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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)179号 判決 1975年6月24日

東京都新宿区北新宿二丁目四番三四号

原告

玄永照

右訴訟代理人弁護士

小沢茂

同区北新宿一丁目一九番三号

被告

淀橋税務署長

右訴訟代理人弁護士

新井且幸

右指定代理人

佐々木宏中

門井章

桑名道男

主文

1  原告の昭和三九年分及び同四〇年分の所得税について、被告が昭和四二年一一月一五日にした更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち、昭和三九年分については総所得金額一一四万六、〇二七円をこえる部分、昭和四〇年分については同二二四万〇、一七〇円をこえる部分をそれぞれ取り消す。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負但とし、その余を被告の負但とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告の昭和三九年ないし同四一年分の所得税について、被告が同四二年一一月一五日にした更正及び過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負但とする。

との判決

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負但とする。

との判決

第二原告の請求の原因

一  本件処分の経緯

原告は、東京都新宿区西新宿一丁目三番三号榎本ビル内において、「京園」の商号で朝鮮料理業を、また、同町二丁目七三七番地において、「パンチ」の商号でバー(昭和四一年に開業したが、当初の商号は、「小田急パンチ」であつた。)を経営するいわゆる白色申告者であるが、昭和三九年分ないし同四一年分(以下、右の各半年分を「係争年分」と総称する。)の所得税について、原告のした確定申告、被告のした更正及び過少申告加算税賦課決定(以下、被告のこれらの処分を「本件各処分」という。)並びに不服審査の経緯は、別表一の(一)ないし(三)記載のとおりである。

二  本件各処分の違法事由

原告の係争年分の総所得金額は、前記各申告額をこえるものではないから、係争年分の所得税についてされた前記各更正は、所得を過大に認定した違法があり、したがつてそれに附帯してされた過少申告加算税の賦課決定も違法である。

よつて、被告に対し、本件各処分(審査請求についての裁決により取り消された部分を除く。)の取消しを求める。

第三請求の原因に対する被告の認否

請求の原因一の事実は認めるが、同二の主張事実は争う。

第四被告の主張

原告の係争年分の各総所得金額は、以下のとおり、いずれも本件各処分に係る総所得金額のうち裁決により維持された部分をこえるから、本件各処分に違法はない。

一  推計の必要性

被告の係官が、昭和四二年四月三日から原告の係争年分の所得税にかかる調査に着手したところ、原告は、売上げがすべて現金売上げであるにもかかわらず、現金出納帳はもとより、営業の実績を明らかにすべき帳簿を何一つ備え付けておらず、また、仕入れ及び経費にかかる領収書等の原始記録もほとんど保存していなかつた。

すなわち、原告の申立てによれば、「帳簿書類は、全部、組合(北朝鮮総連新宿商工会)の方にある。」とのことであつたが、被告は、原告及び右組合の羅某に対したびたび要請したにもかかわらず、帳簿類の提示がなかつた。また、売上げについては、金銭登録機を使用していたにもかかわらず、レジペーパーを始め関係書類は、その都度焼却してしまうとの申立てであつた。そこで、被告の係官は原告に仕入先を尋ねたところ、「酒は戸塚町の佐々木酒店であり、肉、野菜等は方々に電話して安い所から現金で仕入れているので一定していない。」との具体性のない応答しか得られなかつたため、係官は実額による所得金額の把握は不可能と認め、推計により原告の係争年分の総所得金額を算定した。

二  事業所得金額の算出

1  計算根拠

(一) 売上金額

昭和三九年分 朝鮮料理業 二、六七五万五、九〇〇円

同 四〇年分 朝鮮料理業 三、一八〇万九、六一〇円

同 四一年分 朝鮮料理業 三、二九五万四、〇八〇円

バー 四、四〇五万〇、四九〇円

その計算方法は、以下のとおりである。

(1) 商品別仕入数量

酒類及び肉類の仕入数量は、別表二及び同三の(一)ないし(三)記載のとおりである。

右数量は、酒類については原告の申し出た仕入先を、肉類については被告が銀行調査により把握した仕入先をそれぞれ反面調査した結果(一部につき推計を用いて)判明したものである。

(2) 売上げに供する仕入肉類の歩留り

別表四の被告主張額欄記載のとおりである。

(3) 売上げに供する商品別各単位の容量

原告において売上げに供する商品別各単位の容量とその算定根拠は、次のとおりである。

<1> 日本酒

日本酒一・八リツトルから取れる銚子の本数は、一四本とした。すなわち、被告において原告方で用いる銚子の容量をかんつきの日本酒により実測したところ、一〇五CCであつた。したがつて、日本酒一・八リツトルから取れる銚子の本数は、一七本程度と計算されるが、目減り等を考慮して一四本とした。

<2> 焼肉料理に供する肉類一人前の重量

別表五記載のとおりである。

被告のした実測及び原告の申立てにより確認したところに基づいた。

(4) 売上げに供する商品別単価

別表六記載のとおりである。

原告備付けの定価表(メニユー)及び定価表の保存されていない分については、原告の申立てに基づいた。

(5) 商品別売上金額の計算

<1> 酒類売上金額(朝鮮料理業)

昭和三九年分 六四四万七、六二〇円

同 四〇年分 四七二万八、二六〇円

同 四一年分 四九四万三、三〇〇円

右(1)、(3)及び(4)に基づいて、別表七の(一)ないし(三)記載のとおり計算した。

<2> 焼肉料理売上金額(朝鮮料理業)

昭和三九年分 一、二二二万八、〇〇〇円

同 四〇年分 一、七四七万四、八五〇円

同 四一年分 一、八〇五万八、六五〇円

右(1)ないし(4)に基づいて、別表八の(一)ないし(三)記載のとおり計算した。

<3> バーのビール売上金額

昭和四一年分 一、二八二万三、一〇〇円

本件調査中、原告から提示を受けたバーの昭和四二年九月一三日から同月一九日までの一週間分の売上伝票(その明細は、別表九の(三)記載のとおり)によれば、右期間のビールの売上本数は八二一本であり、そのうち、安売り(一本一三〇円。ただし、昭和四一年当時は一〇〇円)となる午後五時の開店から午後七時まで売上本数(以下「安売り分」という。)は二四四本であり、通常価額(一本二〇〇円)で販売される午後七時以降の売上本数(以下「通常価額販売分」という。)は五七七本であると区分され、したがつて右の本数の割合は、安売り分は二九・七パーセント、通常価額販売分は七〇・三パーセントと認められる。

そこで、右割合により、昭和四一年分のバーのビール仕入本数八万〇、〇一六本を、安売り分と通常価額販売分とに区分すれば、次のとおりとなる。

安売り分 二万三、七六五本

(仕入本数八万〇、〇一六本×ビール売上本数のうちに占める安売り分の割合二九・七パーセント)

通常価額販売分 五万六、二五一本

(仕入本数分八万〇、〇一六本-安売り分二万三、七六五本)

しかし、原告は、バー開業当初(昭和四一年の初め。原告の申立てによれば、二、三か月間)、午後五時の開店から午後八時までビールを安売りしていた事実が認められた。けれども、安売りの時間をどの時期まで午後八時までとしていたのか、原告自身、その年月日について全く記録も記憶もない状態であつたため、被告は、昭和四一年中は午後八時までビールの安売りがあつたものとして、右計算に基づく通常価額販売分五万六、二五一本のうち、その七分の一(午後七時から閉店の午前二時までを等分したうちの一時間分)の八、〇三六本は、安売り分であるとして、次のとおり計算した。

安売り分 三万一、八〇一本

(二万三、七六五本+八、〇三六本)

通常価額販売分 四万八、二一五本

(仕入本数八万〇、〇一六本-安売り分三万一、八〇一本)

したがつて、右の区分された本数に各単価(安売り一〇〇円。通常価額二〇〇円)を乗じたものの合計額である一、二八二万三、一〇〇円が、バーの昭和四一年分のビール売上金額となる。

