東京地方裁判所 昭和44年(借チ)1037号 決定
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〔主文〕申立人が別紙記載の改築をなすことを許可する。本件借地契約の賃料を本裁判確定の月の翌月から月額六四四円(3.3平方米あたり三九円)に変更する。
申立人は相手方に対し金一〇万円を支払え。
〔決定理由〕
一、申立の要旨
申立人は相手方から東京都豊島区池袋町七丁目二〇三二番地宅地141.55平方米のうち54.54平方米(16.5坪)を賃借し、同地上に別紙記載の現存建物を所有しているが、これを同記載のとおり改築しようと計画したところ、相手方の承諾が得られないので、その承諾にかかる許可を求める。
二、事案の概要
申立人は本件土地を昭和三四年一〇月一三日期間を二〇年と定めて相手方から賃借した。残存期間は約一〇年間である賃料は右契約の時から月三三〇円(坪あたり二〇円)で、現在まで変更されていない。現存建物は昭和二八年一〇月頃建築されたもので申立人はこれを借地権付で買受けた際、仲介人に七四万円を支払つたが、相手方は仲介人から五〇万円だけ受領したという。ところで、相手方が改築を承諾しない理由は、相手方は本件借地契約の期間が満了する約一〇年後には、現在勤務している運送会社を停年で退職しなければならないが、その後は小型運送業か個人タクシー業によつて生計をたてようと計画しており、そのためには車庫の設置が不可欠であり、その敷地としては相手方の住居に隣接している本件借地を明渡してもらうほかはない。もし本件改築によつて右の期間満了時に本件借地を明渡してもらえなくなるとすれば、相手方としては退職後の生計の見通しがたたないことになる、というのである。
三、鑑定委員会の意見の要旨
鑑定委員会の意見の要旨は次のとおりである。
(一) 本件改築を認めるのが相当である。
(二) 本件改築を許可した場合、申立人から相手方に対し財産上の給付を命ずるのが相当であり、その額は金二二万四、七〇〇円を相当とする。右金額算定の根拠は、地域不動産市場において、借地権譲渡にともなう名義変更料として借地権取引価格の一五%前後の金額が授受される慣行があり、その際、借地期間の更新と増改築が許容されるのが一般であることから、増改築の承諾と期間更新の対価としては借地権価格の一〇%程度が相当と考えられ、また本件改築による借地の効用増加により借地権価格の四〇%程度が顕在化すると考えられ、その受益の三〇%程度を地主に配分するとすれば、借地権価格の一二%と考えられる。これらの点から本件における財産上の給付額は、諸事情を総合考慮し、借地権価格の一〇%が相当である。3.3平方米あたり本件更地価格は一九万五、〇〇〇円借地権価格はその七〇%と査定されるので、その金額は二二万四、七〇〇円となる。
(三) 現行賃料月坪二〇円は近隣に比し低額である、近隣地代は月坪五〇円前後であり、東京都内の継続賃料利回りは年額底地価格の0.6ないし1%程度であるから、本件改築に伴い、底地価格に対し年0.7%にあたる月坪三九円に増額するのが相当である。
四、当裁判所の判断
(一) 申立の許否
本件改築は土地の通常の利用上相当と認められ、他にこれを不当とすべき事情はないと認められる。相手方は前記のとおり、約定期間満了の際更新を拒絶すべき正当事由がある旨を主張するが、これをもつて本件改築を許さないとすることは相当でない。ところで、本件のように既存建物を全部とりこわし、新築する場合、改築許可の裁判により土地所有者は借地法第七条の異議を述べられなくなり同条の借地期間の法定更新を生ずると解し、或いは、同条の異議権が当然には失われないとしても、土地所有者が同条の異議を述べれば、同条の法定更新が生じないばかりではなく、改築前の建物が朽廃すべかりし時に借地権が確定的に消滅することとなるので、それでは改築許可の意味がなくなるから、全面改築を許可する場合は借地法七条の趣旨をくんで、附随処分において借地期間を延長するのが相当であると解する見解がある。これらの見解によれば、本件のような場合、相手方の一〇年後の更新拒絶期待権を保護するため本件改築を許さないとするか、改築を許す以上は相手方の更新拒絶の機会まで奪うほかはないとするか、いずれかしかないこととなる。しかし当裁判所は本件改築を許可しても附随処分において借地期間を延長しないかぎり相手方は借地法第七条の異議を述べる権利を失うものではなく、ただ同条の異議を述べても、改築前の建物が朽廃すべかりし時に確定的に借地権が消滅すると解すべきではなく、同条の法定更新を妨止する効果を有するにとどまるものと解する。したがつて相手方としては本件改築が許可されても、借地法七条の異議を述べれば、建物朽廃時期の延長は受忍すべきであるが、附随処分において借地期間が延長されないかぎり、更新拒絶による借地権消滅の期待権はそのまま留保すると解すべきである。よつて本件においては、相手方が前記のように主張しているので借地期間を延長することなく、本件改築を許可するのが相当である。
(二) 附随の処分
鑑定委員会の財産上の給付に関する意見は、本件改築許可にともない、借地期間が延長される場合を前提としているが、本件においては右のように、借地期間の延長はしないので、この点を考慮すると、財産上の給付額は、鑑定委員会の意見による本件借地の更地価格の約三%にあたる金一〇万円を相当と認める。賃料においては、本裁判確定の月の翌月から同意見のとおり増額することを相当と認める。
よつて主文のとおり決定する。(白石悦穂)
現存建物および改築の内容
一、現存建物木造瓦葺平家建店舗兼居宅36.36平方米
二、改築の内容
右建物をとりこわし、次の建物を新築する。
木造瓦葺モルタル塗二階建店舗兼居宅一、二階とも各38.17平方米 以上