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東京地方裁判所 昭和44年(借チ)1036号 決定

〔主文〕申立人が別紙記載の改築をなすことを許可する。

申立人は相手方に対し金五万円を支払え。

本裁判確定の月の翌月から本件賃貸借契約の賃料を月3.3平方米(一坪)あたり金九八円に変更する。

〔理由〕一、申立の要旨

申立人は相手方から東京都豊島区東池袋四丁目三、三四〇番一四宅地四七八、〇四平方米のうち四九、五平方米(一五坪)を賃借し、同地上に別紙記載の現存建物を所有しており、これをとりこわして別紙記載の建物を新築しようと計画しているが相手方の承諾が得られないので、その承諾に代わる許可を求める。

二、事案の概要

申立人は昭和二五年一〇月一五日相手方から右土地を期間を昭和四五年一〇月一四日までとして賃借し、現在の賃料は昭和四二年六月以降月九〇〇円(坪六〇円)である。賃借にあたり権利金として申立人は仲介人に坪一、〇〇〇円として一万五、〇〇〇円を支払つたが、相手方は仲介人からそのうち九、八〇〇円を受領したという。申立人は本件現存建物に当初は自ら居住していたが、約一〇年位まえから肩書地に約三〇坪を他から借地し、そこに建物を所有して移住し、現存建物は最近まで賃貸していた。しかし長女(一九才、短大在学中)に縁談があり、結婚にあたり家を建ててやりたいが、本件建物は戦後のバラックで老朽しているためこれを改築して長女に与えるため借家人に立退いてもらつた。改築許可の条件としては、期間を二〇年延長してもらうことを前提として承諾料として一五万円(坪あたり一万円)を支払う、賃料は月坪あたり一〇円増額して七〇円とすることを希望する、というのである。これに対し、相手方は、申立人がもし現存建物に居住を続けていたのであれば止むを得ないと考えるが、申立人は他に居住し、本件借地上の建物を長く他に賃貸していたのであるし、現在相手方と同居中の相手方の八男(三〇才、印刷業)が近く結婚するので、そのために本件土地上に家を建ててやりたいので、約一年後に迫つている期間満了時に是非明渡してもらいたい。相手方には自己所有地が約二五〇坪、借地が約二五〇坪あるが、建物を新築できる余地は本件土地のほかにはないので、期間の更新には金額のいかんを問わず応じられない。というのである。

三、申立の許否

本件改築は土地の通常の利用上相当と認められる。また本件借地契約の残存約定期間は一年に満たず、本件における相手方の態度からみれば、本件改築に対し相手方は異議を述べ、正当事由により更新を拒絶し、訴を提起した場合相手方が勝訴する可能性もないとはいえないし、その場合は申立人は借地権を失い、改築した建物をそれまでの期間しか利用できない虞れもないとはいえないが、そのような蓋然性が極めて大きいとはにわかに断じ難い本件においては、本件改築を不相当とし、更新の成否が確定するまでの間現存の老朽建物を放置させることは、土地の効率的利用を確定的に妨げることになり、その不利益を考慮すると相当ではないと考えられる。他に本件改築を不当とすべき理由はないと認められる。よつて本件改築を許可することとする。

四、附随処分

(一) 鑑定委員会の意見の要旨

鑑定委員会の意見の要旨は、まず本件改築許可により借地期間が二〇年延長され、その間は建物の朽廃または正当事由による更新拒絶により借地権が消滅する虞がなくなることを前提とした上、期間の更新料として借地権価格の一〇%(更地価格坪一六万円、建付減価三%、借地権価格は建付地価格の七〇%)にあたる一六万二、九六〇円、改築による土地利用効率増加の利益配分として借地権価格の三%にあたる四万八、八八八円の合計二一万一、八四八円を財産上の給付額とし、賃料については現行の坪六〇円は近隣の事例七〇円ないし九〇円に比し低額であり、かつ支払賃料から維持管理費(純賃料の二%)と公租公課を控除した純賃料の底地価格に対する利廻が年〇、五五%であつてこれも低きに失するので、純賃料の底地に対する年間利廻が一、五%になるよう月坪あたり九八円に増額することを相当としている。

(二) 当裁判所の判断

1、借地期間

前記のとおり本件においては借地契約の残存期間が一年に満たず、かつ相手方は更新拒絶の正当事由を強く主張しているので、借地期間を延長することは相手方が改築に異議を述べ、訴訟において更新拒絶を主張する機会を失わせることになり、財産上の給付等をもつてこの損失を補償することも本件においては相当でないと認められるので、借地期間は延長しないこととする。なお本件のような建物の全面的とりこわし、新築を許可することにより土地所有者の借地法第七条による異議権は失われ、当然に同条の法定更新を生ずると解し、または異議権が当然には失われないとしても、土地所有者が同条の異議を述べれば、同条の法定更新が生じないばかりではなく改築前の建物が朽廃すべかりし時に借地権が確定的に消滅することとなるので、改築許可の意味が失われるとして全面的改築を許可する場合には借地法七条の趣旨をくんで期間を延長することを相当と解する見解があるが、当裁判所は改築を許可しても借地期間を延長しないかぎり土地所有者は借地法七条の異議権を失うものではなく、しかし反面同条の異議を述べても、改築前の建物が朽廃すべかりし時に借地権が確定的に消滅すると解すべきではなく、同条の法定更新を防止するにとどまるものと解する。なぜなら、建物増改築により、建物の朽廃による借地権消滅の時期が延長されることは、増改築を制限する旨の特約がある場合においても、なお、土地所有者の意思に反する増改築を認め、それによる損失は財産上の給付等によつて補償する途も拓いている借地法第八条の二第二項の立法趣旨に照し当然のことと解せられるが、反面これに伴つて同時に建物の増改築とは本来直接必然的な関係のない正当事由による更新拒絶を訴訟上主張する期待権まで土地所有者の意思に反して失わせることは、これをもし新期間の満了前にくり返すこともできるとすれば、土地所有者にとつては、建物朽廃による借地権消滅の期待権ばかりではなく、正当事由による更新拒絶を主張する機会さえも永久に失う虞れがあることとなり、これは右条項の立法趣旨を越える解釈であると考えざるを得ないからである。

2、財産上の給付

財産上の給付額については、鑑定委員会の意見による金額のうち本件においては右のとおり期間の延長をしないので、更新料として鑑定委員会の認める借地権価格の一〇%にあたる金額は控除し、残りの鑑定委員会が土地の効用増による利益配分額として相当とする金額を参考とし借地権価格の約三%(更地価格の約二%)にあたる五万円を相当と認める。

3、賃料

賃料については鑑定委員会の意見に従い、本裁判確定の月の翌月から月三、三平方米(一件)あたり九八円に増額することとする。(白石悦穂)

現存建物および改築の内容

一、現存建物

木造瓦葺平家建居宅 二九、七五平方米

二、改築の内容

右建物をとりこわし

木造モルタル二階建居宅一階三三、一七五平方米

二階三二平方米を新築する。

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