東京地方裁判所 昭和45年(借チ)2084号・昭45年(借チ)2074号 決定
〔主文〕1 甲事件相手方(乙事件申立人)から甲事件申立人(乙事件相手方)らに対し別紙目録(一)記載の土地賃借権および同目録(二)記載の建物を代金一、三一五万円で売り渡すことを命ずる。
2 甲事件相手方(乙事件申立人)は、前項の金員の支払を受けるのと引換えに、甲事件申立人(乙事件相手方)らに対し、右建物を明渡し、かつ、同目録(二)の1記載の建物の所有権移転登記手続をせよ。
3 甲事件申立人(乙事件相手方)らは、前項記載の建物の明渡および所有権移転登記手続と引換えに、甲事件相手方(乙事件申立人)に対し、金一、三一五万円の支払をせよ。
〔理由〕一 乙事件申立人兼甲事件相手方(以下「相手方」という。)から別紙目録(一)記載中の土地(以下「本件土地」という。)にかかる同目録記載の土地賃借権譲渡許可の申立がなされたところ、賃貸人である乙事件相手方兼甲事件申立人ら(以下「申立人ら」という。)から本件土地賃借権および右土地上に存する別紙目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という)の譲受けの申立がなされ、右各申立はいずれも適法であるので、借地法九条の二第三項により、右建物および土地賃借権の対価を定めて譲渡を命ずる。
二 譲渡の対価について検討する。
鑑定委員会の意見の要旨は、「譲渡の対価は、本件土地賃借権の対価として金一、三八四万円、本件建物の対価として金六万円合計金一、三九〇万円が相当である。すなわち、本件土地の更地価格を、合計金二、二〇〇万円(一平方米当り金一二三、二四〇円)、借地権価格は、近隣の借地権割合更地価格の七〇%をもつて試算した額に、名義変更料の対価が一般に借地権価格の一〇%相当であることを考慮し、金一、三八六万円と算定した。建物価格は、使用価値相当額を再調達原価(一平方米当り金一八、二〇〇円)の一〇%と査定し、固定資産評価額を考慮すると上記のとおりとなる。)というにある。
まず、賃貸人の譲受ける土地賃借権の対価について判断する。
当裁判所も、本件土地の更地価格を、そのうえに老朽化した建物が存することを考慮し、金二、二〇〇万円とし、近隣の借地権割合を更地価格の七〇%とする鑑定委員会の意見を相当と認める。
ところで、借地権価格を右のごとく更地価格の七〇%とするのは、近隣における借地権の一般的交換価格であるが、かかる高額な借地権価格が形成された主たる要因は、土地の価格が社会経済的要因により著しく高騰したのにかかわらず、地代がそれに伴つて上昇せず、そのために、借地権の譲受人の経済的利益(借り得)が増大したことによる。しかして、かかる第三者への交換価格じたい承継される契約条件に規制された個別性の強いものであるが、更に、賃貸人が譲受ける借地権の価格は右の第三者への交換価格と当然に一致するものではなく、右交換価格を賃貸人に対しても主張できるか否かは、当該具体的な賃貸借関係による。けだし、賃貸人の譲受価格は、賃借人の賃貸人に対する権利義務関係全体の経済的評価であつて、その関係は、地代の支払を中心とする現契約条件のみでなく、権利金、更新料の支払等の賃貸借契約の経緯など譲受人に承継されない人的関係をも広く包含したものだからである。そして、借地権譲渡に伴い賃貸人に支払われる名義書換料につき慣行的割合が存する地域(東京地方では借地権価格の一〇ないし一五%)にあつては、右割合は、第三者への交換価格と賃貸人への譲渡価格との平均的開差を示すものとして、賃貸人への譲渡の対価を定めるにつき参考とされるべきものである。
これを本件についてみるに、本件で取調べた資料によれば、本件土地賃借権は、明治三五年ごろ、相手方先代と松方巌との間に成立し、大正一五年ごろ、申立人先代が賃貸人たる地位を承継し、更に、その後申立人、相手方らが相続によりその地位を承継したものであるが、その間申立人先代および申立人に対し権利金、更新料の支払のないいわゆる自然発生的借地権に属すること、従前の賃料もかなり低額であつたこと、本件建物は、朽廃にはほど遠いが、いずれもかなり老朽化していることを認めることができ、右事実を考慮すると、賃貸人が譲受ける借地権の価格は、近隣の借地権よりやや低額であつて、前示近隣借地権割合から一五%を減じて金一、三〇九万円と定めるのを相当とする。
本件建物価格を金六万円とする鑑定委員会の意見を当裁判所も相当と認める。
そこで、申立人が譲受ける本件土地賃借権および本件建物の対価を金一、三一五万円と定め、借地法九条の二第三項により主文のとおり決定する。(筧康生)
目録(一)
賃借権の内容
1 目的土地
東京都港区南麻布一丁目一番三三
宅地 238.44平方米(72.13坪)
のうち、178.51平方米(54.00四坪)
別紙図面中赤線で囲んだ部分
2 賃貸人 申立人ら
3 賃借人 相手方
4 目的 非堅固建物所有
5 現地代 一か月金六、〇〇〇円
目録(二)
建物
1 東京都港区南麻布一丁目一番地
家屋番号 同町一番一九
木造ルーフィング葺平家建居宅
19.83平方米(6坪)
現況約24.79平方米(7.50坪)
2 同所同番地(未登記)
木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建居宅
12.39平方米(3.75坪)