東京地方裁判所 昭和45年(ワ)3738号 判決 1971年10月14日
原告
斎藤好永
ほか一名
被告
住友海上火災保険株式会社
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
(原告ら)
一 被告は原告らに対し各一二五万円の支払をせよ。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決ならびに仮執行の宣言。
(被告)
主文同旨の判決。
第二当事者の主張
(原告ら)
一 請求の原因
(一) 事故の発生
昭和四四年五月八日午前一一時五〇分頃、訴外上野運輸合名会社(以下訴外会社という)の従業員である訴外古川威は、同社保有の大型貨物自動車(茨八い二一〇号、以下被告車という)を運転して茨城県茨城郡美野里町中野谷地内国道六号線路上な石岡市方面から水戸市方面に向け進行中、反対方向から進行して来た訴外斎藤光彦の運転する自家用小型貨物自動車(茨四み八一六九号、以下原告車という)と正面衝突し、訴外光彦を即死させた。
(二) 損害
原告斎藤は訴外光彦の養父、原告斎藤は訴外光彦の実父であるが、訴外光彦の死亡により次の損害を生じた。
1 訴外光彦の得べかりし利益 五九四万円
(死亡時) 満二六才
(稼働可能年数) 三七年間
(収入) 月額四万円
(生活費) 右収入の四割
(中間利息の控除) ホフマン式計算 係数二〇・六二五(年五分)
(相続) 原告ら各二分の一にあたる二九七万円(現価)
2 原告らの慰藉料 各二〇〇万円
(三) 責任原因
原告らは被告車の保有者である訴外会社に対し、自賠法三条により、各四九七万円の損害賠償請求権を有するところ、訴外会社と被告との間では被告車につき、本件事故日を含む、保険期間の自動車損害賠償責任保険契約(保険証明書番号B八五一七〇八号)を締結しているので、右金員のうち各一二五万円について自賠法一六条に基づき保険金請求をする。
二 認否
被告主張の抗弁事実を否認する。
(被告)
(一) 請求原因に対する答弁
原告らの請求原因のうち、事故が発生し、訴外光彦が死亡したこと、保険契約を締結していることは認める。
損害の点は不知。
(二) 抗弁
本件事故は、原告車が突如センターラインを越えて被告車の直前の進路上に出たため、被告車としては何ら避譲の余地なく、衝突したものであるから、訴外光彦の一方的過失により生じたもので、訴外古川および訴外会社には何等過失がない。また、被告車には構造上の欠陥、機能上の障害は存しなかつた。よつて、自賠法三条但書により、訴外会社には損害賠償をする義務はなく、したがつて原告らの同法一六条による請求は失当である。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 原告ら主張の事実については損害額の点を除き当事者間に争いがない。
二 そこで被告の免責の抗弁について判断する。
〔証拠略〕によると、訴外古川は、被告車を運転し、センターラインおよび外側線が白ペンキで標示されている幅員約一一メートル(片側五・五メートル)のコンクリート舗装路のやや外側寄りを時速約五〇~五五キロメートルで水戸方面に向け進行中、約五〇メートル前方にセンターラインは越えていないが極端にセンターライン寄りを対向進行し来る原告車を認め、危険を感じてブレーキを踏みハンドルを反射的に左に切つたが、原告車は、すれ違いざま被告車の右側前部のフエンダーを擦過するようにセンターラインを越えて進行し、センターラインから約一~一・五メートル被告車線に入つた地点で、被告車の右後輪前に突込んで衝突した。被告車は、同衝突部位で原告車を半回転させた上大破させ、衝突後約一三・五メートル進行して停止した。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
右事実によると、本件事故は原告車の一方的な過失により生じたものであり(原告車には何等ブレーキをかけた痕跡なく道路も見通しがよく、タコメーターも時速五八キロメートルを示して止まつていたことを考慮すると、いわゆる居眠り運転か、瞬間的な意識喪失状態に陥つていた可能性か強い)、訴外古川にとつては不可避的な事故であつたと言うべきであり、現場は徐行を要するような場所でもない(制限速度時速六〇キロメートル)から、訴外古川の運転には本件事故と因果関係を有する過失はないことが認められる。
さらに前掲証拠から被告車は整備され、ブレーキ、ハンドルに何等異常はなかつたことが認められ、また、保有者である訴外会社にも過失があつたことをうかがいしめるものは何等ない(訴外古川に、特段疲労をもたらすような勤務を命じていたのではないことが、同人の証言から認められる)から、保有者にも過失がないと認めざるを得ない。
そうすると本件事故は、訴外光彦の過失によつて生じたものであり、訴外古川および訴外会社に過失はなく、被告車の構造上の欠陥および機能上の障害もなかつたから、被告の自賠法三条但書の主張は理由があると言わざるを得ない。
三 よつて爾余の点の判断をまつまでもなく原告らの本訴請求は理由がないので棄却を免れない。そこで訴訟費用の負担について民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。
(裁判官 坂井芳雄 新城雅夫 佐々木一彦)