(6) 朝鮮料理業の売上金額のうちに占める酒類及び焼肉料理の売上金額の割合六九・八パーセント

本件調査中、原告から提示を受けた朝鮮料理業の昭和四三年八月一二日から同月一八日までの一週間分の売上伝票(その明細は、別表九の(一)記載のとおり)によれば、右期間の売上金額のうちに占める酒類及び焼肉料理の売上金額の割合は、別表九の(二)記載の計算のとおり六九・八パーセントとなるので、被告は、該割合を朝鮮料理業についての係争年分の割合として採用した。

(7) バーの売上金額のうちに占めるビールの売上金額の割合二九・一一パーセント

(6)と同様に、原告から提示を受けたバーの昭和四二年九月一三日から同月一九日までの一週間分の売上伝票(その明細は、別表九の(三)記載のとおり)によると、右期間の売上金額のうちに占めるビールの売上金額の割合は、別表九の(四)記載のとおり二九・一一パーセントとなるので、被告は、該割合をバーの昭和四一年分の割合として採用した。

(8) 売上金額の計算

<1> 朝鮮料理業の売上金額

昭和三九年分 二、六七五万五、九〇〇円

同 四〇年分 三、一八〇万九、六一〇円

同 四一年分 三、二九五万四、〇八〇円

別表一〇の(一)記載のとおり計算した。

このような計算方法は、本件のように、原告において申告にかかる所得金額の計算根拠を明らかにすべき帳簿・書類その他一切の資料の保存がないような場合には、調査して把握することのできた酒類及び肉類の売上金額並びに年分が異なるとはいえ原告の売上実績を示す右の割合を基礎としているから、取扱商品の割合にかかる原告の事業の個別性を考慮した合理的な計算方法ということができる。

<2> バー売上金額

昭和四一年分 四、四〇五万〇、四九〇円

最も基本的な商品と認められるビールの売上金額を基礎として、別表一〇の(二)記載のとおり計算した。

(二) 算出所得金額

昭和三九年分 朝鮮料理業 九〇三万五、四六七円

同 四〇年分 朝鮮料理業 一、〇九二万〇、二三九円

同 四一年分 朝鮮料理業 一、一一四万一、七七四円

バー 二、六五八万〇、〇六五円

右(一)の売上金額に、被告税務署管内における原告の事業と同業種の多数の個人納税者の次のとおりの平均所得率(売上金額に対する所得金額の割合)を適用して算出した。

昭和三九年分 朝鮮料理業 三三・七七パーセント

同 四〇年分 朝鮮料理業 三四・三三パーセント

同 四一年分 朝鮮料理業 三三・八一パーセント

バー 六〇・三四パーセント

そして、売上金額と右算出所得金額との差額を、売上原価及び一般経費と認めた(以上の計算内訳は、別表一一記載のとおり)。

(三) バーにおける雑収入 七六万一、九二七円

(1) 原告からバーにおける雑収入として、委託電話収入一六万六、九八八円、ジユークボツクス収入五八万一、〇五〇円合計七四万八、〇三八円の申立てがあつたので、被告は右雑収入に関連する経費として、次のものを認容して、これを右の合計額から控除して得た二六万一、九二七円を雑収入と認めた。

<1> 電話料 一一万六、八九一円

電話料原価として一通話七円を認めた(一六万六、九八八円×七〇パーセント)。

<2> レコード代 七万四、〇二〇円

<3> ジユークボツクス減価償却費 二九万五、二〇〇円

(2) 原告は、バー開業当初、「小田急パンチ」という商号を使用したため、訴外小田急観光株式会社との間に訴訟が生じ、昭和四一年二月一五日、東京地方裁判所で右表示使用禁止の仮処分決定がされた(東京地方裁判所昭和四一年(ヨ)第二五〇八号)。しかしながら、同日、右小田急観光株式会社との間に和解が成立し、原告は、同社から五〇万円の示談金を受領した。この五〇万円の金員は、当然原告の雑収入とされるべきである。したがつて、(1)(2)を合計すると、バーの雑収入は、七六万一、九二七円となる。

(四) 雇人費

(1) 朝鮮料理業

昭和三九年分 四二〇万〇、六七〇円

同 四〇年分 四九九万四、一〇〇円

同 四一年分 五一八万一、八四〇円

(2) バー(昭和四一年分)九六八万二、一二〇円

原告から提示された一部の給料支給明細資料により推計した。

(五) 地代家賃(朝鮮料理業)

昭和三九年分 八九万一、〇〇〇円

同 四〇年分 一五三万一、六〇〇円

同 四一年分 一七〇万四、一六〇円

(六) 建物減価償却費(バー)

昭和四一年分 四二万五、三八五円

(七) 借入金利息(バー)

昭和四一年分 四〇九万二、〇九八円

いずれも、原告の申立て額に、調査により把握した額を加えて算定した。

(八) 事業専従者控除額(朝鮮料理業)

昭和三九年分 八万六、三〇〇円

同 四〇年分 一一万二、五〇〇円

2  計算方法

以上の計算根拠に基づいて、別表一二の(一)ないし(三)記載のとおり計算すると、原告の係争年分の各事業所得金額は、昭和三九年分三八五万七、四九七円、同四〇年分四二八万二、〇三九円、同四一年分一、七三九万八、一六三円となる。

第五、被告の主張に対する原告の認否

一、被告の主張一について

被告の原告に対する所得税調査に際し、原告が、「帳簿書類は、全部、在日本朝鮮人新宿商工会の方にある。」と答えたことは認めるが、被告が右商工会の羅某に原告の帳簿書類の提示を求めた事実は知らない。その余の事実は否認する。

帳簿書類等の資料は、右商工会に保管されていたし、また、原告は被告の係官に対し、仕入先である酒店及び肉店を教えた。したがつて、原告の係争年分の所得金額を実額で把握することは可能であつたから、推計により総所得金額を算定することは許されない。

二、同二の1の(一)について

頭書の売上金額は争う。(1)の商品別仕入数量、(2)のうちミノとハツの歩留り、(3)の<2>の焼肉料理に供する肉類一人前の重量、(4)のうち朝鮮料理業の売上げに供する商品別単価、(5)の<3>のうちバーの昭和四二年九月一三日から同月一九日までの一週間分の売上伝票を提示したこと及びこれによれば右期間のビールの売上本数は八二一本であり、うち安売り分が二四四本、通常価額販売分が五七七本であること、(6)のうち朝鮮料理業の昭和四三年八月一二日から同月一八日までの一週間分の売上伝票を提示したこと及びこれによると右期間の売上金額のうちに占める酒類及び焼肉料理の売上金額の割合が六九・八パーセントと認められること、及び(7)のうち、提示したバーの昭和四二年九月一三日から同月一九日までの一週間分の売上伝票によれば、右期間の売上金額のうちに占めるビールの売上金額の割合が二九・一一パーセントであることは認めるが、その余の主張事実は争う。

三、同二の1の(二)の主張事実は争う。

四、同二の1の(三)について

(1)の委託電話及びジユークボツクスにかかる収入が二六万一、九二七円であること、(2)のうち、原告と小田急観光株式会社との間に被告主張の紛争があり、原告は、同社との間の訴訟にかかる示談金として五〇万円を受領したことは認めるが、その余の主張事実は争う。右五〇万円は、一時所得として計上されるべきである。

五、同二の1の(四)の雇人費、(五)のうちの昭和三九年分及び同四〇年分の地代家賃、(六)の建物減価償却費、(七)の借入金利息の支払いがあつたこと並びに(八)の事業専従者控除額は認めるが、(五)のうちの昭和四一年分の地代家賃は争う。

六、同二の2の主張事実は争う。

第六、原告の反論

係争年分の事業所得金額の算出について、原告は、被告の主張に対応して次のとおり主張する。

一、計算根拠

1  売上金額

昭和三九年分 朝鮮料理業 二、四一二万九、九二八円

同 四〇年分 朝鮮料理業 二、八二〇万七、七〇七円

同 四一年分 朝鮮料理業 二、九〇七万九、五五七円

バー 二、五九九万二、三六〇円

現実の売上金額は、以下に述べる理由により、右の主張額を大幅に下回るのであるが、具体的に算定することが困難なので、部分的に被告の主張を計算のために便宜採用して右の主張額を算定した。したがつて、右の主張額は、あくまで試算の結果にすぎない。

