大判例

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東京地方裁判所 昭和45年(ワ)9221号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕二 そこで被告の責任の有無について判断する。

<証拠>ならびに弁論の全趣旨によると、

被告と渡辺は本件事故前も何回か面識があること、事故当日被告は被告車に渡辺を乗せて麻布の「山路」に赴き、連れの女性(亡大谷玉枝)と共に飲酒したこと、被告は「山路」の店の前に被告車を駐車させておいたこと、被告は過労のため「山路」で悪酔し、渡辺、玉枝よりは一足先に出て被告車の後部座席に乗つたこと、その後「山路」から渡辺と玉枝が出てきて、渡辺が運転席に、玉枝が助手席に乗り込んだこと、事故発生時は午前三時三〇分頃であり、公の交通機関はもとより、タクシーさえも余り走行していない時間帯であることの各事実が認められる。

ところで被告は後部座席で眠り込んでいて、事故発生まで渡辺が乗り込んで来たことや、運転したことを全く知らなかつた旨主張するが、右主張に添うのは被告自身の供述だけであり、他にこれを裏付けるに足りる証拠は全くなく、いくら悪酔したとは言え同乗していて自分の車が第三者に運転されていることを知らなかつたとは通常考えられないところであるから、右主張をにわかには採用しがたい。

深夜まで渡辺らと共に飲酒し、しかも「山路」まで被告車に渡辺を乗せて赴き、かつ「山路」の前に駐車させていたのであるから、被告としても「山路」で飲酒した後、多少時間を置く置かないはともかくとし、被告車を運転して自宅に帰るつもりであつたであろうし、時は一二月二一日午前三時過ぎ頃の寒気の中で、公の交通機関は途絶し、タクシーとて仲々ひろえない時間帯である以上、渡辺らがこれを利用することともある程度予見しえたはずである。また被告の供述によると、被告車のエンジンキーは被告のコートのポケットに入れておいたというのであるが、これを一応前提とすると、渡辺が被告のポケットをさぐり、キーを発見し、さらにエンジンをかけ、アクセルをふかして発進するという一連の行為の際の音・振動、および渡辺や玉枝が乗り込むときのドアの開閉音、あるいは渡辺や玉枝がもし話したとすればその活し声等で被告が渡辺の行動を覚知する余地は極めて大きいことを考慮すれば、これから直ちに悪酔した被告が渡辺に運転を依頼したとまでは認められないまでも、少くとも渡辺の運転を黙示に容認したと推認せざるを得ない。

他方渡辺にしても、被告からの依頼があればその意に添つて運転したであろうことはもとより、被告からの明示の意思が表示がないまでも被告後部座席にいることは分つていることであるから、被告車をいわゆる泥棒運転しうる状態ではないので、被告に声をかける等して何らかの形で了解を得て運転したであろうことは推認に難くない。

そうすると特段被告車の本件運行につき被告の運行支配・運行利益をを完全に排してなされたものであるとは到底言えないから被告車の保有者である被告は自賠法三条の責任があると言うべきである。

さらに自動車を所有管理している者は、事故の発生の蓋然性の高い無免許者や酒酔者に運転させないようにする保管上の注意義務があるが、これは単にこれらの者に運転を依頼するなどの教唆や幇助等の積極的な行為をしてはならないということだけではなく、これらの者が自己の管理下にある自動車を運転しようとするときは、これを差止めて運転させないようにする注意義務があり、これを怠つたときは、これら第三者の行為により生じた結果についても責任を負わなくてはならないと解すべきところ、前記のとおり被告は渡辺に被告車の運転について少くとも暗黙の了解を与えていることが推認され、また共に飲酒していたのであるから渡辺が無免許であることまでは知らないとしても酒酔い状態であることは知つていたというべきであるから、被告には右注意義務を怠つたものとして民法七〇九条の責任もあると言わなければならない。(佐々木一彦)

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