東京地方裁判所 昭和45年(ワ)5974号 判決 1971年12月16日
原告 和田和子
<ほか一名>
右原告ら訴訟代理人弁護士 野島豊志
同 新寿夫
被告 日本信販株式会社
右代表者代表取締役 山田光成
右訴訟代理人弁護士 入江正男
同 森田昌昭
同 矢野義宏
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告ら
「原告和田和子の被告に対する別紙債権目録記載の債務の存在しないことを確認する。被告は原告和田志げに対し、別紙物件目録記載の土地および建物について別紙登記目録記載の各登記の抹消登記手続をせよ。被告は原告和田和子に対し、金七三万二、五五一円およびこれに対する昭和四五年六月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。」との判決
二 被告
主文同旨の判決
第二当事者の事実上の主張
一 請求原因
1 被告は、昭和四〇年八月二八日、原告和田和子(以下「原告和子」という。)に対し、金三五〇万円をこれが弁済方法は同年九月より昭和四五年八月までの間、毎月二五日限り、月額金九万三、八〇〇円(利息、手数料を含む。)あて支払うものとする定めで貸し付けることを約し、同日手数料として金二一万七、五〇〇円を天引し、残額金三二八万二、五〇〇円につき、これを原告和子が取締役をしていた訴外株式会社東京港船舶整備協会の債権者である訴外東信興業有限会社の代理人訴外宮下清次郎に交付した。
2 原告和田志げ(以下「原告志げ」という。)は、原告和子の被告に対する前記金銭消費貸借契約に基く債務を担保するため、その所有にかかる別紙物件目録記載の土地および建物(以下「本件不動産」という。)につき、昭和四〇年九月七日、被告との間に、停止条件付代物弁済契約、抵当権設定契約、停止条件付賃借権設定契約をなし、被告のため、これらを原因とする同登記目録記載のとおりの各登記(以下「本件登記」という。)を経由した。
3 原告和子は前同日、被告に対し被告に対する前記債務を担保するために、申込証拠金名下に金一〇万五、〇〇〇円を寄託した。
4 ところで、原告和子は、右債務につき、前記約定に基き、昭和四〇年九月二五日から昭和四五年一月二五日までの間、五三回にわたり毎月二五日に金九万三、八〇〇円あてを弁済したが、これを順次利息制限法に従い、まず元本に対する一か月の利息一分二厘五毛の割合による利息金にあて、それをこえる部分を元本に充当すると別紙弁済目録記載のとおり第四七回目の弁済期である昭和四四年七月二五日に前記債務を完済したこととなり、右同日およびその後に支払った金六二万七、五五一円は原告和子において債務が存在しないのにその弁済として支払われたものというべきである。
5 そうすると、原告和子の被告に対する前記債務は消滅したことになるので、右債務の担保のためになされた本件不動産についての各登記は抹消されるべくまた、右債務の担保として寄託された前記金一〇万五、〇〇〇円も原告和子に返還されるべきであり、前記過払分金六二万七、五五一円については被告において債務が存在しないのにその弁済として受領したものであって不当に利得したものというべきであるからこれを原告和子に返還すべきである。
6 なお、原告和子と被告間に成立した前記金銭消費貸借契約は、原告和子が原告志げより本件不動産を購入するために、被告より原告和子に対する住宅購入代金の立替給付という形式になっているが、これは主として次のとおりの理由により実質上は金銭消費貸借であり、したがって利息制限法の適用があるものである。すなわち、
(1) 被告は右契約については、住宅購入代金の立替給付を目的としたものではなく、実質は原告和子が取締役をしている訴外株式会社東京港船舶整備協会が訴外東信興業有限会社に対して負っていた金二七〇万円の借入債務につき、被告において右債務の肩替りをするためになされたこと、すなわち金銭消費貸借であることを十分知っていたものであり、このことは、次の二つの事実から裏付けられている。
(イ) もし住宅購入代金の立替給付ということであれば、前記金三二八万二、五〇〇円は、売主である原告志げに直接支払われて然るべきであるのに、実際は前記訴外東信興業有限会社の代理人である訴外宮下清次郎に被告より直接交付されていること
(ロ) 原告両名は親子であり、かつ形式上売買物件の対象となっている住宅に同居していることは被告も十分に知っていたものであり、これらに売買価格が金五二五万円という高額であることをあわせ考えれば、右売買の形式は極めて異例のことであるのに、被告は特段の調査もせず融資を決定したこと
(2) かりに前記金員が住宅購入代金の立替金として売主としての原告志げに支給されたとしても、本件の場合には被告において買主に代わり代金を一度に売主に支払っているのであり、この代金に一定の利息を付して買主としての原告和子より徴収するというのであって、信用の供与にほかならず、商品の売買を媒介しているとはいえ利息制限法の適用においては一般の金銭消費貸借とは実質的に同じであり、もしこれを同法の適用外とするならば割賦販売の名のもとに同法の適用は潜脱されその立法精神は亡び去るといわざるをえない。