(一) 商品別仕入数量

酒類及び肉類の仕入数量は、被告主張のとおりである。(被告の主張二の1の(一)の(1)参照)。

(二) 売上げに供する仕入肉類の歩留り

別表四の原告主張額欄記載のとおりである。

原告主張額は、長年の調理実績に基づくものであるのに対し、被告主張額は、ミノとハツについての一回の調理実績に基づくものにすぎない。

(三) 商品別売上数量

(1) 酒類の売上数量

別表一三記載のとおりであるが、これは試算の結果にすぎず、把握することの困難な従業員の取扱上の不注意によるびんの破損分及び認められた量をこえる従業員の飲用分を考慮すると、実際の売上数量は、右の数量を下回る。

売上数量の算出根拠は、次のとおりである。

<1> ビールの売上数量の算出根拠

原告は、ビールの仕入数量のすべてを売上げに供していたわけではなく、そのうちから同業者の開店祝、親戚知人の冠婚葬祭等のための贈答用及び閉店後の飲用に供していた。すなわち、昭和三九年分、同四〇年分については、贈答用として毎月一二本、従業員の飲用として一日四本を供し、同四一年分の朝鮮料理業については従業員の飲用として一日四本、同じくバーについては贈答用として毎月一八本従業員の飲用として一日六本及び支配人(総支配人一人及び各階別の支配人四人)の自由に任せているサービス用として一日二四本を供していた。なお、バーについては、在庫整理の際に一〇〇本以上の不足を発見したことが二回程あつた。営業日数は、営業を休むことがほとんどなかつたので、年間を通じて一か月に三〇日間営業したとして計算するのが相当である。してみると、原告が売上げに供さなかつたビールの数量は、昭和三九年分は一、五八四本、同四〇年は一、五八四本、同四一年分の朝鮮料理業は一、四四〇本となる。同四一年分のバーについては、前叙の事情のほかに、開業当初、ビール一本無料サービス券を駅頭、街頭及び映画館において多数配布し、右の券の持参者にビール一本を無料サービスしたことがあり、これに供した本数は不明であることから、バーにおける売上げに供しなかつたビールの数量を把握することはできない。

したがつて、右の売上げに供しなかつた数量を、仕入数量から差し引いたものが、ビールの売上数量となる。

<2> 日本酒(一・八リツトル入り)の売上数量の算出根拠

原告は、日本酒(一・八リツトル入り。以下同じ)の仕入数量のすべてを売上げに供していたわけではなく、そのうちから同業者の開店祝、親戚知人の冠婚葬祭等のための贈答用として、毎月日本酒一級三本を供していた。してみると、原告が売上げに供さなかつた日本酒一級の数量は、係争年分いずれも三六本となる。

したがつて、右の売上げに供しなかつた数量を、仕入数量から差し引いたものが、日本酒の売上数量となる。

(2) 肉類の売上数量

別表一四記載のとおりであるが、これは試算の結果にすぎず、把握することの困難な消費量、すなわち、廃棄する直前のもの、注文の間違い、調理の仕損じによるものを従業員の食用に供した分及び認められた量をこえる従業員の食用分を考慮すると、実際の売上数量は、右の数量を下回る。

売上数量の算出根拠は、次のとおりである。すなわち、昭和三九年分及び同四〇年分においては、毎月二回、従業員一五人がロースとカルピの焼肉料理二品を食用に供することを認め、同四一年分においては、毎月三回、従業員一五人がロースとカルピの焼肉料理二品を食用に供することを認めていた。したがつて、従業員の食用に供するロースとカルピの各数量は、昭和三九年分及び同四〇年分は、いずれも各四六・八キログラムであり、同四一年分は、いずれも七〇・二キログラムである。

以上によると、肉類の売上数量は、仕入数量に歩留りを乗じたものから、右の従業員の食用分を差し引いたものとなる。

(四) 売上げに供する商品別各単位の容量

(1) 日本酒

日本酒一・八リツトルから取れる銚子の本数は、七勺(一二六CC)入りの銚子を使用していたこと及び銚子に入れる際の漏失があることから、一三本であつた。

(2) 焼肉料理に供する肉類一人前の重量

被告主張のとおりである。(被告の主張二の1の(一)の(3)の<2>参照)。

(五) 売上げに供する商品別単価

朝鮮料理業の売上げに供する商品別単価は、被告主張のとおりである(被告の主張二の1の(一)の(4)参照)。

昭和四一年分のバーの売上げに供するビールの単価は、開業当初の三か月間は、午後五時の開店から午後八時まで一本五〇円、それ以後は一本一〇〇円であつた。三か月経過後は、午後八時まで一本一〇〇円、それ以後は一本一五〇円で販売し、この価格は昭和四一年末まで維持された。

(六) 商品別売上金額の計算

(1) 酒類売上金額(朝鮮料理業)

昭和三九年分 六〇六万三、一九〇円

同 四〇年分 四三四万〇、二三〇円

同 四一年分 四五七万二、五五〇円

右(三)ないし(五)に基づいて、別表一五の(一)ないし(三)記載のとおり計算した。

(2) 焼肉料理売上金額(朝鮮料理業)

昭和三九年分 一、〇七七万九、五〇〇円

同 四〇年分 一、五三四万八、七五〇円

同 四一年分 一、五七二万五、〇〇〇円

右(三)ないし(五)に基づいて、別表一六の(一)ないし(三)記載のとおり計算した。

(七) 朝鮮料理業の売上金額のうちに占める酒類及び焼肉料理の売上金額の割合

朝鮮料理業の昭和四三年八月一二日から同月一八日までの一週間の売上金額のうちに占める酒類及び焼肉料理の売上金額の割合が、六九・八パーセントであることは、被告主張のとおりである(被告の主張二の1の(一)の(6)参照)。

しかし、右の割合を、係争年分の割合とすることは、年分が異なること及び夏期の一週間の割合にすぎないことから合理的といい難い。

したがつて、被告主張の割合は、係争年分の割合として不適当ではあるが、他にそれを求めることもできないので、被告の主張に対応して係争年分の所得金額を算出するため、便宜的に右の割合を採用する。

(八) 係争年分の売上金額

(1) 朝鮮料理業の売上金額

昭和三九年分 二、四一二万九、九二八円

同 四〇年分 二、八二〇万七、七〇七円

同 四一年分 二、九〇七万九、五五七円

別表一七の(一)記載のとおり計算した。

(2) バーの売上金額

昭和四一年分 二、五九九万二、三六〇円

前叙のように、バーにおいて売上げに供したビールの数量を把握することができないから、被告主張の計算方法でバーの売上金額を算定することはできない。

そこで、バーの営業実績が昭和四一年と同四二年とにおいてほとんど変化がなかつたことから、前叙の原告が提示したバーの昭和四二年九月一三日から同月一九日までの一週間分の売上伝票から、一日平均売上金額を求め、これに年間営業日数三六〇日を乗じて得た額をバーの昭和四一年分の売上金額とすることができる。以上の計算内訳は、別表一七の(二)記載のとおりである。

2  算出所得金額

昭和三九年分 朝鮮料理業 七二三万八、九七八円

同 四〇年分 朝鮮料理業 八四六万二、三一二円

同 四一年分 朝鮮料理業 八七二万三、八六七円

バー 八五二万一、九三五円

被告の主張する係争年分の朝鮮料理業及びバーの平均所得率を原告に適用して所得金額を算出することは相当ではない。すなわち、朝鮮料理業については、原告の係争年分の所得率は三〇パーセント以下であつたし、バーについては、とかく出費の多い開業した年を通常の年分と同様に取り扱うことは許されないし、実際、バーの営業は不振で毎年欠損を出しており、窮余の一策として昭和四四年春頃「源平」と商号を変更したが、結局同年夏頃業績不良のため廃業したのである。

