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東京地方裁判所 昭和45年(タ)368号 判決 1971年10月18日

原告 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 金田絢子

被告 東京地方検察庁検事正 神谷尚男

右被告補助参加人 山田一

<ほか二名>

右参加人ら三名訴訟代理人弁護士 青柳洋

主文

一  原告と訴外亡山田フミ(本籍東京都○○区○○○○町×番地)との間に親子関係が存在することを確認する。

二  訴訟費用中、原告と被告との間に生じた分は国庫の、参加によって生じた分は参加人らの各負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一  まず参加人らの本案前の抗弁につき判断する。

(一)  父母と子との間の親子関係存否確認の訴えについて、父母双方を相手方とすべき場合その一方が死亡した場合は勿論のこと、両者もしくは片方のみを相手とすべき場合当該親が死亡した後においても、訴えの利益がある以上生存している子からの訴えの提起を認め、この場合における訴えの相手方は人事訴訟手続法を類推して検察官とすべきことは、最高裁判所の判例とするところである(昭和四三年(オ)第一七九号、昭和四五年七月一五日大法廷判決民集二四巻七号八六一頁)。右判決については、少数意見が指摘するとおり、特に確認の利益もしくは親死亡後の親子関係が現在の法律関係といえるか、判決の第三者に対する効力をどう解するか、その他戸籍法一一三条などとの関連でも難しい問題が生ずるのは事実であるけれども、当裁判所として右判決の多数意見に反対するだけの合理的な理由はないと考えるので、この点についての参加人らの主張は採用しない。

(二)  次に参加人らは、本件は認知の訴えによるべきであると主張する。しかしながら母と非嫡出子間の母子関係は、原則として、母の認知をまたず、分娩の事実により当然発生し、特に本件のように非嫡出子が虚偽の出生届により他の嫡出子として戸籍上記載されていると主張している場合は、右の原則が適用されると解される(傍論ながら最高裁判所昭和三五年(オ)第一一八九号、同三七年四月二七日第二小法廷判決民集一六巻七号一二四七頁)。けだし母子関係は、父子関係と異なり、妊娠・分娩という知覚しうる自然的事実によって外部的にも明瞭だからである。右の明瞭性が消失した場合、たとへば棄児とか出産直後に病院で子を取り違えられたような場合にのみ、母子関係も認知によるべきかどうか問題になりうると解せられる。よってこの点についての参加人らの主張も採用しない。

二  そこで以下原告と亡月子との親子関係の存否につき判断する。

(一)  ≪証拠省略≫によると、請求原因第一項の事実を認めることができる。

(二)  次に≪証拠省略≫から推すと、訴外亡乙山太郎、同星子夫婦は、大正六年六月五日三郎、四郎という双生児の男子を設けたが、右の子らは生後間もなく相次いで死亡したことが認められる。ところで前認定のとおり原告は同夫婦の二女として大正七年二月一〇日出生と記載されており、右の出産期間八ヶ月余は双生児出産後ということも考慮に入れると短期間に過ぎ不自然である。

(三)  そしてまた≪証拠省略≫を対比すると、戸籍上乙山星子の両親は丙川一夫、同良子と記載され、一方亡月子や丁村英子の祖父母(亡山田正一の父母)は丙川明夫、同菊子と記載されていること、前記乙山三郎、同四郎の出生地および死亡地ならびに乙山星子(大正七年八月二七日死亡)の死亡地はいずれも北海道○○郡○○町大字○○町××番地と記載されているところ、右は前記山田正一およびその妻桜子の本籍地兼住所地であること、乙山夫婦の長女川井葉子も一五才位から右正一の許へ引取られて養育されていること、以上の事実が認められる。

そして≪証拠省略≫を総合すると乙山星子と亡月子および丁村英子とが相当に近い血縁関係にあったものと認められる。

もっとも参加人らは右星子と亡月子との生年月日の対比から二人が実姉妹の関係にない旨主張する。なるほど≪証拠省略≫によると、亡月子と星子との出生の日の記載が参加人らの主張どおりであることが認められるので、右記載が正確であれば、両人が母を同じくする姉妹とは考えられないが、そうであっても右事実は、姉妹とまでは断定できないが相当に近い関係にあったとする前記認定とは矛盾しない。その他に前記認定を覆えすだけの証拠はない。

(四)  ≪証拠省略≫を総合すると、原告は、大正七年二月一〇日亡月子を母として青森県○○郡○○町(当時の表示)で出生したが、右は亡月子の両親が、乙山太郎、同星子夫婦に亡月子の身柄を預けたためであること、そのためもあって原告は戸籍上右乙山夫婦の嫡出子(二女)として届出されたこと、しかし間もなく亡月子の姉である右丁村英子夫婦に引取られ、同夫婦の養子となったこと、以後同夫婦に育てられたこと、原告自身も戸籍外の実母の存在を比較的早くから知り、近所に住んでいたこともあって亡月子とは事情を知ったうえで交際していたこと、原告の結婚にさいし亡月子が嫁入仕度など一通り揃えてくれたこと、以上の事実を認めることができる。

(五)  参加人らは、山田正一夫婦や亡月子の姉妹の戸籍と対比するとき、亡月子の子についてだけ世間体を恥じ戸籍に虚偽の記載をする合理的な理由はない旨主張する。なるほど≪証拠省略≫によると右正一らの戸籍の各記載がその主張どおりであることは明らかであるが、逆の推測すなわち孫達には別の扱いをさせたいとの考えも成立するところであるしいずれにしても右事実から前記認定を覆えすことは到底できない。

また川井葉子の証言調書(甲三号証)の記載にあいまいなところもあるのは指摘のとおりであるが、右は大要において事実に合致していると認められるうえ右第三号証だけから原告の主張を認定したわけでないし、証人丁村英子に関しては年令からするとその記憶力は極めて正確であると認められるのである。以上いずれにしても参加人らの主張は採用できない。

≪証拠判断省略≫

三  そうすると原告と亡月子との間には親子関係が存在すると認められるので、原告の請求は正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、人事訴訟手続法一七条、民事訴訟法九四条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木経夫)

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