資料によれば、本件建物は既に老朽化しておりその残存耐用年数も今後五、六年程度と推定されるので、本件増改築は、残存耐用年数が十分ある場合に比較し、借地人の利益は大というべく、一方、本件増改築は、既存の建物に附加するものであり、新築の場合に比し、増改築後の建物の耐用年数は短いと考えられるので、これらの事情を斟酌し、借地人たる申立人に命ずべき財産上の給付は、本件土地の更地価格(鑑定委員会の意見に従い3.3平方米当り一九万円)の四%金二六万四、〇〇〇円(千円未満四捨五入)を相当とする。(小山俊彦)
目録
(一) 東京都大田区仲六郷四丁目一二番地四
家屋番号一二番四の三
木造瓦葺平家建居宅
47.24平方米
(現況 46.28平方米)
(二) 木造瓦葺二階建居宅
床面積 一階 63.63平方米
二階 37.19平方米