したがつて、朝鮮料理業の所得金額は、右1の売上金額に所得率三〇パーセントを適用して算主し、これと売上金額との差額を、売上原価及び一般経費とした(以上の計算内訳は、別表一八記載のとおり)。バーについては、前叙のように適当な所得率がないから、売上金額二、五九九万二、三六〇円から、被告主張の売上原価及び一般経費一、七四七万〇、四二五円を便宜採用して、これを差し引いて得た八五二万一、九三五円を算出所得金額とする。

3  バーにおける雑収入

(一) 委託電話及びジユークボツクスにかかる収入

被告主張のとおりである(被告の主張二の1の(三)の(1)参照)。

(二) 小田急観光株式会社からの示談金について

右示談金として五〇万円を受領したが、原告は、同社との訴訟事件につき弁護士二名に訴訟代理を依頼して手数料及び報酬を支払い、また、右事件の仮処分のために、執行官から当時の商号であつた「小田急パンチ」の表示のあるチラシ、マツチ及び伝票を持ち去られ、看板(店の前に二個、離れた場所に二個)の「小田急」と表示した部分はペンキで抹消されたので、チラシ、マツチ、伝票及び看板を作り直してその費用を支払つた。そして、弁護士に対して支払つた金額と、右の作り直しの費用とを合計すると五〇万円をこえるのであるから、右の示談金五〇万円を収入として計上することは許されない。

4  雇人費

(一) 朝鮮料理業

被告主張のとおりである(被告の主張二の1の(四)の(1)参照)。

(二) バー

被告主張のとおりである(被告の主張二の1の(四)の(2)参照)。

5  地代家賃(朝鮮料理業)

昭和三九年分 被告主張のとおり(被告の主張二の1の(五)参照)。

同 四〇年分 被告主張のとおり(被告の主張二の1の(五)参照)。

同 四一年 二〇三万四、六〇〇円

6  建物減価償却費(バー)

昭和四一年分 被告主張のとおり(被告の主張二の1の(六)参照)。

7  宣伝広告費(バー)

昭和四一年分 約三六〇万円

バーの立地条件が不良であつたので、その宣伝広告としてステ看、チラシ及びアドバルーンを使用した。これらの費用として約三六〇万円を支出した。

8  事業専従者控除額(朝鮮料理業)

被告主張のとおりである(被告の主張二の1の(八)参照)。

9  借入金利息

昭和三九年分 四三九万一、四〇〇円

同 四〇年分 四〇五万〇、五〇〇円

同 四一年分 七一一万四、九四五円

原告は、次に述べるとおり借入金を事業に投資し、係争年分においてその利息を支払つた。

原告は、右の借入金利息支払いの事実を、第二一回口頭弁論期日である昭和四八年六月二六日に初めて主張したが、このように主張が遅れたのは、原告において、右主張をすることにより借入先に迷惑をかけることを恐れていたこと及び借入金利息の支払いが経費となることを充分に理解していなかつたため、原告代理人が原告本人尋問の準備として原告に質問した際、初めて真相を述べたからである。

したがつて、右主張が遅れたことにつき、原告に故意又は過失があるとはいえない。

(一) 借入金について

原告は、昭和三〇年から別表一九記載のとおり借入金を事業に投資してきた。

(二) 支払利息について

原告は、係争年分に右(一)の借入金の利息を別表二〇の(一)ないし(三)記載のとおり支払つた。

二、計算方法

右の計算根拠に基づいて、別表二一の(一)ないし(三)記載のとおり計算すると、原告の係争年分の各事業所得金額は、昭和三九年分△二三三万〇、四六二円(△は赤字を示す。以下同じ)、同四〇年分△二二二万六、三八八円、同四一年分△一、〇五三万一、一六一円となる。

第七、原告の反論に対する被告の答弁

一、原告の反論一の1の(三)の(1)について

仕入れた酒類を、贈答用、従業員の飲用、支配人のサービス用及び宣伝のための無料サービス用に供した事実は不知ないし否認する。

仮に、右の事実が認められるとしても、それは、被告の計算にはなんら影響を及ぼすものではない。けだし、右の事実は、たな卸資産の自家消費又は贈与等に該当するものであつて、その消費した時の価額に相当する金額が総収入金額に算入されるからである。そして、同業者の開店祝等に供されたものに対応する金額は交際費として、また、従業員の飲用に供されたものに対応する金額は、福利厚生費として、同業者比率に基づく売上原価及び一般経費に包含されて損金に算入している(従業員の食用に供された焼肉料理も同様である。)。さらに、親戚知人の冠婚葬祭等の贈答に供されたものは、原告の家事費ないし家事関連費に類するものとして損金に算入されないのである。

二、同一の1の(四)の(1)について

原告主張のように、日本酒一・八リツトルから七勺入りの銚子が一三本しか取れないとすると、原告は日本酒一・八リツトルから九勺もの漏失をすることとなり、合理的な商人としての常識に反しているといわねばならない。

三、同一の1の(五)について

原告主張の昭和四一年分のバーの売上げに供したビールの単価は、否認する。

四、同一の2について

バーが、昭和四四年春頃「源平」と商号を変更したこと及び同年夏頃廃業したことは認めるが、その営業が不振で毎年欠損を出していたことは争う。

五、同一の3の(二)について

弁護士に対する支払い及び看板等の取替料は知らない。

六、同一の7の事実は知らない。

七、同一の9について

原告主張の借入金利息の支払いの事実は、原処分時及び不服申立時において何ら主張されることなく、本訴第二一回口頭弁論期日である昭和四八年六月二六日に至け突如として主張されたものであるから、時機に遅れた攻撃防禦方法として排斥されるべきである。

右主張の認否は、次のとおりである。

(一)借入金について

別表一九の<1>ないし<11>記載の事実は知らない。ただし、原告が朝鮮料理業の店舗として榎本ビルを賃借し、保証金四〇〇万円を支払つたことは認める。

<12>ないし<15>記載の事実のうち使途を除くその余の事実は認める。ただし、原告が東京都新宿区角筈二丁目七三七番地(現在の表示、同区西新宿一丁目四番地三四)所在の土地を取得したことは認める。

<16>記載の事実は知らない。

<17>記載の事実のうち利率及び使途を除くその余の事実は認める。<18>及び<19>記載の事実のうち使途を除くその余の事実は認める。ただし、原告が東京都新宿区角筈二丁目七三七番地(現在の表示、同区西新宿一丁目四番地三四)所在の家屋番号四番三四の建物を取得したことは認める。

<20>及び<21>記載の事実は知らない。

(二)  支払利息について

(1) 昭和三九年分

別表二〇の(一)の<1>記載の事実のうち朝銀に原告主張額を支払つたことは認めるが、これが同年分の経費に当たることは争う。<2>記載の事実は知らない。<3>及び<4>記載の事実は否認する。

(2) 同四〇年分

別表二〇の(二)の(1)及び<2>記載の事実のうち朝銀及び平和信用組合にそれぞれ主張額を支払つたことは認めるが、これが同年分の経費に当たることは争う。<3>記載の事実のうち高英三に利息を支払つたことは認めるが、その額は借入金五〇〇万円に対する年一割五分の割合による二〇万一、三六九円であり、これが同年分の経費に当たることは争う。<4>記載の事実は知らない。<5>及び<6>記載の事実は否認する。

(3) 同四一年分

別表二〇の(三)の<1>、<2>及び<7>記載の事実は認める。<3>記載の事実のうち高英三に利息を支払つたことは認めるが、その額は借入金五〇〇万円に対する年一割五分の割合による七五万円であり、これが同年分の経費に当たることは争う。<4>記載の事実は知らない。<5>及び<6>記載の事実は否認する。

第八、 証拠

一、原告

1  甲第一、二号証の各一ないし三、第三号証、第四号証の一、二、第五ないし第八号証、第九号証の一ないし四、第一〇号証の一、二、第一一号証、第一二号証の一ないし三、第一三号証、第一四号証の一ないし四を提出。