7 しかして、被告は前記金銭消費貸借契約に基く債務のうち、別紙債権目録記載の債務はなお、存在するとしてこれを争うので、原告らは被告に対し右債務が不存在なる旨の確認を求め、原告志げは被告に対し本件不動産についての本件登記の抹消登記手続を、原告和子は被告に対し前記金一〇万五、〇〇〇円および金六二万七、五五一円の合計金七三万二、五五一円およびこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和四五年六月一九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
二 請求原因に対する答弁
1 請求原因第一項の事実は否認する。もっとも被告は昭和四〇年八月二八日原告和子に対し金五二五万円を交付したがこれは被告と同原告との間の住宅購入代金立替契約に基くものであり、これに基いて同原告は被告に対し、原告ら主張のとおりの弁済方法を約し手数料金二一万七、五〇〇円は天引したものではなく、原告和子が前同日被告に対し手数料として支払ったものである。
2 請求原因第二項の事実のうち本件不動産につき、原告ら主張のような契約がなされ、本件登記が経由されていることは認めるが、その余の事実は否認する。右契約ないし登記は前記のような立替契約に基く原告和子の被告に対する債務を担保するためになされたものである。
3 請求原因第三項の事実は認める。
4 請求原因第四項の事実のうち、原告和子が原告ら主張のとおり被告に対し昭和四〇年九月二五日から昭和四五年一月二五日までの間、五三回にわたり毎月二五日に金九万三、八〇〇円あてを支払ったことは認めるが、その余の事実は否認する。同項の主張は争う。
5 請求原因第五項の主張は争う。被告と原告和子との間にはなお別紙債権目録記載の債務が残存しているものである。
6 請求原因第六項の事実のうち、被告が原告和子と契約をする際、これが原告ら主張のような債務肩替りのためになされたことを知っていたとする点は否認する。
右契約は住宅購入代金立替契約である。すなわち、被告は、一般商品のほか、昭和三六年以降は土地、建物についても割賦販売の斡旋業務を行っているが、これが取引の方法はまず不動産の買主(住宅会員)が売買代金の三分の一に相当する金額を一定期間自己名義で被告指定の金融機関に積立預金し、その額が三分の一に達すると買主はその預金名義を被告名義に変更したうえ、被告は右金融機関より売買代金相当額を借り入れこれを買主に代って売主に立替払いをなし、右売買代金の三分の二相当額を買主より割賦支払の方法により弁済を受けるのであり、その際被告は売買代金を立替支払したことにより借入れをした銀行に対する利息の支払のほか事務費用を負担しなければならないうえ、長期にわたる割賦支払のため危険負担率も増大することとなるので、これを利息、手数料名義で、前記立替額に付加して支払を求めるものである。
本件の場合にも、被告は、原告和子が原告志げより本件不動産を買い受けるとしてこれが売買代金の立替払の申込をしたことから原告和子との契約により同原告から売買代金五二五万円の三分の一に相当する金一七五万円を受け入れてこれを銀行に定期預金し同銀行より金五二五万円を借り入れこれを原告和子に交付し(本来であるならば、売主たる原告志げに交付すべきところ本件では売買の当事者が親子の関係にあるため便宜上原告和子に交付した。)、原告和子より、その三分の二に相当する金三五〇万円につきこれに前記のような事由により利息、手数料を付加して同原告主張のような弁済方法で支払を受けることとしたのであって、以上形式、実質の両面よりするも本件の契約は金銭消費貸借契約ではなく、したがって利息制限法の適用は受けない。
第三証拠≪省略≫
理由
一 原告らは、原告和子と被告との間で、昭和四〇年八月二八日締結された契約は金銭消費貸借契約であると主張し、被告は右住宅購入代金立替契約であるとしてこれを争うので、まずこの点について判断する。
≪証拠省略≫を総合すると次の各事実を認めることができる。
1 被告は割賦販売法に基づく割賦購入の斡旋を主たる業務とする会社であるが、昭和三六年ころからは、不動産の割賦販売の斡旋をもすることとなり、これが斡旋は、不動産の所有者が当該不動産を売却する場合、買主において被告の住宅会員となり、一定期間売買代金の三分の一相当額までを被告の指定する金融機関に定期預金をなしたうえ、その額が三分の一に達すると、買主は右預金債権を被告に対して譲渡し、被告は右金融機関より売買代金相当額を借り入れ、これを買主に代って売主に立替払をなし、買主からは一定の申込証拠金の提供を受けたうえ右売買代金の三分の二相当額およびこれに対する一か月一・二五パーセントの利息および一か月〇・三パーセントの手数料を付加したものを五年間にわたって支払を受けるほか、立替契約締結時に宅地建物取引業法第一七条所定の手数料相当額の支払を受ける方法によってなされていたこと
