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東京地方裁判所 昭和44年(行ウ)81号 判決 1970年10月30日

原告

中島與市

被告特許庁長官

佐々木学

指定代理人

板井俊雄

外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実《省略》

理由

職権をもつて調査するに、原告は、特許庁昭和三三年抗告審判第三〇四三号実用新案登録願拒絶査定に対する抗告審判請求事件につき、特許庁が昭和三四年一二月二二日にした審決取消請求の訴を東京高等裁判所に提起したところ、同裁判所は、昭和三五年四月七日、右訴は共同出願人たる原告と訴外者一名の共同で提起することを要するいわゆる必要的共同訴訟であるにかかわらず、原告単独で出訴したものであつて、その欠缺は補正することができないものであるとして、原告の訴を却下したものであること、および右判決に対する原告からの上告に対して、最高裁判所は、原審と同一の理由により上告を棄却したものであることを認めることができる。すなわち、原告の右審決取消請求の訴は、本案について判断されることなく、不適法として却下されたものであるから、右判決には右審決の適法違法についてなんらの既判力も生じていないのである。そうすると、原告は、無効確認訴訟の他の要件が存在するかぎり、右取消請求訴訟の判決の既判力に触れることなしに、右審決に対する無効確認の訴を提起しうるものというべきである。原告は、前記審決取消請求訴訟は被告たる特許庁長官への適法なる訴状の送達がなかつたから訴訟係属を生ぜず、したがつて、訴訟係属あるものとしてした前記東京高等裁判所および最高裁判所の判決はいずれも無効であり、審決取消請求訴訟は確定していないというが、本件では原告のそのような主張に対して判断を示す要はない。要は、原告の本件無効確認請求の訴が訴訟要件を具備した適法なものであるか否かを判断すれば足りる。しかして、前記取消請求の判決が確定しているものとすれば、本件訴が適法のものであることは右に述べたとおりであり、仮に右取消請求の判決が原告主張のとおり確定していないとしても、そのことによつて本件訴が不適法となることはないのである。けだし、抗告審判の審決取消訴訟は東京高等裁判所の管轄に専属する(旧実用新案法第二六条、旧特許法第一二八条ノ二)のに対し、本件無効確認請求訴訟は、後に述べるように、同裁判所の専属管轄には属せず、かつ、取消訴訟と無効確認訴訟とはかならずしも同一の裁判所に提起しなければならないものではないから(行政事件訴訟法第一六条第二項参照)、当裁判所に提起した原告の前記審決の無効確認を求める訴は適法と認められるからである。

被告は、審決に対する訴は実用新案法第四七条第二項、特許法第一七八条第三、第四項によつて、審決の謄本の送達があつた日から三〇日を経過したときは提起できないのに、原告が本訴で無効確認を求めている審決は昭和三四年一二月二二日にされ、その謄本は昭和三五年一月一二日に原告に送達されたのであるから、本件訴はすでに出訴期間経過後に提起された不適法なものである、というが、特許法第一七八条第三項により出訴期間の制限を受けるのは、同法第一八一条によつても明らかなとおり、審決または決定の取消訴訟についてのみであつて、審決または決定の無効確認訴訟についてまで右法条が出訴期間を制限したものであるとは解しえられない。無効確認訴訟は、一般原則に従い、そして行政事件訴訟法第三六条の制限を受けないかぎり、期間の制限なくこれを提起しうべきものである。そして、審決取消の訴は、特別の規定(実用新案法第四七条、特許法第一七八条第一項等)により東京高等裁判所の専属管轄に属するのであるが、審決無効確認の訴については右法条の規定の適用なく、通常の規定(行政事件訴訟法第三八条、第一二条)に従つて、当裁判所の管轄に属するものと解すべきである。このことは、原告が無効確認を求めている審決が昭和三六年八月三一日(原告の審決取消請求の上告棄却言渡の日)に確定したか否かを問わず言いうることである。なんとなれば、仮に右審決が未だ確定せず、その審決に対する訴に旧実用新案法(第二六条)ならびに旧特許法(第一二八条ノ二ないし第一二八条ノ五)の規定の適用があるものと解しても、右審決に対する無効確認訴訟については、前記旧実用新案法ならびに旧特許法の規定の適用はなく、右訴は東京高等裁判所の管轄に専属せず、かつ、出訴期間の制限にも服さないものと解すべきこと右両旧規定の解釈上明らかであるといいうるからである。よつて、被告の本案前の申立は理由がない。

そこで、本案について判断する。

原告主張の請求原因一の事実は、原告の抗告審判請求に対する審決の日を除いて、被告の全部これを認めるところであり、右審決の日が被告主張のとおりであることは成立について争いのない甲第七号証、同第九号証によりこれを認めることができる。ところで、右争いのない事実によれば、原告は、昭和二九年一二月一〇日、特許庁長官に対し、発明の名称を「牛乳瓶口頭部の包装方法」とする特許出願をしたが、昭和三〇年九月一〇日、旧実用新案法第五条に基づいてこれを実用新案登録出願に変更したというのである。しかるに、特許出願の審査と実用新案登録出願の審査との手続は互に別個独立のものであつて、仮に原告主張の審査官田中市之助が原告の特許出願につき拒絶査定をしたところで、同人には実用新案登録出願の拒絶査定に対する抗告審判の干与から除斥さるべき理由はないものといわねばならない。ところで、原告は、審査官田中市之助は原告の特許出願に対して拒絶理由を通知したというのみで、同審査官が特許出願の拒絶査定をしたということは主張立証しないのみならず、右特許出願を実用新案登録出願に変更した後の拒絶査定に干与したとの事実も主張立証しないところであるから、審査官田中市之助は右実用新案登録出願の拒絶査定に対する抗告審判への干与から除斥さるべきいわれはないものといわざるを得ず、したがつて、この点において原告の請求は理由がないものというべきである。

また、原告は、昭和三三年抗告審判第三〇四三号事件において、被告は原告に対しその事件番号および審判官全員の氏名を通知しなかつたものであるから、右事件の審決は旧実用新案法施行規則第七条、旧特許法施行規則第五五条に違反するものであつて無効であるというが、右事実については原告のこれを立証しないところであり、仮に右立証がされたものとしても、右の事実は審決を当然無効ならしめるほどの重大な瑕疵であるということはできない。原告の主張は、理由がない。

よつて、原告の請求は、その理由なしとしてこれを棄却する。(荒木秀一 高林克己 元木伸)

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