2  証人玄承孝、同瀬戸川巽、同岡由起子、同西原こと韓公余、同宋英子の各証言及び原告本人の尋問の結果を援用。

3  乙イの第五号証、第六号証の一、二、ロの第五号証、第六号証の一、二、ハの第六号証、第七号証の一ないし三の成立は知らない。その余の乙号各証の成立は認める。

二、被告

1  乙イの第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、第七号証、乙ロの第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一、二、第七号証、乙ハの第一号証、第二号証の一、二、第三、四号証、第五号証の一、二、第六号証、第七号証の一ないし三、第八号証を提出。

2  証人萩谷修一、同江口武の各証言を援用。

3  甲第二号証の三、第四号証の一、二、第五、六号証、第九号証の二ないし四、第一二号証の二の成立は知らない。その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一、本件処分の経緯

請求の原因一の事実は、当事者間に争いがない。

二、推計の必要性

証人萩谷修一、同江口武の各証言によれば、被告係官の江口武(以下「江口係官」という。)は、原告の係争年分の所得税にかかる調査のために原告方に臨店して、原告に事業の関係帳簿書類及び原始記録の提示を求めたが、原告は、右帳簿書類等は在日本朝鮮人新宿商工会に保管してあると申し立てるのみでこれを提示しようとしなかつた(右申立ての点は当事者間に争いがない。)ので、同係官は右商工会に提示を求めたが何ら提示を受けなかつたこと及び本件処分に対する審査請求の審理において、これを担当した協議官萩谷修一(以下「萩谷協議官」という。)が原告に対して関係帳簿書類の提示を求めた際も、原告はこれに応じなかつたこと並びに原告は、右江口係官及び萩谷協議官に対して原始記録等は焼却済みであると申し立てたことが認められる。

右事実によると、原告は、その営業について収支を明らかにする何らの帳簿も備え付けておらず、また、原始記録を提示しないのであるから、原告の事業所得を実額で算定することは不可能であつたということができる。

したがつて、かかる場合に原告の事業所得を推計により算定することは当然であつて、何ら違法ではない。

三、事業所得金額の算出

1  売上金額

昭和三九年分 朝鮮料理業 二、六七五万五、九〇〇円

同 四〇年分 朝鮮料理業 三、一八〇万九、六一〇円

同 四一年分 朝鮮料理業 三、二九五万四、〇八〇円

バー 四、四〇五万〇、四九〇円

その認定の根拠は、以下説示するとおりである。

(一)  商品別仕入数量

酒類及び肉類の仕入数量が別表二及び同三の(一)ないし(三)記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(二)  肉類の歩留り

仕入肉類の歩留りのうち、ミノとハツについては、当事者間に争いがない。

証人萩谷修一の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙イの第五号証(同ロの第五号証、同ハの第六号証)によると、萩谷協議官は、原告の要請を受けて仕入肉類の調理に立ち会い、その際原告と一緒にその歩留りを算定したところ、カルピ及び付カルピを除くその余の仕入肉類の歩留りは、別表四の被告主張額欄記載のとおり求められたこと、カルピ及び付カルピについては、右調理の際、ほぼ原形のままの肉を使用したので、萩谷協議官は、原告の肉類の仕入先である有限会社三陽精肉店に問い合わせたところ、同精肉店から、原告へ卸しているカルピ及び付カルピは、原形のままの肉ではなくアブラや筋を取り去つたものであり、これを調理する際のロスは一割五分から二割であるとの回答を得たので、カルピ及び付カルピの歩留りを右の範囲内で原告に有利に八割と認めたことが認められる。これに反して、原告の朝鮮料理業の調理場の責任者であつた証人玄承孝は、右認定の歩留りを下回る率を供述するが、同供述は、萩谷協議官と原告が立ち会つて算定した歩留りとは異なり、厳密な算定に基づくものではなく、あくまで勘にすぎないと思われるから(同証人は、勘ではなく日々測定の結果に基づく額であると供述するがたやすく措信し難い。)にわかに措信することはできず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

右事実によると、萩谷協議官の認定した歩留りは、相当であるということができ、したがつて、仕入肉類の歩留りは、別表四の被告主張額欄記載のとおりと認められる。

(三)  原告の売上数量の主張について

原告は、酒類及び肉類の仕入数量のすべてが売上げに供されたわけではなく、贈答用、従業員の飲用及び食用並びにサービス用に供されたものがあるから、これらを控除したものが売上数量となると主張し、証人玄承孝、同瀬戸川巽、同岡由起子の各証言中にはこれにそう供述部分もあるが、これらの供述はいずれもおおよその数額を示すに止まつて具体性に欠け、しかも他に裏付けとなる何らの資料も提出されない以上、現実にそのとおりの数量があつたかどうかはにわかに信用することもできず、この程度の立証ではまだ原告主張のような仕入数量から控除されるべき数量があつたことを認めるには至らない。

(四)  売上げに供する商品別各単位の容量

(1) 日本酒

証人江口武の証言によると、原告の係争年分の所得税にかかる調査を担当した江口係官は、原告方(朝鮮料理業「京園」)において客に提供される日本酒銚子一本の容量を測定し、右容量の銚子が日本酒一・八リツトルから一七本取れることを把握したことが認められる。

右事実によれば、被告が目減り等を考慮して日本酒一・八リツトルから取れる銚子の本数を、一四本と認定したことは相当として是認することができる。これに反して、証人玄承孝は、右の漏失を考慮した本数は一二、三本であると供述するが、江口係官の把握した漏失を考慮しない本数一七本に対比して余りにも漏失が多く、にわかに措信することはできない。

(2) 焼肉料理に供する肉類一人前の重量

別表五記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(五)  売上げに供する商品別単価

(1) 朝鮮料理業

別表六のうち該当部分記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。

(2) バー

証人萩谷修一の証言によると、萩谷協議官は、昭和四一年中のバーのビールの売価を、原告の申立てに基づき通常は二〇〇円、サービス時間は一〇〇円であつたことを確認し、右のサービス時間については、更正時に収集された原告発行の「一〇〇円ビールは午後七時まで」との記載のある優待券と、審査請求時において同協議官が原告の酒類の仕入先である佐々木酒店で収集した原告発行の「一〇〇円ビールは午後八時まで」との記載のある優待券とを勘案したうえ、同年中は午後八時までサービス時間であつたと原告に有利に認定したことが認められる。

原告は、サービス時間並びにその時間の売価及び通常の売価について、開業当初の三か月間は、午後五時の開店から午後八時まで一本五〇円、それ以後は一本一〇〇円、であり三か月経過後は午後八時まで一本一〇〇円、それ以後は一本一五〇円であつたと主張し、証人瀬戸川巽、同岡由起子の各証言中には、それにそう供述部分があるが、一方、右証人瀬戸川巽の証言によると、ビール一本の仕入値は一〇〇円程度であることが認められ、この仕入値を右の売価と照し合わせると、原告は三か月もの間仕入値ないしは仕入値を下回る価格で、また、三か月経過後はサービス時間に仕入値で販売していたことになり、たとえ開業当初の客寄せのための特別の期間とはいつても、右のような著しく低廉な価格で販売することは健全な商人の常識に反しており、また、前掲証人萩谷修一の証言と対比してもにわかに信用することはできず、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

したがつて、被告がバーの売価につき午後五時の開店から午後八時まで一〇〇円、それ以後は二〇〇円と認定したことは相当であると是認しうる。

(六)  商品別売上金額の計算

(1) 酒類売上金額(朝鮮料理業)

昭和三九年分 六四四万七、六二〇円

同 四〇年分 四七二万八、二六〇円

同 四一年分 四九四万三、三〇〇円

本件弁論の全趣旨によれば、係争各年分において原告の営業の業態、規模には格別の変化のなかつたことが認められるから、期首及び期末のたな卸数量は同額であると推認するのが相当であり、したがつて、期中の仕入数量が売上げに供された材料の数量に等しいものと認められる。したがつて、仕入数量を基礎として、これに販売単価を乗じて売上金額を求める計算方法は合理的なものとして是認される。

