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東京地方裁判所 昭和44年(借チ)1022号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔主文〕 1 申立人が、別紙目録(一)記載の土地上にある同目録(二)記載の建物を取り毀し、同地上に同目録(三)記載の建物を建築することを許可する。

2 申立人は、相手方に対し、金二七万円の支払をせよ。

〔決定理由〕(申立要旨)

1 申立人は、相手方から、別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という。)を非堅固建物所有の目的で賃借中であり、賃料は、昭和四四年四月一日から月一六〇〇円に改定され、現在にいたつている。

2 申立人は、本件土地上に別紙目録(二)記載の建物(以下本件建物という。)を所有しているが、手狭であり、かつ、老朽化したので、これを取り毀し、そのあとに別紙目録(三)の建物を建築すべく計画しているが、右改築につき相手方の承諾が得られないので、賃貸人の承諾に代わる許可の裁判を求める。

(決定理由)

1 本件の資料によれば、申立の要旨として掲げた事実のほか、(一)本件借地権は、申立人が昭和二五年九月栗原吉次から本件建物を買い受けた際従前の借地権を承継したものにして、その後、昭和三二年一二月八日期間満了に伴い法定更新され、残存期間は昭和五二年一二月八日までであること。(二)借地上の建物の増改築をなすには賃貸人の承認を要する旨の特約があること。(三)本件土地は、住居地域及び準防火地域に指定されているので、本件改築は、建築基準法上適法であるのはもとより、土地の通常の利用上も相当であること、以上の事実が認められるので、本件改築の申立は、これを許可すべきである。(相手方は、本件改築は、新築であるから、借地法第八条ノ二第二項の増改築に該らないというが、同条の改築には、既存建物の全部を取り毀し、借地上に建物を新築することをも含むと解すべきであるので、右主張は、理由がない)

2 次に附随の裁判について考える。

借地法第八条ノ二第三項は、増改築許可の裁判をする場合当事者間の利益の衡平を図る為必要あるときは、財産上の給付その他の附随処分を為すことができる旨規定している。ここにいう当事者間の利益の衡平を図るとは、いかなる意味であろうか。本件改築により、借地上建物の耐用年数が延長され、建物の朽廃による借地権の消滅時期が延びることは明らかであり、このことは、借地権の存在により土地所有権が制約を受ける期間の伸長を意味し、賃貸人としては、本件の改築が行われなかつたならば、従前の建物の朽廃による借地権の消滅により得べかりし利益を喪うなどの不利益を蒙ることとなる。当事者間の利益の衡平を図るとは、増改築が賃貸人に及ぼす右の如き不利益を補償することであろうか。

借地法第八条ノ二、第九条ノ二が新設され、しかも、借地権の消滅について定めた防火地域内借地権処理法第三条の如き規定を全く設けなかつたことは、独立の財産権としての借地権の保護を一段と強化したばかりでなく、増改築による借地権の存続を保障し、更に、更新拒絶により借地権が消滅する場合を除き、借地人の意思に反する借地権消滅の途を閉したものということができる。附随の処分が増改築に伴う賃貸人の不利益を補償する趣旨のものであるとすれば、(一)補償能力のない借地人は、増改築を断念せざるをえないこととなり、法が増改築による借地権の存続を保障したのにかかわらず、借地人の補償能力の有無によつて右保障が左右されるということは衡平を欠き、法の意図に背馳するばかりでなく、防火地域内借地権処理法第三条の如き規定を欠く現行法の下においては、補償能力のない借地人は、借地権を他に譲渡して対価を取得するか、建物の朽廃により無償で借地権を喪うかいずれかの途を選ばざるを得ず、前者の場合は、借地権の存続を意図する法の趣旨に反し、後者の場合は、借地権を独立の財産権として保護せんとする法の趣旨に悖ることになり、(二)借地人が補償能力を有しているとしても、賃貸人の不利益を補償することは、場合によつては、借地の所有権を取得するに要する費用以上の出損をしなければならないという不合理な結果を招くことにもなる。例えば、一〇〇万円の土地があり、借地権価格七〇万円、底地価格三〇万円とする。借地上の建物の朽廃により借地権が消滅すれば、賃貸人は、この土地を第三者に賃貸し、借地権設定の対価として七〇万円を取得することができる。しかるに、増改築の結果借地権消滅時期が三〇年延びるとすれば、賃貸人は、三〇年後でなければ借地権設定の対価を取得することができないので、現在借地権を設定することができないことによる賃貸人の損害は、取得すべかりし右七〇万円に対する三〇年間の利息ということになる。右喪失利息は、利率を年五分とし、単利で計算してさえ一〇五万円(これを一時に支払うときはホフマン法により中間利息を控除し六三万円余)となる。借地人が借地の所有権を売買によつて取得する場合、代金は底地価格相当額であるとされているので、借地人が賃貸人の喪失利益を補償すべきものとすれば、借地人としては、底地価格以上の出損をしても、借地の所有権を取得することができず、借地権を確保するにとどまるに過ぎないということになり、これは明らかに不合理である。(右の例で、借地上建物の朽廃時期が迫つているとしても、借地権価格及び底地価格に変化はない。不動産鑑定の専門家は、法定更新の規定があるため、借地期間の進行にかかわらず借地権割合は下降カーブをとらないというが、それと同じく、借地法第八条ノ二の新設により、建物の老朽化の進行にかかわらず借地権割合は下降カーブをとらないというべきである。)

