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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)4156号 判決 1970年11月04日

原告(反訴被告) 中村三男

被告(反訴原告) 田中三男

主文

1  被告は原告に対し金九万円およびこれに対する昭和四四年一一月一一日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求はいずれも棄却する。

3  被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

4  訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを五分し、その三を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

5  この判決は、第1項に限り、原告が金三万円の担保をたてたときは、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

原告(反訴被告)

一、本訴について

1  被告は原告に対して金一二九万円およびこれに対する昭和四四年一一月一一日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言

二、反訴について

1  反訴原告の請求を棄却する。

第二、当事者の主張

原告(反訴被告)

一、本訴請求原因

1  被告は建築請負業を営むものである。

2  昭和四四年一〇月一日原告と被告との間で次のような内容の建築工事請負契約を締結した。

(一)、目的、原告所有の東京都江東区亀戸二丁目二五番一四号所在木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗居宅一棟、床面積一階一六坪五合、二階七坪五合のうち一階の一部の改造工事および二階の増築工事

(二)、完工期、同年一一月三日

(三)、請負代金、一、六三六、六〇〇円

契約時に現金五〇万円を支払うとともに支払期日が昭和四四年一二月から昭和四五月四月まで毎月一日の各額面五万円の約束手形五通を振出す。上棟外板完了時に四五万円、完成引渡時に残額を各現金払いする。

(四)、二階増築部分について

(1) 四隅に檜四寸角の一階からの通し柱をたてて、間の柱も檜を使う。

(2) ぬき板はモルタルの下地とする場合のように間隔をおかずに打つ。

(3) 屋根および家の外壁に使うトタンは二八番を使用する。

(4) 二階の床面積は約九坪とする。

(五)、設計外の追加工事、微細工事はその都度原告、被告間で話合う。

3  原告は右契約時に約定のとおり被告に現金五〇万円を支払い、約定のとおりの約束手形五通を振出して交付した。

4  (一)、ところが被告が実施した工事は

(1)、二階の四隅の柱のうち一階からの通し柱は一本だけで、しかもつがの木の三寸五分角材を使用し、

(2)、ぬき板はモルタル塗りの部分の下地は間隔をあけずに打ってあるが、トタン張りの部分の下地は間隔をあけて打ってあり、

(3)、屋根および外壁に使用したトタン板はいずれも三一番(二八番より薄い)であり、

(4)、二階の床面積は約八坪しかない。

この点に関する被告の反論は否認する。

(二)、その工事方法も

(1)、根太と大根太の組み合わせが充分でなく、

(2)、二階の柱が一階部分の柱の上になく、一階の柱から斜めに支えを出して二階の柱を支えるようになっており、通し柱も土台の上に置かれていない。

など不完全な方法で行なわれている。

(三)、さらに被告は昭和四四年一〇月二四日工事を中断して在来建物と増築部分の継目をおおっていた雨よけのシートを取去ってそれ以後工事を施工しなかった。

この点についての被告の反論は争う。原告が代金を支払わなかったのは前述のとおり工事が約定のとおりなされなかったからである。

5  原告は被告に対し、昭和四四年一〇月中再三2(四)記載の方法で施工し、また4(二)記載のような工事方法を改めるように催告した。

6  原告は、昭和四四年一一月二二日本件第一回準備手続期日に被告に対し、本件契約を解除する旨の意思表示をした。

7  右解除時までに被告が施工した工事の代金は二五万円相当である。

8  被告は、4(三)記載のとおり、本件工事を途中で放棄して母屋と増築部分の接続部分をおおっていたシートを取り去ってしまったので、原告は、風雨をさけるため、一階の旧家屋部分と増築部分の外壁のすき間にトタンを張って応急措置をなさざるを得なかった。これに三万円の費用を要した。

9  原告は本件増築部分である二階を利用して囲碁クラブを経営する予定であり、そのことは契約当時被告にも伝えてあった。原告としては本件契約解除後も、本件訴訟のための証拠を保全するため、昭和四五年三月に鑑定人桜井一の現場見分が終了するまで本件工事を他の業者に続行させることができず、結局2(二)記載の完工期日から昭和四五年三月以降他の業者に本件工事を続行させた場合の完工日までの間本件建物を利用して営業できなかった。本件建物による囲碁クラブ経営による利益は一か月八万円相当である。

10  二階部分の床面積の減少によって原告が蒙った損害は、本件建物を他に賃貸した場合の減少部分に対する賃料額相当と解すべきである。本件建物の賃料は一か月坪当り三、五〇〇円相当であるから、本件建物の耐用年数を二〇年として二〇年分八四万円の損害を受けた。

