東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)249号 判決 1974年10月14日
東京都港区麻布鳥居坂一番地三
原告
株式会社比良野
右代表者代表取締役
平野勤
右訴訟代理人弁護士
大崎孝止
東京都港区六本木六丁目五番二〇号
被告
麻布税務署長
右訴訟代理人弁護士
国吉良雄
右指定代理人
石倉文雄
同
伊藤勇
同
高橋郁夫
同
佐伯秀之
同
須田光信
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
「被告が昭和四二年五月三一日付で、原告の昭和四一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分法人税についてした更正並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定を取り消す。」旨の判決
二 被告
主文第一項と同旨の判決
第二主張
一 原告の請求の原因
1 原告の昭和四一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度(以下「係争年度」という。)分法人税についての原告の確定申告、これに対する被告の更正及び加算税の賦課決定(以下、更正及び加算税賦課決定をあわせて「本件処分」という。)、原告の東京国税局長に対する審査請求及び同局長の裁決の経過は、別表一のとおりであり、右更正及び裁決における課税所得金額の計算内容は、別表二のとおりである。
2 しかし、本件処分(裁決により一部取り消された後のもの。以下同じ。)は、別表二の項目中「保証債務弁済損否認」の点において事実を誤認し、ひいて所得を過大に認定した違法があるから、取り消されるべきである。
二 被告の答弁
請求の原因1の事実は認めるが、同2の事実は争う。
三 被告の主張
1 係争年度の所得の計算上、原告は、訴外東京交通株式会社(以下「東京交通」という。)の債務にかかる物上保証人たる地位に基づき被つた損失一億五一〇〇万円が回収不能であるとして、これを全額保証債務弁済損として損金に計上処理した。
2 しかし、係争年度末において、原告が、前記物上保証に関して被つた損失につき、訴外京聯自動車株式会社(以下「京聯」という。)に対し抵当権付金銭債権一億円を有することが判明したので、前記保証債務弁済損のうち一億円の損金計上を否認したものであつて、本件処分に原告主張の違法はない。
四 原告の反論
1 原告は、昭和三八年一二月、東京交通の訴外鉄道建設興業株式会社(以下「鉄建」という。)に対する二億四〇〇〇万円の借入金債務につき、物上保証人として、鉄建に対し、自己所有の東京都港区赤坂檜町所在の宅地五筆を担保提供し、代物弁済の予約をしたが、昭和三九年五月東京交通の債務不履行のため、右土地の所有権を代物弁済により鉄建に取得され、数億円の損害を被つた。
2 京聯は、昭和三八年一二月一七日、原告を債権者とする一億円の金銭消費貸借上の債務者という形で、その所有の京都市東山区山科北花山大峰町所在の山林八筆(以下「本件山林」という。)につき抵当権を設定し、更に代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記をしたが、これは、原告の前記土地が代物弁済により失われることとなつた場合の損害のうち、一億円の限度で京聯が担保物件を提供し、原告の東京交通に対する求償権行使の保証をしてくれたものにすぎず、原告が京聯に対して一億円の金銭債権を取得したというわけではない。
3 そして、本件山林の係争年度末における価値は、一八五〇万円に過ぎないものであつたから、原告に京聯に対する一億円の債権があつたとして、同額につき損金計上を否認したのは誤りである。
五 前項の主張に対する被告の答弁
1 昭和三九年五月鉄建が原告に対し原告主張の土地の所有権を代物弁済として取得した旨の通知をしたこと、昭和三八年一二月一七日京聯が一億円の金銭消費貸借上の債務のためその所有にかかる本件山林に抵当権を設定し、かつ、代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記をしたことは認めるが、その余の事実は争う。
2 本件山林の係争年度末の価額が一億円を越えるものであることは、本件証拠上明らかである。
第三証拠関係
一 原告
甲第一号証を提出し、乙第六、第八号証中東京国税局作成名義部分並びにその余の乙号各証の成立は認める(乙第一ないし第五号証については原本の存在も認める。)が、右乙第六、第八号証のその余の部分の成立は知らないと述べた。
二 被告
乙第一ないし第一〇号証を提出し、甲第一号証の成立は知らないと述べた。
理由
一 原告の請求の原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件の争点は、原告が係争年度末において、東京交通の債務にかかる物上保証に関連して、京聯に対し一億円の債権を有していたか否かに尽きるので、以下この点について判断する。
1 昭和三八年一二月一七日、京聯が原告を債権者とする一億円の金銭消費貸借上の債務のためその所有に係る本件山林に抵当権を設定し、かつ、代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記をしたことは、当事者間に争いがなく、原本の存在・成立ともに争いのない乙第一ないし第五号証によれば、次の事実を認めることができ、この認定を覆すに足る的確な証拠はない。
(一) 原告、東京交通及び京聯は、三者間の合意に基づき、昭和三八年一二月二〇日付で次のような「念書」を取り交わした。
(1) 原告は、その所有土地を東京交通の他に対する債務の担保物件として提供し、東京交通は、右担保提供によつて生ずる原告の全損害を填補する。
(2) 東京交通は、右損害填補の「補償」として、京聯所有の本件山林を原告に提供する。
(3) 京聯は、本件山林に担保設定することを同意し、東京交通が原告に対して損害を及ぼした場合は、本件山林を代物弁済として原告に提供することを承知する。
(4) 右損害担保契約上の東京交通及び京聯の債務を一億円の金銭消費貸借上の債務とする。
(二) 昭和四二年九月一六日、京聯は、原告に対し、「昭和参八年拾弐月拾七日付金銭消費貸借兼抵当権設定契約(東京交通株式会社の保証分)の債権元本額金壱億円の内入弁済金として」五〇〇〇万円を支払つた。
(三) 昭和四三年四月一〇日、原告は、京聯に対し本件山林に抵当権を設定してある次のような債権を有するとして同債権を抵当権とともに三楽商事株式会社に譲渡し(譲渡価格一八五〇万円)、同年五月二三日発信の内容証明郵便をもつて、京聯に対し、右債権譲渡の通知をした。
(1) 原因 昭和三八年一二月一七日金銭消費貸借契約同日抵当権設定契約
(2) 債権額 一億円
(3) 弁済期 昭和四〇年四月三〇日
2 以上の事実によれば、原告は、京聯に対し、係争年度末において、原告の東京交通に対する担保物件の提供に伴う損害担保契約上の債権に関連して、本件山林を目的とする抵当権付の一億円の金銭債権(前認定のとおり、当事者の合意により一億円の金銭消費貸借上の債権とされたが、その原因は、東京交通の右損害担保契約上の債務の発生に伴う京聯の重畳的債務引受による債務又は保証債務を消費貸借の目的にしたものと認められる。)を有していたものと認めるのが至当である。
そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件処分における「保証債務弁済損否認」に誤りがあるという原告の主張は、採用することができない。
三 よつて、本件処分には原告主張の違法がないことが明らかであつて、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉山克彦 裁判官 石川善則 裁判官 吉戒修一)
別表 一
<省略>
(注) △印は赤字を示す。
別表 二
<省略>
<省略>
(注) △印は赤字を示す。