東京地方裁判所 昭和45年(ワ)2358号 判決
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【判旨】
ところで、被告は原告の右通行認容義務及び用水の揚水を認容する義務は被告の原告に対する賃料支払義務及び製造量を通知義務に先立つて履行されるべきもので右義務の履行があるまで賃料支払等を拒み得ると主張する。なるほど、一般に賃料支払義務は後払義務とされる(民法六一四条)こと、本件賃貸借契約にも、その旨の特約がなされていること、賃借の目的物件の使用収益と賃料とは互に対価関係にあることに照らせば、附随義務の不履行によつて賃借物件の十全な使用収益の目的が達せられないときは、使用収益が妨げられた限度において、その期間の賃料の支払期において、反対給付である賃料のうち妨げられた使用収益に対応する部分の支払を拒絶することができると解するのが相当である。けだし、賃貸借契約はいわゆる継続契約であり、賃料は半月分の使用収益の対価として月末に(本件においては次月の五日)に支払われるものであるから、民法五三三条の同時履行の抗弁権が厳格に適用される場面とは言えないが、公平の観念からその趣旨を拡張して支払拒絶が認められるのである。したがつて、現に附随義務の不履行(本件においては通行妨害等)が継続している期間中に到来する支払期日においては、半月分の賃料(本件においては前月分の賃料)の支払いを拒絶できることもあると解するが、しかし、附随義務の不履行がなくなつた後、換言すれば妨害の去つた後に到来する支払期日においては、前記のとおり使用収益を妨げられた部分に対応する賃料の一部(もつとも、本件における各妨害の態様は、前記認定のとおり原告構内通路の一時的利用制限というべきものであつて、被告の営業を不可能にさせ、又は継続的にこれを困難にさせるものではなかつたので、右妨害に対応する賃料も多額のものとは解されない。)の支払いを拒絶できることがあるのは格別、使用収益につき何らの妨害もなされなかつた期間の賃料については支払を拒絶できるものではないことは多言を要しない。そう解さないと継続契約である賃貸借において、ひとたび賃貸人に債務不履行があれば、債務不履行のない給付についてまでも、賃借人は永久に賃料の支払を拒絶できるということになり、その不当なことは説明を要しない。もつとも賃貸人の責に帰すべき使用収益不能部分に対応する賃料部分は減額されるべきであるが、それは、(一)賃借人に減額請求権があるとするか、(二)賃借債務が当然消滅すると解するか、(三)賃借人の賃貸人に対する債務不履行による損害賠償請求権と賃料請求権とを相殺すると解するかいずれかによつて処理清算されるべきものと解すべきである。
ところで、前記認定によれば、原告から解除の意思表示がされた昭和四四年一一月一七日においては、被告の主張する原告の各妨害行為は全て終了しており、原告側の通路を使用させる義務は履行されていたのであるから、原告の各妨害行為(附随義務の不履行)に対応する賃料部分の支払義務の減額を請求し又はその消滅若しくは原告の行為に基づいて発生した損害賠償請求権による相殺を主張することは、格別、過去における原告の債務不履行を主張して、現在の製造量通知義務及び賃料支払義務の履行を全面的に拒む理由はないと言わねばならない。そうすると、被告の「原告の附随義務履行が先履行ないし、同時履行の関係にあるから、右義務の履行がなされるまでは、その後に発生する賃料についても、これを支払わないことに違法性がなく、履行遅滞にならない」とする主張(抗弁1(一)(二))は理由がない。
(小川正澄 若林昌俊 富越和厚)