11  被告は本件工事の実施にあたり原告の許可を得ることなく、本件増築予定の二階部分の南側に接する、従来からの建物の二階北側部分の壁のモルタルを取りこわした。右モルタルを復旧するのに要する工事費は一〇万円相当である。

12  よって原告は被告に対し、

(一)、契約解除による原状回復請求として支払済の代金七五万円から施工された工事の代金相当額二五万円を差引いた五〇万円

(二)、債務不履行による損害賠償として、8記載の三万円、囲碁クラブ経営による得べかりし利益のうち約定の完工期日の翌日から三か月分二四万円、床面積の減少による損害のうち四二万円の合計六九万円

(三)、不法行為による損害賠償として11記載のとおり一〇万円

以上(一)ないし(三)の総計一二九万円およびこれに対する昭和四四年一一月一一日から支払済まで商法所定の年六分の割合による金員の支払を求める。

二、反訴請求原因に対する認容

1  認める。

2  認める。

3  認める。

4  上棟が完了したことは認める。外板工事は施工されてはいるが完了していない。

5  争う。

6  反訴原告が現在までになした工事は二五万円相当であるから、反訴原告の予備的請求も理由がない。

7  本件契約は昭和四四年一一月二二日をもって解除された。

その詳細は、本訴原告の主張2、(四)、4、5、6記載のとおりである。

被告(反訴原告)

一、本訴について

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

二、反訴について

1  反訴被告は反訴原告に対して金六九八、九一四円およびこれに対する昭和四五年四月二八日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は本訴反訴を通じて反訴被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言

被告(反訴原告)

一、本訴請求原因に対する認否

1  認める。

2  昭和四四年九月二九日原告と被告との間で建築工事請負契約がなされたことは認める。内容については次のとおりである。

(一)、認める。

(二)、作業期間は約三〇日との契約であった。

(三)、認める。

(四)、(1)ないし(3)は否認する。(4)は認める。

(五)、認める。

3  現金五〇万円の支払を受けたことは認めるが、約束手形の交付を受けたことは否認する。

原告から約束手形と題する書面を五通受取ったが、支払地、振出地等の手形要件を欠くものであった。

4  (一)、(1)ないし(4)は認める。

(二階部分の面積が約八坪となったことについて。)

二階増築部分の西側の外壁にトタン板を張るためには、増築部分の西側に隣接する母屋と増築部分との間に人が入れるだけの間隔が必要であり、そのために間隔分だけ増築部分の東西の巾を狭くせざるを得なかったのであり、そのように変更するについては原告の娘怜子の同意を得ている。

また増築部分の北側外壁を設計通りにすると、出窓を隣家との境界を越えて設置することになるので出窓が隣家との境界を越えぬように外壁を南へ退けた結果増築部分の南北の巾を狭くせざるを得なかったのである。

右のようなやむを得ない事情で二階部分の床面積が約八坪となった。

(二)、工事方法は

(1)、根太については通常の工法であり、

(2)、現状はその通りであるが、まず二階部分から着工し、次いで一階部分を施工する予定であってまだ一階部分に着工していないので一階の柱の上に二階の柱がないのであり、また通し柱の下は現在汲取式便所の穴のそばで土台が作れないから土台を作ってないのであり、一階の改造をして便所を他へ移転した後土台を作る予定であったものでいずれも仮の措置である。

(三)、認める。

工事を施工しなかったのは、上棟外板工事が完了したにもかかわらず原告が約定の代金を支払わなかったからである。

6  認める。

7  否認する。

現在までになした工事は約六〇万円相当である。

8  本件工事を途中で中止したこと、シートを取去ったことは認めるが、その余の事実は否認する。

9  否認する。

10  否認する。

11  被告がモルタルを取りこわしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

右モルタル部分を取りこわさなければ本件工事を施工できないのであり、取りこわしは当然本件契約による工事の範囲に含まれている。

12  争う。

二、反訴請求原因

1  原告の本訴請求原因1に同じ。

2  原告の本訴請求原因2(一)、(三)、に同じ。

3  契約時に反訴被告が振出すことを約定した約束手形の支払期日はいずれも到来した。

4  反訴原告は本件工事を施工し、昭和四四年一〇月一三日上棟し、同月一七日に外板工事を完了し、反訴被告はその頃これを知った。

5  よって約束手形をもって支払う約定の二五万円のうち二四八、九一四円および上棟外板完了時に支払う約定の四五万円ならびに右金額の合計額に対する各履行期以後である昭和四五年四月二八日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による金員の支払を求める。