右のように、当事者間の利益の衡平を図るとは、増改築が賃貸人に及ぼす不利益を補償する趣旨であるとは解し難い。もともと、右の如き不利益は、借地人が取得した増改築をなしうる権利の反射であるので、賃貸人としてはこれを甘受せざるを得ない筋合のものである。しかし、増改築許可の裁判は、増改築をなしうる権利を賃貸人の意思に反しても借地人に付与するものであるから、右権利が経済的価値を有する場合には、右価値相応の対価を賃貸人に給付せしめ、増改築許可の裁判との関連において賃料等の借地条件を変更し、その他相当の処分をすることが必要であるかどうかを考慮することが、当事者間の利益の衡平を図る趣旨であると解すべきである。

増改築をなしうる権利の価値を経済的にどう評価するかは右権利が付与されたことによる借地権価格の変動を把握することである。右価格の変動を把握することは、不動産鑑定の専門家もこれを困難視しているのが実情のようである。しかし、増改築自由の借地契約と増改築禁止の特約のある借地契約とでは、借地権価格に差異のあるべきは当然のことであり、そのこと自体は不動産鑑定の専門家も認めている。借地非訟事件取扱の経験からすると、非堅固建物所有目的の借地権を堅固建物所有目的の借地権に変更する所謂条件変更の事件において、借地権割合は、後者が大で、その差約一〇%というのが鑑定委員会の意見の大勢である。このことを根拠に本件の場合の借地権価格の変動を考えてみる。非堅固建物所有目的の借地権といえども、増改築禁止に関する特約の全くないものは、土地所有権が借地権の存在によつて制約を受ける期間の点については、堅固建物所有目的の借地権と異ならないというべきであるので、右借地権割合の差は、厳密にいえば、堅固建物所有目的の借地権と増改築禁止の特約のある非堅固建物所有目的の借地権との比較についていわれるべきであり、従つて、非堅固建物所有目的の借地権にあつても、増改築禁止の特約の有無による借地権割合の差は一〇%程度であると考えてもよいと思われる。本件改築許可の裁判は、本件改築についてのみ増改築禁止の特約を一時的に排除するものにして、右特約の全面的排除ではないので、本件許可の裁判により形成される借地権価格は、右特約のない借地権の価格と右特約のある借地権の価格との中間に位置づけられることとなる(もつとも、本件改築が実施された後は、再び特約の規制を受けることとなるので、借地権価格は旧に復することになるが)。しからば、本件借地権価格は、本件改築許可の裁判によりいかほど増加するか。非堅固建物所有目的の借地権を堅固建物所有目的の借地権に変更した場合、その借地権割合の差は、前記の加く約一〇%であるが、この差が生ずる理由の根源的なものは、借地上建物の耐用年数の長短にあると思われる。申立人が建築を予定している本件改築すべき建物の耐用年数がいくばくであるかは不明であるが、減価償却資産の耐用年数について定めた昭和四〇年三月三一日大蔵省令第一五号によると、鉄骨鉄筋コンクリート造又は鉄筋コンクリート造の建物にして住宅用のものの耐用年数は六〇年、本件改築すべき建物の如く簡易木造を除く木造の建物にして住宅用のものの耐用年数は二四年となつており、一方、本件の資料によれば、本件建物は、昭和一二年頃の建築にかかり、相当老朽化し、既に改築時期に達していると認められるので、借地権価格の増加分を算定するに当つては、改築時期に達していない場合の改築と異り、改築すべき建物の耐用年数の一部ではなくその全部を考慮に入れるべきであり、従つて、本件改築許可の裁判による本件借地権価格の増加額は、本件土地価格の一〇%に六〇分の二四を乗じたものであるとするのが相当である。鑑定委員会の意見によると、本件土地の更地価格は坪二二万円であるとのことであるので、土地価格の評価については右意見に従い、右方式により本件借地権価格の増加額を算定すると二七万三、六八〇円になるので、一万円未満を四捨五入し、二七万円を財産上の給付額と定め、これを申立人をして相手方に支払わしめるべく、本件賃料は昭和四四年四月分から改訂されたばかりで、改訂後日も浅いので、これを改める要もなく、その余の附随処分も、これを命ずる要を見ない。(小山俊彦)

目録

(一) 東京都目黒区緑が丘二丁目二三九九番二

宅地 一三三五、五三平方米(四〇四坪)

の内 一〇二、八〇平方米(三一坪一合)

(二) 右地上に存在する

家屋番号 三七七番

木造瓦葺平家建居宅 一棟

床面積 四九、五八平方米(一五坪)

(三) 木造二階建居宅 一棟

床面積 一階 五七、八五平方米

(一七坪五合)

二階 三四、七一平方米

(一〇坪五合)

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