大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)186号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕そこで被告が右損金算入を否認したことの適否について判断する。

所得税法は、所得税の課税対象となる所得をその種類によつて分類し、分類された所得ごとに所得金額の計算方法を定めており、また、所得税が消費生活に伴う個人の所得に対する課税であるという特質から、所得金額の算出にあたつては、その分類区分に属する収入経費の差額を算定して所得金額を計算する収益費用対応の原則が行なわれ、しかも、所得税が歴年課税の建前をとり、各年ごとに所得の金額を計算することから、各年ごとにおける収益と費用との対応が要請される。したがつて、事業所得の金額計算上控除が認められる貸倒損失は、当該事業所得の基因となる事業の範囲に属する事由によつて生じたもの、いいかえれば、当該事業所得をうるために通常必要とされる貸付金等の貸倒れに限られると解すべきである。

しかして、税理士および経済コンサルタントの業務は、本来社外の専門家としての立場で、会社の税務代理、税務書類の作成、税務相談および会社の経営に関する診断、指導、助言等を行なうものであることはいうまでもないが、税理士又は経営コンサルタントがその会社に対して資金を貸し付けたり、自ら保証人となつて融資の便を与えることも、通常当該業務の範囲に属するものと認められる限り、それが正当な行為といえるかどうかは別としても、税法上は、当該事業所得をうるために通常必要とされるものとして、その貸倒れ損失は、事業所得金額の計算上損金に算入することが許されると解するのが相当である。

ところで……を総合すれば、原告は、株式会社日本パイピングに対し昭和四一年八月ころから昭和四二年六月ころまでの間前後十数日にわたり前記資金の貸付け等を行なつたのであるが、尚そのほかの関与会社に対して資金の貸付け等を行なつたのは、昭和四一年一二月下旬ころ合資会社詩文字美術印刷所に対する六〇万円の一例があるだけであるから、仮りにそれが税理士および経済コンサルタントの業務遂行上なされたものであるとしても、かかる融資は、いまだ原告の事業の内容となつていたものとは認め難く、却つて、原告が株式会社日本パイピングの発起人で当時取締役をしていたこと、しかも原告が同社の株式六〇〇株を所有し、その数は代表取締役金田宏之のそれに次ぐものであること、また、原告は右金田宏之より従業員に対し専務取締役として紹介され、対内的にはもとより、対外的にも専務取締役として行動していたこと、さらに原告は、同社の顧問税理士および経営コンサルタントを辞任した後においても、右金田宏之の保証債務を消滅させていることを認めることができ、右認定に反する原告本人の供述部分は措信しがたく、他に右認定を覆えして原告の主張事実を認めるに足る的確な証拠はない。

されば、原告主張の貸金等の債権の貸倒れは、事業所得以外の所得に対応する費用とはなりうるとしても、前叙のごとき法の建前のもとにおいては、これをもつて原告の事業所得の必要経費と認めることは許されず、したがつて、被告がその損金算入を否認したことは、まさに正当であるというべきである。

(渡部吉隆 渡辺昭 竹田穣)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!