6  仮に右請求が理由ないとしても、反訴原告が現在までになした工事は六〇万円相当であるから右金額から既に支払を受けた五〇万円を差引いた一〇万円の支払いを求める。

7  争う。

詳細に対する認否、反論は、本訴被告の主張2、(四)、4、5、6記載のとおりである。

第二、証拠関係≪省略≫

理由

(本訴について)

一、≪証拠省略≫によれば、右契約が成立したのは昭和四四年九月二九日であり、完工期は同年一一月三日と定められていたことが認められる。

≪証拠省略≫によれば、右契約の際増築部分について、四隅に一階からの通し柱をたてること、屋根および外壁に張るトタン板は二八番の規格のものを使う約束であったことが認められる。

被告本人の供述のうち、右認定に反する部分は信用できない。

原告は、二階増築部分の通し柱は檜の四寸角材を使用し、間の柱も檜材を使うこと、ぬき板はモルタル塗りの下地とする場合のように間隔をあけないで打つこともまた、右契約の際に約束されていたと主張し、≪証拠省略≫の中には右主張にそう部分もあるが、その部分は≪証拠省略≫に照らしていまだ信用できず、他に右主張を認めるに足る証拠はない。

二、1 被告が実施した工事の内容が本訴請求原因4、(一)の(1)ないし(4)記載のとおりであったことは、当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、二階の床面積が当初の契約時の設計よりも約一坪減少したのは、当初の設計によれば二階増築部分の巾は東西一六尺、南北二〇尺の予定であったところ、東西および南北の巾をそれぞれ一尺ずつ減少したためであることが認められる。

2 そうすると、被告が施工しつつあった本件工事は、少なくとも、二階増築部分の四隅のうち二箇所に一階からの通し柱を使っていないこと、屋根および外壁に張るトタン板に二八番より薄い三一番を使用していること、二階の床面積が約八坪であることの三点において、当初の契約に反するものであったといわなければならない。

3 被告は、本件増築部分の東西の巾を狭くすることについては、原告の娘である訴外中村怜子の同意を得ていたものであると主張し、被告はこれにそう供述をしているが、右供述は≪証拠省略≫に照らしていまだ信用できず、他に右主張にそう証拠はない。また被告は、本件増築部分の南北の巾を狭くしたのは、当初の設計のとおりの工事を施工すると出窓が北側の隣地との境界を越えることになるので、北側の外壁を一尺南方へ退けたものでやむを得ない処置であったと主張し、≪証拠省略≫によれば、増築部分の南北の巾が狭くなったのは右主張のとおりの事情であったことが認められる。しかしながら≪証拠省略≫によって認められる本件増築工事の設計をしたのが被告自身であること、右のような設計の変更について注文者である原告の意向が聞かれていないことおよび一般的に当初の設計どおりの工事をしたのでは出窓が隣家との境界を越えるので何らかの設計変更をしなければならないような場合でも、特別の事情のない限り、建物の外壁をその境界から退けて建物の床面積を少なくすることよりも出窓の設置をとりやめることの方が、設計の変更も少なくかつ注文者の意思にそうものと解されることを考えあわせると、本件増築部分の南北の巾が当初の設計より狭くなったことがやむを得ない事情によるものということはできない。

三、1 被告が実施した工事の方法が本訴請求原因4、(二)(2)記載のとおりであったこと、被告が昭和四四年一〇月二四日に工事を中断して在来建物と増築部分の継目をおおっていた雨よけのシートを取去り、それ以後本件工事をなさなかったことは、当事者間に争いがない。

2 原告は、被告の行なった本訴請求原因4、(二)、(2)記載のような工事方法が不完全なものであり、また根太と大根太の組み合わせの方法も不完全なものであると主張する。

しかしながら、≪証拠省略≫を総合すれば、被告の施工した根太と大根太の組み方は一応妥当な工法であること、二階の柱が一階部分の柱の上になく一階の柱から斜めに支えを出して二階の柱を支えるようにしたのは、被告としてはまず二階部分から着工し次いで一階部分を施工する予定であって、まだ一階の柱を立ててないので旧来の一階の柱の位置と二階の柱の位置がずれているための仮の措置としてであること、通し柱が土台の上に置かれていないのは、通し柱の土台が設置されるべき箇所が現在汲取式便所の厠坑のそばであるために土台を設置することができないので、被告としては一階の改造をして便所を他へ移転したのち土台を作る予定であって、まだそれが完成されていないためであること、従って、右のような工事方法も妥当な工法であることが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

