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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)70号 判決 1970年5月25日

東京都新宿区西大久保一丁目四二九番地

原告

高浩振

右訴訟代理人弁護士

小沢茂

佐藤義弥

斎藤義雄

東京都新宿区柏木三丁目三一二番地

被告

淀橋税務署長 本郷一郎

右訴訟代理人弁護士

真鍋薫

右指定代理人

石塚重夫

圧子実

河内孝誌

右当事者間の課税処分取消請求事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立て

(原告)

「被告が原告に対し昭和四一年一二月二一日付でした昭和三八年分の所得税とその無申告加算税、重加算税の賦課決定および同年分の贈与税とその無申告加算税の賦課決定を取り消す。

「訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

(被告)

主文と同旨の判決

(右申立てが容れられないときは)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二、原告の主張

(請求の原因)

被告は、原告に対し、昭和四一年一二月二一日付で、昭和三八年中、原告には、その所有する東京都新宿区西大久保一丁目三六三番地の土地および建物を他に譲渡して五六六万七、四三九円の譲渡所得があつたものとして、所得税額一九六万八、一〇〇円、無申告加算税額一九万六、八〇〇円、重加算税額三〇万八、三五〇円の賦課決定をなし、また、その妻康汝敬から東京都新宿区西大久保一丁目四二九番地の土地の借地権(その価額二〇四万四八〇円)の贈与を受けたものとして、贈与税額五三万六、一六〇円、無申告加算税額五万三、六〇〇円の賦課決定した。

しかし、右各賦課決定は、次の理由により違法である。すなわち、

前記三六三番地の土地および建物は、原告が事業の用に供していた資産であり、原告は、その譲渡代金で妻から相当の対価を支払つて前記四二九番地の借地権を取得し、その上に妻と共有で建物を新築し、これら買換資産を事業の用に供してきたのである。したがつて、前記譲渡所得については租税特別措置法三八条の六の規定の適用があり、また、借地権の贈与を受けた事実はないにもかかわらず、被告が同条の規定の適用を否定し、また、借地権の贈与を受けたものと認定して右各賦課決定に及んだ点において違法であるので、その取消しを免がれない。

(本案前の抗弁に対する主張)

行訴法一四条一項にいう処分又は裁決があつたことを「知つた日」とは、抽象的に知りうべかりし日ではなく、現実に知つた日を指すものと解すべきである。ところで、本件各賦課決定に対する審査請求棄却裁決は、昭和四三年六月二四日付で行なわれ、その謄本は、被告主張の日に送達されていたものと思われるが、これを保管していた原告の母金龍見は、日本語が読めず、かつまた、老齢で病気中であつたところから、原告に交付することなく、昭和四三年一一月七日死亡し、原告が同女の遺物の整理をして現実に審査裁決のあつたことを知つたのは、昭和四四年一月下旬である。したがつて、本件訴えは、それから三か月内で、しかも、審査裁決のあつた日から一年以内に提起されたものであるから、被告の本案前の抗弁は、失当というべきである。

第三、被告の主張

(本案前の抗弁)

本件各賦課決定に係る審査裁決は、昭和四三年六月二四日付をもつてなされ、その裁決書の謄本は、同年八月二日原告に送達された。したがつて、昭和四四年四月一六日に提起された本件訴えは、行訴法一四条一項所定の出訴期間を徒過した不適法なものであるから、却下すべきである。

(請求の原因に対する答弁)

請求の原因事実のうち、原告が三六三番地の土地、建物の譲渡代金をもつて四二九番地の借地権を取得し、したがつてまた、当該譲渡所得に租税特別措地法三八条の六の規定の適用がある旨の主張事実は否認するが、その余の事実はすべて認める。

第四、証拠関係

(原告)

甲第一、第二号証(いずれも写)を提出し、原告本人尋問の結果を援用し、乙第三号証の成立は不知、その余の乙号各証の成立(第九号証、第一〇号証の一、二については、原本の存在も)は認める。

(被告)

乙第一、第二号証の各一、二、第三ないし第五号証、第六ないし第八号証の各一、二、第九号証、第一〇号証の一、二(但し、第九号証、第一〇号証の一、二は写)を提出し、証人内藤芳美の証言を援用し、甲号各証の成立ならびに原本の存在は認める。

理由

まず、本件訴えの適否について判断する。

行訴法一四条一項にいう処分又は裁決があつたことを知つた日とは、原告主張のごとく、その文言からみても、また同条三項が、取消訴訟は処分又は裁決の日から一年を経過したときは、処分又は裁決のあつたことを知つたかどうかにかかわらず、これを提起することができない旨規定していることに照らしても抽象的な知りうべかりし日を意味するものではなく、現実に了知した日を指すものと解すべきではあるが、しかし、処分又は裁決のあつたことをその謄本の送達等により社会通念上当事者の知りうべき状態に置かれたときは、反証のない限り、これを知つたものと推認するのが相当である。(最高裁昭和二七年四月二五日第二小法廷判決、民集六巻四号四六二頁、同庁昭和二七年一一月二〇日第一小法廷判決民集六巻一〇号一〇三八頁参照)

いま、本件についてこれをみるのに、本件各賦課決定に係る審査裁決が昭和四三年六月二四日付でなされ、その裁決書の謄本が同年八月二日送達されたことは、原告の自認するところであり、成立に争いのない乙第四、第五号証、乙第六ないし第八号証の各一、二、証人内藤芳美の証言により真正に成立したものと認める乙第三号証、右証人の証言および原告本人等間の結果によれば、本件各賦課決定に係る裁決書の謄本は、書留郵便によつて原告の住居たる新宿区西大久保一丁目四二九番地に送達されたものであり、原告は、朝九時ころから夜一一時ころまでその経営する同丁四二八番地のホテルで妻とともに執務していたとはいえ、毎夜右住居に帰宅していたことを認めることができる。しかしかかる事実関係のもとにおいては、原告は、本件各賦課決定に係る審査裁決書の謄本の送達によつて、そのころ同裁決のあつたことを知つたものと推定するのが相当である。そればかりでなく、原告本人は、当法廷において、昭和四三年一二月末ころまでには、右裁決があつたことを現実に了知した旨供述しており、以上の各認定を覆えすに足る的確な反証はない。

されば、昭和四四年四月一六日提起されたこと記録上明らかな本件訴えは、右いずれの点からみても、行訴法一四条一項所定の三か月の出訴期間経過後の提起に係る不適法なものであるから、これを却下すべきものとする。

よつて、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 渡辺昭 裁判官 岩井俊)

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