以上によれば、原告の朝鮮料理業における酒類の売上金額の計算は、別表七の(一)ないし(三)記載のとおりであると認められる。

(2) 焼肉料理売上金額(朝鮮料理業)

昭和三九年分 一、二二二万八、〇〇〇円

同 四〇年分 一、七四七万四、八五〇円

同 四一年分 一、八〇五万八、六五〇円

肉類の仕入数量の歩留り分が売上げに供された材料の数量に等しいものとして売上金額を算定する方法は、右(1)の酒類売上金額の計算方法について述べたところと同様の理由で合理的なものとして是認しうる。

また、昭和四〇年分及び同四一年分においては、ミノに上と並の区別があるが、被告は右の区別の割合を把握する資料がないところから、これを各々五割としている。これに対し、原告は上二割、並八割と主張し、証人玄承孝の証言中には上一割、並九割であつたという供述部分があるけれども、同供述は算定して得た結果に基づくものとは認め難く、他に原告主張にそう証拠はない。してみると、右の割合を明らかにする資料がないのであるから、本件において一応各々五割として算定することも相当なものとして是認しうる。

したがつて、焼肉料理の売上金額の計算は、別表八の(一)ないし(三)記載のとおりであると認められる。

(3) バーのビール売上金額

昭和四一年分 一、二八二万三、一〇〇円

原告が被告に対しバーの昭和四二年九月一三日から同月一九日までの一週間分の売上伝票(その明細は、別表九の(三)記載のとおり)を提示したこと及びこれによれば、右期間のビールの売上本数は八二一本であり、うち安売り分は二四四本、通常価額販売分は五七七本であつたことは、当事者間に争いがなく、したがつて、安売り分と通常価額販売分の割合は二九・七パーセント及び七〇・三パーセントであつたと認められる。そして、昭和四一年と同四二年とにおいて、バーの業態、規模に格別の変化があつたことは本件全証拠によつても認められないから、この安売り分と通常価額販売分との割合を昭和四一年分の売上本数に適用して区分することも是認しうるものといわねばならず、また、仕入数量が売上数量に等しいと認めるべきことも、さきに説示したとおりである。してみると、昭和四一年分の安売り分は二万三、七六五本(仕入本数八万〇、〇一六本×二九・七パーセント)、通常価額販売分は五万六、二五一本(八万〇、〇一六本-二万三、七六五本)と算出される。しかし、昭和四二年は、安売りは午後七時までであつたのに対し、同四一年は前記(五)の(2)に判示したように午後八時までと認定したから、右の区分された本数を修正することが必要である。そのために、右の通常価額販売分五万六、二五一本のうち、その七分の一(午後五時から閉店の午前二時までを等分したうちの一時間分。閉店が午前二時であることを原告は格別争わない。)の八、〇三六本は、安売り分であるとして、安売り分二万三、七六五本に加算することも相当なものとして認められる。したがつて、安売り分は三万一、八〇一本(二万三、七六五本+八、〇三六本)、通常価額販売分は四万八、二一五本(五万六、二五一本-八、〇三六本)と算出され、これに前記(五)の(2)に判示した売上単価を乗じたものを合計すると、一、二八二万三、一〇〇円となり、これがバーの昭和四一年分のビール売上金額と認められる。

(七)  朝鮮料理業の売上金額のうちに占める酒類及び焼肉料理の売上金額の割合六九・八パーセント

把握することのできた酒類及び焼肉料理の売上金額から、朝鮮料理業の売上金額を求めるためには、後者のうちに占める前者の割合を把握することが必要である。

しかして、原告が被告に対し、朝鮮料理業の昭和四三年八月一二日から同月一八日までの一週間分の売上伝票(その明細は、別表九の(一)記載のとおり)を提示したこと及びこれによれば、右期間の売上金額のうちに占める酒類及び焼肉料理の売上金額の割合が六九・八パーセントであることは、当事者間に争いがなく、また、係争年分と昭和四三年とにおいて原告の事業の業態、規模に格別の変化のなかつたことは、弁論の全趣旨により明らかであるから、右の割合を係争年分の割合として採用することはその合理性を是認できる。

(八)  バーの売上金額のうちに占めるビールの売上金額の割合二九・一一パーセント

原告から提示を受けたバーの昭和四二年九月一三日から同月一九日までの一週間分の売上伝票によれば、右期間の売上金額のうちに占めるビールの売上金額の割合が二九・一一パーセントであつたことは、当事者間に争いがなく、また、昭和四一年と同四二年とにおいて原告の事業の業態、規模に格別の変化のなかつたことは、弁論の全趣旨により明らかであるから、右の割合を昭和四一年分の割合として採用することはその合理性を是認しうる。

(九)  したがつて、係争年分の売上金額は、朝鮮料理業については、酒類及び焼肉料理の売上金額に前記(七)の割合を適用して算出し、バーについては、ビールの売上金額に前記(八)の割合を適用して算出することとなるが、本件のように収支計算を明らかにする帳簿書類のない場合には、このような推計は合理性を認められる。

そうすると、係争年分の売上金額は、別表一〇の(一)、(二)記載のとおり計算され、頭書金額のとおりとなる。

2  算出所得金額

昭和三九年分 朝鮮料理業 九〇三万五、四六七円

同 四〇年分 朝鮮料理業 一、〇九二万〇、二三九円

同 四一年分 朝鮮料理業 一、一一四万一、七七四円

バー 二、六五八万〇、〇六五円

その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき乙イの第六号証の一、二、同ロの第六号証の一、二、同ハの第七号証の一ないし三によれば、被告管内に事業所を有する個人事業者で、朝鮮料理業及びバーを営む者のうち、係争年分において課税事績のある者を係争各年分ごとに全部抽出して、その売上金額、売上原価及び標準経費、差引算出所得金額及び算出所得率等を調査したところ、同業者の平均所得率は、朝鮮料理業については、昭和三九年分三三・七七パーセント、同四〇年分三四・三三パーセント、同四一年分三三・八一パーセント(以上は、原告と同規模と認められる乙イの第六号証の二、同ロの第六号証の二、同ハの第七号証の二「件名記号」の各2、3の業者を基礎とした。)、バーについては昭和四一年分六〇・三四パーセントであつたことが認められる。

ところで、右同業者の平均所得率は、原告と業種の同一性があり、かつ、その抽出について恣意の介在する余地がなく、また、右同業者は課税事績のある者であるから、同業者の実在性、資料の正確性において欠けるところはないものといえる。

原告は、原告の朝鮮料理業の所得率は三〇パーセント以下であると主張するが、その根拠を格別主張立証せず、また、前示同業者の平均所得率の適用を妨げるような具体的事情は本件全証拠によつても認めることはできず、また、原告は、バーについては開業した年であるから平均率の適用は不合理であると主張するが、本件全証拠によつてもその適用を妨げる程度に収益が少なかつたことを認めるに足る証拠はない。

したがつて、前示同業者の平均所得率により所得金額を推計することは合理的なものとして是認することができ、以上の計算は別表一一記載のとおりであり、これによれば係争年分の算出所得金額は頭書金額のとおりとなる。

3  バーにおける雑収入

昭和四一年分 七六万一、九二七円

(一)  委託電話及びジユークボツクスにかかる収入 二六万一、九二七円

右金額は当事者間に争いがない。

(二)  和解にかかる収入五〇万円

原告が、バー開業当初、「小田急パンチ」という商号を使用したため、小田急観光株式会社との間に訴訟が生じ、昭和四一年二月一五日、東京地方裁判所で右表示使用禁止の仮処分決定がされたこと及び右訴訟に関して原告と小田急観光株式会社との間に和解が成立し、原告は、同社から五〇万円の示談金を受領したことは、当事者間に争いがない。

右争いのない事実によれば、示談金がバーの営業に起因して発生した収入であることは明らかである。

原告は、右訴訟のために弁護士に対して費用及び報酬を支払い、また、右仮処分決定の執行として「小田急パンチ」の表示のある看板、マツチ、チラシ及び事務用紙等が抹消ないし持ち去られたので、それらをあらためて作り直し、その費用を支払つたが、以上の支出は前示五〇万円の示談金の額をこえるものであつたと主張し、証人瀬戸川巽、同岡由起子の各証言及び原告本人尋問の結果中には、これにそう供述部分もあるけれども、いずれも大よその額を示すだけで具体性に乏しく、これを裏付けるに足る的確な資料が考えられるにもかかわらずその提出がない以上、にわかに信用することもできず、この程度の立証ではいまだその事実を認めるには至らない。