3 被告は、昭和四四年一〇月二四日以降工事を中止したのは、二階部分の上棟外板工事が完了したのに、原告が上棟外板工事完了時に支払う約束の請負代金の内金を支払わなかったからであると主張する。

しかしながら、≪証拠省略≫によれば、右工事中止当時、棟上げおよび二階部分の外板工事は完了していたけれども一階部分の外板工事は未完成であったことが認められる。そうだとすると、原告が上棟外板完了時に支払う約束の請負代金の内金を支払わないからといって、それ以後の工事を続行しないことが許されるものではない。まして≪証拠省略≫によれば、右工事の当時本件増築部分に接着する在来の建物には原告の妻および子供達が居住していたことが認められるのであるから、在来建物と増築部分の継目をおおっていた雨よけのシートを取去るような行為は、人が現に居住する建物の増築工事の請負人の請負契約履行方法としては妥当性を欠く不完全な履行といわなければならない。

四、原告が被告に対し、昭和四四年一〇月中再三にわたり、当初の契約のとおりの工事を施工するよう、また本訴請求原因4(二)記載のような工事方法を改めるように催告したことは、被告が明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。そうすると昭和四四年一一月二二日の本件準備手続期日において原告が被告に対してした本件請負契約を解除する旨の意思表示は、適法有効というべきである。

ところで、建物その他土地の工作物についての工事請負契約において、注文者が請負人の工事着手後にその債務不履行によって契約を解除する場合、工事は未完成であるがすでに施工した部分だけでも給付することが当事者にとって利益であるときは、未完成部分についてのみ請負契約を失効させる趣旨の解除をなすことも許されると解するのが相当であり、この場合は、請負人は解除時の状態のままで建物等の工作物を注文者に引渡し、注文者は当初の契約金額、解除時の完成度等をしんしゃくして引渡を受けた工作物に対する相当な報酬を請負人に支払い、すでに支払われた前払金があれば相互に清算する義務を負うものというべきである。

これを本件について見ると、≪証拠省略≫によれば、原告は、被告が工事を中止した昭和四四年一〇月二四日頃の状況のままで本件建物の引渡を受け、契約解除後他の建築請負業者に残りの建築工事を請負わせて増改築工事を完成させたことが認められ、このような事実からみて、原告のなした本件請負契約解除は、すでに施工した部分を除く将来の施工部分についてのみ契約を失効させる趣旨のものと解すべきである。

五、ところが≪証拠省略≫によれば、右解除時までに被告の行なった工事の報酬額は四四万円が相当であると認められる。右の報酬額につき、原告は二五万円、被告は六〇万円がそれぞれ相当である旨主張するが、≪証拠省略≫に照らしていまだ信用するに足りない。

本件契約成立時に原告に対して請負代金の内金として五〇万円を支払ったことは、当事者間に争いがない。

そうすると被告は右五〇万円と四四万円の差額六万円を原告に返還しなければならない。

原告は右五〇万円とともに本訴請求原因2(三)記載のとおりの額面および支払期日の約束手形五通を振出した旨主張し右約束手形の額面の合計二五万円の返還をも請求している。≪証拠省略≫によれば、本件契約成立の時に原告が被告に対し約束手形と題する書面(正規の約束手形用紙によらないもの)五通を交付したこと、右書面にはいずれも、手形要件のうち支払地、振出地、振出日の記載がないことが認められる。従って右書面はいずれも手形としては無効というべきであるのみならず、≪証拠省略≫によれば、右書面に基づいた支払いはなされていないことが認められる。よって原告の右請求は理由がない。

六、≪証拠省略≫によれば、被告が三、1記載のように在来建物と増築部分の継目をおおっていた雨よけのシートを取去ったまま放置したこと、そのため応急措置として雨よけのトタンをはるために原告が三万円を支出したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そうすると、右三万円は被告の債務不履行によって原告が蒙った損害といわなければならない。

七、次に、原告の本訴請求原因9記載の囲碁クラブの経営による利益の喪失による損害の主張について判断する。

≪証拠省略≫によれば、原告は本訴提起後検証鑑定等の証拠保全の申立をなし(この事実は本件記録上明らかである。)、その手続が完了するのをまって他の建築業者に本件残工事を施工させた結果、昭和四五年五月末頃に至りようやく工事が完成したこと、原告は右増築した二階部分で囲碁クラブを開設しようとしたこと、ところが右二階部分へ外部から出入りするには、原告が訴外飯窪某に賃貸している本件建物に隣接する建物の一部を通行しなければならないものであるところ、飯窪から右二階部分で囲碁クラブを開設すると不特定多数の客が出入りすることになるから困る旨異議が出たため、結局原告は囲碁クラブを開設できなかったことが認められる。そうだとすると、原告としては当初から囲碁クラブの経営によって利益を得る余地はなかったものと認められるから、これを失なったとする原告の主張はその余の点につき判断するまでもなく理由がない。

