東京地方裁判所 昭和45年(ワ)5245号 判決 1971年11月27日
原告 小島徳司
右訴訟代理人弁護士 河崎光成
同 村上洋
右訴訟復代理人弁護士 伊藤孝雄
被告 株式会社交通日々新聞社
右代表者代表取締役 吉田智真留
右訴訟代理人弁護士 前島正好
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
(一) 被告は、原告に対し、金七〇〇、〇〇〇円およびこれに対する昭和四五年六月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行の宣言を求める。
二 被告
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第二当事者の主張
一 請求原因
(一) 原告と被告とは、昭和三七年四月九日、原告が被告に対し同年二月一七日ごろ貸し付けた金二〇〇、〇〇〇円の貸金債権および同月二〇日ごろ貸し付けた金五〇〇、〇〇〇円の貸金債権をもって消費貸借の目的とし、弁済期をうち金四五万円については昭和三七年六月二一日、うち金二五万円については同年七月一三日とすることを約した。
(二) よって、原告は、被告に対し、準消費貸借金七〇〇、〇〇〇円およびこれに対する弁済期の后である昭和四五年六月一三日(訴状送達の翌日)から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因(一)は否認する。
三 抗弁
(一) 被告は、原告から、昭和三七年二月一七日ごろおよび同月二〇日ごろ原告主張の金員の貸付を受けたことはない。
(二) かりに右各貸付があったとしても、原告は右各貸付の当時被告会社の取締役であったから、右各貸付は取締役と会社間の取引として無効であり、したがって本件準消費貸借契約も無効である。
(三) かりに本件準消費貸借契約が有効だとしても、
1 借主である被告は会社であるから、本件準消費貸借契約による貸金債権は商行為によって生じた債権であるところ、原告の本訴提起のときはすでにその弁済期から五年を経過していた。
2 そこで、被告は、本訴において本件貸金債権につき五年の消滅時効を援用する。
四 抗弁に対する認否
(一) 抗弁(一)は否認する。
(二) 抗弁(二)のうち、原告が貸付のとき被告会社の取締役であったことは認める。
(三) 抗弁(三)の1は認める。
五 再抗弁
(一) 前記二〇万円及び五〇万円の各貸付についてはいずれも利息の定めはなく、しかもその頃取締役会の承認を受けている。
(二)1 原告は、被告に対し、昭和三七年八月一四日、本件貸金債権弁済のために被告が振り出した約束手形金債権を被保全権利として被告所有の不動産について仮差押命令の申請(当庁昭和三七年(ヨ)第五三二九号)をなし、右申請に基づく仮差押命令は同月二七日登記簿に記入された。
2 右により原因関係たる本件貸金債務の消滅時効は中断されている。
六 再抗弁に対する認否
(一) 再抗弁(一)の事実は否認する。
(二) 再抗弁(二)の1の事実のうち、被告が本件貸金債権弁済のため約束手形を振出したとの事実は否認し、その余の事実は認める。
第三証拠≪省略≫
理由
一 原告主張の本件準消費貸借契約が有効に成立したことについては争があるが、仮にこの点を原告の主張のとおりであったとしても、右契約による債権が商行為によって生じた債権であり、かつ、本訴提起のときにはその弁済期から既に五年を経過していることは原告の認めるところであるから、右債権は、原告主張の時効の中断が認められない限り、時効により消滅していることになる。
そこで、原告主張の時効の中断が認められるかどうかについて考えるに、その主張は貸金債権弁済のために振り出された約束手形金債権を被保全権利とする仮差押が貸金債権の時効中断の効力を有することを前提とするものであるが、貸金債権の弁済のために手形が振り出された場合であっても、手形債権と貸金債権とは別個の権利であり、時効期間も別異に定められており、手形債権の行使には貸金債権の主張を要しないものであることによれば、手形債権を被保全権利とする仮差押をもって、時効の中断に関し、貸金債権を被保全権利とする仮差押があった場合と同視することは困難である。
従って時効中断を言う原告の主張はその前提において採用できない。
二 よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 田中永司)