東京地方裁判所 昭和44年(借チ)1030号 決定
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〔主文〕 1 申立人が、別紙目録(一)記載の土地上にある同目録記載の建物を取り毀し、同地上に同目録(二)記載の建物を建築することを許可する。
2 申立人は、相手方に対し、金一六万七、〇〇〇円の支払をせよ。
〔決定理由〕(申立の要旨)
1 申立人は、須山松雄から、昭和三一年八月一七日その所有にかかる別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という。)を木造建物所有の目的で期間二〇年の約で賃借し、同地上に同目録(二)記載の建物を所有している。
2 申立人、須山松雄間の右賃貸借契約には、借地人が増改築をするには賃貸人の承諾を要する旨の特約が付されている。
3 相手方は、須山松雄から本件土地を買い、昭和四三年五月三日所有権移転登記を経由して賃貸人の地位を承継した。
4 申立人は、本件建物を取り毀し、借地上に別紙目録(三)記載の建物を建築すべく計画しているが、相手方の承諾が得られないので、賃貸人の承諾に代わる許可の裁判を求める。
(決定理由)
1 本件の資料によれば、申立の要旨として掲げた1ないし4の事実のほか、本件改築は、建築基準法上適法にして、土地の通常の利用上も相当と認められるので、本件申立は、これを許可すべきである。
2 次に、附随の処分について考える。
借地法第八条の二第三項は、増改築許可の裁判を為す場合において、当事者間の利益の衡平を図る為必要あるときは、財産上の給付その他の附随処分を為すことができる旨規定している。ここにいう当事者間の利益の衡平を図るとは、いかなる意味であろうか。本件改築により借地上建物の耐用年数が延長されることは明らかであり、このことは、建物の朽廃による借地権の消滅時期が延びることを意味する。このように借地権の消滅時期が延びることは、借地人にとつては利益であるが、賃貸人は、借地権の存在により土地所有権が制約を受ける期間が伸長されるため、本件の改築がなかつたならば従前の建物の朽廃による借地権の消滅により得べかりし利益を喪うなどの不利益を蒙り、当事者の利害が対立するばかりでなく、借地人としては、本件改築の結果、住の快適性、建物利用による収益の面その他において従前以上の利益を亨受することも可能となるが、当事者間の利益の衡平を図るとは、<中略>増改築が当事者に及ぼす右の如き利益不利益を調整することであろうか。
借地法第八条ノ二、第九条ノ二が新設され、しかも、借地権の消滅について定めた防火地域内借地権処理法第三条に代わる規定が設けられなかつたことは、独立の財産権としての借地権の保護を強化したばかりでなく、更新拒絶により借地権が消滅する場合を除き、借地人の意思に反する借地権消滅の途を閉したものということができる。附随の処分が増改築に伴う賃貸人の不利益を補償する趣旨のものであるとすれば、(一)補償能力のない借地人は、適法な増改築を断念せざるをえないこととなり、法が増改築による借地権の存続を保障したのにかかわらず、借地人の補償能力の有無によつて右保障が左右されるということは衡平を欠くのみならず、防火地域内借地権処理法第三条の如き規定を欠く現行法の下では、補償能力のない借地人は、借地権を他に譲渡するか、建物の朽廃を待つて無償で借地権を喪うかいずれかの途を選ばざるを得ず、前者の場合は、借地権の存続を意図する法の趣旨に反し、後者の場合は、借地権を独立の財産権として保護せんとする法の趣旨に悖ることになるばかりでなく、(二)借地人が補償能力を有しているとしても、賃貸人の不利益を補償することは、場合によつては、借地の所有権を取得するに要する費用以上の出捐をしなければならないという不合理な結果を招くことにもなる。例えば、一〇〇万円の土地があり、借地権価格七〇万円、底地価格三〇万円とする。賃貸人は、借地権が建物の朽廃により消滅すれば、この土地を第三者に賃貸し、借地権設定の対価として七〇万円を入手することができる。しかるに、増改築の結果借地権消滅時期が三〇年延びるとすれば、賃貸人は、入手すべかりし七〇万円に対する三〇年間の利息を喪うこととなる。右利息は、利率を年五分とし、単利で計算してさえ一〇五万円(これを一時に支払うときはホフマン法により中間利息を控除し六三万円余)となる、借地人が借地の所有権を売買によつて取得する場合、代金は、底地価格相当額であるとされているので、借地人が賃貸人の喪失利益を補償すべきものとすれば、借地人としては、底地価格以上の出捐をしても、借地の所有権を取得することができず、借地権を確保するにとどまるに過ぎないということになり、これは明らかに不合理である。