2 一方原告和子が取締役をしていた訴外株式会社東京港船舶整備協会は訴外日東不動産株式会社(代表取締役訴外宮下清次郎)の仲介により昭和三九年ころ訴外東信興業有限会社より金二七〇万円を借り受け、その担保として原告和子の母親である原告志げ所有の本件不動産に抵当権を設定していたが、その後も右訴外会社より融資を受け、その債務は金三五〇万円位にも達し、その利息がかなり高利のうえこれが支払が出来なくなり、右訴外会社より抵当権の実行を迫られたことから、原告和子は前記訴外宮下に対し、他に低廉な金利での融資先があれば、これより融通を受け前記債務を弁済するとして適当な融資先の紹介を依頼し、右訴外人において他の金融機関に交渉してみたものの意のごとくならなかったことから、この際被告の前記不動産割賦販売の斡旋業務を利用して原告和子に資金を与えるにやむなしとし、原告らもこれを了承したこと
3 しかして、被告の右不動産割賦販売の斡旋業務は前記のとおり不動産の売買が前提となるところから、前記訴外宮下において原告らに右斡旋業務の内容を説明したうえ、結局右訴外人と原告らの協議により原告志げ所有の本件不動産を原告和子に売却する形をとることとし、これにより右訴外人が被告係員訴外勝場政範に対し原告和子に売買資金の立替方を要請したところ右訴外人も原告らの間の本件不動産の売買につき、その売買代金を立替えることにつき了承するに至ったこと
4 そこで原告らは昭和四〇年八月二八日被告の住宅課に赴き、前記訴外勝場に対し原告志げが売主、原告和子が買主であるとし、原告和子において本件不動産の売買代金として金五二五万円の立替方を申し込み、前記のとおりの被告の不動産割賦販売の斡旋方法にしたがい、前記訴外宮下より右売買代金の三分の一に相当する金一七五万円を借り受け、これを被告に対し、被告がその指定銀行である訴外東洋信託銀行本店に定期預金をするための資金として支払い(従前は前記のとおり一定期間買主において売買代金の三分の一相当額までを被告の指定する金融機関に定期預金をする方法であったが、昭和四〇年ころからは、一回でこれが支払いをすることとなった。)、また申込証拠金として金一〇万五、〇〇〇円、宅地建物取引業法一七条所定の手数料金二一万七、五〇〇円をそれぞれ被告に支払ったうえ、右同日被告との間で、金五二五万円を前記売買代金の立替金として被告より原告志げに交付すること、原告和子は右金五二五万円の三分の一に相当する金三五〇万円(被告の正味立替金額)につき昭和四〇年九月二五日から毎月二五日限り六〇回にわたり分割弁済すること、右分割弁済金額は前記1記載のような割合による利息および手数料を付加して、一か月金九万三、八〇〇円とする旨の「日本信販住宅会員契約」なるものを締結し、これに基づき被告は前記訴外銀行より金五二五万円を借り受け、同年九月一三日これを本来であるならば、売主である原告志げに支払うべきところ、同原告と原告和子は親子でもあり、いまだ売買に基づく本件不動産の所有権移転登記もなされていなかったところから、原告志げの了承のもとに、原告和子に支払ったこと
以上の事実が認められ(る。)≪証拠判断省略≫
右認定のような被告の業務内容、原告らが被告との間で契約をなすに至るまでの経過、原告和子が被告と契約をなす際にとった手続、その契約の内容を総合して勘案すると、原告和子と被告との間で昭和四〇年八月二八日に成立した前認定のような契約はとうてい金銭消費貸借契約と目することはできず、むしろ住宅購入代金立替契約と解するのが相当である。
原告らは、被告において右契約をなす際、実質上はこれが契約は金銭消費貸借である旨を十分了解していた旨主張するが、本件全証拠によるもこれを認めるに足りず、他に右契約が金銭消費貸借であるとする原告ら主張事実を認めるに足りる証拠はない。
なお、原告らは右契約が住宅購入代金立替契約であるとしても、利息制限法の適用においては、一般の貸金とは実質上同一であり、もし同法の適用外とするならば、割賦販売の名のもとに同法の適用は潜脱される旨主張するが、前認定のような事実よりすると、前認定のような契約が実質上金銭消費貸借契約と同一であるということはできず、特に右契約が割賦販売名下に利息制限法を潜脱するためになされたものと断ずることもできない。
二 そうすると、右契約については利息制限法の適用はないものというべきであるから、原告和子は原告ら主張のような弁済(これが弁済については当事者間に争いがない。)によっても、なお右契約に基づき被告に対し別紙目録(一)記載のような割賦返済金残債務金六五万六、〇〇〇円を負担しているものというべきであって、右債務がすべて消滅したことを前提とする原告らの本訴各請求はいずれもその前提を欠くから、その余の点を判断するまでもなく理由がないことに帰する。
よって原告らの本訴各請求はいずれも理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松本利教)
<以下省略>