東京地方裁判所 昭和45年(借チ)44号 決定
〔主文〕1 申立人が本裁判確定の日から三か月以内に相手方に対し金三二三万円を支払うことを条件に別紙目録(一)記載の借地条件の目的を堅固な建物所有に変更する。
2 前項の金員が支払われた場合、同目録記載の借地条件中借地期間を右金員支払の日の属する月の翌月から三〇年間に、賃料を同月分から一か月金一〇、〇九五円(3.3平方米当り金二五〇円)にそれぞれ変更する。
〔理由〕一 本件申立の要旨
(一) 申立人は、昭和四三年一二月二六日、田中順に相手方から賃借中の別紙目録(一)の1記載の土地(以下「本件土地」という。)にかかる土地賃借権を相手方の承諾をえて譲受けた。
(二) 申立人、相手方間の本件土地の借地条件は別紙目録(一)記載のとおりであり、申立人は、本件土地のうえに同目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有している。
(三) ところうで、本件土地附近は、契約締結当時は、古い建物が多く、これらはたいてい二階建程度のものであつたが、現在は、前面道路に面した土地は、商店、事務所の商業地であり、随所に鉄骨又は鉄筋による三階以上の建物がみうけられ、目下建築中の建物はほとんど鉄骨又は鉄筋造りであり、事情の変更により、堅固な建物の所有を目的とするのが相当であるに至つた。
(四) そこで、申立人は、借地条件中目的を堅固な建物に変更し、鉄骨造六階建(延べ537.58平方米)を建築すべく計画中であるが、相手方との協議が調わないので、借地条件の変更を求める。
二 当裁判所の判断
(一) 本件で取調べた資料によれば、田中順は、昭和三三年以前から本件土地を相手方から賃借し、そこに本件建物を所有していた(ただし建物の名義人は下村静湖)が、昭和四三年一二月二六日ごろ、申立人に対し、本件建物および右借地権を相手方の承諾をえて譲渡し、相手方に名義書換料として金二〇〇万円を支払つたこと、その後申立人は、相手方との間に新たに借地期間、賃料を定め、本件土地賃貸借の借地条件は別紙目録(一)記載のとおりであることを認めることができる。
ところで、右のごとき、建物と借地権が譲渡される場合は、借地権も非堅固建物の存在を前提として行われるのであるから、借地法八条ノ二第一項の「事情の変更」の有無は、右譲渡前の借地権の設定時を基準として決すべきであり、前記資料によれば、田中順の借地権は、遅くとも昭和三三年以前に設定されたものであるが、本件土地附近は、右時点においては、木造建物が大部分であつたと推認しうるが、現在本件土地附近は、準防火地域、商業地域に指定され、商店、事務所用地として発展しつつあり、堅固な建物がしだいに増大しつつあつて、現に借地権を設定するにおいては堅固な建物所有を相当とする事情の変更があつたと認められる。
相手方は、前記借地権譲渡の際「木造建物所有以外は譲渡を承諾しない。もしそういう計画があれば貸せない」と言い、申立人もこれを承諾したのであるから、本件申立は許されないと主張し、前記資料によれば、前記借地権譲渡の際堅固建物への建替えの交渉もなされたが、成立に至らなかつた事情をうかがい得るが、借地条件変更を申立てうる権利は特約によつてもこれを排除することができないのであるから、申立人が一たん木造建物所有の借地権を買受けその後更に目的の変更を求めるのは、借地人として正当な権利の行使であり、右のごとき事情が存することのみでは、本件申立てが信義則に反し権利の濫用であるとは言えない。また、相手方は、相手方が本件土地を含む一帯に貸地を有しており、本件改築により、他の借地人の日照に悪影響を及ぼすので相当でないと主張し、前記資料によれば、申立人の改築計画により、他の借地人の日照に相当な影響を及ぼすことは避けがたいが、本件土地附近のごとく都心に近い商業地においては、地価の高騰、家屋の密集化に伴い、建物の高層化は必至の傾向であつて、申立人の改築計画のごとく、通例の高さの建物による日照の影響は、近隣住人として、やむをえないものとして受忍すべきものであつて、右事由により本件申立を不相当とすることはできない。他に借地条件の変更を不当とする事由はない。そこで、本件申立は後記の条件の下に認容するのが相当である。
(二) 附随の処分について検討する。
鑑定委員会は、給付金として本件土地の更地価格の一〇%にあたる金三二三万円を支払わせ、賃料を一か月金一〇、〇九五円(3.3平方米当り金二五〇円)に増額するのが相当であるとしている。
当裁判所は、本件借地条件の目的変更に伴い借地法二条、七条の趣旨により主文のとおり期間を延長する。ところで、本裁判により、借地期間の延長、建物朽廃による借地権消滅の危険を免れ、建物買取価格の増加による明渡請求権の制限により、相手方に対し借地返還の期待を減じさせる不利益を与え、申立人にこれに応じた利益を与えるので、右の利害を調整するため申立人に給付金の支払を命ずべく、右利害は、いずれも借地価格の考慮要素であるから、その額は、裁判前後の具体的借地権価格の差額による評価しうる。鑑定委員会の評価額も、結局右と同旨の考えにより給付金を算定するもので正当であるから当裁判所もこれに従う。また、賃料については鑑定委員会の意見のとおり改訂する。 (筧康生)
目録 (一)
(借地条件)
1 目的土地 東京都台東区東上野二丁目七七番
宅地 1079.73平方米(326.62坪)のうち、133.48平方米(40.38坪)
2 賃貸人 相手方
3 賃借人 申立人
4 目的 木造建物所有
5 期間 昭和四四年二月一日から二〇年
6 賃料一か月金六、九三三円
目録 (二)
(建物)
東京都台東区東上野二丁目七七番地
家屋番号七七番九
木造瓦葺二階建店舗居宅
一階 92.56平方米(28.00坪)
二階 92.56平方米(28.00坪)