したがつて、和解にかかる収入として五〇万円を認めることができる。

以上(一)、(二)を合計すると頭書金額となる。

4  雇人費

(一)  朝鮮料理業

昭和三九年分 四二〇万〇、六七〇円

同 四〇年分 四九九万四、一〇〇円

同 四一年分 五一八万一、八四〇円

(二)  バー

昭和四一年分 九六八万二、一二〇円

右各金額は当事者間に争いがない。

5  地代家賃(朝鮮料理業)

昭和三九年分 八九万一、〇〇〇円

同 四〇年分 一五三万一、六〇〇円

同 四一年分 一七〇万四、一六〇円

昭和三九年分及び同四〇年分の地代家賃が右金額であることは当事者間に争いがない。同四一年分については右金額の限度で当事者間に争いがなく、原告主張のこれをこえる金額は本件全証拠によつても認めることはできない。

6  建物減価償却費(バー)

昭和四一年分 四二万五、三八五円

右金額は当事者間に争いがない。

7  原告主張のバーの宣伝広告費について

原告は、昭和四一年分にバーの宣伝広告費として約三六〇万円支払つたと主張し、証人瀬戸川巽、同岡由起子の各証言中には、これにそう供述部分もあるけれども、いずれも支払先、支払金額等についてあいまいであり、これを的確に示すべき資料が予想されるにもかかわらず、他に裏付けとなる何の資料も提出されない以上、開業直後の同年には、なにがしかの宣伝広告費の支出があつたであろうことは容易に推察しうるにしても現実にそのとおりの金額の支出があつたかどうかにわかに信用することもできず、この程度の立証ではいまだ原告主張のような金額の支出があつたことを具体的に認めるには至らない。

8  事業専従者控除額(朝鮮料理業)

昭和三九年分 八万六、三〇〇円

同 四〇年分 一一万二、五〇〇円

右金額は当事者間に争いがない。

9  借入金利息

昭和三九年分 二七一万一、四七〇円

同 四〇年分 二〇四万一、八六九円

同 四一年分 四〇九万二、〇九八円

借入金利息の支払いに関する原告の主張が、本訴第二一回口頭弁論期日である昭和四八年六月二六日に初めてされたことは記録上明らかであり、いささか遅きに過ぎる感があるが、本件弁論の全趣旨によれば、右の遅延が原告の故意又は重大な過失によるものというのは相当でなく、また、証拠調がすべて終了していない当時においては、右主張の提出によりいまだ訴訟の完結を遅延せしむべきものと認めることはできないから、右主張を時機に遅れた攻撃・防禦方法であるとする被告の抗弁は排斥されざるを得ない。

(一)  借入金について(以下別表一九記載の番号で示す。)

(1) <1>、<2>、<5>、<9>及び<10>について

原告は、いずれも金丁順ないし宋英子からの借り入れにかかるものであると主張し、証人宋英子の証言及び原告本人尋問の結果中にはこれにそう供述部分があり、また、右供述により真正に成立したものと認められる甲第五、六号証にもこれにそう記載がある。しかし、金丁順及び宋英子が、原告の妻の母及び妹であり、原告方に居住していることは前掲証拠から認められるところであり、成立に争いのない乙イの第七号証、同ロの第七号証及び同ハの第八号証によれば、係争各年分において同人らは原告の扶養家族として申告されていることが認められる。そして、近親間の貸借とはいえ、かなりの回数、金額の貸借をするについて、当時、その内容を明らかにする書面も作成せず(原告は、その尋問においてこれを追及されると、借用証はあるかもしれませんと述べたが、一方証人宋英子は借用証はないと断言しており、このような矛盾も疑問を生じさせる。そして、同人らの供述によれば、この貸借の証明書と称する甲第五、六号証は、本訴提起後の作成にかかり、宋英子は貸借年月日を記憶していないために原告が一方的に内容を記載して捺印のみを英子がしたものであることが認められ)、また、証人宋英子は、貸金の資金源について追及されると、途端にあいまいな供述を繰り返した。

以上の諸事情に照すと、前掲各証拠の内容ははなはだ疑わしく、その信用性が低いものといわざるをえず、この程度の立証ではいまだ金銭貸借の事実を認めるには至らない。そして、他に右原告の主張を認めるに足る証拠もない。

(2) <3>、<4>、<6>、<7>、<8>、<11>、<16>、<20>及び<21>について

原告は、いずれも西原からの借り入れにかかるものであると主張し、証人西原こと韓公余(以下「西原」という。)の証言及び原告本人尋問の結果中にはこれにそう供述部分があり、また、右供述により真正に成立したものと認められる甲第四号証の二にもこれにそう記載がある。しかし、右各証拠によれば、西原は原告の妻の妹の夫であつて、近親間の貸借とはいえ、かなりの回数、金額の貸借をするについて、当時その内容を明らかにする書面も作成せず、西原はその居所及び事業を転々と変えているにもかかわらず(それもかなりの辺地においてである。)、多額の貸付資金を有し、しかし、同人自身は所得税の申告をしておらず、原告が事業を経営するかたわら西原の移転先に何度となく赴いて借り入れをしたというのであつて、不自然さを否定できず、その返済について、証人西原は、昭和四八年七月に三〇〇万円返してもらつたと供述するが、その返済の方法及び返済金の預金先についてあいまいな供述をし、一方、原告は右三〇〇万円の返済について何ら供述していない。

以上の事実に照すと、前掲各証拠の内容ははなはだ疑わしく、その信用性が低いものといわざるをえず、この程度の立証ではいまだ金銭貸借の事実を認めるに至らない。そして、他に右原告主張を認めるに足る証拠もない。

(3) <12>ないし<15>について

<12>ないし<15>の借入金については、使途を除いて当事者間に争いがなく、また、原告が右借り入れをした昭和三九年当時、朝鮮料理業を営み、かつ、同四一年に開業したバーの土地建物を取得したことは当事者間に争いがない。そして、事業を営んでいる者が、右のような多額の金員を借り入れた場合、特段の事情のないかぎり、事業のためにこれを使用したものと推定することができる。したがつて、右借入金は、格別の反証のない本件においては、原告の事業に使用されたものと認めることが相当である。

(4) <17>について

<17>については、利率及び使途を除いて当時者間に争いがない。利率については、成立に争いのない甲第三号証によれば、年一割五分であることが認められる。原告は、右甲第三号証の記載と異なり、当事者間では年三割六分の約であつたと主張し、原告本人尋問の結果中には、これにそう供述部分もあるが、公正証書(甲第三号証)をなぜ約定のとおり作成しなかつたかにつき合理的な理由を認めることができないから、にわかに信用することはできず、他に右認定を左右するに足る証拠もない。使途については、右(3)と同様の理由で事業のために使用されたものと認めるのが相当である。

(5) <18>及び<19>について

<18>及び<19>については、使途を除いて当事者間に争いがない。使途については、前記(3)と同様の理由で事業のために使用されたものと認めるが相当である。

(二)  支払利息について

別表二〇の(一)ないし(三)記載の原告主張の支払利息のうち、前項(一)においてその存在が認められなかつた借入金を元本債権とするものは、判断するまでもなく理由のないことが明らかである。

(1) 昭和三九年分 二七一万一、四七〇円

別表二〇の(一)の<1>記載の事実のうち、支払先及び支払金額は、当事者間に争いがない。被告は、これが昭和三九年分の経費に当たることを争うが、経費性については、すでに右(一)においてこれの元本債権たる借入金が原告の事業に使用されたことが認められることから明らかであるし、支払利息はその支払われた年分の経費であると考えるべきであつて、(右利息の支払いが同年中にされたことは、被告の明らかに争わないところである。)被告の右主張は理由がないといわねばならない。