(右の例で、借地上建物の朽廃時期が迫つているとしても、借地権価格及び底地価格に変化はない。不動産鑑定の専門家は、法定更新の規定があるため、借地期間の進行にかかわらず借地権割合は下降カーブをとらないというが、それと同じく、借地法第八条ノ二の新設により、建物の老朽化の進行にかかわらず借地権割合は下降カーブをとらないというべきである。)
右のように、当事者間の利益の衡平を図ることは、増改築に伴う当事者の利益、不利益を調整する趣旨であるとは解し難い。とすれば、それは如何なる趣旨であるか。増改築許可の裁判は、申立にかかる増改築にかぎりこれを為しうる権利を賃貸人の意思に反して借地人に付与するものであるから、当事者間の利益の衡平を図るとは、右権利が経済的価値を有する場合にはその価値相応の対価を賃貸人に給付せしめ(財産上の給付の問題)、増改築許可の裁判により借地契約が一部変更されるので、これとの関連において他の借地条件を変更し、その他の処分をすることが相当であるかどうかを考慮することであると解すべきである。
増改築をなしうる権利の価値をどう評価するかは、右権利が付与されたことによる借地権価格の変動を把握することである。借地非訟事件取扱の経験からすると、非堅固建物所有目的の借地権を堅固建物所有目的の借地権に変更する場合、借地権割合は、後者が大で、その差が約一〇%であるというのが鑑定委員会の意見の大勢である。非堅固建物所有目的の借地権といえども、増改築禁止の特約のないものは、土地所有権か借地権の存在によつて制限を受ける期間の点については、堅固建物所有目的の借地権と異ならないというべきであるので、右借地権割合の差は、厳密にいえば、堅固建物所有目的の借地権と増改築禁止の特約のある非堅固建物所有目的の借地権との比較についていわるべきであり、従つて、非堅固建物所有目的の借地権にあつても、増改築禁止の特約の有無による借地権割合の差は一〇%程度と考えてもよいと思う本件改築許可の裁判は、本件改築についてのみ増改築禁止の特約を一時的的に排除するものにして、右特約の全面的排除ではないので、本件許可の裁判により形成される借地権の価格は、右特約のない価格と右特約のある価格との中間に位置づけられることとなる(もつとも、本件改築が実施された後は、再び増改築禁止の特約の規制を受けることとなるので、借地権価格は旧に復することになるが)。しからば、本件借地権の価格は、本件許可の裁判によりいかほど増加するか。本件借地期間は合意で定められているので、本件建物が期間内に朽廃しても残存期間である昭和五一年八月一六日までは借地権が消滅しないこと及び本件改築が新築であることを考えると、右価格の増加は、土地価格の五%と見るのが相当である。鑑定委員会は、本件土地の更地価格(建付地価格を見る必要なしとしている)。を3.3平方米一五万円と評価しているので、土地価格については右意見に従い、申立人に対し、土地価格の五%一六万七、〇〇〇円(百円未満四捨五入)の財産上の給付を命ずべく、その余の附随裁判を為す要はないと考える。
(小山俊彦)
目録
(一) 東京都大田区南六郷一丁目三〇番一七
宅地 82.64平方米(25坪)
のうち73.55平方米(22坪2合5勺)
(二) 右地上に存在する
家屋番号三〇番二九
木造瓦葺平家建居宅床面積33.25平方米(10坪1合6勺)
付属
木造鉄板葺平家建居宅 床面積9.91平方米
(三) 木造モルタル塗瓦葺二階建居宅
床面積 一階40.49平方米(12坪2合5勺)
二階40.49平方米(12坪2合5勺)