八、次に原告の本訴請求原因10記載の本件二階増築部分の床面積の減少による損害の主張について判断する。

≪証拠省略≫によれば本件二階増築部分は居室として現在第三者に賃貸していることが認められる。

ところで、建物または建物の一部の賃料は、建物の所在地、用途、建築後の経過年数、構造、間取り、設備、床面積あるいは需給関係等種々の要素によって決定されるものであること、また当該建物の床面積が賃料算定の重要な要素であることは公知の事実である。しかしながら他方他の条件がすべて一定である場合に、賃料額が床面積の大小に正比例して増減するものとは判定できないのであり、殊に本件においては、二、1に認定したように本件建物の二階増築部分の床面積が九坪弱から八坪弱に約一坪弱減少したにすぎず、このことから直ちに賃料額が九分の八に減少したものとはいえない。

また原告は本件建物の賃料は一か月坪当り三、五〇〇円相当である旨主張し、本件建物の近隣の木造の貸事務所の賃料は坪当り三、五〇〇円程度であり住居用であればそれよりやや低額である旨供述しているが、右供述のみをもってはいまだ本件二階増築部分の賃料を認定することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はない。以上によれば、本件二階増築部分の床面積が約一坪減少したことによってその賃料額がどれだけ減少したかは確定できないから、原告が本件増築部分を将来にわたっても自ら使用することなく他に賃貸し続ける蓋然性、本件増築部分の耐用年数、床面積の減少によって節減された増築工事費等について判断するまでもなく、原告の主張は認められない。

九、次に原告の本訴請求原因11記載のモルタル壁の取りこわしによる損害の主張について判断する。

被告が本件工事の施工にあたって本件二階増築部分の南側に接する、従前の建物の二階部分の北側の壁のモルタルを取りこわしたことは当事者間に争いがない。

しかしながら≪証拠省略≫によれば、本件増改築工事は、従前の建物の二階部分の北側に接して二階を増築し、その下の一階を改築する工事であったこと、増築される二階部分と従前の二階部分は接合して増築二階部分に作る部屋の押入れを従前の二階部分に作り、また増築二階部分から従前の二階部分への通路を作り、右押入れおよび通路のための開口部以外の壁面は新建材をはった木造の仕切りとする予定であったこと、そのためモルタル壁を取りこわす必要があったこと、取りこわされたモルタル壁は従来からの二階部分の外壁で、本件増築によって建物の中の壁となる位置にあったことが認められる。≪証拠判断省略≫

右認定の事実によれば、前記モルタル壁を取りこわすことは、本件増改築請負契約で被告が請負った工事の範囲内に当然含まれていたものと推認することができる。

従って、被告が前記モルタル壁を取りこわしたことは違法な行為とはいえないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の主張は理由がない。

一〇、ところで、被告が建築請負を業とするものであることは当事者間に争いがなく、本件訴状の副本が昭和四四年一一月一〇日に被告に送達されたことは本件記録上明らかである。

一一、よって原告の本訴請求のうち、五、で判断した不当利得金六万円、および六、で判断した損害賠償金三万円ならびにこれらに対する昭和四四年一一月一一日以降支払済みまで商法所定の年六分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるが、その余は理由がない。

(反訴について)

一二、原告と被告との間で本訴請求原因2、(一)、(三)記載のような内容の工事請負契約が成立したこと、右契約によって反訴被告が振出すことを約定した約束手形の支払期日がいずれも到来したこと、被告が本件工事を施工し棟上げが完了したことは、当事者間に争いがない。

一三、被告が施工した本件工事のうち、二階部分の外板工事は完了したけれども一階部分の外板工事が未完成であったことは、三、3に認定したとおりである。

一四、本件請負契約が昭和四四年一一月二二日に解除されたことおよびその効果は四、に判断したとおりである。

一五、被告が右解除時までに行なった工事の報酬額は四四万円相当であることは五、に判断したとおりである。

一六、以上によれば、被告の反訴請求がいずれも理由がないことは自ら明らかである。

(結論)

一七、以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、金九万円およびこれに対する昭和四四年一一月一一日から支払済まで年六分の割合による金員の範囲内においてこれを認容し、その余は棄却し、被告の反訴請求はすべて棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言について同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺忠之 裁判官 豊島利夫 西田美昭)

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