したがつて、昭和三九年分の支払利息は、頭書金額のとおりとなる。

(2) 同四〇年分 二〇四万一、八六九円

別表二〇の(二)の<1>及び<2>記載の事実のうち、いずれも支払先及び支払金額は当事者間に争いがない。被告は、右の支払利息が、昭和四〇年分の経費となることを争うが、その主張の理由のないことは右(1)において述べたところと同様である。

同<3>記載の事実のうち、支払先及び支払金額については二〇万一、三六九円の限度で当事者間に争いがない。そして、右支払利息の元本債権である借入金の利率は右(一)において判示したように年一割五分であるから、これをこえる年三割六分の利率を前提とする原告の主張は理由がない。被告は、右支払利息が昭和四〇年分の経費となることを争うが、この主張の理由のないことは右(1)において述べたところと同様である。

したがつて、昭和四〇年分の支払利息は、頭書金額のとおりとなる。

(3) 同四一年分 四〇九万二、〇九八円

昭和四一年分の支払利息は、四〇九万二、〇九八円の程度で当事者間に争いがなく、そして、原告の主張する別表二〇の(三)記載の借入金のうち、<4>ないし<6>は、右(一)において判示したように、元本債権である借入金の存在が認められず、また、<3>については、右(一)において判示したように、利率年一割五分をこえる部分の金額一〇五万円(一八〇万円-(五〇〇万円×〇・一五))については利息支払いの事実が認められないから、これらを原告の主張する昭和四一年分の支払利息合計から差し引くと、右争いのない四〇九万二、〇九八円を下回ることとなるので、その余の支払利息について判断するまでもなく、右四〇九万二、〇九八円を昭和四一年分の支払利息とすることが相当である。

以上によれば、係争年分において支払われた借入金利息は頭書金額のとおりとなる。

10  事業所得金額(課税標準)

昭和三九年分 一一四万六、〇二七円

同 四〇年分 二二四万〇、一七〇円

同 四一年分 一、七三九万八、一六三円

以上によれば、別表二二の(一)ないし(三)記載の計算のとおり、原告の係争年分の事業所得金額は頭書金額のとおりとなる。

四、そうすると、昭和三九年分の総所得金額は、一一四万六、〇二七円であつて、同年分の所得税にかかる更正及び過少申告加算税の賦課決定は、右金額をこえる総所得金額の限度において所得を過大に認定した違法があり、同四〇年分の総所得金額は二二四万〇、一七〇円であつて、同年分の所得税にかかる更正及び過少申告加算税の賦課決定は、右金額をこえる総所得金額の限度において所得を過大に認定した違法があり、同四一年分の総所得金額は一、七三九万八、一六三円であつて更正の総所得金額七九四万八、五九九円を上回ることが明らかであるから、同年分の所得税にかかる更正及び過少申告加算税の賦課決定に原告主張の違法はない。

五、よつて、原告の本訴請求中、昭和三九年分及び同四〇年分の各所得税にかかる更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち、昭和三九年分につき総所得金額一一四万六、〇二七円を、昭和四〇年分につき二二四万〇、一七〇円を、それぞれこえる部分の取消しを求める部分は理由があるから認容し、その余の部分並びに昭和四一年分の所得税にかかる更正及び過少申告加算税の賦課決定の取消しを求める部分はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉山克彦 裁判官 吉戒修一 裁判官石川善則は、転任のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 杉山克彦)

別表一 課税処分の経緯

(一) 昭和三九年分所得税

<省略>

(二) 昭和四〇年分所得税

<省略>

(三) 昭和四一年分所得税

<省略>

別表二 酒類の仕入数量

<省略>

別表三 肉類の仕入数量

(一) 昭和三九年分

<省略>

(二) 昭和四〇年分

<省略>

(三) 昭和四一年分

<省略>

別表四 売上げに供する仕入肉類の歩留り

<省略>

(注) これは、原告立会いのもとに、原告の板前が実際に調理した結果(次表のとおり)に基づいて算定した。なお、右の調理の際、カルピについては原形のままの肉から調理したが、肉の主要仕入先である有限会社三陽精肉店を調査したところ、原告はカルピ及び付カルピ用の肉につき原形のものを仕入れず、アブラ、スジ等を除去した良質のものを仕入れていることが判明した。そして、同肉店から、かかる材料を使用した場合のロスは一割五分ないし二割であるとの申立てを得たので、いずれも歩留りは八〇パーセントとしたのである。

<省略>

別表五 焼肉料理に供する肉類一人前の重量

<省略>

別表六 売上げに供する商品別単価

<省略>

別表七 酒類売上金額(朝鮮料理業)

(一) 昭和三九年分

<省略>

(二) 昭和四〇年分

<省略>

(三) 昭和四一年分

<省略>

<省略>

別表八 焼肉料理売上金額(朝鮮料理業)

(一) 昭和三九年分

<省略>

(二) 昭和四〇年分

<省略>

なお、ミノの単価は、上二五〇円・並二〇〇円と二通りあるため、それぞれ二分の一量あて販売されたものとして計算した。

(三) 昭和四一年分

<省略>

なお、ミノの単価は、上二五〇円・並二〇〇円と二通りあるため、それぞれ二分の一量あて販売されたものとして計算した。

別表九

(一) 朝鮮料理業の昭和四三年八月一二日から同月一八日までの一週間分の売上伝票明細

<省略>

<省略>

(二) 右期間の売上金額のうちに占める酒類及び焼肉料理の売上金額の割合の計算内訳

<省略>

(<1>+<2>)÷<3>)

(三) バーの昭和四二年九月一三日から同月一九日までの一週間分の売上伝票明細

<省略>

<省略>

(四) 右期間の売上金額のうちに占めるビールの売上金額の割合の計算内訳

<省略>

別表一〇 売上金額の計算内訳

(一) 朝鮮料理業の売上金額

<省略>

(二) バーの昭和四一年分の売上金額

<省略>

別表一一 所得金額等の計算内訳

<省略>

別表一二 事業所得金額の計算内訳

(一) 昭和三九年分

項目

<省略>

(二) 昭和四〇年分

<省略>

<省略>

(三) 昭和四一年分

<省略>

<省略>

別表一三 酒類の売上数量

<省略>

別表一四 肉類の売上数量

<省略>

<省略>

別表一五 酒類売上金額(朝鮮料理業)

(一) 昭和三九年分

<省略>

(二) 昭和四〇年分

<省略>

<省略>

(三) 昭和四一年分

<省略>

別表一六 焼肉料理売上金額(朝鮮料理業)

(一) 昭和三九年分

<省略>

<省略>

(二) 昭和四〇年分

<省略>

なお、ミノの単価は、上二五〇円・並二〇〇円と二通りあるため、上二割・並八割の割合で販売されたものとして計算した。

(三) 昭和四一年分

<省略>

なお、ミノの単価は、上二五〇円・並二〇〇円と二通りあるため、上二割・並八割の割合で販売されたものとして計算した。

別表一七 売上金額の計算内訳

(一) 朝鮮料理業の売上金額

<省略>

(二) バーの売上金額(昭和四一年分)

<省略>

別表一八 朝鮮料理業の所得金額等の計算内訳

<省略>

別表一九 借入金明細

<省略>

<省略>

(注一) 当時の商号は、同和信用組合である。

(注二) 昭和三九年以前からの手形貸付の借入残額である。

(注三) 甲第三号証の公証証書には、利息一割五分と記載されているが、実際は年三割六分である。

別表二〇 支払利息明細

(一) 昭和三九年分

<省略>

(二) 昭和四〇年分

<省略>

(三) 昭和四一年分

<省略>

別表二一 事業所得金額の計算内訳(△は赤字を示す。)

(一) 昭和三九年分

<省略>

(二) 昭和四〇年分

<省略>

(三) 昭和四一年分

<省略>

別表二二 事業所得金額の計算内訳

(一) 昭和三九年分

<省略>

(二) 昭和四〇年分

<省略>

(三) 昭和四一年分

<省略>

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