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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)167号 判決 1970年10月01日

東京都中野区本町五丁目二〇番地九

原告

多田弘男

同区中野四丁目九番地一五

被告

中野税務署長

神山貞一

右指定代理人

小川英長

高林進

山口憲弥

村山文彦

右当事者間の標記事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告が原告に対しその昭和四〇年分所得税の確定申告について昭和四三年一〇月一五日付でした更正処分中、税額が金一八万一四三〇円を超える部分および重加算税の賦課決定処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告

主文と同旨の判決

二、被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二、原告主張の請求原因

一、原告は昭和四一年三月一一日所轄の豊能税務署長に対し昭和四〇年分の所得税につき所得金額を金一八八万四一八六円、税額を金一八万一四三〇円とする確定申告をしたところ、同税務署長は昭和四三年一〇月一五日その所得金額 を 金三〇八万四一八六円、税額を金五四万七一三〇円と更正し、かつ金一〇万九五〇〇円の重加算税の賦課決定をした。

二、しかし、右更正処分のうち右申告額を超える部分および重加算税賦課決定処分には違法なかしがあるので、原告は昭和四三年一〇月二一日同税務署長に対し異議を申立てたが、これを東京国税局長に対する審査請求とみなされ、昭和四四年六月五日同局長からこれを棄却する旨を裁決され、同月一一日付の右裁決書謄本の送達を受けた。

三、なお、原告の納税地を管轄する税務署長は原告の居住地が変更したため昭和四一年一月二四日被告となつた。

四、よつて、被告を相手方として右更正処分のうち右申告額を超える部分および重加算税賦加決定処分の取消しを求めるため本訴請求に及んだ。

第三、被告の主張

一、原告主張の請求原因事実は原告主張の各処分にかしがあることを除きすべて認める。

二、(抗弁)

右各処分は次の根拠によるものであつて、適法である。

(一)  原告は昭和四〇年三月二一日その所有の酒田市米屋町五八番宅地四四八・一三平方米を株式会社まるいち(その後丸市商事株式会社と商号を変更した。以下、「まるいち」という。)に代金五四〇万円で売却したのに、昭和四〇年分の所得税につき昭和四一年三月一一日所轄の豊能税務署長に対し右代金額を三〇〇万円であるとして次表のように確定申告をした。しかし、右署長は調査の結果、原告が右代金として、まるいちから五四〇万円を受領したことが判明したので、原告の右申告を次表のように更正し、かつ、これに対応して重加算税を賦課したものである。

<省略>

(二)  なお、原告がまるいちから売買代金として、五四〇万円を受領した経過はつぎのとおりである。すなわち

1 まるいちは昭和四〇年三月二五日右代金のうち二四〇万円、仲介手数料一五万円および売買に関する雑費二万二四〇〇円の合計二五七万二四〇〇円を荘内銀行浜町支店の当座預金口座から荘内銀行酒田支店および大和銀行本店経由で原告の大和銀行豊中支店における普通預金口座に送金し、原告はそのうち二四〇万円を受領した。

2 ついで、まるいちの代表取締役丸市幸雄は同年四月八日右代金残の支払のため荘内銀行浜町支店長振出、額面三〇〇万円の小切手(小切手番号BO五三八八)を原告に交付した。

第四、原告の主張

被告主張の抗弁事実中、(一)の事実は被告主張の売買代金が五四〇万円であつた点を除き、すべて認める。右代金は三〇〇万円であつた。(二)の事実は1および2の点を認めるほかは否認する。原告は昭和四〇年四月八日まるいち代表取締役丸市幸雄に対し右代金を超える二五〇万円を返還し、右代金としては結局三〇〇万円の支払を受けたにすぎない。

第五、証拠関係

一、原告

甲第一ないし第三号証を提出し、証人谷田憲一、三宅実蔵、丸市幸雄の各証言を援用し、乙第三号証の成立を認め、その余の乙号各証の成立は知らないと答えた。

二、被告

乙第一ないし第四号証を提出し、証人丸市幸雄の証言を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

前掲請求原因の一ないし三の事実および抗弁の(一)の事実のうち、売買代金が五四〇万円であつた点を除くその余の部分はいずれも当事者間に争いがない。したがつて、争点は結局、原告がまるいちとの間で合意し、かつ投受した土地の売買代金の額が被告主張のように五四〇万円であつたか、原告主張のように三〇〇万円であつたかに尽きるので、以下この点について判断する。

まるいちが昭和四〇年三月二五日土地の買受代金のうち二四〇万円、仲介手数料一五万円、雑費二万二四〇〇円の合計金二五七万二四〇〇円を銀行間送金の方法により原告の銀行口座に送金し、原告がそのうち金二四〇万円を受領したこと、まるいちの代表取締役丸市幸雄が同年四月八日右代金残の支払のため銀行振出の額面三〇〇万円の小切手を原告に交付したことは当事者間に争いがない。そして、証人丸市幸雄の証言およびこれによつて真正に成立したものと認める乙第四号証の記載中には、原告がまるいちとの間で締結した土地の売買契約における代金額の約定は五四〇万円であり、右代金の支払は前記認定の銀行間送金の方法による送金および銀行小切手の交付によつてなされた旨ならびにその売買契約書(甲第一号証)に代金額として三〇〇万円とあるのは原告の要望により記入されたものであつて、事実に相違し、またまるいちは原告の要望に従い右契約書記載の代金額と実際の約定代金額との差額二四〇万円については表面に出さず、もしこれに課税されたならば、まるいちが負担すべき旨の記載がある念書を原告に差入れた旨の供述または記載があるけれども、右供述および記載部分は後顕証拠に照してたやすく措信することができないのみならず、成立に争いのない甲第一ないし第三号証、乙第三号証、証人丸市幸雄の証言により真正に成立したものと認める乙第一、第二号証、証人三宅実蔵、谷田憲一の各証言および弁論の全趣旨を綜合すれば、かえつて、原告は谷田憲一の仲介で昭和四〇年三月二一日酒田市内の所有地を同市で営業中のまるいちに代金を三〇〇万円とし同年四月一〇日までに持参または送金して支払う約定のもとに売渡したこと、そして、まるいちは右約定に従い前記認定のように銀行間送金の方法により原告の銀行口座に代金のうち金として二四〇万円(仲介手数料等を併せると二五七万二四〇〇円)を送付し、ついで、代表取締役丸市幸雄において前記認定のように代金残支払のため銀行振出の額面三〇〇万円の小切手を原告に交付したものであるが、原告は右代金残としては六〇万円の支払を受ければ足りたところから、その受領に先立ち、これを再三拒んだのに、丸市から早急に現金を必要とする事情があるとして、右小切手の受領と引きかえに釣銭の交付を要求されたので、金策の末、同人に現金二四〇万円を返還すると同時に、同人から右小切手を受領したうえ、同人との話合いで右小切手の授受により売買代金全額の支払いがなされたこととし、その旨の領収証(乙第三号証)を作成して同人に交付したものであることが認められる。

したがつて、まるいちと原告との間で合意され、かつ授受された土地の売買代金は被告主張のように五四〇万円ではなく、原告主張のように三〇〇万円であつたといわなければならない。

そうだとすれば、豊能税務署長が原告に対してなした本件所得税確定申告の更正および重加算税賦課決定の各処分はいずれも違法たるを免れないから、その管轄を引継いだ被告との間において右更正処分につき申告額を超える限度でその取消しを求め、また重加算税賦課決定処分の取消しを求める原告の本訴請求はすべて正当として認容すべきである。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用したうえ、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 駒田駿太郎 裁判官 小木曾競 裁判官 山下薫)

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